走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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※ライスシャワーのキャラ崩壊が含まれます


心配になるミホノブルボン

 

 ブルボンさんが回復したみたいです。

 

 

「ご覧くださいマスター。完全復活です」

「……ん、おめでとう」

 

 

 これで全部治ったわけじゃないみたいですけど、看護師さんが言うには、この段階になれば普通に生活できるし、治るのにトラブルも起きないから完治と言ってもいい、そうです。

 

 ところどころ包帯は残っているけど、さっきみんなが来る前にライスがいつも通りお世話しようと思ったらちゃんと抵抗されちゃったので本調子ではあると思います。

 

 

「良かったねブルボンさん……! おめでとう!」

「ありがとうございます。これでまたあなたと走れます、ライス」

「……! う、うん、うん……! 必ず走ろうね、ブルボンさん……!」

 

 

 ベッドに腰掛け、ブルボンさんは私の手を取ります。泣いてしまいそうです。でも、菊花賞の時とは違います。凄く胸が温かくなって、泣いちゃいけないんだって考えが出てきません。

 

 やっとブルボンさんが戻ってきてくれた。戻ってこれた。ライスに勝つためにブルボンさんは壊れる覚悟で走ってくれました。本当に良い勝負で、もし治らなくても私達は後悔しない、けど。それでも、また走れると解ったら、やっぱり。

 

 

「おめでとうブルボンさん」

「ありがとうございます」

「ブルボン先輩……! 良かったです……!」

「はい。ありがとうございます」

 

 

 有マ記念は出られないから、次は来年……できるだけ早めが良いな。中山記念、は、まあライスには短すぎるけど、それでもブルボンさんと走れるならそれでも良いかも……。

 

 

「……よく頑張ったわね、ブルボン」

「……マスター。ありがとうございます。遅くなりました」

「ううん。早すぎるくらいよ……凄いわブルボン。本当に……」

 

 

 本当に泣いちゃいそうだったけど、ライスよりさらに泣きそうな人がいるとちょっと引っ込んじゃいました。ブルボンさんのトレーナーさん。目元を隠して、肩を震わせて、隣のスズカさんに寄り掛かっています。

 

 

 ライスはトレーナーではありません。トレーナーさんもいません。だから、ライスとどっちが、なんて思いません。でも、ブルボンさんとトレーナーさんの仲の良さは見ていればすぐに解ります。よく、ウマ娘とトレーナーを恋人や夫婦に例えることがあるけど、ブルボンさんとトレーナーさんは親子みたいな感じかな。

 

 

「マスター。遅くなりましたが、リザルトです」

 

 

 ブルボンさんも、普通みたいな顔をしていますが本当はそうではないはず。ライスには解ります。菊花賞に勝った時、ブルボンさんはほとんど反応しませんでした。病室で意識がはっきりしている時も、そうですか、くらいのもので。

 

 だけどきっと、ブルボンさんの気持ちは、今なんだ。

 

 

「オペレーション、『三冠獲得』を達成──完遂しました。自己評価D。マスターのご尽力あってこその栄誉です」

 

「──本当に、ありがとうございます」

 

 

 立ち上がって、トレーナーさんの前まで歩いて行って、丁寧に頭を下げました。ブルボンさんはあまりお辞儀をしません。そんなことをしなくとも、言葉や所作で過剰に丁寧に見えるけど。

 

 それでも、深く頭を下げるブルボンさん。トレーナーさんも、そんなブルボンさんを強く抱き締めて、肩で嗚咽を漏らし始めました。

 

 

「違うの……違うのよブルボン……! あなたの頑張りなの、あなたが凄いのよ……よくやったわブルボン。頑張ったわね、凄いわ。偉いわ。あなたは、私の、誇りよ……」

「……マスター。三冠、です。三冠を、とりました。マスター、私、は、すべて、マスターの、」

「ブルボン……!」

 

 

 ブルボンさんとトレーナーさんは、『契約』、をしているみたいです。三冠に挑ませる。その代わり、トレーナーさんの指示には必ず従う。そういう約束だって言ってました。だから、今二人は、一つの約束を守ったことになります。

 

 ……ライスは二人に負けた。だけど、次は勝つ。ブルボンさんはシニア王道路線で間違いないから、それならライスも走れる。次こそ勝って、咲き誇るのはライスだ。

 

