走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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エルナトは日常会話で煽ることが多いので、お互いにラインを完全に把握している。ただたまにわざとライン越えすることもある。


周りを巻き込むミホノブルボン

 

「マス──マスター。よろしいですか?」

「ひぃっ」

「ああ、うん。すぐ閉めてブルボン。いらっしゃいライスシャワー」

「こ、こんにちは……え? おかしいよね? 今」

「適当に座ってください」

 

 

 ある日。私はスズカをお仕置きするべくロープでぐるぐる巻きにしてソファに転がして太鼓にしていた。たまたまテレビのCMで草原を走る動物達の映像が流れてしまったからかもしれないが、昨晩スズカは走っていった。

 

 全てを無視して走るのは本当に久しぶり──でもない。割と十日に一度くらい暴走している。

 

 

「た、たた、た、たす、たすけ、助けてくださ、ぶる、ぶるぼ、ブルボンさっ」

「た、助けてあげないと、ブルボンさんっ」

「いえ、こちらの用件が優先です」

「ええっ!?」

 

 

 流石はブルボンという感じで、ライスシャワーを引き連れて部屋に入ってくると、何も指摘することなく鍵を閉めてくれた。ライスシャワーだけは混乱しているけど、まあ病室ではここまでしてないからね。

 

 

「い、良いの? 助けなくて……」

「気にしないでください、ライス先輩。どうぞ」

「あ、ありがとう……」

 

 

 ……でも、混乱しつつスズカに手を出すんじゃなくてブルボンに言われるがまま座ってしまうのは流石だと思う。そういうの遠慮しそうな性格だと思うんだけど、スカーレットがお茶を淹れても普通に一番に飲んだもんね今。結構図太いでしょ君。

 

 

「ま、ままま待ってください、いいい」

「聞き取れません」

「!?」

「言いましたねー今。一刀両断でしたよ」

 

 

 ばっさりいかれてスズカが大人しくなった。安物の縄を引きちぎって私に抱き着いてくる。勝手に抜け出さないで、と腕を組んで拒否すると、そのまま丸まっていじけた。

 

 

「で、用って何、ブルボン」

「はい。数日後のステイヤーズステークス、そしてその後の有マ記念にライスが出走します。是非勝って欲しいと考えています」

「そうね」

 

 

 ブルボンと競合しない範囲ならいくら暴れてもらっても良い。願わくば来年はブルボンとの直接対決は全て避けてくれないかな。ブルボンはシニア三冠に行くから、それ以外全部あげるよ? 

 

 

「以前の約束もありますので、ここはマスターからライスへ、特別メニューの実行を提案します」

「却下」

「ほら、だから言ったよねブルボンさん! 普通やってくれないよ!? どこのトレーナーさんがライバルに秘伝の特訓をするの!?」

「スパルタを秘伝みたいに言わないで?」

「違ったの? てっきり一子相伝クラスのものだと思ってたけど」

「親は会社員だし私は末代なのよ」

 

 

 一応、結構そういうトレーナーもいるけどね。アドバイスとか。ウマ娘はスポーツマンシップの塊だ。ライバルが強ければ強いほど燃える子がほとんどだから、ライバルとも平気で合同トレーニングはするし、短期移籍もまあ無いわけじゃない。

 

 ……ただまあ、同じくウマ娘は独占欲の強い種族なので、そういうことをするとたとえ同意があってのことでも担当ウマ娘から強めの感情を向けられることもあるらしいけど。

 

 

「トレーナーさん……話が長くなりそうなら走ってきても良いですか」

「ダメ。というか昨日走ったでしょ」

「それは昨日の私ですよね。今日の私は走ってません。別人です。ウマ娘は毎日進化しますので、今の私なら昨日より気持ち良くなれると思います」

「私にはあなたが劇的に速くなったようには見えないけど。元から最速なんだから誤差でしょ」

「褒めたって誤魔化されませんよ。走ります」

 

 

 これはなんかまたちょっと違うやつね。

 

 

