走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
ジャパンカップが来てしまった。私にとって因縁で、運命で、覚悟のレース。もちろん、全てのレースを全身全霊で走ってきたけど、このレースは一つ違う。
「準備は良いか、スペ」
「──はい」
「頑張ってスペちゃん!」
「頑張ってください、先輩!」
控え室で、勝負服を着て呼び出しを待ちます。もう数分後にはみんなの前にいて、それから十数分経てば勝負が終わっている。集中する私に、トレーナーさんと、先輩や後輩のみんなが声をかけてくれます。
お腹の底がどろどろと淀むような緊張感と、期待を掛けられている、というストレス。きっといつかの私なら、こんな重圧には耐えられなかったはずです。
「良い集中だ。心配は無さそうだな」
「……トレーナーさん」
「何だ」
ベルの音がして、もうパドックに出る時間です。しかし、誰も私を急かすことなく、立ち上がった私はトレーナーさんをまっすぐ見つめました。
「ありがとうございました。私、無理なことを言って」
ジャパンカップにモンジューさんを引きずり出す。日本中のプレッシャーを集めて、一人で背負って勝つ。そして、スズカさんへの挑戦権を手に入れる。どれも私が勝手にやったことで、トレーナーさんは私の無茶の後始末に随分忙しそうにしていました。
それでも、トレーナーさんは何度謝っても同じように言うのです。
「何、気にするな。無茶なことはないさ。そうしたいんだろ? 悪事以外は──悪事だったってお前の夢のためなら何でも手伝うとも。それがトレーナーってやつだ」
「……私、絶対に勝ちますから。この
「もちろん、信じている。体重もダービーと同じ、仕上がりも完璧──おめでとうと言ってやりたいくらいだ」
トレーナーさんは皺の刻まれた顔をくしゃくしゃにして笑いました。あまり笑わない人ですが、それでもその顔を見ると、ああ、本気で信じてくれているんだと、力が湧くような気がして。
「……トレーナーさん。最後にもう一度、お願いできますか」
ドアノブを掴んだまま、私は背後のトレーナーさんにお願いをします。トレーナーさんと私で見付けた、私の強み。私はきっと、誰かの期待やプレッシャー、追い詰められれば追い詰められるほど実力を発揮できる。
だからこそ、これまで何度も何度もみんなに啖呵を切った。誰にインタビューを受けた時も必ず勝つと宣言してきた。私にはもう勝つことしかない。私のことを誰もが応援してくれている。
「……解った」
肩に手が置かれます。背負えば背負うほど、私はきっと強くなれる。それに押し潰されるようでは、スズカさんにも勝てない。このジャパンカップで負けたならもはやそれまで。スズカさんどころか、有マで待ってくれているグラスちゃんにも顔向けできません。
「
「はい! スペシャルウィーク、行きますッ!!!」
ばん、と強く背中を
────
「スペシャルウィークさん!」
「「「スペちゃん!」」」
地下道で、後ろから呼び止められました。声を合わせるなら呼び方も揃えれば良いのに、とかちょっと笑いそうになりながら振り向くと、そこに私の同期達。駆け寄って、寄ってたかって私の身体を叩きます。
「期待してるわ。日本には私達がいるってこと、しっかり教えてやりなさいな。舐められたまま帰すなんて許されないわよ」
キングちゃん。
「日本がどうなろうと知らないけどさ。スペちゃんが負けたら私のスズカさん対策がムダになっちゃうから、頼んだよ」
セイちゃん。
「スペちゃんなら大丈夫デス! ちょちょっと捻ってやりましょう!」
エルちゃん。
「……その、スペちゃん」
そして、グラスちゃん。
グラスちゃんはジャパンカップに出走するつもりでした。そうなればきっと、私はグラスちゃんに一度も先着していませんから、日本総大将は彼女だったはずです。まだ、回避したことで私が一人になったことを気に病んでいる。
「大丈夫だよ、グラスちゃん」
きっとグラスちゃんは放っておいても立ち直るでしょう。優秀で覚悟のあるトレーナーさんがついています。二人とも、道半ばで諦めるくらいなら死んだ方がマシと平気で言える人ですから。
だけど、今回はグラスちゃんの力も借りたい。本当の意味で私は代表になって、みんなの前で走る。目を伏せるグラスちゃんに近付いて、ぎゅっと抱き締めました。少し、震えていて。
「私は絶対に勝つから。それで、スズカさんともグラスちゃんとも決着をつける。約束するよ。必ず勝って戻ってくる」
