走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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投稿が開きましたがエイシンフラッシュは二万円で出ました。可愛い可愛い。作者の趣味がバレますね。そう、栗毛が好きなのではないのです。元気な子より落ち着いている子が好きなのです(天下無双)

つまりスズカです。


走ることを語ると止まらないサイレンススズカ

 

「ではミホノブルボン。私があなたをスカウトします。私と一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜けましょう」

「はい。スカウトを受理します」

 

 

 午後。十数分に渡る『説得』の末スズカを大人しくさせた私は、必要な書類を書き上げた上でミホノブルボンとの約束の場所に来ていた。完全に拗ねてしまったうちのウマ娘を自宅に放って、新たなウマ娘のスカウトである。

 

 

 変わらず無表情のミホノブルボンは、私が差し出した書類を手早く読み込むと、すぐさま私の目をじっと見つめてきた。変化の無い棒読みのまま、しかしそれでも不思議な重みのある声で私に告げる。

 

 

「ですが、先に確約していただかなければなりません。私を、皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラシック三冠レースに、あなたが思う最善の状態で出走させることをです」

 

 

 だが、不本意なことにスズカに元気つけられた私はそんなものには怯まない。大丈夫だ。私のやることは変わらない。スズカの名にも賭けて、弱気になってはいけない。右手を差し出し、まっすぐ彼女を見返す。

 

 

「約束しましょう。あなたと三冠を取ってみせるわ。だから私を信じなさい。最短でそこにたどり着く」

「……了解しました。これよりあなたを私のマスターと認め……つまり、これからどうぞよろしくお願いします、ということです」

 

 

 ミホノブルボンはその手を両手で掴み、恭しく頭を下げた。

 

 

 ……マスターって何? 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「じゃあブルボン。早速だけど紹介するわ。知っていると思うけど、こちらがサイレンススズカ。あなたと同じ逃げしかできないウマ娘よ」

「……マスター。彼女の目から、謎の感情を感知しています。これは……?」

「気にしないで。そのうち解るけど、いつものことだから」

 

 

 私の部屋にて。ブルボンを連れ帰った私を待っていたのは、玄関先でシューズを履いて脱走しようとしていたスズカであった。

 

 ミス油断できないちゃん、うちのじゃじゃウマ娘を捕獲して、初日の挨拶だからとしっかりと私の横に座らせた。走れないし、私の家にいるのにすり寄ることもできないスズカはさっきまでに増して拗ねている。

 

 

「スズカ、挨拶は?」

「……サイレンススズカです。よろしくね。好きに呼んでね。好きなことは走ることです」

「よろしくお願いします……リーダー」

 

 

 なるほど、複数のウマ娘を担当している私達は確かにそれだけでチームだ。ふてくされているこの栗毛も、ブルボンにとってはチームリーダーだね。でも私はトレーナーで良くない? なに、マスターって。

 

 

「基本的にブルボンとスズカは一緒にはトレーニングしません。スズカは……それで良いよね。ブルボンは大丈夫?」

「はい。マスターの指示に従います」

「よし。じゃあブルボン。早速だけど、トレーニングの方針を決めましょうか」

 

 

 何度もブルボンの目標を確認して信頼を煽りながら、スケジュールカレンダーを広げる。流石に興味があるのかスズカが横から覗き込んできた。不満げに擦り寄ろうとする彼女を少しだけ押し返しながら、ブルボンに立てた計画を指さして確認していく。

 

 

「まず、目標、必須となるレースは皐月賞、日本ダービー、菊花賞の三つ。クラシック三冠から……その後はとりあえず王道のシニア路線を考えているけど、それについては?」

「異論ありません。三冠ウマ娘に求められるものも考慮し、有記念や天皇賞などに進むことが必要だと判断します」

「ダービー……芝2400……あああ……」

「ほら、頑張ってスズカ。気をしっかり持って飛んで行かないで」

 

 

 頬を軽く叩く。仕方が無いので甘えるのはもう許容することにする。どうせそのうちブルボンにもバレるんだし、出会って数日とはいえ彼女がそうそう周りに大きな声で言いふらすようなウマ娘には見えない。全部終わったら説明することを決め、膝の上にスズカを寝かせる。ごめんね、とブルボンに言ってみるが、まったくもって気にしていない様子でいえ、と返されてしまった。あの、トレーナーと担当ウマ娘が膝枕してるんですけど。え? 本当は良くないって思ってたの私だけ? ブルボンはこれを見て何も思わないの? 

 

 

「肉体的接触は信頼や友愛を刺激し、高めるための有効な手段であると思われます。何の問題も検知していません」

「そう……で、まあ、まずは皐月賞ね。ここまでにG1を一個経験しておきたいし、何なら勝っておけば皐月賞への出走も確定させられる。考えているのは朝日杯だけど、どう?」

「承知しました。当面の目標は朝日フューチュリティステークスでよろしいでしょうか」

「正確にはメイクデビュー後、様子を見ながらG3程度の重賞に出たいと思うわ。そのためにメイクデビューは確実に、一回で、できるだけ圧倒して通過します」

「了解しました。一時優先目標を、メイクデビュー勝利に設定します」

 

 

 なんて話が早いんだろう。スズカと目標レースを決めるときは結構難しかったのだけど。自由人だしねこの子は。それが強みだからどうでもいいんだけど……出られるならどんなレースでも良いとか平気で言い出すから、全面的に私が決める必要があった。ウマ娘に目標レースがあるって良いことだね。

 

 

 その後、今までミホノブルボンがやってきた練習を聞き出しておく。彼女は淀みなくそのメニューを語った。地元で、父親にどんなメニューを課されてきたか……その、どう考えても過酷としか思えない練習メニューを。

 

 