「どうするのブルボンさん」

「任せてくださいライス。私はこれでもエルナト二番目のウマ娘、つまり古参です」

「三人しかいないのに……?」

「半分より早いですから」

「いやぴったり半分じゃない……?」

「年代まで考えると半分より後じゃないですか?」

「とにかく任せなさい。マスターやスズカさんについて私はプロフェッショナルです。三冠ウマ娘に不可能はありません」

「ライス今日はずっと心配だよ。ブルボンさんがその感じで任せなさいって言ってトラブルが起きなかったことないもん」

 

 

 こちらに向き直るブルボン。作戦会議は終わった? どういう結論が出たのかしら。

 

 

「マスター。ライバルであり最大の脅威であるライスの強化を避けるのは理解できます。私も恐怖を感じないわけではありません」

「でしょう? 私は何も意地悪で言ってるんじゃないのよ」

「勇気を出してくださいマスター」

「こっちに来なさい」

 

 

 ブルボンを呼びつけ目の前に立たせ、その柔らかな頬っぺたをつねる。両方からむにぃと伸ばしたが、真顔で頬だけ引っ張られたブルボンが変わらず続ける。

 

 

「私が煽りに乗ると思ったら大間違いだからね」

「怖いのですか、マスター。ライスが強化されれば私が負けると?」

「え、うん」

「……三冠、ウマ娘なのですが、いえマスター、想定されていた返答ですが、その」

「あごめん。本当にごめんねブルボン! ブルボンが強いわよ! 負けない! 大丈夫!」

 

 

 いけね。つい流れで普通に答えてしまった。嘘は言っていないしもっと真面目な雰囲気なら許されただろうけど、これくらいの軽口のなかで言うのはまずかった。

 

 

「問題、ありません。想定内の、解答です」

「ごめん! 大丈夫! 大丈夫よブルボン! ブルボンが一番強い! ね! 三冠ウマ娘だもんね!」

「……ふーん」

「へー……」

 

 

 お願いだから静かにしててややこしい。負けん気とこだわりが強すぎて面倒くさいってこの子達。静かに寄り添ってプレッシャーかけるのやめて。スカーレットまで。そんな、寄り掛かって耳元で囁くタイプじゃないでしょ。

 

 想定内と強がりつつ明らかに動揺しているブルボンをふにゃふにゃになるまで撫で回してから解放する。私の左にいたスカーレットをパワーで一人分退かして、そこに座った。

 

 

「確かにライスは脅威です。ですが約束は約束です」

「いや、私は約束してないから」

「マスターは保護者と聞きました。私がした約束を負う義務があるはずです」

「それでいうと契約を反古にする権利もあるわよ私は」

「……ブルボンさん? やっぱりライスいいよ? そりゃ一回くらいやってみたいなあと思ったし、ブルボンさんと一緒に走れるのは良いことだけど……できないこともあると思うし」

「……解りました。やり方を変えます。オペレーション『後先考えない』に移行します」

 

 

 作戦名が怖すぎる。

 

 

「何をする気? 負けないわよ私は」

 

 

 ふふん、と自信たっぷりに来るブルボンが可愛いなあ、と思いつつ、一応ファイティングポーズはとっておく。しかしブルボンは私を無視して、スズカに向いた。

 

 

「……スズカさん。私は三冠ウマ娘であり、ライスはそれに比肩する実力を持ちます。つまり、私達はスズカさんよりも速」

「表に出てブルボンさん」

「ちょっと?」

「スカーレットさん。スカーレットさんは、根性に自信があるようですが──ライスはあなたより上です。もちろん私も」

「……あ゛? いくら先輩でも言って良いことと悪いことがありますよね? 上等じゃないですか。目に物見せてやりますよ」

「見なさいライス。これで私達が多数派です」

「ライスを入れないで! ライスは何も言ってない! ライスは知らない! ライス帰る!」

「待ちなさい。この状態で置いていかないでください」

 

 

 煽っておいて怖がるブルボン。逃げようとするライスシャワーを掴んでずるずるとドアの方へ引きずられていく。もはや止めようのない『圧』。スズカとスカーレットが無言で服を脱いだ。

 

 

「あーあ……何てことしてくれたのブルボン」

「ミッション達成です」

「巻き込まないで! 巻き込まないで!」

「私達は親友ですよね?ライス」

「泣きそうになるくらいならやめようよ……!」

 

 