 

 でもやっぱり、泣きながら抱き合っている二人を見ると、頑張って良かったと思います。逃げなくて良かった。ライスもブルボンさんも強くなれた。

 

 

「ライス、事前に話した通りです。お願いします」

「うわわっ」

「え、あ、うん。連絡してあるよ。あと……三十分くらい」

「では出発しましょう」

「待って、ブルボン待って持ち上げないで、というかお化粧がぐちゃぐちゃになっちゃっ──」

 

 

 

 ────

 

 

 

『時には運だって必要と言うのなら』

 

『宿命の旋律も引き寄せてみせよう』

 

 

 病院近くのカラオケボックス。ライス達は事前の計画通り、トレーナーさんのため、先取りウイニングライブをしていました。

 

 一ヶ月倒れたとはいえ、ブルボンさんは三冠ウマ娘です。それに、あの菊花賞のウイニングライブはまだ開催されていません。ライスやタンホイザさんも、どちらかが繰り上げセンターなんて認めなかったので、きっとブルボンさんの体調を見ながら今年のどこかで執り行われるでしょう。

 

 

『走れ今をまだ終わらない』

 

 

 だから、その前に、ブルボンさんはトレーナーさんに見てほしいと。ウイニングライブは勝利の喜びを分かち合い感謝を伝えるものです。だから。

 

 

『辿り着きたい場所があるから』

 

『その先へと進め!』

 

 

 センター、ブルボンさん。二着ライス、三着役スズカさん。トレセンから借りた壊しても良いマイクを繋いで、カラオケボックスのパーティールームで練習した振り付けを見せつけます。クラシックに勝ったウマ娘だけに許される、憧れの歌。

 

 トレーナーさんを連れてきて、ウイニングライブを聞いてもらいたいとブルボンさんが言いました。ライスももちろん手伝って、大丈夫だと思うけど、三人分のダンスを撮ってブルボンさん達にも渡しました。

 

 

『涙さえも強く胸に抱き締め』

 

『そこから始まるストーリー』

 

 

 ブランクがあってもブルボンさんのダンスは堂々としていて、本当に、凄い人で。ダービーの時以来、真横で歌うブルボンさんを見て、ライスはとても嬉しくなりました。

 

 

『果てしなく続く──winning』

 

 

 ペンライトは四本だけ。音響は三十分百円ちょっとの設備。割れんばかりの歓声も無いし、スポットライトもモニターも無し。だけど、隣にブルボンさんがいて、この一ヶ月一緒にいて幸せだった、楽しかった人達がいる。

 

 

『──the soul!』

 

 

 そして、ブルボンさんはこれまでに無いくらい楽しそうで──やっと、私とブルボンさんの菊花賞が終わりました。勝ったのはブルボンさん。この結果に後悔はない。ライス達の戦いだから。

 

 ……だから、周りが何と言っても、ライスは揺らがない。絶対に。

 

 

『その足止めるなwinning the soul!』

 

 

 

 ────

 

 

 

「では作戦会議を執り行います」

 

 

 そのしばらく後。正規のウイニングライブも終え、ブルボンさんもトレーニングを始めた頃。学食でお昼ご飯を食べていると、突然ブルボンさんがそんなことを言い出しました。

 

 

「解りました! 私の完璧な作戦をお伝えしましょう!」

「え? あの、え? な、何の作戦ですか……? ステイヤーズステークスの? 阪神カップの?」

 

 

 一緒にいるのはいつもの四人です。私達が揃っていると何故かブルボンさんのトレーナーが目を逸らすという四人です。フラワーさんはしっかりものだけどまだ小さいし、バクシンオーさんはがんばり屋さんだけど時々訳が解らないことをします。

 

 そして、ブルボンさんは真面目だけどたまに信じられない思考に走ります。ライスがしっかりしないと、きっと全部めちゃくちゃになっちゃう……! ま、守らなきゃ……ライスがしっかりしなきゃ……! 