 坂路坂路坂路。この子の地元には坂路しかなかったのかと思えるほどの一辺倒なトレーニングだった。スズカがやったらすぐに倒れる。いや、スズカでなくても、普通のウマ娘ならとっくに死んでいるレベルだ。自主トレーニングのレベルをはるかに超えている。だが、私が見ている限りでは彼女には何の不調も見られないし、調子も良い。特に丈夫なのだと言われればそれまでだが。

 

 

「本当に坂路だけ? 走り込みや水泳は?」

「ほとんど行っていません。お父さんは、私にはスピードは足りているからと言っていました。足りないスタミナを底上げし、中央でトレーナーさんに見つけてもらえるように頑張れ、と言われて育ちました」

「なるほどね」

 

 

 確かにそんなステータスだ。坂路練習は根性が伸びるが、スピードやパワーが少しずつ伸びる。根性が伸びると粘り強くなったり、スタミナが切れた後無理が利くようになるので体感ではスタミナが伸びているように感じられるのだ。まあ、それは恐らく私でなければ知りえないことだろう。

 

 

「じゃあそうね。一度今までやっていた通りの練習を見せてもらえる? 私も書類を提出するから、その間に準備しておいて」

「承知しました」

「スズカも一緒に走る? 坂路だけど」

「……やです……普通に走る……」

「もう……ああ、ブルボン、一度ここは終わりよ。着替えておいで。そっちの部屋を使って良いから。トレーニングウェアは持ってきたよね?」

 

 

 はい、と平坦に返事をして去っていくブルボン。ワガママスズカは……まあ、気持ちは解らなくもないけど。走れると思ってたら取り上げられたんだもんね。一週間禁止になったのは自業自得だけど、私も本当にスズカが一週間我慢できるとは思っていないし。どうせ勝手に破るでしょ。犬か猫みたいに丸まって動こうとしないスズカの体を起こし、縦に抱くように膝に座らせる。

 

 

「ほらスズカ。元気出して?」

「うぅ……トレーナーさん、残酷だと思いませんか? 走るって気持ちにしておいて……一番辛いです」

「痛い痛い。おっぱいもげちゃうって。しょうがないでしょ? これでグラスワンダーの色々も終わったんだから、生活も元に戻るじゃない」

「ご褒美くれても良いんですよ? 走らせてください」

「いや、グラスワンダーのあれが始まったのはスズカのせいでしょ」

「へぅ……」

 

 

 あ、調子が下がった。うーん、好調くらいまでは良いんだけど、普通になるのはいただけない。手のかかる子だ。頭を撫でてあげながら、ぐりぐりに頭を押し付けてくるスズカを少しだけ押しのける。

 

 

「やです……走ります、絶対に走ります……」

「そんなこと言わないで? スズカももう先輩よ? ちゃんとしたとこ見せないと」

「走らせてくれたら考えます」

「ダメって言ったらどうするの?」

「ブルボンさんとたづなさんにあることないこと話します」

「えげつないことするわね!」

 

 

 甘えながらなんて怖いことを言うんだ。そんなことされたらただでは済まない。いや、絶対にクビにはならないけど減給とか……だめだめ。私が自由に使えるお金はトレセンの給料だけなんだぞ。スズカとは関係ないところだけ。それが減らされたら……減らされてなんかあるか? 何も無いかもしれん。いやいや……どんな悲しい日々を送っていたらそんなことになるの? 

 

 ……まあ、まあ……スズカもいるし、別に寂しくは無いけど、しばらく親には会わない方が良いかもしれない。

 

 

「じゃあちょっとだけ聞いたげるから。どこで走りたい? 夜?」

「夜風と月明かり……も捨てがたいですけど、私は昼間に走るのも好きですし、どちらかと言えば走る場所の方が大切です。自然に近い場所の方が走っていて気持ちいいですよね。やっぱり広い野原とかが理想なんですけど、走った道が解りやすいって意味だと普通の道でもいいかもしれませんね。でも、アスファルトはやっぱり芝に比べると劣るような気もしますし……悩んじゃいますね……」

「待って待ってスズカ」

「最近気が付いたんですけど、海風って言うのも結構気持ちいいんです。景色も良いですし、どこまでも走っていけそうな気がして……都会で走るのとでは空気が違います。あ、でも都会で走るのが嫌ってわけじゃないんですよ? びゅんびゅんビルが視界から消えていって、ああ、走ってる、って実感できますし……でも、たまに飛ばしてる車に追い抜かれるのが嫌なんですよね……だったらやっぱり原っぱが良いんですけど……あんまり遠出するのも……ブルボンさんの練習も田舎でむぎゅっ」

「ストップストップスズカ。ごめん。私が悪かった。私が悪かったから要望は止めよう。ね?」

 

 

 止まらないスズカの口を塞いで、ソファに投げ捨てる。ああー、なんて言いながら飛んで行くスズカ。そろそろブルボンの着替えも終わる頃だろう。なんとこの短時間でスズカの調子は少し上がっている。こいつ……妄想だけである程度満足してしまった……? 毎回それやって? それだと助かるからさ。

 

 

「とにかく一週間は禁止って言ったんだから何をするにもその後。じゃあスズカは坂路走らないってことで良いのね?」

「……それは走ります」

 

 

 スズカは唇を尖らせて、ソファに寝転がったまま呟いた。いや走るんかい。坂路でもいいんかい。

 




ブルボンのトレーニング周りは設定のガバが多発するかもしれませんので、意味解らなかったら指摘してもらって構わないし嬉しいですけど、「それはガバです」としか答えられない可能性があります。

というのは、流石にブルボンには「坂路」をメイン練習にしてほしいので、そのために世界が歪むからです。ただでさえ歪んでるのに。目を瞑って楽しんでいただけると幸いです。
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