走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
夕暮れから少し。私達はしっかり厚着をしてお祭りに出ていた。どうやら少しだけ暖かいらしく、今のところ雪は降っていない。ただ、雪解けほどは気温が上がらず降り積もったものがかなり残っている。ホテルから徒歩の距離で良かった。
ここに到着した時もそうだったが、うちの子達は雪にウキウキになっている。一番落ち着いているスズカが個人的に雪が大好きで、ブルボンとスカーレットはまだ情緒が幼い……二人の年齢差っていくつあるんだっけ?
「スズカは寒くない?」
「めちゃくちゃ寒いです」
「でしょうね」
雪の音という謎概念が好きなスズカは、何とこの寒いなかイヤーキャップを外している。ウマ耳がぴくぴくと震えていて非常に痛ましい。頭を撫でるついでに指で挟んでちょっとでも温めてみるが、こんなの焼け石に水か。
「じゃあ三人にお小遣いをあげるわ。足りなかったら言ってね」
「屋台で出す札じゃないのよ、一万円札は」
「シンプルに経営側に迷惑ではありませんか?」
「冗談よ。ちゃんとたくさん小銭持ってきたから」
三人お揃いのポーチにそれなりの数の小銭を入れさせる。ほとんど揃って行動するけどね。楽しみにしすぎたあまりモコモコジャンバーとマフラーとキャップと専用イヤーカフを着け、もはや誰だか解らなくなりつつあるブルボンは着膨れしてポーチに手が届かない。
「……小銭を扱えません」
「だから言ったじゃないですか。着込みすぎです」
「しかしこういった気候帯は初ですから、入念な準備が必要だとフラワーさんが」
「だから一泊二日なのにスーツケースが二つになるんですよ」
「しかし今私はスカーレットさんより温かいです」
「マジで十分もしたら暑くて嫌になりますよたぶん」
「早めに言ってね。汗かいたら風邪ひくから」
言った途端頭の装備を全部外すブルボン。何やってんだか、もう。いつもの雑変装で、早速屋台の多い通りに出る。屋台の料理が発する熱気で思いの外暖かい。ブルボンがまた一枚脱いだ。
「どこ行こっか。やっぱりホットスナック的なものの方が良い?」
「金魚すくいを所望します」
「それは夏限定かなあ」
「かき氷は」
「それも夏だけじゃない?」
「……そうですか」
ブルボンががっかりしてしまった。可哀想。また夏は連れてきてあげようね。もっとも、来年の夏は秋の天皇賞でライスシャワーに勝つためにまたずたぼろになりたがるんでしょうけど。
「探せばあるかもしれないから、ね? 適当に買いながら進みましょう。手ぇ繋ぐ?」
「繋ぎます」
「私も繋ぎます」
「スズカはダメ」
「どうして……」
すぐに指を絡ませようとするから。
むむ……と睨むスズカは目の下あたりをぐしぐしして宥める。別に普段から手を繋いでいるわけでもあるまいし、そう簡単にブルボンに対抗しちゃいけません。歩きながらも時々スズカの様子を見て、ぶすっとする頬を指で突く。ふひゅ、と音を立てた唇は、十分もすればご機嫌に戻っていった。
────
「難しいですよー射的は」
「いや本当に。私とスズカは全滅だったんだから」
「それは二人が不器用なだけじゃない?」
ご飯は後で良い、とのことで、とりあえず遊べる感じのものに行くことにした。こっちは結構夏と変わらない。まあ、別に食べ物もそんなには変わらないけど。よく考えると夏も温かいやつばっかりだし。火を通すからしょうがないけど。
「先に予言しておくわ。ブルボンはたぶんプロ」