「……ごめんなさい、私」
「何言ってるの。私、これで勝っても日本一になれないんだよ? エルちゃんにもグラスちゃんにも負け越してさ」
そしてスズカさんにも。私の周りは、凄い人ばっかりだ。本当に、本当に……だから、私はもっと頑張れる。日本一の約束と、私より強い誰かを目指して走っていける。
「だから、グラスちゃんには堂々と待っていて欲しいの。私は勝って挑みに行くから。有マで必ず、日本一を勝ち取りに行くよ」
「……スペちゃん」
グラスちゃんの肩を持って、約束するよ、と小指を差し出します。グラスちゃんは泣きそうなまま、その指を両手で包み込みました。
「……必ず、勝ってください」
「うん。必ず勝つよ。任せてグラスちゃん」
みんなに笑いかけます。強がりとかじゃなくて、私は勝てると確信しています。何故なら、私は負けてはならないからです。
私より強い、私の仲間のために。胸を張ってみんなに挑むために、私も強くなくてはいけないから。新しい夢錦の勝負服は、誰かを背負う私の覚悟だから。
「……そうだ、エルちゃん」
「はい?」
私は大丈夫、と示すため、できるだけ悪い顔をしてエルちゃんに手招きをします。
「宣戦布告のフランス語を教えてよ。とっておきのやつをさ」
「ええ……任せてください、スペちゃん!」
────
『さあ続いて、おーっと来ました来ました! 本日は二番人気を背負いましたが──日本にとって主役は間違いなく彼女でしょう!』
地下道からパドックに出ると、信じられないほどの大歓声が私を押し潰してきました。全身がびりびり来るくらいの期待と、地鳴りのような応援、身体の奥底がぎゅうと痛む重圧。GⅠ、ジャパンカップ。まだまだ世界一を決めるレースとは言えないけど、世界一に挑むレース。
「──よし」
パドック実況は私には聞こえません。そんなものよりも、もっと多くの声援を。聴覚の隅で、前口上が始まったことだけが解ります。勢いよく、服がはためくようにいつもの気合い入れアピールポーズから、もう一度深呼吸をして拳を握り締めます。
『日本ダービー、天皇賞春秋連覇。今日はライバル達の分も背負い、新たな勝負服で世界の壁に挑みます。目指すは日本か世界の頂!』
『輝く黄金の総大将! スペシャルウィーク!』
どん、と身体が吹き飛びそうなほどの音の波が押し寄せて、負けないように右手を掲げます。もっと私に声援を。もっと私に期待をして。きっと私は応えてみせる。私はスペシャルウィークだから。名前に刻んだ魂に懸けて、誰より強いウマ娘になってみせる!
「スペシャルウィーク!!! 負けるなよ!!!」
「信じてるぞスペシャルウィーク!!」
「頑張ってスペシャルウィーク!!!!」
「日本を頼んだぞ──!!!!」
プレッシャーを受けて震える身体を、噛み締めて留めます。私の身振りに合わせて人の壁が動きます。手を振ってもっともっとと煽って、浴びて、段々と力が湧いてくるような感覚がしてきます。
『さあ最後に本日の大本命! あのエルコンドルパサーをも蹴散らして、欧州最強が日本に殴り込み! 凱旋門の栄誉を以て世界一を確たるものへ! フランスの要塞、モンジュー!』
横に避けると、後ろからモンジューさん。気のせいかもしれませんが、私の新しい勝負服とカラーリングが似ているような気がします。私のは錦の和風で、彼女のはフランスの豪華でおしゃれなものですけど。
軽いアピールをした後、彼女の視線が私に向きました。パドックから降りつつ、ゆっくりと私の前に立って顔を近付けてきます。さらに歓声があがって、向き合って微笑みます。
この人は強い。私達よりもきっと。いや、それで普通なんだ。日本はまだまだ世界に遅れている。だからこそタイキ先輩やパールさんが世界のレースで勝った時、何よりみんな沸いたんだから。
「期待、している」
それは、たとえ舞台が日本でも変わらない。特にモンジューさんは今回、入念に日本に慣れてきている。そこを突くことはもうできない。たどたどしい日本語で、単語を切って話してくれたモンジューさん。
……良かった。チャンピオンの立場でいてくれて。だったら私だって心置きなく、あなたに挑むことができる。
「La victoire est à nous!」
「!! ……Je l'aime bien」
……何を言っているか解りません。でもまあ握手はしてくれたし、気合いのガッツポーズも笑ってもらえたのでコミュニケーションは成功ですね!
