走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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前後半にしたかったんですが、それをやると後半が真面目一辺倒なのでやめました。長めです。



お手伝いをするミホノブルボン

 

「ん……ぅ、はぁ……よし」

「おはようございます、マスター」

「きゃあぁぁあぁあっ!!?」

 

 

 ある日。朝起きると枕元にブルボンがいた。カーテンが閉まっていて、冬の五時半なんてまだまだ真っ暗で……そんな中に、ただ何もせず座っているブルボン。寝起きの頭が一気に冴えた。反射で事件性のある悲鳴をあげてしまう。

 

 

「んー……何ですか、突然大声出して……」

「え、あ、ごめんスズカ。今洒落にならないくらい驚くべきことが起きたの」

「え……わっ、ブルボンさんいたんですか?」

「おはようございますスズカさん。一時間ほど前に来ました」

 

 

 怖すぎ。どうしてうちの子達は突然奇行に走ってしまうのか? 心臓がばくばくなんだけど。隣で寝ていたスズカも起こしてしまったし、床に寝ているスカーレットも飛び起きた。

 

 

「ひゃっ……ぶ、ブルボン先輩……!? な、なんですか? 寝起きドッキリ?」

「おはようございます、スカーレットさん」

「お、おはようございます……」

 

 

 あくびをして体を起こしたまま私に倒れ込むスズカ。三人とも早起き耐性はあるけど、スズカは時間通り眠るタイプなので寝起きが悪い。膝に寝かせてあげて頭を撫でていると、再び寝息を立て始めた。

 

 

「ど、どうしたの……? 来るなら言って……いや言わなくても良いけどせめて無言で枕元に立つのはやめて……?」

「申し訳ありません。マスターの起床を確認して行動を開始したかったので」

「行動?」

「はい。本日、マスターに私の能力を知っていただこうと考えています」

「……はあ」

「ど、どういうことですか……?」

 

 

 時々意味が解らなくなるブルボンのなかでも、特級に意図が解らない。ブルボンの能力はそれこそ世界で一番私が知ってるけど。というかどんな理由があっても枕元にいられるのはキツいわ。全員に合鍵を渡してるし、私がどうなってようと勝手に入って生活して良いとは言ってるけど。スズカとか勝手に寝てるし、何かあった時のための共用財布もあるし。

 

 私達の疑問には答えず、ブルボンは一礼の後部屋を出ていった。スカーレットと顔を見合わせて、スズカを丁寧に寝かせてからそれを追いかける。

 

 

「お休みスズカ。で、スカーレット」

「アンタスズカさんが寝るとき絶対それ言うわよね。きっしょ」

「愛バが寝るのよ。挨拶したって良いでしょ」

「限度があるでしょ。うたた寝とか二度寝とかでも言うのは流石に気持ち悪いわ」

「なんでそういうこと言うの?」

 

 

 スカーレットの体調を確かめつつ追いかける。キッチンにブルボンが立っていた。

 

 

「調理を開始します」

「え゛……ブルボン先輩、無茶はやめてください。マンションで火事はヤバいです」

「安心してください、スカーレットさん。対策は万全です」

 

 

 エプロン姿のブルボン。さっきは暗くて見えなかったけど、なんで勝負服を着てるの? 今日はかなり極まってるわね。颯爽と傍らに置いていたらしいアイテムを取り出した──オモチャのマジックハンドを。

 

 

「これを使用します」

「いや無理ですよ!」

「問題ありません。シミュレーションは万全です。千切りもこれで行えます」

「それは素手でやんなさいね危ないから」

 

 

 よく解らないけどブルボンがやると言うので任せることにする。既にキッチンに食材やら何やらが準備されていた。この子、今日は何時に起きたんだろう。

 

 スカーレットとリビングで眺めることに。言うだけあって、ブルボンは問題なく料理を進めていた。オール電化なので一歩間違えるとキッチンが全部死ぬんだけど、結局触れなければ良いわけで、スイッチの切り替え以外では調理工程で問題は起きない。杞憂──いや絶対杞憂じゃないわ。考慮しておくべきリスクでしょ。

 

 しかし、レンジや炊飯器の扱いも器用にマジックハンドを使ってこなしている。ブルボンの器用さが留まることを知らない。これで手際まで良かったら私は自信を失っていたけど、流石にそこはね。

 

 

「何か手伝おうか?」

「問題ありません。すべてお任せください」

 

 

