走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「ねえトレーナー」
「んー?」
「あとどれくらいかかりそう?」
「さあ……」
絶賛渋滞中。スズカとブルボンが話しているなか、スカーレットが結構頻繁に状況を聞いてくるようになってきた。シートベルトをしているから実際にはできないが、乗り出してくる勢いだ。そりゃイラつくわよね、スカーレットは。こんな大渋滞じゃ。
うちの子達は基本的には気は長いし滅多なことではイラついたりはしないんだけど、気を張っているからか、そもそも気性が荒いからか、スカーレットだけはこういうのは苦手としている。
「スカーレットもやっぱりやる? 心理テスト」
「私はいい……それより、め、目安とか解らないの?」
「目安かあ……」
何なら私もどちらかと言うとスカーレット……というか、普通の感性寄りなので日々イライラすることはあるし、渋滞も別に嫌ではある。私の場合は愛バを天然BGMにしているから平気なだけで。
「まあ……二時間とか? 正直解らないのよね。たぶん長さ的にはそれくらいだと思うけど」
「二時間……そう、二時間ね……」
「スズカさんが決めたバラの総数のうち、白が多いほど恋人に尽くす気概があります」
「え……じゃあ私ゼロじゃない。逆じゃないの?」
「……逆なのですか? スズカさんは尽くされる側では?」
「私だってトレーナーさんに尽くしたりもするわよ」
「どうやって」
「料理とかお洗濯とかできるし」
「見たことがありませんが」
二人とも気長なので、ひたすら心理テストをやっていても飽きはしないらしい。さっきからスズカは発進停止を繰り返す度に少し悶えているけどこんなのいつも通りだし。
その本、ライスシャワーに借りたらしいけど、まさか読破するつもり? さっきからスズカの性格診断が──信憑性はともかく──流れ続けてるんだけど。そんなのみんな知ってるって。
……あと、スズカが家事全般できるのは事実なのよね、驚くことに。
「失礼しました。私とスカーレットさんの能力しか把握していないので」
「それはまあ……どうなんですかトレーナーさん」
「能力はブルボンの方が高いでしょ。ただ日常生活で役に立つのはスズカじゃない? ブルボン、手抜きとかできないタイプだし」
「なるほど……ではスキル『手抜き』を習得すればよろしいですか」
「まあ、そうね……実際持っておいて損は無いかも。ある程度の仕事と家事だけね?」
ブルボンなら勘違いはしないだろうし、私が言えた話でもないけど。トレーナー業の半分くらいこの目で踏み倒してるわけだし。
そういえば、今年の通知表、どうしようかな……いい加減ブルボンもライスシャワーしか見ていないみたいな感じはあるから、ライバルとの比較はいらないかな……と思うんだけど。
ああ、でも、あれね、スズカが来年どこで走るのかにもよるかな……ブルボンの次の目標はグランドスラムになるわけで、そうなると、どうしてもスズカの戦場と被る。一応スズカはマイルも走れるけど、マイルでスペシャルウィークを迎え撃ったら評判が落ちるなんてものじゃ済まない。
それがラストランになる以上、適当な重賞ってわけにもいかない。これは相手にとってもトゥインクルでのラストランになるわけで、それが地方のよく解らんGⅢで開催なんてなったら暴動ものでしょ。いや、GⅢをよく解らんとか言えるのがまず贅沢なんだけどね。
「ブルボンは今年、通知表で見たい子とかいる?」
「マスターにお任せします……が、差し支えなければ来年走るであろうスズカさんやスペシャルウィークさん、グラスワンダーさん等を希望します」
「やっぱりそうよね」
スズカのラストランには黄金世代が揃う可能性がある。キングヘイロー以外。そのうちブルボンにとってセイウンスカイは脅威にはならない。あれは低い能力を戦術で補うタイプだ。スズカ一点読みでなければ舞台には上がって来られない。スズカごと纏めて負けるか、スズカ相手の戦法が刺さらず惨敗か、だろう。
となるとエルコンドルパサー、グラスワンダー、スペシャルウィークになる……が、このうち後ろ二人は爆発力を持っていると思われる。エルコンドルパサーは純粋に強いだけなのでステータス開示に意味があるが、残り二人は解らない。
「でもまあ、見ておくに越したことはないか……よし、今年もクリスマスに纏めて渡すからね」
「マスター、ライスシャワーにも渡すわけには」
「嫌」
「……そうですか」
最近のブルボンはライスシャワーを強化したがる。やっぱりこの子、マの付く性癖の持ち主なのかもしれない。ライバルを強化して何が楽しいのか、ウマ娘のこういうところが一生解らない。スズカなら大喜びだけど。
「失礼ですね。私だってみんなが強くなってくれれば良いと思ってますよ」
「じゃあもし仮にブルボンがあなたより強くなって同じレースで逃げられるようになったらどうするの」
「私より前なんて出られるはずがないのでその前提はおかしいです」
「仮によ」
「……一緒に走れなくなってもブルボンさんは大切な後輩です」
