走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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前回言った通り、今のところこの作品一番のガバがあります。許して許して。仕方無かったんです。ブルボンのメイン練習は坂路。それは流石に譲れなかった。


人気と信頼を一手に集めるサイレンススズカ

 

「はい。じゃあ走りましょうか、ブルボン」

「了解しました。いつもお父さんとやっているようにでよろしいですか?」

「ええ。その通りに。スズカもじゃあ並んで」

「はいっ」

 

 

 トレセンの坂路コース。ウッドチップの敷き詰められたコースで、二人がストレッチをしながら並んでいる。

 

 坂路練習とは、その名の通り坂道を上り下りするというだけの練習である。メインは上りで、上り坂を駆け上がることでスタミナがつく、というのが現在の見方である。あとパワーも結構つく。

 

 ただ、ステータスを見ることのできる私は、スズカや他のウマ娘の練習を見て、それぞれのトレーニングで何のステータスが上がるのかを検証し終わっている。少なくとも坂路練習は主に根性が伸び、次いでスピードとパワーが伸びてくる。スタミナは伸びない。

 

 

 だからまあ、ブルボンは根性が高めでスタミナが非常に少ないのだろう。スピードやパワーも悪くはない程度に収まっている。

 

 

「スズカは……そうね、ブルボンより必ず前にいること。あなたの方が速いんだから負けちゃだめよ」

「負けなかったら後で走っても良いですか?」

「だめ」

 

 

 ぁぅ、とスズカには引き下がってもらい、早速真っ直ぐに伸びるコースへ入らせる。笛を吹くと、二人はかなりのペースで突っ込んでいった。

 

 

 速い……凄いわね。スズカが速いのは知っていたけど、ブルボンもスタートダッシュに限れば近しい能力がある。地力の差こそあれど、やはり逃げしかできないウマ娘というのは多かれ少なかれこういう性質がある。先手必勝を信条としているからだ。

 

 

 徐々に増えていく傾斜を前に……おお。二人とも減速する素振りを見せない。スズカは思いの外スピードが出ないという事実に掛かりまくっているが、ちゃんと加速するから大したものね。

 

 ブルボンも走りは安定している。スズカに追い付こうとでもしているのか少し前傾が過ぎるものの、しかしブレの出なさそうな走り方だ。良いね。

 

 

 さて、走っているうちにステータス上昇を見よう。これはまだ検証できていないことで、ウマ娘それぞれに伸びやすいステータスがあるかもしれないという仮説だ。スズカはスピードが上がらないので検証ができなくて……

 

 

 ……ん? お? 

 

 

 双眼鏡でブルボンを見る。すぐに今のステータスが見えるんだけど、伸びてるステータスは見て解るようになっている。スズカはちゃんと根性とパワーが伸びている……のだけど。

 

 

 ブルボンはスピードスタミナが伸びている。ええ……? どういうことなの。坂路のメインが根性なのは間違いないんだけど……一度視界を切って、何度見てもやっぱりスタミナが伸びている。

 

 走ることそのものは順当に少しずつ差が開き続けて終わり、流しながら二人が戻ってきた。スズカは満面の笑みで、ブルボンは無表情のままで。

 

 

「お疲れ。距離はどう? ブルボンの地元と違うよね?」

「はい。私が今まで遂行していた距離に比べ200mほど長く設定されています。ですが、傾斜が0.5%程度緩くなっています」

「…………凄いねえブルボンは。測定機じゃん」

 

 

 後ろでニコニコしながら次の出走を待っているウマ娘とは大違いである。信じられるか? さっきまで坂路はちょっと違うみたいな反応をしてたんだぜ……? 