 教え子にご飯を作らせるのはまずいとは思いつつ、やりたいならやらせた方が良いとは思うし……いやに真剣な顔をしているのは気になるけど。何の風の吹き回しだろう。スカーレットにも聞いてみるけどやはり解らないようで。後でスズカに聞こうかな。スズカにも解らなければまあ……いやこんなことでご両親に連絡はしたくないな。ただでさえ避けてるのに。

 

 

「トレーナー、今日さ」

「うん」

「見たい服があるんだけど付き合ってくれない? というか車出してよ」

「良いよ。じゃあお昼は外で何か食べようか」

「昼食のレシピも考えてありますが」

「え……まあ良いよ流石に。みんなで食べよう」

「……了解しました」

 

 

 ブルボンのウマ耳がぺたんと倒れた。え? 私が悪い? これ。突然お手伝いに目覚めたんだろうか。もっと何かやらせた方が良い? めちゃくちゃ落ち込んでる。

 

 しかし落ち込みながらも腕が落ちないブルボン。つつがなく調理を終わらせ、寝室に戻っていった。

 

 

「……え、本当に何?」

「お手伝いしたいお年頃なんじゃないの」

「アンタ高等部相手に何言ってんの」

「ブルボンは半分幼女みたいなものだから」

「それは……まあ、そうね」

 

 

 久しぶりに朝何もせずご飯が出されるのを待っている気がする。高校の時以来かな。不思議とそんなに幸せでもないのよね。私も労働に慣れちゃったのかな……それとも、私の魂が教え子達に尽くすことで悦びを感じているかどっちか。重いなあ私。

 

 

「……おはようございます」

「おはようスズカ」

 

 

 調理は一時間弱で、ちょうどスズカの起きる時間になっていた。しかし何とスズカはブルボンに抱かれて起きてきた。なんでよ。

 

 

「力ずくで引き込まれそうになりましたので、力ずくで抵抗しました」

「おーよしよし。おはようスズカ。体調はどう?」

「走りたいです……」

「良さそうね」

「先輩が二人とも幼女なのよね。私もそうなった方が良い?」

 

 

 スズカは私以外に起こされた時、高確率で起こしに来た人をベッドに引き込む。茶目っ気なのか、私に起こされなくて不機嫌なのかは知らないけど。スズカを受け取ってイヤーカバーを着けてあげる。尻尾が腕に巻き付いてきて、体を完全に預けてくるスズカ。

 

 軽く指で髪を梳かしていると、ブルボンがテーブルの準備を始めた。スカーレットが手伝いに行って断られて戻ってくる。

 

 

「先輩が動いてるのに……私は座って待ってろって……?」

「あなたも拗らせてるわね本当に」

 

 

 出てくる料理は私が作るより少し少ないくらい。流石はブルボン、見た目は完璧だし盛り付けも良い。機械にさえ触れなければ、マニュアルを忠実に守ることが要求される分野においてブルボンは最強だ。てきぱきと準備を済ませ、最後に全員分のご飯をよそってくる。

 

 

「申し訳ありません。米のみ一人五杯までとさせてください。ガスコンロを二台しか借りることができず、飯盒が二つしかありません」

「飯盒で炊いたの……?」

「炊飯器は使えませんので」

 

 

 やるわね。私も流石に飯盒は扱えないわ。というかそんなことしようと思わないし。あと私は五杯もご飯食べないから。

 

 

「ブルボンさんが作ったんですか?」

「はい。どうぞお召し上がりください」

「美味しそうね。いただきます」

「いただきます」

「いただきますっ」

 

 

 献立も私が普段作るようなのと……つまり一般的な日本人の朝食のメニューから外れていない。あとは味……あら美味しい。スズカの味とはほんのちょっと違うけど、一口食べてスズカも微笑んでいる。スカーレットは元々そんなにこだわり強くないし、全員が満足できている。

 

 ……というか料理上手いわねやっぱり。結局私みたいなのは正確な分量は量れないからそこら辺が雑になるし、味見もおちおちできないので気合いと勘でやるしかない。もちろんその分、ブルボンはスズカの好みを完全には把握していないというのがあるんだけど。

 

 

「美味しいわブルボン」

「流石ですね先輩は」

「ありがとうね、ブルボンさん」

「何よりです。調理は得意分野ですので」

 

 

 ウマ耳も尻尾もびゅんびゅんにして、どこか誇らしげなブルボン。やたら私の方を見ながら自分もご飯を食べている。やたらと嬉しそうだ。今日は本当にどうしたんだろうか……何か良いことでもあったのかな? 

