走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「……ちょっと待ってくださいね。ここがA、ここが11、隣が2……だからここが6!」
「その隣です。そしてもう一枚はここです」
「ああああああ!!!!!」
夜。小腹が空いた三人を深夜のラーメン屋に連れていった後、三人娘はトランプに興じていた。
遊ぶためにコンビニでお菓子とジュースも買ったので、私もちょっとだけお酒を買って、今はちょっとふわっと酔っている。あんまり酔うと号泣しながら周囲に懺悔を繰り返してしまうことが解っているので控えめに。
私の介抱をしようとすると大体スズカは脱がせるところで諦めてしまうので、基本全裸で目覚めることになる。こればっかりは何度言っても服を着ていない。まあ着せるのって難しいもんね? でも全裸のままで起きて酔った自分の動画を見せられるこっちの身にもなって?
「ま、待ってください、あと一ターンください」
「スカーレットさんがそれで納得できるのなら構いませんが」
「ぐっ……ぐぅ……い、う……」
「続行してブルボンさん」
「解りました! あと一ターン! あと一ターンだけください!!!」
で、トランプなんだけど、どうしてやっているかといえば、今日寝る順番をどうするのかってことで揉めたかららしい。私がトイレに行っている間にバチバチしてた。いやバチバチは言い過ぎだけど、それなりに揉めてた。
「スカーレットさんの番です」
「い、いや待ってください……今思い出してるんで……」
「なお現在開示されたカードを全て把握していても、33.3%を一度成功させなければ勝つのは不可能です」
「その1/3まで行けないんですって!」
「よく見ておかないから……」
「見ました! 見たんですよ! その結果がこれなんですよ! これ以上どうしろって言うんですか!」
非常に恥ずかしいことではあるが、現在スカーレットがボコボコにされ発狂している神経衰弱勝負の景品は私の布団である。
いや私の隣の布団じゃなくて、私の布団である。なんで? わざわざ布団を一枚畳んでそんなことする必要ある?
いやその、スズカはまあ解るわ。私のこと大好きだもんね。言ってて死にたいけど。ブルボンとスカーレットはなんで? 百歩譲ってスカーレットは勝負事で退けないだけだとしても、ブルボンはどうしてわざわざ争うの。
「こ……これ……いや待つのよスカーレット。あなたは賢い……じ、自分を信じるのよスカーレット……!」
「ふふ」
「気にするな……気にするな私……可愛くて賢くて速いダイワスカーレットを信じるのよ……これ!!!! よし!!!!」
「おお……正解です。では続けてどうぞ」
しかも勝負は負けを認めるまで続くらしい。三人の勝負となるともう一回が何度も続く……特に権力を持っているブルボンとスカーレットが負けん気が強過ぎるので一発勝負だと勝ち気が爆発してしまうのだ。これを中断させるとトレーニングにぶつけてくる。物凄い気迫で。気性難どもめ。
そんなわけで耐久トランプ大会が始まっている。期限はほろ酔いでスズカの背もたれになって座る私が寝るまで。後ろからスズカを抱き締めて、鎖骨あたりにぐりぐりと頭を乗せて絡んでいる。スズカすき。
「スズカさあ、キングそこじゃない?」
「喋っちゃダメですよ。はいあーん」
「あむ」
チーズ美味し……
「マスター、こちらに来ませんか。スカーレットさんが外した場合、高確率で私が勝利することになりますので」
「トレーナーさんは私のことが大好きですもんね」
「変なこと言わないで。別にそういうんじゃないから」
「んふふ。ちなみにブルボンさん。言っておくけど私は当てるわよ。絶対に当てるから」
まあ、理由なんかどうでも良いんだろう。こうやって夜更かしして遊ぶってことが純粋に楽しいらしい。我が家の普段は早寝早起きのスズカ、九時に眠くなるブルボン、優等生スカーレットの並びだからね。