────
「……スペちゃん」
「ん……どうしたのスズカ」
「いえ、その」
ジャパンカップ当日。レース場に特別に部屋を貰い、そこからスペシャルウィークのレースの様子を見ていた。パドックでも見る限り、やはりモンジューの方が強い。というか、あのスペシャルウィークをもってしても出走ウマ娘でも抜けている。一応あそこ、各国のダービーウマ娘が集結してるんだけど。
ドイツ、イギリス、フランス、あと香港で暴れてるのもいる。賞金を積んだとはいえよくここまで大物ばかり集められたものだ。日本代表たるスペシャルウィークや、仮にも天皇賞二着の子が小さく見える。
そんななか、スペシャルウィークを含めても一番興奮しているスズカが私の腕の中で呟いた。
「パールさんが言ってたんですけど……ガッツポーズってヨーロッパでは侮辱のジェスチャーじゃないですか?」
「そうなの……? スペシャルウィークがそんなことするようには……いや今のスペシャルウィークならやりそうね」
「エルさんに何か吹き込まれたのかしら……まあ楽しそうだし良いか……」
ソファで私に寝転がりつつスズカはくすくすと笑った。胸辺りに私の腕を持ってきて手のひらを握ったり指で揉んだり弄りながらモニターをじっと見つめる。落ち着いているように見えて、ウマ耳がぴこぴこと揺れているし、薄い胸に触れると鼓動の早さがよく解る。
『さあ各ウマ娘がゲートに入っていきます。国の威信を懸けて、集った各国の英雄達が、ダービーウマ娘達が、落ち着いた様子で準備を整えます』
『スペシャルウィーク、これはかなり集中していますね。恐ろしい気迫を感じます』
実況、解説はいつもの人達。場内が静まり、ゲート入りを待つ。
『あのエルコンドルパサーを差し切ったモンジューの恐ろしい末脚が、日本の我々の目に焼き付いています。迎え撃つ日本総大将はスペシャルウィーク。回避した仲間達、数千の日本のウマ娘を背負って走ります』
ファンファーレと手拍子が響き、ゲートに入るスペシャルウィーク達。実況解説の展開予想を聞き流し、落ち着かないスズカの頬から首を擦って、唇を指でなぞる。手のひらを合わせて指を絡めて握り締めてくる。
「……頑張れ、スペちゃん」
そうスズカが呟いた。あまり応援していなさそうな声で、小さく一言だけ。
────
『さあスタートしました。まずぐんぐん前に出るのはやはりスムースミー。ゆっくり前に出ますスムースミー。続いてインハビタントも前に行こうとしています二番手につきました。キンイロリョテイも前、インコースからアクーレオ』
まず、出遅れずにスタートは切れた。府中の直線、思い切って後ろにつくのはトレーナーさんとの話し合い通り。そしてモンジューさんは私より後ろ。これも思った通り。モンジューさんには世界一の末脚があるし、日本の芝はヨーロッパよりスピードが出る。だったら、みんなが見える最後方に位置取っても問題ない。
『総大将スペシャルウィークは中団のやや後方、そして少し離れてモンジュー、後ろから二番手。これは末脚勝負の構えでしょうか』
『しかしかなり縦長です。スムースミー、良いリードをとれています。後ろのウマ娘が差し返せるのか気になる開きですね』
最初二つのコーナー、絶対に内には入れない。バ群は抜けられても後ろから来るモンジューさんの後からになってしまえば追い付けません。多少のコースロスは覚悟で外を回って、できるだけ直線で息を入れる。
……見えてる。私の行くべきコースが。外を回ってそのまま直線、ゴールまでまっすぐ走れる。
『さあ向こう流しに入っていく、いまだ先頭はスムースミー、三バ身から四バ身離していきます。その後アクーレオ、インハビタント。平均ペースかややスローと言ったところでしょうか。そこからマウンテンレオ、キンイロリョテイと続きます。ポツンとカルパロス、トップグロウ、少し離れてスペシャルウィークここにいます! その後ろモンジュー! さあ仕掛けていくかスペシャルウィーク!』
そろそろ終盤、位置取りを上げていかないと……後ろをちらりと見ます。明らかにモンジューさんは私を意識している。あれだけ言ったのだから、やっぱり半マークされていて、たぶん私に合わせて末脚で来るはず。
だけど、もちろん私はそれに乗る。それが私の走りだから、直線勝負に乗っていく。この戦いはただ勝てば良いものじゃない。スズカさんに私を認めさせて、少しでも意識させる。そのためには小細工じゃなく、真っ向勝負で勝たなければいけない。
(よし……ここから!)
