走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「うさぎ」
「銀砂」
「砂糖」
「浮き輪」
「忘れな草」
「山椒」
「……乳母車」
「松かさ」
「最高」
「……ねえ、ちょっと」
「スカーレットさん、『う』です」
「スカーレットの負け? じゃあ音楽流すわよ?」
「そうじゃなくて!」
ある日。ブルボンとの約束通り冬祭りに行くべく車を走らせていた。冬の祭りに行くのに雪も無いのでは味気無いだろうということで北上中である。暇だし私が全部運転しないといけないので、起きている二人が話し相手になってくれていた。
「なんで『う』攻めするのよ!」
「私だって『さ』攻めされてるのよ」
「攻めるならもっと難しい文字で攻めなさいよ!」
「あ、そっち?」
色々やって時間を潰しているが、今はしりとり中である。負けた人がカーステレオで熱唱するということでやっているが……まあ、流石にスカーレットが一人だけ不利を受けている感は否めない。そもそもこういう勝負でブルボンが負けるわけがないし。
現にブルボンの攻めはここまで完璧である。必ず『さ』で返してきているし、私もこの歳で熱唱はキツいので本気でやっている。まあその、あんまり早く終わっても仕方がないからそれなりの文字でやってるのは事実なんだけど、こういうところでも手を抜かれるとご立腹のスカーレット。
「『り』とか濁点とかあるでしょ!」
「でもスカーレット、それじゃ瞬殺じゃない」
「は? 言っておくけど私賢いんだからね」
「もうその台詞が賢くないのよ」
「スカーレットさん、『う』です。続行不能であれば『うまぴょい伝説』を流します」
「うまぴょい!? もっとあるじゃないですか!」
「決定権は私にあります。私は賢いのでマスターにも勝てますから」
「その台詞が賢くないですよ!」
「ブルボンは賢いわね」
「ぶっ飛ばすわ。グーで。今ここで諸とも死んでも良いのよ」
スカーレットの賢いは正直私も通った道というか……その、申し訳無いけどこういう知能においてはブルボンが上位互換過ぎる。というかこの子にお勉強で勝てる存在がこの世界にいるのかも怪しい。どんな難しいことでも完璧に暗記しそうだし。
「瓜!」
「流砂」
「詐称」
「う冠!」
「立体交差」
「最強」
「あーっ!!!! やってられない! ストレス!! 終わり終わり! うまぴょいでも何でも歌ってやろうじゃない!」
スカーレットがキレた。手加減をされたくないという気持ちと勝ちたいという気持ちがぶつかるとスカーレットはよく壊れる。後ろからブルボンが座る助手席を叩く。勝負ありです、と私にふふん、という感じでピースするブルボン。
「ちゃんとコールしなさいよ!」
「やるわよ。ブルボンが」
「やります……しかしマスター、歌唱が罰ゲームであるなら、それに付随してコールをすることも罰ゲームなのでは」
「細かいことは気にしないで」
「では、歌唱モードを起動します」
流れ出す電波なテンポの曲。何の歴史があるのかは置いておいて、ウマ娘達の中で何故かトップレベルの楽曲とされているものが流れ始めた。イントロから、猫被りスカーレットのぶった声が流れ出す。それと、ブルボンのやたら高い歌唱力が解き放たれる抑揚の無いコール。
「……ほあ」
「あ、スズカ起きた? どう、スカーレットのうまぴょいは」
「可愛いです……なんで今うまぴょいを……?」
「色々あってね」
後ろの席で寝ていたスズカが起きてきた。お出かけ中はどうしても我慢できなくなったときに一度だけ走って良いということで交渉こそ済んだのだけど、引き換えに前日夜、『我慢できません』と走りに出ていってしまったスズカ。
流石のスズカも次の日がお出かけで夜中まで走ることはない……と思ったんだけど、何かが噛み合ってしまったらしく欲望のまま夜更け……というかギリ朝くらいまで走り続けていたらしい。