どうやら三択を外したらしいスカーレットが突っ伏す。同時にスズカが何枚か取った後、何かを外した。首をかしげて私に大きく寄り掛かるスズカ。つむじに顎を乗っけて撫でたり、ヒトミミの部分から頬まで擦ったり。スズカの尻尾が私の足に巻き付いた。
「ではスカーレットさん。四回戦目をするかどうか考えておいてください。そしてマスターは私のところに来ることを要求します」
「か、勝った気で……」
「全て把握できているので、取得枚数を鑑み私の勝ちとして問題ありません。マスター、どうぞ」
「しょうがないなあ」
「あぁっ……」
ブルボンが私を呼ぶのでスズカから離れ、ブルボンに対し同じように座る。満足げに頭を擦り付けてくるブルボン。私の手を引いてあすなろに絡めて最後の一枚を取った。
「そういうルールじゃなかったですよね?」
「私の二勝一敗です。スズカさんの勝ちはフロックですので、何度やっても私が勝ちます。私がマスターと寝ます」
「寝まーす。いえーい」
「ふーっ……いやいける、次は勝てる……! 頑張りましょうスズカさん!」
「……そもそも全部神経衰弱なのがおかしくない?」
「……はい?」
流れ変わったな。
「単純暗記とカウントよね。ブルボンさんの大得意分野じゃない。ずるいんじゃない、もしかして」
「三回やってやっと気付いた?」
「確かに……ババ抜きとかにしません? 七並べとか。駆け引きしましょう、ブルボン先輩?」
ほんの少しだけブルボンの体温が上がった。この子らはすぐ挑発するんだから。ただ、相手の得意分野を避けるのは屈辱らしく、スカーレットは挑発しながらも青筋が立っている。スズカだけはプライドがないので純粋に勝ちに行っているみたいだけど。
……でも大丈夫かな。駆け引きも何もポーカーフェイスもスカーレットの苦手分野じゃない? まあ、そもそも論ブルボンにとってババ抜きは駆け引きじゃないけど。
確率論を盲信できて、かつ無表情で記憶力も完璧なブルボンに対して勝てるゲームなんかあるんだろうか。そもそもスカーレットがトランプゲームに向いていない説もあるわね。カルタとかなら勝てるんじゃない? 勝てないか。
「解りました。良いでしょう、思考ルーチンを『ババ抜き』に最適化します。かかってきなさい」
ということで、ババ抜きが始まった。ブルボンがカードを配り、初期の捨てを完了させる。大体同じくらいの枚数ね。ブルボンがやや少ないかな。ババはブルボン以外の誰かか。肩越しに眺め、酔い覚ましの水をストローで吸う。
じゃんけんで順番を決め、引き始める。三人というのもあって、かなり揃いやすい。この勝負は揃う揃わないよりもババを引く引かないになるだろう。
「ブルボンがんばれー」
「……これです」
スカーレットから引いて、一組捨てる。押してる押してる。良いじゃないブルボン。スズカが引くのが異様に早いから、ジョーカーはスズカが持ってる可能性がある……あ、スカーレットが引いた。解りやすいわねこの子も。目付きが鋭くなってウマ耳がぴこぴこと。この子に隠し事は無理ね。
そこから少しだけスズカも慎重になるが、ブルボンは違う。スカーレットの反応がウマ耳に出るので容赦なくジョーカーを避ける避ける。一方ブルボンとスズカは全く表情に出ない。そこには駆け引きなんか無かった。勝負あったでしょこれは。
「……ちなみに、ブルボン先輩、スズカさんも」
「はい」
「一つ言っておきたいことがあります」
そして、スズカ二枚、スカーレット二枚、ブルボン一枚。間違いなくスカーレットがババ。枚数的にブルボンはこれでは上がれないけど、この時点でスズカが勝ち確定、スカーレットの負けは濃厚である。後ろの私にトランプを持たせるようになったブルボンが淡々とカードを引こうとした時、スカーレットが一言挟んだ。