『コーナーにかかった! スペシャルウィークがぐんぐんと上がっていく! それを追ってモンジュー! 後方からウマ娘達が押し寄せてくる!』
大きく息を吐いて、思いっきり吸い込む。これが最後の呼吸のつもりで、全部飲み込んで、燃やす。溜めた足を一気にここで使って、一歩横へ。
思い出すんだ。私の走り方。見せ付けなきゃ。私が一番速いってことを。誰よりも速くなる。日本一になると誓ったんだから。
──だから、負けない。
「やあぁああぁぁああぁぁ!!!!!!」
『スペシャルウィーク外から飛んできた! スペシャルが来ている! 後ろからモンジューもぴったりくっついてスペシャルウィーク! 既に四番手! 前スムースミーからインハビタントに代わった!』
蹄鉄を踏み込んで直線に向く。これ以上外には出ない。渾身の力で遠心力を潰して、歯を食い縛って前へ。勝てる。勝つ。前に誰もいない。いても関係無い。この中で一番速く走れば、私が一番になれる。
世界で一番速いのは私なんだ。私が、一番のウマ娘になるんだ!
「勝つ、ん、だああぁああぁあぁぁぁ!!!!」
絶叫、そして視界が白くなる。歓声と風で息も聞こえなくなる。
『直線飛んで日本総大将! 後ろから世界の末脚モンジュー来ている! スペシャルウィーク先頭に並んだ! インハビタントを交わす! 内からトップグロウ! 先頭は13番スペシャルウィーク伸びている! モンジュー追い縋る!』
後ろからの
「だあぁあああぁぁああぁぁあ!!!!!」
もっと速く! まだだ! まだ足りない! これじゃ私、スズカさんに胸を張れない! 全部引き出すんだ! 今までの私! みんなの力! 私はスペシャルウィークだ! 日本で一番のウマ娘なんだ! 私が今まで発した言葉全て、そういう覚悟で言ってきたんだ!
『先頭スペシャルウィーク! 伸びる伸びるまだ伸びている! モンジューを突き放す! 既に二番手争い! 先頭はスペシャルウィークこれはもう間違いない! 差が開く! スペシャルウィーク圧倒的だ!』
「負けるかああぁぁああぁ!!!!」
先頭に、見慣れた栗毛のウマ娘。いつかこの場所で誰より速く駆け抜けた、速さの象徴のような緑の勝負服が、私の数歩先、そして、夢中で振る両手が、大事なそれに掴みかかって。
『先頭はスペシャルウィーク! スペシャルウィーク! 今圧倒してゴールイン!』
越えた。越えられなかった。それでも私は、負けられない。拓けた視界にターフの緑、色の混ざったゴール板はとっくに通り過ぎていた。いつよりも、ダービーを勝った日よりも、天皇賞で復活と言われた日よりも、どんな時の誰よりもきっと大きな叫び声。押し潰されそうになりながらも、それでも吐き出される場内アナウンス。
『やはり日本総大将ッッッ!! やってくれましたスペシャルウィーク! 堂々2400! 奪い返したァ! 世界のウマ娘を前に、スペシャルウィークがやりました!』
──勝った。私が勝った。掲示板に13番の表示。それから、レコードという赤の文字。掴めた。ほんの一瞬でも、時計の中だけの話でも、私はあの人に届いたんだ。
足を緩めて、そのまま仰向けに倒れる。信じられないくらい鼓動が高鳴っていた。まだ終わっていないのに、これが最後とばかりに騒いでいる。日は傾く時間だけれど空は青く澄んでいて、顔を向けると観客席にみんなが見えました。
「せーのっ!」
「「「スペちゃ────ん!!!!」」」
「スペシャルウィークさ──ーん!!!」
……あはは。だから、合わせれば良いのに。満面の笑みを浮かべる仲間達に、親指を立てて応えます。私、勝ったよ。ここは私達の場所だから。そして、みんなの道を作ったよ。四人だけで、十数万のお客さんにも負けない声でした。
「スペシャルウィーク」
視界に影が射し、見るとモンジューさんが私に手を差し伸べていました。髪はぐちゃぐちゃで、よく見るとお化粧もかなり乱れてますが……それは私も人のことは言えないですね。とにかくその手を掴んで立ち上がります。足が熱くて、でも痛くはない。丈夫な身体に感謝。