「スズカさん?」
ダメなんじゃん。
「ねえトレーナー……まだ渋滞抜けないの? もう三十分くらい経ったでしょ?」
「十分も経ってないけど……さっきからどうしたの。キレるなら声出してキレた方がすっきりするわよ」
「キレてない……十分しか経ってないの……?」
「スカーレットさんもやはり何かしませんか。気が紛れます」
「いえ……じゃあその、何かありますか」
「では……」
スカーレットは恋愛とかしてなさそうだけどね。してたらそれはめでたいことだけど、普段から色々動き回ったり自分を磨いたりで忙しいから。ほんの一ミリでも恋愛に向けばすぐに恋人なんか作れるだろうけど。
変にしおらしいスカーレットに対して、ブルボンがパラパラとページを捲る。『スカーレットに合いそうなもの』という曖昧な概念で自律思考ができるあたり、この子は立派になった……(保護者面)
「あなたは今夜道を歩いています。後ろから足音が聞こえてきました。あなたはどうしますか? 走って逃げる、戦う、立ち止まる、話す」
「想定してる状況が怖すぎるんだって」
「……走って逃げます」
「走って逃げる、を選んだあなたは、現在大きな困難の最中で、早急な解決を望んでいます。短絡的な解決方法も厭わないタイプで、直面している問題も緊急かつ切迫しています」
「診断が細かすぎる……」
「へ、へー……あんまり当てにならないですね、やっぱり……」
「声震えてるわよ」
そんな差し迫った悩みとかあるの? 私に相談して? 何とかしたいからさ。
「続いて……あなたは水難事故に巻き込まれています。一分一秒を争う状態です。その状態で」
「他……他のでお願いします」
「あなたの目の前に破裂寸前の風船があります。あなたの手元には」
「他ので」
「あなたが旅行していると目の前に困難が現れました。それは次のうちどれですか? 一つ目、決壊間近のダム」
「わざとやってます?」
「何がですか?」
何をしているんだか。その本大丈夫? 出版社とかがイカれてるんじゃない?
「もっとこう、晴れやかなやつは無いんですか……」
「晴れやか……あなたは今、ちょうどトイレを済ませて」
「心理テストはやめましょう」
スカーレットが背もたれに戻っていった。それを受けて、スズカがじっとスカーレットを見つめる。私もちらりとミラーで見ると、ひゅんひゅんに目線が動いている。
「スカーレットさん?」
「はい? どうかしました?」
「あの、揺れてるわ。座席」
「く、車ですから……」
「いえ、そうではなくて」
ああ、そういう?
「スカーレット、トイレ?」
「……いや、違うけど」
「本当に?」
「当たり前でしょっ」
「擽りなさいスズカ」
「待っ……解った。解ったから! さ、触らないでください本当に! スズカさん!? ちょっとぉっ!?」
そういうことでしたか、と隣でブルボンが本を閉じた。スズカにがおーっとやられて怯えるスカーレット。さて、どれくらい絶望かしらね。私も現実から逃げたくなってきた。大渋滞、大人一人、超有名人の思春期女子、スリーアウトってところかしら。
「ちなみにスズカとブルボンは? 大丈夫?」
「私は全然……」
「ゼロではありませんが、許容範囲内です」
「残り時間は?」
「三時間オーバーです」
よし。良かった。何も良くはないけどヨシ!
さて、それで本番だけど。
「スカーレットは、どう。どれくらい我慢できそう?」
「ふ、ふん……ほんのちょっとだし……そんな、人を我慢もできない子供みたいに言わないでよね」
「そう、じゃあ解決策はいらないわね」
「ま、まあ? 一応聞くだけ聞いておこうかしら!」
まあ、正直問題はない。一瞬絶望しかけたが、普通にこれくらいのことを対処できない中央トレーナーなどいるはずがない。あります、ちゃんとそれ用のやつが。グローブボックスに入ってます。
……ただ、あることと使えるかどうかは別だし。流石のブルボンでも入院中人前では恥ずかしがっていたし、それがスカーレットならなおさらだ。プライドも羞恥心も段違いに高いからね。
「まあ言ってみなさい。どれくらい我慢できるの」
使わないに越したことはない。そう思って聞くと、スカーレットは顔を覆ってぐっと背筋を伸ばした。嘘みたいな小声で呟く口元だけが見える。
「ま、まあ……三……」
「三時間?」
「さ、三十分くらいなら……ギリ……何とか……」
あら瀬戸際。
「もー。早く言わないとダメですよスカーレットさん」
「し、仕方ないじゃないですか! サービスエリア出て五分でしたくなるとか、や、ヤバい奴みたいで!」
「ええ……そのコーヒー何が入ってるんですか?」
「こんなの不平等じゃない……! どうして同じものを飲んでるブルボン先輩やトレーナーは何ともないわけ……!?」
「流石に解りかねます」
「中央トレーナーなんてのはね、依存ギリギリまでカフェインを摂って身を削ってる人ばっかりだから、今さらどうってこともないのよ」
「もう……っ!!」
スカーレットが前の座席を掴んで頭をこつん。ブルボンが座席ごと揺れ始めた。
「早く、早く抜けなさいよ……!」
