走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「そういえばスズカさん」
「なぁに」
「もうすぐクリスマスですけど」
「そうね……」
記録者、ミホノブルボン。現在旅行中。
マスターが深夜の入浴権を貸し切ったことで、現在浴場には私達しかいません。スズカさんがいつも通りマスターに全身を洗っていただいたので、まだマスターだけが屋内の洗い場にいます。
「何か欲しいものとかあるんですか?」
「うーん……別に」
「お二人へのプレゼント、難しすぎるんですけど」
「必要ありませんが」
「そうも行かないです。いつもお世話になってますから」
マスターが不在の場合、基本的にスカーレットさんが話し始めます。スズカさんと私は自ら会話を開始するのが不得手ですし、反対に、スカーレットさんは会話の無い空間が苦手のようです。
……ところで、私やスズカさんがスカーレットさんの世話をしたことがあったでしょうか? 彼女は普段から進んで雑用を引き受けますし、彼女の方が器用で気が利きます。私達は何もしていないのでは……?
「でも本当に無いのよ。その、あんまり何かを欲しいと思ったことがなくて」
「ランニング関連でも良いですけど」
「うーん……ランニング用品はトレーナーさんのお金じゃないとトレーナーさんが怒るのよね……あ、でもこれはプレゼントだから……うーん……」
露天風呂にて口元ギリギリまで沈み、スズカさんが首を傾げます。マスターが怒る光景は想像できませんが、スズカさんが言うということは、これまでにあったのでしょうか。それとも、普段の言動を怒っていると判定しているだけでしょうか。
「食べ物とか?」
「別に好きなものがあるわけじゃ……コンビニのいちご大福とかで良いし……」
「アクセサリーとか」
「走る時邪魔よね」
「化粧品とか、香水とか」
「走る時に汗とかに混じって気持ち良さが薄れるというか……匂いも大切だから……」
「……服とか?」
「あの、本当に無理しなくても良いから……ごめんなさい、何も無いのよ」
スカーレットさんが後ろに倒れ込みます。髪が沈まないよう後頭部を押さえ、特に理由はありませんが腰に手を当てて身体を持ち上げます。私達の単純接触は『需要』があるそうです。マスターとスカーレットさんが時々言うのみで、実感はありませんが。
身体が浮いたことには構わず、スカーレットさんは、本当に何も無しは無理です、と断言します。
「何と言うかこう……何もしないのは気持ちが悪いですよ」
「まあ、それは解るんだけど」
「ブルボン先輩はどう思います? スズカ先輩のプレゼント」
「……そうですね」
スズカさんが欲するもの、必要としているもの……何でしょう。即物的な欲求がスズカさんにあるのでしょうか。
「……申し訳ありません、該当する経験が存在しません」
「ですよね……トレーナーに聞くか……でもなあ……」
「トレーナーさんも困ってると思うわ。私が何も言わないから」
「困らせている人がそれを言うんですか」
「無いものは無いもの」
「スズカさんの同期や友達は?」
「……それぞれあげたいものをくれるわ」
私は知っています。スズカさんは今、さも自分が被害者かのように振る舞っていますが、そのスズカさんも他者へのプレゼントはそう考えていないことを。基本的にリクエストに応える形ですし、そうでない時は適当に……確か、フクキタルさんへのクリスマスプレゼントをコンビニで購入したことが……
……いえ、双方納得しているならそれで構わないのですが。結局のところ、渡すにしろ受け取るにしろスズカさんには『興味』が無いということです。
「大変なのよ。よく解らない置物とかよく解らないオブジェとかよく解らない装飾品とか」
「よく解らない物を憎みすぎじゃないですか?」
「でも本当に置くところがなくて……実家に送ったりもしてるんだけど」
「親御さんびっくりしません?」
「うちはそういうの適当だから」
スズカさんがスカーレットさんの脚を持ちました。左右に揺らします。
「みんな、本当に考えてくれてるんだけどね……」
流石に嫌がったスカーレットさんが私達から抜け出して、縁に座って頭を結び直します。それを眺めるスズカさんは、いつも通り、哀れむ目をしていました。
「あの、その目は本当にやめてください」
「あ……ごめんなさい、つい。そうよね、傷付けるつもりはないの。本当にごめんね」
「いや傷付くことは今後一切無いんですけど、無性に腹が立つので」
スズカさんの目がスカーレットさんから私に向き、そして空中へ。大きく背筋を伸ばしたことで、スズカさんのプロポーションが強調されます。マスター曰く、走るのに不必要なものをすべて捨てた身体であり、速く走ることに特化した身体だそうです。
スポーツ医学等の知識はありませんが、それを持っているマスターが断言するのですから確かなのでしょう。つまり私も、最も速いウマ娘になるためにはスズカさんのようにならなければ……いえ、私が目指すのはレースでの最強であって、単純最高速度ではないので、少し違う気もします。
「本当にごめんね……」
「ごめんね、じゃないんですよ」
「……外科手術等で切除できないでしょうか」
「痛いこと言わないでください!」
湯船に浮かぶ自身のそれを手で持ち上げます。重量は不明ですが、全て切り落とせばその分身体が軽くなるはず……軽くなれば最高速度も上がるのでは……?