 ライスシャワーもかなり気迫があるタイプの子だと思っていたけど、流石にこの二人の圧にはビビるんだ。というか、そもそもが気弱なのかな? 本当に、弱いのか弱くないのかよく解らない子ね。

 

 

「さあ行きましょう。すぐに千切ってあげるわ」

「着替えるの早すぎない?」

 

 

 まだ下着姿で制服をかけているスカーレットと、既に全てを終わらせてジャージになっているスズカ。気持ちが完全に入っているようで、異次元の逃亡者としての顔で一歩ずつブルボン達に向かっていく。

 

 遅れてスカーレットも、面倒になったのか制服を投げ捨てて着替えて付いていく。ドアを開けようとするライスシャワーと、ノブを上から掴んで抵抗するブルボン。なんだここは。地獄か? 

 

 

「ブルボンさん、どうしたの? 外に出て? 何秒追い縋れるか見てあげるわ」

「ま、マスター」

「はいはい。落ち着いてスズカ。怖すぎるから」

 

 

 そんなスズカを後ろから抱えてソファに引き戻す。二人とも怒ってるとか、仲が悪いとかじゃないんだけどね。どうしても一番煽りは効くのよね。ギラギラの目付きを手で覆い隠して胸に手を回すと、鼓動がエンジンが掛かっているように高鳴っている。強めに抱き着くと、少しずつゆっくりになっていった。

 

 

「離してくださいトレーナーさん。もはや言葉はいらないはずです」

「まあまあ。やらなくても解る勝負でしょ」

「む……むぐ」

「そもそもあなたお仕置きの途中だからね。解ってるの?」

「あんなこと言う方が悪いじゃないですか」

「このチームであれくらいの煽りなんか日常茶飯事でしょ」

 

 

 こんなこと言ってるのが既におかしいけど。でも仕方無い。エルナトは煽り推奨である。その方が三人とも強くなるしやる気も維持できるから。

 

 

「ブルボンも煽ったなら責任もって立ち向かいなさい」

「申し訳ありません。ですが、マスター。是非」

「……まあ、解った。ブルボンが本気ってことはよーく解った」

 

 

 しかし、煽りというのにも最低限のルールというのがある。煽ったことは咎めないけど、火をつけておいて逃げ出すのは放火魔と同じである。ただ、ブルボンがそこまでしてでもライスシャワーを鍛えたかったのは伝わった。

 

 しゅんとするブルボンを手招きして、へたれたウマ耳を弄ったり頭を撫でたり。スカーレットもスズカが鎮火したことで落ち着いたのか、戻って制服をハンガーに掛ける。

 

 

「我を忘れるところだったわ……」

「忘れてたでしょ完全に」

「は? 私がそんなすぐキレるように見えるの? そんなウマ娘に思えるの?」

「見える。思える」

「ぶっ飛ばすわよ」

 

 

 そして落ち着くと私の周りにスカーレットも座る。あら可愛い。けど怖い。いつの間にかライスシャワーが身内カウントで猫被りも雑になってるし。別に言いふらす子じゃないでしょうけど、それで良いわけ? 

 

 

「まあ、ともかく。じゃあ明日特別メニューをやりましょう」

「っし!」

「……! 今すぐやりましょう」

「じゃあ私、終わるまで走ってますね」

「え、い、良いんですか?」

 

 

 誰か躊躇って欲しい。気を失うまで走れって言ってるのよ、今。

 

 

「準備しておきなさい。スカーレット、ライスシャワーも。スズカもこの際二人が倒れるまで走って良いから」

「やたっ。スカーレットさん。五時間くらいやってね。お願い」

「それは無理です。……いや睨まれても無理ですから!」

「マスター。私が数に入っていませんが」

 

 

 まあどうせ外れた時間にやるし、予約も取れるだろう。ブルボンだけが不安げに私を見上げてきたので、私も安心させるように笑顔で言い放った。

 

 

「今回の罰としてブルボンは見てるだけね」

「……え」

 

 

 かちん、とブルボンは固まっていた。




調子に乗ると親にお仕置きされるのが長女

調子に乗ると姉妹に脅かされるのが次女

調子に乗るとか乗らないとかあんまり関係無く不憫なのが三女

わちゃわちゃに巻き込まれてるのが似合うウマ娘ステークス一番人気ライスシャワー
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