「お二人は、私が解りやすいと思っているんでしょうけど……私は耳を自由に動かせます。これまでのものは全部ブラフです」
絶対に嘘じゃん。そんなことができるウマ娘がいるわけがない。
「そうなの……だそうよ、ブルボンさん」
「そうですか」
「さあブルボン先輩。引くのは本当にそっちで良いんですか?」
駆け引きを仕掛けるスカーレット。対してブルボンは何の躊躇いも無くカードを摘まんだ。
「む」
「勘違いをしているようですが、スカーレットさん」
そして淀み無くカードを引く。6。もちろん外れだけど、ジョーカーではない。残念ながら、スカーレット。ババ抜きを駆け引きだと思っている限りブルボンには勝てないのよね。
「なっ……」
「私は駆け引きに応じた覚えはありません。スカーレットさんの反応が本心でも演技でも、参考にならないと判明した時点で、当然50%の試行でしかありませんので」
「くっ……」
当然スズカは揃い、スカーレットに引かれてあがり。再びスカーレットの二択。素早くかしゃかしゃとカードを入れ換えるスカーレット。しかし、無意味な抵抗とばかりにブルボンがカードを引いた。
ジョーカー。そりゃそう。二択だもんね。
「よしっ、よしっ!!!」
「……選択、失敗」
「トレーナーさん、私の勝ちですよ。こっちに来ませんか」
「待ってスズカ。今これまでに無いくらいスカーレットが集中してるから」
「移動の必要はありません。未だ累計では私が勝っています」
ブルボンに引き留められたのでそのまま。ジョーカーは右。スカーレットがじっくりと選んで、左に手を掛けてじっとブルボンを見つめる。
「……ブルボン先輩」
「はい」
「……トレーナーのことが好きなんですか? さっきからくっついてますけど」
「好意はあります」
「……この前ライス先輩が、ブルボン先輩のこと大好きな人って言ってましたよ」
「私もそうです」
「ブルボンがそういうので動揺するはずないでしょ」
「ふっ……バカね。そんなの解ってるわよ」
スカーレットがジョーカーではない方を摘まんだ。
「トレーナーを見てるのよ!」
「やべっ」
「マスター???」
【悲報】ブルボンに抱きつく私、外付けデバフ。
「来た来た! さあブルボン先輩! 1/2ですよね! 私は100%ですけど!」
「ごめんねえブルボン」
「いえ……んっ」
流石に申し訳なくなって、後ろからブルボンを好き放題撫で回す。襦袢姿のブルボン、可愛いねえ可愛いねえ。ウマ耳をふにふにしてあげようね。
……ところでもう二時過ぎか。明日の運転は昼過ぎだけど、別に寝る暇があるわけじゃないからなあ。寝ないと危ないか。元々睡眠時間は短い方だけど、流石にね。
「もう眠いから一緒に寝ようか、ブルボン。ね」
「はい。寝ましょう」
「ブルボン先輩!? 勝負つけましょうよ! 私の一勝を待ってからにしてください!」
「ブルボンさん? ねえブルボンさん。話が違うわよね。誰も累計なんて言ってないじゃない」
「紐ほどけてるから結び直すわよブルボン」
「ねえ! ブルボン先輩!」
「ねえブルボンさん?」
ブルボンの着物を直して端の布団に入る。ほろ酔いとブルボンの体温が本当にちょうど良く一気に睡魔が襲ってくる。挑発された後のぽかぽか感がたまらない。おでこをくっつけてすりすりしていると、ブルボンも小さくあくびをして私の襟元を掴んだ。
「ねえトレーナーさん。いっそみんなで寝ませんか」
「スズカさん……狭いので」
「えっ……あの、ブルボンさん……?」
「んー可愛いねえ。ブルボンは」
「あの、あのっ」
「ブルボン先輩! あと一分! あと一分ですから!」
わいわいと寄ってくるスズカとスカーレットをよそに、私はブルボンと一緒に眠りについた。
次の日。
「つーん」
「あの、スズカ?」
「つーん」
「スカーレットさん」
「はい?」
「いえ、その」
私もブルボンも普通に怒られた。朝食を終える頃までシンプルに口を利いてもらえなかった。ごめんて。