「無茶言わないで? どう見ても無理でしょ」
「真ん中が空いてるじゃない!」
「バイクじゃないんだから」
「中央分離帯が!」
「あそっち? バラバラになるわ」
どどどど! と座席を叩くスカーレット。ブルボンが、あ、あ、あ、と呻く。
「降りて次のパーキングまで走ります? 私も付いていきますよ」
「普通に違反なのよね……そもそもスカーレットは走れないでしょ」
「ブルボンさんが担げば良いじゃないですか」
「それだとあなたただ走るだけじゃない……というか揺らしたらスカーレットがダメでしょ」
「何でも良いから……早く飛んで……! ジャンプ……!」
「意識が朦朧としていますね」
そろそろ助け船を出そうかな。ま、本人ももはや選択肢がないって解ってるでしょ。
「スカーレット」
「爆発すれば全部無かったことになるんじゃない……? そうよ、これは夢……爆発オチ……」
「仮に夢だったらスカーレットさんおねしょ確定じゃない?」
「あああああ……っ」
「はいはい。良いから諦めなさいな」
がくがくと震え始めたスカーレット。ブルボンに言ってそれを二つ取り出してもらう。一応遠出なので、何かあった時用に人数分買ってある、外出用の携帯トイレである。まあ背に腹は何とやら、どうしても嫌なら座席を汚しても構わないけど……ね?
「無理、無理無理無理無理無理!」
「無理でも良いから持っておきなさい。別に体を壊さなきゃいくら頑張っても止めはしないから」
「いやだぁ……!」
「はいはい。する時は言ってね。全員で大声出すから」
欲望とプライドの間で揺れ動きながら本人も動き回るスカーレット。精神衛生上頑張ってほしいけど……まあ無理でしょうね。ここからしばらくは覚悟の時間かな。
そうしてしばらくスカーレットを待つ。車内に緊張感が走り、スカーレットが揺れ動き大きく息を吐く音だけがする。そして十分と少し経過、ついにスカーレットが動いた。
「……うぅ」
「する?」
「……トレーナーもして」
「は?」
「私一人は嫌ぁ……っ!」
「嘘でしょ……」
とんでもないことを言い出している。駄々をこねている感じではない。しっかり正気だ。正気のまま私を巻き込もうとしている。普段の距離の近さが完全に仇となっている。
……が、ここで私には選択肢がない。ここで強く拒否をしても良いが、それをすればするほどスカーレットの抵抗感を煽ってしまう。なんというか、保護者としては一択なんだけど、人間として躊躇いが半端じゃない。
「なるほど」
「ブルボン?」
そしてノータイムで私のズボンに手を掛けるブルボン。待って……マジで……ッ!
「落ち着いて二人とも……大丈夫よスカーレット。みんなの性格は知ってるでしょ? 気にする人なんかいないって……!」
「それでも一番はイヤァ……ッ!」
「スカーレットさん……そんなに……!」
確かにスカーレットが一番を拒否するなんてよっぽどだけどさあ……ッ! スズカは面白がってるでしょ! 私なら笑って良いとかじゃないからね! マジで! ねえ……っ!
「ブルボン? ブルボン!」
「マスターは完全に着座していますから、この状態で用を足すには少なくとも膝まで、あるいは足首まで脱ぐ必要があります」
「解るけど一回止まろう! ね!」
「時間がありません」
「ねえっスカーレット考え直して! ヤバいって! 私手ぇ放せないんだって!」
「早くして……! 次は私だから……ッ!」
「承知しました」
「ブルボンッ! ブルボンッ!」
「ふっ、ふふふっ、ふふ、ふふふ……」
息を殺して笑うスズカ、もう止まれないスカーレット、力ずくで私を脱がすブルボン、真っ昼間に車の中とは言え露出し始めている成人女性。尊厳がっ。尊厳が失われるっ。
「お、往生ぎ、ふふっ、際が悪、悪っ……くっくっ……んふ……悪いですよ……」
「これはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのため……」
「暗示が本気過ぎる……ふふふ」
これはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのためこれはスカーレットのため………………!!!!
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「コロシテ……コロシテ……」
「スカーレットさんは私が押さえておく?」
「ん……ぐ、ふぅ……い、いいです、やっぱり私、我慢します……っ」
「大丈夫なの?」
「なんか、う、動いてる感じあるので……っ、これならギリ間に合う……ッ」
「あらほんと。思ったより早かったわね」
「コロシテ……コロシテ……」
「あとその……思ってた百倍恥ずかしくて……あ、私絶対無理だって……」
「まあ、そうよね……良かったですねトレーナーさん」
「ナニガ……?」
「スカーレットさん、頑張ろうって気持ちになりましたよ」
「マスターの献身の効果です」
「ヤメテ……」
わんわん泣くまであと一言。
ド○えもんで一番好きなエピソードは悪魔のイジ○ールです。