 

 だけどまあ坂路の違いなんて正直どうでも良くて。何よりも何故か坂路でスピードスタミナが伸びていたという事実の方が驚きである。もちろん数値はこんなんじゃ変動しないが、ひたすらやっていればスタミナが上がっていくのだろう。

 

 

 …………まあ良いか? だったらひたすら坂路で良いもんね。スピードとスタミナが最優先なんだし、むしろ好都合かもしれない。

 

 

「ちなみにブルボン、いつもはどれくらいやっているの?」

「連続では四本、4000mほどです。それを朝と晩に行っていました」

「……ふむ」

 

 

 逆に、そうであればいかに坂路をたくさんやるかがブルボンにとって重要になってくる。恐らく負荷に強いだろう彼女の身体を活かし、強引にスタミナを上げ続けていくのが一番早いわね。

 

 

「じゃあブルボン、もう二本行って。インターバルは一分で」

「オーダーを受理しました。インターバル一分の後もう二本行います」

「私も……」

「スズカは一回ここで待ってて」

「ええ……? でも、もう一回……」

「はいはい。ごめんね。一回だけ休みね」

 

 

 朝と晩に4000mずつ。正直破格の練習量と言える。そもそも坂路は脚へのダメージを抑え、その代わり身体機能へ強い負荷をかけるトレーニングであり、3000mが精々、それだって朝晩でやるようなものではない。他のトレーニングと並行して少しずつやるようなものだ。

 

 

 渋るスズカを腕に抱え込み、ブルボン一人が再び同じペースで走り出す。……うん。スズカがいなくてもやはり変わらない。理由は解らないが、ブルボンは坂路でスピードとスタミナが上がるという性質を持つ、ということだろう。にしたってじゃあ地元での坂路は何だったのって話だけど。

 

 もちろん、そもそも坂路の根性の伸びもベストではなく、ブルボンの坂路も伸び率は良いように思えない……が、それでも強い。その二つを同時に上げられるなど存在して良いトレーニングではない。

 

 

「トレーナーさん?」

「ん……いや、ううん。どうしたのスズカ」

「いえ……ブルボンさん、凄く減速してますけど……」

「え? あ……本当だ」

 

 

 向こう正面で、ブルボンがへろへろになっている。別にトラブルがあったわけじゃなさそう。単純に体力が尽きただけかな。さっきまで平気な顔をしていたはずだけど……あ違うか。スズカと走った時のペースで走ったから二本目で疲れているんだ。

 

 

「はっ……はっ……はぁっ……」

「ブルボン? 大丈夫?」

「スタミナの激しい消耗による……一時的なパフォーマンスの低下です……問題ありませ……ん……」

「……まあ、大丈夫なら良いけど」

 

 

 息も絶え絶えに戻ってきたブルボンは、肩で荒い息を繰り返し、口も開けたままだった。しかし、不調は起きていない。まだ大丈夫だ。本当に疲れているだけだろう。

 

 タイムの調整も早いとこやっておかないと。

 

 

「じゃあ次はスズカも走って良いよ」

「やったっ。一分ですよね?」

「いや、流石にブルボンが……」

「問題……ありません……っ、オーダーは忠実に遂行します。残り二十二秒でスタートします」

 

 

 誰がどう見ても走れるようには見えないけど、それでもふらふらとスタートラインに向かっていくブルボン。原因でもあるスズカは非常に楽しそうで、またスズカが後輩を虐めているみたいになっている。

 

 そしてきっちり帰ってきてから一分。ブルボンが走り出し、それを追ってスズカも飛び出した。

 

 ……が、流石に今回は全くと言って良いほどついていけていない。ぐんぐんと離される一方だし、ブルボン一人だけを見ても完全にバテている。かなり厳しそうだ。一気にフォームも崩れている。

 

 

 そして帰ってきた頃には、ブルボンはほぼ機能停止レベルまで疲れきって、私の前に直立している間もふらついていた。今にも倒れてしまいそうになりながらも、ブルボンは、オーダーを遂行しました、とだけ言ってきた。

 

 

「うん。大体解ったわ。ありがとうブルボン。今日は早いけどこれで終わりにします。次から目標タイムを定めるから」

 

 

 了解しました、と必死の呼吸の中少し頭を下げて、歩き出すのも危うく見えるブルボン。スズカと二人で支えて、仕方がないのでそのまま車の後部座席に彼女を乗せた。

 

 

「寝ちゃいましたね」

「まあ……仕方無いわよ。スズカが速すぎるから」

「そうですか……? ふふ、照れますね」

「褒めて……いや褒めてるか。褒めたわ。褒めたけど調子には乗らないでね」

 