 

 

「買い物もお任せください」

「え……別に任せるようなところ無くないですか」

「私のパワーならお三方を抱えての巡行が可能です。想定速度は20km/hとなっています」

「いや、車で良いですそんなの」

 

 

 無茶を言うブルボン。確かに勝負服を着ていればそれくらいの速度は出せそう。今後一生子育てはしないけど、お手伝いしたい盛りってこんな感じなのかな。

 

 

「では荷物を持ちます」

「私の買い物だし私が持ちますけど」

「遠慮する必要はありません」

「遠慮じゃないですマジで」

 

 

 黙々と食べるスズカに目線を向けてみるが、微笑んで肩をすくめられた。まあ、スズカが異変を感じていないなら大丈夫か。何か気付いている可能性はあるけど、言わないといけないことはちゃんと言うだろうし。

 

 

「食後、皆さんの身支度をサポートします」

「え゛」

「ライスとフラワーさんで練習しました。ヘアセットから着替え、洗面まですべて行えます」

 

 

 それは私怨でしょ。

 

 

「いや……それは良いかな。私はほら、大人だし」

「私はトレーナーさん以外に髪と尻尾を触って欲しくないです」

「じゃあスカーレットだけってことで」

「ちょっと!? 生け贄じゃない!」

「ブルボンがやってくれるって言うんだからさ」

「……ぐ、ず、ずれたらマジで怒りますからね先輩! 髪には命懸けてるんですからね!」

「お任せください」

 

 

 食べ終わって、洗面所に向かう二人。少し遅らせて私もスズカと行こう。スカーレット自慢のツインテールがどうなっているか楽しみだ。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「なに仏頂面してんの」

「別に……思いの外ツインテールが完璧でキレ損ねたとかじゃないから」

「思いの外ツインテールが完璧でキレ損ねたのね」

「マスターとスズカさんはともかく、スカーレットさんの髪型は私には経験不足でしたので、ライスで実験しました」

 

 

 外出中の車内。完璧にいつもと遜色無いツインテールにされたスカーレットが死んだ目で座っていた。後部座席の片方はそんなんだし、もう片方は褒められまくってうきうきになっている。

 

 そして助手席ではブルボンとのじゃんけんに勝ったスズカが上機嫌だ。

 

 

「じゃあライスさんがツインテールにされたの?」

「そうです。携帯に写真がありますので良ければどうぞ」

「え、見ようかな」

 

 

 ブルボンのスマホのロックを外し、信号待ちで私にも見せてくれる。ツインテールでティアラ代わりのカチューシャを着け、珍しく両目とも見えているライスシャワーがいつものメンバーに囲まれてダブルピースを決めていた。

 

 

「顔真っ赤じゃない」

「問題ありません。ライスも満足してそのまま一日生活──するように強要──しました」

「今怖いこと言った?」

「いえ、特には」

 

 

 スズカ曰く、退院してからブルボンとライスシャワーの仁義無き戦いが巻き起こっているらしい。バトルじゃなくて世話焼きなのが可愛らしいところね。この間は確か、ブルボンがお腹いっぱいご飯を食べさせられて帰ってきたし、その前はライスシャワーの頭に花束レベルの髪飾りがくっついていた。

 

 

「二人も買いたいものがあったりする?」

「新しくシューズが出たんですよ。長距離用なんですけど、走りやすさが段違いらしくて試してみたいなと」

「新しいシューズを買うとまた走るからダメよ」

「じゃあ自分で勝手に買います」

「解った。私が買うから」

 

 

「特に必要なものはありません」

「じゃあ私服をちょこちょこ買おうか」

「……いえ、必要ありません。私にロリータ・ファッションは似合いません。やめましょう。ゴシックも客観的なイメージと正反対です」

「そんなこと言ってな……ああ、ライス先輩か。買ってもらったんですね、ゴスロリ」

 

 

 私も今度やろうかな。ブルボン着せ替え人形。ちょっとスタイルが良すぎて色々制限がついちゃうけど。やっぱりスズカくらいのが一番ちょうど良い。引退したらモデルとかどう? どうせ走り続けるんだから体型も崩れないでしょ。

 

 

「別にモデルのお仕事でも良いですけど。トレーナーさんがこのままマネージャーさんになってくれるなら」

「この話はやめましょうか」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまです」

「ごちそうさま、ブルボン」

「はい。では片付けに入ります」

 

 

 買い物を終えて帰宅。やはりブルボンは特に何も変わることなく、帰ってきてすぐに家事を始めた。掃除やら夕食の準備を黙々とする姿を見つつ、流石に怖かったのかスズカもスカーレットも何とかしろよという顔で私を見ていた。

 

 私としても、まあ。今もブルボンは、私達が口を挟む前にテーブルから色々を片付けていった。食べている最中もやっていたし、いや、助かるしありがたいんだけど、一応保護者として凄く複雑。