 

 

「な、なんの作戦会議なの? ブルボンさん」

「……はい。これは非常に由々しき問題です。もう時間もありません。少なくとも十二月中旬までには解決しなければ、私は最悪の場合、この学園を去ることになります」

「そんな……な、何があったんですか!?」

 

 

 ……なんだろう、大変なことを言われているんだけど、なんとなく大変じゃなさそう。どうしてかな……ブルボンさんと毎日一緒にいたし、割と数時間ずっとお喋りしてたから……ブルボンさんが勘違いしてるとか、明後日の方向に考えてるのが手に取るように解るよ、ライス。

 

 

 でも、そうではない二人は──フラワーさんは何となく気付いていそうだけど、とにかく深刻にブルボンさんの話を聞くことに。大盛りにんじんチャーハンを食べきって、ブルボンさんはテーブルに肘をおいて組み、口元を隠すように言いました。

 

 

「来年度もマスターとの契約を続行するためには、どうしたら良いでしょうか」

 

 

 解散。

 

 

 

 

 ……いやいや。

 

 

「マスター……トレーナーさんですよね。な、何かあったんですか? ケンカしちゃったとか……」

「おお……それは大変な問題ですね……!」

 

 

 いやいやいや。

 

 

「フラワーさん、バクシンオーさん……話半分で良いかも……」

「待ちなさいライス。私は真剣です。お願いします」

「そ、そうですよね。トレーナーさんとの関係はウマ娘にとってとても大事……頑張って考えましょう! ね、ライスさん!」

「お任せくださいブルボンさん! この私が! 学級委員長の名に懸けて! 円滑な関係をサポートしますよ! さあライスさん! ともに考えましょう!」

 

 

 ダメだ……ここではライスが間違ってる……! 確かに、友達が悩んでいるのに適当で良いよ、とか言っちゃったのはライスがおかしいんだけど……! 

 

 

「それで、何故契約解消の可能性があるのでしょうか?」

「はい。私はマスターと、『三冠出走』を条件に契約しています。マスターはそれを完全に遂行してくださいました。菊花賞前は、正直半ば諦めかけていたのですが、結果として、三冠まで獲得することができました。マスターには、深く、感謝をしています……」

 

 

 その! 顔は! 何! 恋じゃん!!! せめてなんかこう、あるでしょ! 『スズカさんからマスターを奪いたいです』とかの方がまだ納得できるよ! それならでき……なくても応援するよ! 

 

 

「ですが、既に私は契約条件を達成してしまいました。であれば、もはや契約している理由がありません。ですので、また新たな理由が必要です」

「なるほど……でもシニア王道を走るって理由じゃダメなんですか?」

「これまでの私ならそれで可能です。しかし、今現在私は既にスプリンターとして扱われていません。客観的に見て、他のトレーナーでも良いと言われれば反論はできません。スプリンターの私をクラシック路線に出すというのがマスターとの契約でしたから」

 

 

 無いよ!!! 無い!! 無い!!!! 絶対契約続行だって!!!!! なんでそこは客観的に見ちゃうの!! 主観で良いじゃん!!! もう! 

 

 

「じゃあ……えっと、新しい目標を作るってことですよね。今のブルボンさんにとって難しいことの方が良いってことですか?」

「そうなります。あるいは、私の有用性をマスターに示し、手元に置いておきたいと思わせる方法も考えていますが」

「ではともにスプリンターとして私達と戦いましょう! ここはクラシックとはまた違う戦場ですよ!」

「……考慮はします」

 

 

 ライスにどうしろって言うの……? 二人はさあ、あんまりトレーナーさんと会ってないから解らないんだって……! ブルボンさんがどうなろうとあのトレーナーさんがブルボンさんとの契約を解除するわけないんだよ……!? 

 

 きっとブルボンさんも色々思うところはあると思うよ? まあ八割くらい自分が悪いんだけど、スパルタしたとかしてないとかスカーレットさんに煽られまくって、他のメンバーは今もほとんど一緒に暮らしてて、解る、ブルボンさんだけ寂しかったからちょっとネガティブになっちゃったんだよね。ライスは解るよ。なんであの人達一緒に暮らしてるんだろうね。

 

 

「でもクラシック三冠より困難なことなんて……凱旋門とかですか?」

「しかし、距離適性は正常です。芝適応は……モンジューさんの例を見るに不可能ではありません」

「やはりスプリント路線でしょう!」

「……それは、まあ」

 

 

 でもさ、そういうのじゃないでしょ? 絶対に違うよね? 今ライス達、無意味な時間を過ごしてるよね? 