「でも屋台の射的は初めてでしょ? これがスナイパーライフルとかなら上手くできそうだけど」
「スナイパーライフルならできるのね……」
「はいお嬢ちゃん。頑張ってね」
「残弾四発。一発をテストに設定。装填……狙います」
ぐっと身体を前に出して銃を構えるブルボン。パンツルックで良かった。ほとんど水平になってるじゃない。ゆっくりと狙いを定めて引き金を引いた。一等の端っこに当たり、ほんの少しだけずれたようにも見える。
「なるほど」
「何か解ったんですか?」
「分析完了。次は倒します」
屋台の射的ごときにあまりにも本気過ぎる。
「撃ちます」
コンマ一秒レベルでカウントできる精密性と、ウマ娘のパワーで押さえつけることによるブレの低減。初体験とは思えない精度でブルボンが撃ったコルク弾が、綺麗に一等に当たり……特に何も起きなかった。
「バカな……」
「ちなみにブルボン、コルク弾は均一じゃないのよ」
「……なるほど。理解しました」
再び構えて撃つ……同じようなところに当たり、同じように何も起きなかった。何が起こっているのか解らないが、ブルボンのウマ耳がふにゃふにゃになってしまった。残弾も外れ、落ち込んだブルボンが私の横に帰ってきた。
「ミッション、失敗……」
「まあしょうがないわ。そう簡単に倒せたら一等じゃないじゃない」
「そうですよ。トレーナーさんなんて当てることもできないんですから」
「それはスズカもでしょうがーっ」
「ふぁいふぁいふぁい」
頬をつねって解らせる。ま、屋台の遊びなんて外れて当然という気持ちでやらないとね。頭をぽんぽんしているとスカーレットも挑んでいった。期待はゼロだから適当に見ていたけど、案の定全て外していた。ブルボンとお揃いのくるくるの飛び出す紙のやつを貰ってくる。
「残念賞ね」
「待って。射的は向いてなかっただけよ。輪投げとかならブルボン先輩なら楽勝でしょ」
「確かに……!」
しゅこっしゅこっとやりながらブルボンがはっとして辺りを見回した。確かに、じゃないけど。そんなに悔しかった? 射的ができないの。早速見付けたようでスカーレットの手を繋いで駆け出すブルボン。
「楽しそうですねえ」
「そうね」
「ところで、ものは相談なんですけど」
「走ること以外なら聞くだけ聞いてあげるわ」
「走ること以外でも聞くことしかしてくれないんですか……?」
私の肩にすり寄ってきて頭を擦るスズカ。剥き出しのウマ耳が本当に寒そう。痛々しくなってきたので、持っていたキャップを被せる。暖めるためにちょこちょこっと揉んで擽ると、ふふ、とスズカは笑って無理やり私の手をとって繋いだ。
「で? 走ること?」
「……いいえ? こんな平和な時間がいつまでも続けば良いなって」
「誤魔化し方が雑なのよね。全然相談じゃないし」
「ちょっとした冗談じゃないですか」
「じゃあ走るのは無しね」
「もうっ」
「ふふ」
触れた手があまりにも冷たかったので、手を繋いだままコートのポケットに突っ込む。中でむぎゅむぎゅされたので握り返すと、さらに強めにやられた。痛すぎ。
「何するの」
「何もしてませんよ?」
「……やっぱ手ぇ繋ぐのやめようかな」
「あっ、もう、ちょっとしたお茶目じゃないですか」
「いらなーい」
「いりまーす」
んーっ、と私の腕に寄りかかってくるスズカ。少しずれている変装メガネを整えてあげて、二人を追って歩き出す。特に理由も無く心拍数が上がっていた。この子、もう走りたくてたまらなくなってない?
