走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「おぉ……」
「ブルボンの地元は雪は降らない?」
「あまり降りません」
「にしても凄いわね……まさに雪国って感じ」
現地に入り、ホテルまでの道にて。十二月も真っ只中、東京では見たことがないくらいに雪が積もっている。ちょっと感動。三人とも珍しく普通に感動している。スズカも雪が好きなので、流石に窓の外を見る視線が違う。
「お祭りはいつ?」
「日が落ちてからね。ライトもつくし」
「じゃあ一旦お昼ですか?」
「そうねえ」
ホテルに着き、荷物を任せてチェックイン。そのまま部屋まで三人に運んでもらう。こういうときウマ娘を連れると楽ね。この子達にとってスーツケースの一つや二つ存在しないのと一緒だから。
部屋は分ける理由もないので四人で一部屋としている。適当にテーブルに座ると、早速スズカが肩にもたれかかってきた。
「んーっ……」
「出た」
「出たって言わないで」
「スカーレットさん。昼食を決めましょう。二人はこの際放置します」
「いや珍……あ、はい。じゃあ決めましょうか」
完全に贔屓だけど、スズカにとってこの移動だけでもかなり消耗があったはずだ。渋滞中も、前に出そうになっては止まってを繰り返す車の挙動で目付きが変わりつつあった。よく我慢できたものだと思う。
流石にブルボンが旅行の主役だということは解っているらしい。一般道に降りて適当なところでチェーンを巻いている時も、私だけ走りに行きます、とは言わなかった。言いそうな空気だけはめちゃくちゃ出てたし、たまたま見かけたランナーをじっと見つめてはいたけど。
「お昼は適当でも良いですか?」
「いえ、むしろ夕食は屋台のものもありますし、ホテルでもとれます」
「あ、なるほど。じゃあお昼は食べ放題とかにしますか」
「バカねスカーレット。普段のご飯じゃないのよ。これはブルボンのお祝いも半分なんだから、ケチらず普通の料金で探しなさい」
「やるぅ」
もたれるスズカの首もとを擽ったり、笑うスズカの唇をなぞったり。くすくす笑うスズカのお腹に触れると、きゅるるる、と小さく鳴った。
「スズカもご飯を考えてきたら?」
「んー……あっ無理です、離れると走りたくなります」
「ええ……昨日の夜走ったでしょうが」
「空気が良くて、雪が……あぅ、ちょ、ちょっとだけ走ってきて良いですか? お昼までには戻るので、軽くお腹を空かせるだけ」
「良いけど一回にカウントするからね。今日走ったらそこから我慢よ」
「ぐっ……」
ぐっ、じゃないのよ。
「トレーナー! 良い感じのお寿司があるんだけど!」
「んー……まあ、まあ……構わないけど」
「許可を得ました。予約しましょう」
「予算、書いてないですね」
「……? 書き忘れでしょうか」
「んっ」
「むぎゅ」
待って、と言いたいのをスズカを抱き締めることで我慢する。まあ、お、お祝いだし? 三人の金銭感覚がマトモなのは普段の生活で解ってるし? さ、三冠ウマ娘なんだからそれくらいはね? でもその、私、小市民だからさ。そういう、ウマ娘の食べ方をしたらどういう会計になるか解らない店は怖いわ。
「私の老後……」
「私が稼ぎますよ?」
「やだぁ……」
私の腕から顔を出して、ふふん、と笑うスズカ。この子は……胸に触らないで。押し倒さないで。
「私は一人で生活できるから」
「そんなこと言わずに。二人で暮らした方が楽しいですよ」
「いーやだ」
「じゃあトレーナーさんは一人と二人、どっちが良いんですか」
「一人」
「解りました。ブルボンさんもつけます。スカーレットさんも」
「一人」
あと二人の人生を勝手に決めないであげて。
────
「やっぱりこうなるのね」
「まあ良いんじゃない? ブルボン先輩は嬉しそうだし……スズカさんはまあアレだけど」
「覚悟しておきなさい。あなたも来年ああなるのよ。三冠もトリプルティアラもそう変わらないんだから」
「……ふーん」
昼食後。メニューが時価のお寿司屋さんは普通に断られた。それはそう。ああいうお店は諸々こだわってたりするので、その気になれば店の食材を食い尽くせるウマ娘は無条件では入れてもらえない。収益メインのお店とかだと貸し切らせてくれたりするけど、職人気質の方だとそういう独占を許してもらえない。
ただ、ちゃんと食べる量が決まったコースなら許されたのでそれを堪能した。足りない分は近くに市場直結の海産のお店があったのでそこでお腹いっぱいにした。刺身とか鍋とか揚げ物とか、本当に美味しそうに食べるものだ。
で、ちょっと休憩兼デザートということでそのままそこで時間を潰していたんだけど、普通にバレた。流石は日本一の興業、ウマ娘レース。どこに行ってもスズカとブルボンは有名人だ。それについてはもうどうしようもないし、本人達もそれなりに楽しく思っているようなので好きにやらせることにする。
「ま、当然っちゃ当然か。ウオッカももう次代のエース扱いだって。サインってどうやって書くんだーって学校で悩んでたわ」
「スズカも悩んでたけどね。トレセンにはそういうのを聞いてくれる人もいるのよ。トレーナー経由で連絡できるはずだけど」
「ああ、アイツは『サイン書けないから教えてくれ』とか言えないタイプだから」
「難儀な性格ね……」