 

 

「あの、ブルボンさん、ライス、そんな心配しなくても一緒にいてくれると思うな。トレーナーさん、ブルボンさんのこと大好きだと思う」

「大切に思われている自覚はあります。しかし、それとこれとは別です」

「何も別じゃないよ」

「ま、まあまあライスさん、ブルボンさんも心配なんですよ、ね?」

「はい」

 

 

 あ、フラワーさんが完全に気付いた。

 

 

「とりあえず、えっと……そうだ、お弁当を作ってみるとか、そういうところから始めてみるのはどうですか? 喜んでもらえると思います」

「なるほど! では好み等を知っていた方が良いですね!」

「確かに……一理あります。聞いてみましょう」

「……うん。ライスも良いと思う。機械とかはライスも手伝うよ?」

 

 

 良かった、流石はフラワーさん。うまく纏めてくれそうです。ブルボンさんも満足げです。

 

 

「……ですが、家事労働についてマスターはほぼ完璧といっても差し支えありません。加えて、マスターは自分が誰かに尽くす方が好みであると話していました。私が作業をすることで、いらぬ心労を与える可能性もあります」

 

 

 そういうのを理解できてるのに!!!! なんで!!!!! 自分のことが解らないの!!!!!

 

 

「そ、そうなんですか……?」

「はい。そもそもよく考えれば、マスターは利害ではなく感情や契約で担当を選んでいます。申し訳ありませんが、有用性を示すプランは非効率かもしれません。撤回します」

「ちょわっ!? ら、ライスさん!? お箸が!」

「あ、ご、ごめんなさい、やっちゃった……!」

 

 

 箸が折れちゃった……でも、ああ、どうして解ってくれないんだろう。そこまであの人のことを理解していて、なんで自分がそこにいるって気付かないの? ライス、もう悪いことを言っちゃいそうだよ。

 

 

「ダート路線に……?」

「それはどうなんでしょう……トレーニングではどうにもならないような……」

「ブルボンさん。大丈夫だって。ライスから見て、ブルボンさん達はずっと一緒だよ」

「ライス。その言葉は嬉しく思います。しかし、マスターはライスが思うより複雑、いえ、難儀……面倒な方です。いつ何があるか予想できません。ですから、確実な楔が必要です……ふふ、本当に、大変な方ですから」

 

 

 ブルボンさんのばか!!!!! 鈍感!!! 朴念仁!!!! にぶウマ娘!!!! ロボ!!!!! わーーーー!!!!! 

 

 

「ライスさん……? どうして突然頭を抱えて……?」

「何でもない……何でもないのバクシンオーさん……ただ、ライスは無力なんだって……こういう時ちゃんと言えない弱いウマ娘なんだって思っただけだよ……」

「それは何でもなくはないのでは……?」

 

 

「やはりスプリント路線を目指すべきでしょうか。しかしそれは私の本来の適性に戻るに過ぎません。マスターの指導が必要という証明にはならない可能性があります」

「まあ、来るなら全力でお相手しますけど……」

 

 

 もうダメだ……ライスはもう何もできないんだ……無力なんだ……ダメな子、ざこ、よわむし……

 

 

「早速マスターに伝えます。マスターから目標を提示していただけるかもしれません。相談に乗っていただき、ありがとうございました」

「あ、はい……また何か困ったら言ってくださいね」

「よろしくお願いします。ではまた」

 

 

 ブルボンさんは立ち去りました。ライスだけご飯を食べ切れていません。まだお昼休みは残っているけど、食欲もなくなってしまいました。

 

 

 ……まあ、あの人達ならライスが何もしなくても何とかしてくれるよね……また遊びに行こうかな。トレーナーさん、ご飯も美味しかったし……

 

 

「ライスさん……?食欲がないのですか?大丈夫ですか?保健室に行きますか?」

「ううん、大丈夫……バクシンオーさん、大好きだよ……」

「ちょわ!?」

 

 

 あと、色々なことはちゃんと言葉にするべきだと思いました。いや、本当に。




ライスの台詞没案

「もうやめようよ!! もうこれ以上悩むの!やめよう!時間がも゛ったいな゛い!!!」

「ブルボンさんのバカ!もう知らない!うわーーーん!ブルボンさんのバカー!!!」

「ばかやろーー!!!!ブルボンさんァ!!!!!何を悩んでる!!!!ふざけるなーー!!!!」

「ブルボンさんの意気地無し!もう知らないから!」
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