────
「ミッションコンプリート。上々の成果です」
「私は……何もできないし、何も凄くない……」
「まあまあ。こういうことでブルボンに張り合うのが間違いなのよ」
少し立ち止まっている間に二人を見失い、適当にぶらついて合流した頃には既にご機嫌のブルボンと絶望にうちひしがれたスカーレットができあがっていた。本当に、頭も良いし器用だし努力家だし猫を被る以前に素の性格も良いのに……ウマ娘の性質が強くて変にプライドが高いから、自分に不利なジャンルで張り合ってしまうのよね……。
合流までに色々回ってご機嫌なスズカと、屋台の景品を両手一杯に持つブルボン。お腹も空いただろうから、色んな所でちょっとずつ買いながら適当なスペースを目指す。
「ごめんママ……私、特別じゃなかった……」
「そんな、田舎から出てきた本物を知らない天才みたいな」
「上には上がいるのね……」
「マスターとしては最も才能があるのはスカーレットさんではありませんでしたか」
「そうね、スカーレット、ブルボン、スズカかな」
「……いえ、スズカさんと私は逆であると認識していますが」
右手がスズカで埋まっているので左手でスカーレットに触れる。こんなことで本気で落ち込んでいるようで、スズカにするように喉元を擽っても抵抗してこない。
「スズカは走り癖があるから結果として速くなったわけで、距離適性も狭いし身体もそんなに丈夫じゃないし。ブルボンの方がまだ才能があるわ」
「そうでしょうか。天性のものでは?」
「それもあるとは思うけどね。どちらにせよスカーレットが一番才能には溢れてるんじゃない」
まあ身近だとウオッカが圧倒的だから、上には上がいるってのは間違ってないけど(超小声)。
「……本当に?」
「ええ。才能のスカーレット、努力のブルボン、あほ栗毛のスズカ」
「えっ……私にも何か無いんですか? 最速とか最強とか最速とか最速とか」
「まずアホを否定するべきでは?」
「アホじゃないですよ!」
「今の受け答えが最高にアホ」
「ま、良いわ。お腹空いたから早いとこ座れるところ探しましょう」
「あの、何も良くないんですけど」
「……! ご覧くださいマスター。あのにんじん焼きを」
「どれ……うわたっっっっか! 嘘でしょ? にんじん一本の値段じゃないじゃない」
「買ってもよろしいですか」
「良いわよ。三冠とったから三本買って良いわ」
「では一人一本で、マスターには私が一口差し上げます」
「何言ってるの。ブルボン一人で三本に決まってるでしょ」
終始結構きょろきょろして楽しんでいる様子のブルボンだったが、お腹が空いてくるとさらにウマ耳がぴこぴこして尻尾を振って私の袖を引いてくる。小さな子があれ買って! している感じが可愛くて、頭を撫でつつ嘘みたいな値段のにんじん焼きを購入。ブルボンの口に一本突っ込む。
「あーん」
「あー……む、ん、ぐ、はふ、は、はっはっはっ」
「熱いでしょそれは」
「ふは、は、ふほは……美味しいです」
「美味しいんだ……」
「残りも熱いうちに食べましょう。スペースの確保を最優先とします。後から合流してください」
そう言って駆け出そうとするブルボン。人がたくさんいるから走らないようにね。私はスズカとゆっくり追いかけるから。両手に景品のブルボンと両手に食料のスカーレットが前に出る。
「気を付けるのよ。ぶつかったら危ないから」
「細心の注意を払います。では……」
「待ってくださいブルボン先輩。先輩一人じゃ連絡が取れないです」
「そうでした。急ぎましょうスカーレットさん。焼きそばとホットドッグとフライドポテトお好み焼き大判焼きたこ焼イカ焼きにんじん焼きわたあめ唐揚げ竜田揚げ焼きおにぎりじゃがバタケバブ焼きとうもろこし牛串焼き鳥が冷めます」
「えー……んーっと……いやわたあめは冷めないですよ!」
「ありがとうございます」
「今本当にツッコミ合ってた?」
あとそのメニューを人数分は買い過ぎね。残さず食べるのよ、マジで。
ブルボンが腕を振りながら銃を撃つことで弾速を上げて一等を倒すルートもありましたが、流石にやりすぎなのでやめました。