モンジューさんは私を助け起こした後、何か悩んで言葉に詰まっています。話している言葉はたぶん、ええと、とか、そういう言葉でしょうか。困ったような、心底申し訳無さそうな表情で……
「なかなか、だった」
諦めたように出てきた言葉は、その二言だけ。……勝ったの、私なんだけど……いや、これは、そうか、ふふ、なるほど。この人、勝った時の日本語しか用意してないな? 私も挑発の決め台詞しか用意してないけど。
「La victoire est à nous!」
「……?」
「La victoire est à nous!」
「……!」
負けたくせに、勝ったみたいな目線で話す。勝ったのに、ライバルを労うこともしないで煽る。最低な会話でしたが、どうやらモンジューさんも理解してくれたようで、くしゃっと笑って私を引き寄せます。そして、私の頬に、柔らかく触れて、ちゅ、とわざとらしく鳴らしました。
「ふぇっ」
「Merci」
そう言って、観客席に手を振りながら戻っていくモンジューさん。えと、あ、ありがとう、で良いのかな。え? キスされた? 私。が、外国では挨拶って本当だったんだ……
「モンジュー!!! スペちゃんに何してるんデスか!!!!」
「エルさん行くわよ! 落とし前をつけさせるわ!」
「ほらグラスちゃん泣いてないで。私達も行こ行こ」
「……ふふ、何、騒いでるんですか……ふふっ」
────
「……凄かったねえスズカ」
「……」
「……スズカ?」
スペシャルウィーク、勝った。マジ? やっぱり色々と違うのねあの子。勝てる相手じゃないと思ったのに、突き放してレコード。しかもそのレコード、スズカのなんだけど。
もちろん、スペシャルウィークかスズカならスズカだ。今後これが変化することはないだろう。私は爆発力を恐れているが、それはそれとして実力で走ってるウマ娘の方が強いだろうとも思っている。
スズカが一番速いことを疑わないし疑ったこともない。それはスズカもよく解っているはずだ。だけどそれでも、スペシャルウィークのあの走りには感動せざるを得ない。
だからだろう、途中まで私の手を握ってはらはらしながら見ていたスズカだったけど、直線でスペシャルウィークが抜け出した辺りで目を離して私に抱き付いていた。勝ちを確信していたわけだ。
「どうしたのスズカ。もう。お互い気にしないってことにしたでしょ? 別にこんな約束どうでも良いやつじゃない。そんな怒らなくたって」
「……言って、おきますけど」
ぎょっとした。私を引っ張って押し倒して、胸ぐらを掴む代わりに首筋から頬を挟むスズカ。これまでに無いくらい小さな声で、しかも震えていた。あの、怪我をした時にも並ぶくらいに。
「……私の方が、速く走れますから」
「え」
「スペちゃんよりも私の方が速いですからっ。スペちゃん、凄かったですけど、でも、その、私ならもっと速く走れます」
「……スズカ?」
ぐっと顔が近付く。スズカの綺麗な顔がアップになって鼻と鼻がくっついた。スズカにしては走りたいという狂気が見えない。速く走れます、から証明に走ってきます、と続かないのが逆に怖い。
「ちゃんと解ってますよね? トレーナーさん、私の方が速いですよね? 私の方が速くて、可愛……いさはちょっと勝てないかもしれませんけど、トレーナーさんのことは何でも解ってますし、あの、だから、その」
ぽすん、と私の胸元に倒れ込むスズカ。ぐりぐりに顔を押し付けて、むー! と何か叫んでいる。よく解らないけどとりあえず手を回して背中を撫でる。部屋でじっとしていたはずなのにほんのり汗をかいているし、心拍が上がっていた。
「……だから?」
「……っ、ん、む、んんっ!」
「いたたたたたスズカ痛い痛い痛いきゅっきゅっぼんになるきゅっきゅっぼんに」
訳は解らなかったが、とにかくスズカは私を万力のような力でしばらく抱き締め続けていた。来年の決着が楽しみだ。果たしてスズカが何バ身つけてくれるのかっていうところで。
日本勢の皆さん
ラスカルスズカ
オースミブライト→世代シャッフルの影響で不在
スティンガー
ウメノファイバー→世代シャッフルだが路線が違うので参加
スエヒロコマンダー
アンブラスモア→問題無く参戦
ステイゴールド→いつもの生き字引