二人がファン対応をしている間、まだ顔面人気しかないスカーレットは休憩中だ。私も呼び掛けが聞こえる距離でスカーレットと話している。スズカもブルボンも慣れているから大丈夫でしょう。NGもちゃんと理解しているし。
……相変わらずトップウマ娘は凄い。大体の場所をそのままファンミ会場として貸してもらえるし、むしろ喜んでやってくれと頼まれるまである。人気もあるが、本人にカリスマというか、人を惹き付ける才能がある。ギリギリまでトレーニングに明け暮れていてろくすっぽ対策をしていなくてもウマ娘が就職にあぶれないのはこういうところだ。トレセンの力もあるけど。
「スズカさん達はどうしてるの?」
「二人とも凝ったサインが必要なキャラじゃないからね。基本はただ名前を書くだけで何とかなってるかな」
「え、じゃあ私もいらない?」
「どうして?」
「可愛い系の真面目で清楚な感じでしょ、私は」
「清楚……まあ、清楚、清楚か……?」
「はっ倒すわよ」
清楚には外見も必要じゃない? スカーレットの見た目ではちょっと。あとおっぱいでかすぎ。
「きゃぴきゃぴアイドルの方が可能性ありそう」
「それだとサインを凝らなきゃじゃない。優等生なんだから清楚で良いでしょ」
「あなたよく考えなさいよ。赤髪ツインテールの清楚がどこにいるの」
「……一理あるわね」
ツインテールはやめられないわね……とぼやくスカーレット。まあ、なるようになると思うけどね。結局ファンにどう見られるかでしかないんだから、どう見られてるかがそのまま本人の魅力ってことなのよ。たまに自分の願望とファンからの扱いの差に悩む……まあシンボリルドルフみたいなのもいるけど、そういう風に見られている時点で、なのよね。
スズカとブルボンもそう。走ることしか考えていない依存症患者とキツいトレーニングほど喜びを感じるマゾなんだけど、ファンからは孤高でストイックなクール系と夢のために悪徳トレーナーに魂を売ったヤバい奴と思われている。
……ブルボンだけどっちにしろだな?
「まあ真面目で可愛い系まではその感じならいけるでしょ。走ってる時は凄い顔してるけど」
「え……私そんな顔してる? みんなと同じくらいとかじゃなくて?」
「こう、いくつかあるじゃない、タイプが。笑ってるのと、真剣な顔なのと、食い縛り顔とさ。あなたは最後のタイプね。気合いで走ってるとそうなりがちなのよ」
「……ほんと? うわ……次から気を付けよ……」
自分のキャラ付けに悩み始めたスカーレット。今の感じでも十分可愛いわよ、と笑いかけると、ばん! と机に突っ伏してしまった。ま、ウオッカとの兼ね合いもあるでしょうからね。彼女がクール系になれば自ずと熱のあるところが話題になるだろうし。
「マスター。撮影をお願いします」
「はい。スマホですか? じゃあツーショット……」
「いえ、私とマスターです」
また……?
────
「禁止にしようかな、私とスズカ達のツーショットを撮るの」
「良いじゃないですか。私は嬉しいですよ? 結構SNSにアップしてくれてますし」
「してくれてる……?」
「証拠は多い方が良いですからね」
「何の話してるんですか」
夕暮れ前。みんなでお祭りに行く準備をしながら撮った写真がアップされるのを見ていた。恐ろしいことに、ファン達の間にはトレーナーとウマ娘の関係性を尊ぶ文化がある。実際ウマ娘と専属トレーナーの結婚率は結構現実的な割合なので間違ってはないけど、それが私達にも適用されている。
で、スズカもブルボンも写真アップロードOKのタイプだから、ハッシュタグには結構な数私がいる。
「最近はブルボンとのやつも増えてきたし」
「まあしょうがないでしょ。アンタ顔は良いんだし」
トレウマってやつ? 男女でやると絵にはなるんだろうけどね。話題性もあるし。でも私女なのよね。トレセンにはイケメンも多いし、そういう高身長イケメンエリートと可愛いの権化ウマ娘が並べば絵になるのは解る。
「でももう二十代半ばだからねえ。何ならアラサーって言う人もいるくらいの年齢だし」
「……いや、まあ……普通に若く見えるけど」
……ほんと?
「いくつに見える?」
「んー……まあ、十代……十九とか? 高校生にしてはちょっと大人かも。まあ言い張れば否定はできないくらい……?」
「そんなに若く見える……?」
「まあ正直」
「やったぁ」
「むぎゅぎゅ」
教え子に褒められたくらいでめちゃくちゃ嬉しくなる。そんなに若く見えるんだ私。まあ? スカーレットはお世辞とか言わないだろうし? じゃあ事実ってことよね。ふふん。まだ若い。嬉しいのでブルボンを抱き締めた。
「どうしてですかね? トレーナーさん、あんまり気を遣ってる感じじゃなさそうですけど」
「バカ言わないで。毎日めちゃくちゃ考えて生きてるわよ」
「別にどっちでも良いですけどね、私は」
ツイートを探していいねをするスズカ。まあ、同年代の他の人ほど気を遣ってないけどね。普通に忙しいし。ブルボンを抱きながらぐりぐりとスズカを脚で叩く。写真を撮るとき自分を写さないタイプが半分くらいいるのよね、不思議なことに。
「見てくださいトレーナーさん。お似合いカップルですって。この人フォローしよ」
「どういう基準でフォローしてるの……」
「その場の勢いです」
ファン格差とか、気にした方が良いんじゃない?
まるでほのぼのいちゃラブコメじゃん(本懐)