「そろそろサービスエリアだから、何か買いましょう……俺の愛バが!!!!!! 」
「うるさい……」
「マスター?」
「ごめん、つい」
やらなきゃいけないような気がして。
その後、うまぴょい伝説を全て歌いきり、スカーレットが叫びながら背もたれに倒れた。顔を真っ赤にして顔を覆う。ブルボンと、よく解っていないスズカの拍手が鳴る。たぶんそれ、一発ごとにスカーレットの尊厳を削ってると思うわ。
案の定段々と俯いていくスカーレット。可哀想……こうなったのは私達のせいだけど。
「まあ元気出してスカーレット。サービスエリアで好きなものを買ってあげるわ」
「スタバ……」
「はちみーじゃなくて?」
「蜂蜜入りが出てる……」
「そうなの。じゃあ買おうか。二人も飲む?」
「私はいいです」
「飲みます」
「ん。もう着くから寝ないでねー」
私もコーヒーとか買おう。スタバは甘過ぎるから、適当にブラックとかで。
────
「特製蜂蜜、コーヒー少なめで」
「同じものをもう一つ」
「アイスコーヒー一つ。それとこのドーナツを三つお願いします」
「はぁいっ。ありがとうござい……み、ミホノブルボンさんですよね?」
サービスエリアのスタバ。可愛くて愛想の良いお姉さんに注文を取ってもらう。一応スカーレット以外は髪をポニーテールにして伊達眼鏡をかけているんだけど、流石にレジの至近距離だと普通にバレた。
というか、スズカとブルボンが並んでいてブルボンが声をかけられるなんてことになってるのね、今。やっぱり三冠って凄い。ウマ娘レースに興味が無くても誰もが知る一大名誉とは伊達じゃないのね。
「あんまり……」
「あっすみません、お、お出かけですか? いつも見てます。三冠、思わずテレビの前で拍手しちゃいましたっ。菊花賞の、掲示板が点いた時とか叫んじゃって……あ、ライブはその、時間がなくて行けなかったんですけど……!」
「ええ……ブルボン、静かな声でね」
「はい。応援ありがとうございます。ミホノブルボンです。ちゅ」
「あ゛っ」
投げキッスはサービスしすぎじゃない? さっきまでスカーレットがうまぴょいしてたからでしょ、それ。普段そんなことやらないじゃない、あなた。ウマ娘がやると火力が高すぎるんだって。
「ぁっ……あ、あの、奢らせてください……!」
「金品やそれに準ずるものの収受は禁止されていますので」
良かった、民度が良い方のファンの方で。まあ、概ね女性の方は色々と話しやすいし、お客さんがたまたまいなかったからかもしれないけど。
突然三冠を褒められたブルボンもうきうきだし、お姉さんは……まあ、今後一生ブルボンの可愛さに囚われたままかもしれないけど仕方無い。私の苦しみを味わってほしい。
「人気者ね、ブルボンさん」
「はい。よく声をかけていただきます」
「ファンサの練習もしないとね」
「はい。しかし、私の友人はそういう面で不得手ですので……ライスを筆頭に」
「ああ、まあ……でしょうね」
商品待ちの間、スカーレットの言葉から、私達の脳内に駆け巡るブルボンの友人達。レース以外は気弱なライスシャワー、頭空っぽのサクラバクシンオー、自分を普通だと思い込んでいる重賞掲示板ウマ娘、マチカネタンホイザ……うーん。
「フラワー先輩はできそうじゃないですか?」
「いえ……可愛いと言われるばかりで練習を活かす機会が無いと話していました」
「スズカさんの友人はいかがですか」
「まず私のこと聞いて?」
「スズカさんが苦手なのはもうみんな解ってるんで」
そんな……と私にくっついてくるスズカ。頭を撫でつつ商品を受け取って配る。わあ、もう匂いが甘そう。恒常メニューでも甘いのに。
「じゃあ行きましょうか。ファンサの話は後でね」
「はぁい……」
「これからも応援よろしくお願いします」
「は、はいっ」
お姉さんに挨拶もして車に戻る。……ああ、そうそう。これは言っておかないと。
「トイレは大丈夫? 道、普通に混みそうだけど」