「大丈夫よ、エアグルーヴもフクキタルも大きいけど速いから」
「確かに相関は確認できませんが、スズカさんが最速であるならそこに越えるべき壁があるはずです」
「ふふっ。そんなに褒めなくても良いのよ、越えられないから」
「……ほう」
「湯船に浸かってまでバチバチするのはやめませんか」
────
「スズカさんって来年で二十歳じゃないですか? もしかして」
「ええ、そうね。来年で」
「良いなあ……やれることもいっぱい増えますよね」
「うーん……でも、増えることってやりたいことでもないわよ。お酒もいらないし……」
話題は変わり、スズカさんの年齢のことに。スズカさんは既に高校課程を修了し、大学課程に入っています。少なくとも法律上はウマ娘も二十歳で成人ですので、様々な権利が解禁されます。
学生の間で取沙汰されるのはやはり飲酒、ついで自由結婚……これは改正がありましたが、それから運転免許でしょうか。どれもスズカさんには無関係に思えます。
「あ、でも運転免許は持っておいても良いかも。トレーナーさんと交代できるし」
「スズカさん、道路交通法についての知識と遵守意識はありますか」
「あるけど……私のこと何だと思ってるの?」
「制限速度とか解ってます?」
「ふふっ。流石にそれくらい知ってるわ。60kmでしょ? そもそも車じゃ風が感じられないじゃない。そんなに飛ばさないわ」
「絶対にオープンカーは買わないでくださいね。あとバイク」
「バイク……!」
「気付いた、みたいな顔をやめてください」
体温上昇。上半身を湯船からあげて座ります。スカーレットさんも並んできました。スズカさんは体温変化に強いのか、変わらず顎先まで沈んでいます。
スズカさんのことですから、そもそも自分での運転は嫌うでしょう。ウマ娘にも当然道路交通法は適用されますが、車に対してのものと比較すると違反項目も少なく、制限も緩いものとなっています。走った方が良い、と言いかねません。
「というかお酒飲まないんですか? 私は結構飲んでみたいですけど」
「そうなの? なんか意外ね。そういうのは不良の飲み物なのよ、くらい言うかと思ってた」
「それはもはや優等生じゃなくて潔癖じゃないですか。いや、飲みたいというか、うーん……同室の奴がですね、たまにカクテルとかウイスキーの話をしてくるんですよ」
「ああ……しそうね」
「一般的なアルコールではウマ娘は酔わないと聞きますが」
「専用のお酒があるし、ちゃんとしたところに行くと耐性を下げてくれる薬が貰えたりするのよ」
「本当にあるんですね、それ……」
「トレーナーとのこととか考えてないんですか?」
「んー……どうしようか困ってるのよね。やっぱり籍は入れられないじゃない? でも、何かしら関係性がないと逃げられちゃいそうで」
「養子縁組でしょうか」
「勝手にできるならとっくにやってるけど……断られそう」
話は何度も転換し、スズカさんの将来について。スズカさんはドリームリーグに進みませんので、来年で卒業となります。恐らくは一般の大学課程に進むでしょうが、その後の生活については。
「今のところは私が結婚するまでは一緒にいてくれるって言うから良いんだけどね。いつ気が変わっちゃうか解らないから」
「なるほど」
「大丈夫だと思いますけどね」
「逆にトレーナーさんが結婚しちゃうかもしれないし」
「いや──────…………ないでしょ」
マスターが結婚……?
結婚……。
結婚。
────
「あっブルボン先輩がフリーズしてる」
「あり得ないことを想像しようとするとこうなるのね」
「まあトレーナーさんが結婚するわけないですからね」
「ちょっと? 失礼なこと言わないでくれる?」
身体を洗い終えて露天に出ると、割かし失礼な会話が聞こえてきたので割り込む。既にあらかた温まったのか、ブルボンとスカーレットは縁に座って休んでいた。うわおっぱいでっか。
それはそうと湯船に浸かると、スズカがゆっくりと寄ってきた。ほんの少し出ている肩にお湯をかけてあげつつ、指で優しく頬を摘まむ。
「結婚するかもしれないでしょ」
「しないでしょ」
「言っておくけど相手なんかいくらでもいるんだからね」
「連絡先の男の人の割合言ってみてくださいよ」
「今それは関係ないじゃん……」
いやしないけどさあ。しないよ? でもさ、こう、あるじゃん。何の話で私に回ったかは知らないけど、こっちはそれなりに決意して生涯独身なのにさ。
「わがまま言っちゃダメですよ」
「なーにがわがままか。わがまま言ってるのはスズカだからね」
「違いますぅ」
「違わないですぅ」
私に寄り掛かってタオルを巻いた頭で小突いてくるスズカ。すり寄られるとタオルがほどけちゃうので少し押さえて、代わりに頬から首筋をなぞる。くすくすと笑って大きく息をつくスズカ。何してんの、とスカーレットが呆れながら、なぜかフリーズしているブルボンの肩を揺する。
「ブルボン先輩、風邪ひくんで一回浸かりましょう」
「……はっ。マスター、お父さんが娘はやらんと言っています」
「そりゃやらんでしょ」
またうちのロボが処理落ちして壊れてる……
デビュータイミングで公式の年齢(スズカさんなら推定高1)としています。推定高3組とかえらいことになりますが、そもそもウマ娘はサ○ヤ人よろしく走るために若い期間が長かったり(妄想)、常識としてレースウマ娘は学生、としているでしょうから(妄想)、たぶん新卒年齢なんか何も気にしないんだと思います(妄想)。
高3デビュー(18)だとシニア2年走ったとして21、そこからドリームリーグとなりますね。思いの外そんなに歳いってないな。