 

 

「ブルボン?」

「はい」

「手を止めてこっちに来れる?」

「はい。すぐに行きます」

 

 

 ブルボンを呼びつけると、スカーレットがやや怯えた位の顔で指を突き立ててくる。

 

 

「トレーナー。マジで何とかしてよ。先輩に尽くされたら私は死ぬわ」

「あ、うん。何とかするよ」

「お願いよ。スズカさんは私がお風呂に入れておくから」

「あの、何か勘違いしてない? 私はトレーナーさんと一緒に入りたいだけで、一人じゃお風呂に入れないダメウマ娘扱いは心外なんだけど……」

「良いから行きますよ。洗ってあげますから」

「ブルボンさんに尽くされたからって私で発散しないで……解った、行く、行くから引っ張らないで……!」

 

 

 結構強引に連れていかれた。普段から、この三人は加入順のパワーバランスだと思っていたけどこれは撤回かしら。欲望が溜まっている順かな。

 

 二人が去って少しして、ブルボンがリビングに戻ってきた。ソファの隣に座らせて、向き合って頭を撫でる。

 

 

「今日は一日ありがとうね。凄く助かったわ」

「いえ」

 

 

 強めにぐしぐしすると、ちょっと首を引っ込めてされるがままになるブルボン。ぴこん、ぴこん、と振れながら、ウマ耳が私の手を避けていく。頭から頬に降りて目元を親指でなぞったくらいで、ブルボンが私の手を取った。

 

 ブルボンにしては珍しく、掴んだ手を引いて両手で握る。数回自分の頬に触れさせて、それから、胸元に持っていって押し付けた。

 

 

「マスター」

「ん?」

 

 

 もちろん、何かがあったことなんか解る。目を伏せて私を呼んで、それから数分、ひたすら続きを待った。その間ずっと、私の手は痛いくらい握り締められていた。

 

 

「本日、ご理解いただけたかと思いますが」

「うん」

「私の能力について、私は、方法の確立している行為であり、機械に触れることが無ければ、一定以上の成果をお約束できます」

「うん。助かってるわ」

 

 

 ぐっと私の手が沈んでいく。

 

 

「また、マスターほどではありませんが、スズカさんのことも理解しています。お二人にとって有益な存在である、と、考えています。いかがでしょうか」

「何が?」

「……それは、その」

 

 

 少し意地の悪い話だけど、こうして話してくれたなら、最後までブルボンの自意識で話させるべきだ。言い淀み、口をぱくぱくと軽く動かすブルボン。少しでも勇気を出して欲しくて、余った左手を頬に添えて唇を拭う。

 

 また数分経って、はっとしたようにブルボンが少しだけ顔を上げた。ぶんぶん尻尾を振って、私というか、私の手を見て息を詰まらせる。

 

 

「加えて、私はレースにおいても良好な成績を残すことができます」

「そうね」

「マスターのお力添えさえあれば、私はどんなレースでも走破できます。アイビスサマーダッシュからステイヤーズステークスまで対応可能です」

「……そう」

 

 

 アイビスサマーダッシュは無理でしょ。

 

 

「身体の丈夫さにも自信があります。本格化がいつまで持続するか確約できませんが、続く限りは走り続けることができます」

「ブルボン、私は」

「マスターの給金に私の賞金の一部が充当されていること、私の成績に応じて加給金が支払われていることも鑑み、これも私を手元に置くメリットだと考えています」

「私はね」

「それから……それから、……そして」

 

 

 畳み掛けるように続けてくるので、私も諦めて無視して抱き寄せた。ブルボンは視線を伏せて、珍しく悩ましげに目を泳がせている。少しずつウマ耳が倒れていく。どんどん引き寄せるので私の手がブルボンの身体に沈む。そこそこ大きなそれがあってなお、物凄い音を鳴らす心臓が感じ取れた。

 

 

「もう無い?」

「……私は、可愛いです」

「メリットなの? それは」

「私は可愛くないですか?」

「んー可愛いねえ。過去一番可愛い」

 

 

 物凄く声が小さくなってしまったブルボンを引いて抱き留める。手は放してくれないので挟まれる形になった。それでも構わずブルボンを胸に埋める。

 

 

「ブルボンが可愛いから、どうしたの?」

「……その、ですから」

 

 

 過去に無いほど声の震えたブルボンが、私の胸元で呟く。完全にへたれたウマ耳を頬で撫でる。また数分して、ブルボンは私を見ないまま言った。

 

 