「私はさっき行きました」
「問題ありません」
「大丈夫ー」
「あい。じゃあ行くわよー」
この分だと昼過ぎになりそうかな。後はまあ、渋滞に突っ込んで私がイラつかないかだけど……三人が可愛いから大丈夫でしょ。ここまでも普通に楽しいし。
────
「続いて……あなたは森の中で熊に出くわしました。あなたは武器をいくつか持っています。猟銃、鉈、爆弾です。どのように対処しますか?」
「走って逃げるわ」
「選択肢にありません」
「待って、それ以前にその問題は何? 猟奇的過ぎるでしょ」
「……あ、読み上げに不足がありました。失礼しました。猟銃、鉈、爆弾、槍です」
「変わらないわよ」
「武器を使っても熊には勝てないもの。でも走れば熊に勝てるわ」
「熊の最高速度は50~60km/hですが」
「じゃあ勝てるわね」
案の定渋滞に巻き込まれたので心理テストで暇を潰している。しかし出題がブルボンなのはともかく、答える側がスズカではどうにもならないでしょうに。この子の心理なんて走ること以外に無いんだから。
「選択肢からお願いします」
「えー……じゃあ猟銃で」
「猟銃を選んだあなたは……結婚相手に対して家庭に入り守ってもらうことを望んでいます。つまり相手に家事を求めるということです」
「だ、そうです、トレーナーさん」
「なんで私に振るの」
「トレーナーさんが美味しいご飯を作ってくれたら私、頑張ってお金を稼ぎますよ」
「時代は共働きよ」
もっとも、スズカ一人満足に養えないような男は私認めないけど。
「……ねえトレーナー」
「ん?」
「これさ……渋滞ってどれくらい続きそう?」
「え、うーん……まだ解らないかなあ」
「……そう」
「では続いて。あなたは草原で小さな花が群生しているのを見つけました。何輪咲いていましたか?」
「草原で……? 花を……? 走ってたら見付けられないわ、そんな小さいの」
「もし見付けたらでお答えください」
「待ったブルボン。もしそれが『将来欲しい子供の数』とかだったらそれ以上言わなくて良いわ。吐きそうになるから」
「しかしマスター、現在のペースで医学が発達すれば、マスターとスズカさんの子も不可能では」
「やめてマジで」
「どっちがお母さんでも良いですよ」
「やめて」
漏れてくる結婚願望。やだやだ。私は嫌よ。絶対にスズカとはくっつかないから。いつかスズカに綺麗なウェディングドレスを着せてバージンロードを歩くのが夢おえっ。やめやめ。頭痛くなってきた。
「スズカさんが母体の方が子供がウマ娘になる可能性が上がるかと」
「それって両方女の人でもそうなのかしら」
「さあ……人間同士でもウマ娘が産まれるケースは稀にありますし、無関係かもしれませんが、もし関係していればそうなるでしょう」
「確かに……」
「確かにじゃないのよ」
高速道路でさえなければ二人ともひっぱたいてるのに。
「トレーナーさんは子供は人間とウマ娘、どっちが良いですか?」
「スズカとの子でなければどっちでも」
「そんなことはないですよ」
「あるでしょ」
「ないです。トレーナーさんは私とずっと一緒なので」
「ふー…………殴りなさいブルボン」
「スズカさんへは手が届きません」
「私をよ」
「運転中は危ないですよ」
こいつ、どうしてくれよう。殴らない代わりにコーヒーを私の口元に持ってきてくれるブルボン。今度お見合いとかしようかな。恋愛結婚はできなくても利害のあるパートナーとしてなら結婚できるかもしれない。そうなればスズカも諦めがつくでしょ。
心理テストそっちのけで話し始めた二人の会話を聞き流しながら、でも今時ってどうやってそういうのやるんだろう、と考えていた。
「トレーナー」
「ん」
「まだ渋滞抜けない?」
「まだだね」
相変わらず目の前には、車の列が立ち塞がっていた。
ウマ娘世界のウマ娘は女しかいない種族でかつ人間より上位なので、現実世界よりも同性関係周りが発達している可能性がある。