「たくさんの、利点がありますので」

「うん」

「……来年度も、契約を続行して頂けませんか。これからも、マスターのご命令のもと、頑張ります、ので。目標を設定し、またマスターと」

「良いよ。というか別に解除しないよ」

「……え」

 

 

 この困惑の言葉もかなりレアね。大体この子は困惑させる側だから。

 

 

「ブルボンが大事だから、ブルボンが私に言うまで解除はしないよ。毎年ちゃんと更新するし、一緒にいたいからさ」

「……マスター」

「別に、一年くらいブルボンが走りたくないってならそれでも良いし。努力してGⅠは疲れたから、適当にGⅢやOPで、って言うならそれでも良いと思うし」

「それは、いえ、私は」

「とにかくブルボンのことが大切だから契約は続行するわ。何かあればあなたから契約を切りなさい。私からは切らない。解った?」

 

 

 目だけ見上げるブルボン。いまだ私の手を握って、少しだけ立ち直ったウマ耳を揺らす。ぐ、とさらに自分を押し付けた後、ゆっくり目を閉じた。

 

 

「……解りました。マスターの『大切』でいられるよう努力します」

「何もしなくても一生大切よ。こんな私の隣にいてくれるだけでね」

 

 

 母性が溢れそう。生涯独身で良かった。絶対私子供をダメにしちゃう。ブルボンが愛しくて仕方がない。ブルボンにとっては真剣だったのかもしれないけど、私からすればそんなわけがないのに、捨てないでと、この子達はどうしてこう、こんなに愛らしいんだろう。

 

 

「ごめんねブルボン。不安にさせて。私のこと、信じられる? 私はブルボンを捨てないし、契約解除もしない。言葉じゃ不足?」

「……いえ、十分です。失礼しました。取り乱しました」

 

 

 平静に戻った……なんてことはなく、ブルボンは変わらず私に抱きついたままだった。それでもウマ耳はぴんと立ってご機嫌に左右に動いていたし、尻尾も景気良く振られていた。スズカがそうするようにおでこを私に擦り付けて、しばらくブルボンはそのまま、時々私の背中を叩くみたいに確かめながら動かなかった。

 

 

 

 ────

 

 

 

「大変でしたね」

「……何。聞こえてたの」

「そりゃまあ。シャワーを流してるならともかく、普通に入ってただけですし」

「そう」

 

 

 その夜。ベッドの中でスズカが言った。全部聞こえていたらしい。それにしては無反応だった気もするけど。

 

 

「私だって空気くらいは読めます。それに、そんなに心が狭いわけでもないですよ」

「いたたたたた、スズカ痛い、力強いって」

 

 

 言葉に反してめちゃくちゃな力で抱き締められ骨が軋む。少し前までブルボンに優しく叩かれていた私の背中が、スズカには強く掴まれるみたいに擦られている。

 

 何をどう見ても明らかに拗ねているスズカが、唇を尖らせて私を見上げる。ウマ耳を絞って、むむ、と喉の奥の方で唸る。

 

 

「ブルボンさんが過去一番可愛いんですもんね」

「ブルボン史上過去一番可愛いって意味で、別に全員含めて一番だなんて言ってないわ」

「じゃあ私が一番可愛いんですか?」

「それはもちろん──」

「……マスター」

 

 

 ぴた、と後ろから手を置かれる。後ろには久しぶりにブルボンがいる。ブルボンは早々に寝てしまうしなかなか起きないので背中を向けていたんだけど、どうやら起こしてしまった……いや、今の私達の音量で目覚められたらどうにもならないって。

 

 

「そうなのですか」

「え、いや、あの」

「スズカさんの方が上ですか」

「ふふっ……もちろんそうですよね? ……くくっ」

「ひぇ」

 

 

 前にも後ろにもメンヘラがいる。何だこれは……私が何をしたっていうんだ。いや、これはスズカが悪いわね。この子は普通に面白がってる。私の胸元でくすくす言ってるし。機嫌良いなあ。

 

 

「どっちですか、トレーナーさん」

「……マスター。私も理解しています。スズカさんでしょう」

「はぇ」

 

 

『圧』が前後から送られてくる。わざとらしくブルボンもくっついてきているところを見るに、ブルボンはブルボンで楽しんでいるわね? 違うよと言えという重圧が来ている。助けてスカーレット。

 

 

「トレーナーさん」

「マスター」

「ぁ……あ……お、おやすみ……」

 

 

 強引に目を閉じた。しばらくの間、私の頭は二人にもみくちゃにされていた。




なお前回で全員がご理解いただけているとは思いますが、こんなもん本気で心配してるのはブルボン(とバクシンオー)だけです。
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