 

 スズカについていく必要はないと言っておけば良かったな。あるいは言っていてもついていこうとしたのだろうか。どちらにせよスズカと一緒には走らせられないな……これは。

 

 

 スズカのシャワーを待ちつつブルボンの実家の住所を学園から聞き出し、二人で彼女を送りに行く。一月にならないと寮の部屋が用意されないのだ。毎日わざわざ電車で田舎から出てきてるブルボンには頭が下がる思いだ。

 

 少しずつ周囲から建物が減っていき、どんどんと田舎の方へ入り組んでいく。道幅も狭いし舗装も不十分だしスズカが隣で景色を見ながらそわそわし始めたし。もう帰りたいもん。

 

 

「……トレーナーさん、あの、ま、窓を開けても……?」

「だめ。我慢できなくなるでしょ」

「でもその、大丈夫ですからちょっとだけ……」

「だめ。そんなもじもじしながら言っても説得力ありません」

 

 

 そして、どうやって戻るのか解らなくなる程度に暗くなり狭い道に差し掛かり、やっとのことでブルボンの家まで辿り着いた。

 

 完全に寝てしまったウマ娘を抱える力は私には無いのでスズカにやってもらいチャイムを鳴らす。田舎の家らしく古めかしい押しボタンに対して、優しげな男性が出迎えてくれた。

 

 

「これは……」

「夜分遅くなりました。私、トレセン学園のこういうものです。ミホノブルボンさんのトレーナーを務めることになりました」

 

 

 名刺を渡し、適当にスズカと走らせたら疲れて倒れました、というのをオブラートに包んで包んで包んで嘘は言わずに伝える。初日から明らかにやらかしているし実際私のミスなのですぐに頭を下げた、のだが。

 

 

「いえ、頭を上げてください。ケガが無いならブルボンは大丈夫ですから」

「しかし……」

「この子の根性と丈夫さは私がよく知っています。それに、その見極めは私なんかよりあなたの方が上手でしょうから。お恥ずかしながら、私はこの子に厳しくしてやるしかできませんで」

 

 

 ブルボンのお父さんは眠るブルボンを丁寧に受け取り、スズカを見てスズカにも優しく笑いかけた。

 

 

「そちらはブルボンの先輩さんですか?どこかで見たような……」

「ええ。サイレンススズカです」

「サイレンススズカ……さん……あの、ジャパンカップを獲った……?」

「ええ、まあ……」

「そうか……そうですか……すみません、少しだけ中でお話をさせていただいてもよろしいですか?」

 

 

 断る理由はない。ご褒美は? ここまで運んだご褒美は? とちらちら私を見てくるスズカには話している間走ってきて良いと許可を出しておく。まあ退屈だろうし、携帯電話はしっかり持っているからすぐに呼び戻せる……呼び戻せるかな。心配になってきた。まあもう行っちゃったから良いけど。

 

 

 こう言っては何だけど、ブルボンの家は小さな一軒家で、家具も不自然に少ない。家電が不思議なほどに存在しないし……今時ブラウン管テレビなんか見ないけど。

 

 

「いや、まさかあのサイレンススズカさんのトレーナーさんに拾っていただけるとは……これだけで少し報われたような気分です」

「いえ、そんな……こういう言い方もなんですが、所詮ウマ娘の才能に頼っているようなものです」

 

 

 お父さんがお茶を持ってきてくれて、一応口をつける。すやすやと眠りこけるブルボンに布団をかけてやりつつ、お父さんは真面目な顔で語り出した。

 

 

「いえね、昨晩ブルボンに聞いたのですよ。自分をクラシック路線でやってくれるトレーナーがいたのだ、と。自分の娘ながら、まさかブルボンに短距離の適性がないなどと言う方がいるとは思いませんで」

 

「はい」

 

「正直不安もありました。娘が嬉しそうで何も言えませんでしたが、そんな見る目の無いトレーナーについて良いのかと」

 

「……当然のことだとは思います」

 

「まずは謝らせてください。疑ってしまった。」

 

 

 そんな……疑って当然でしょう。人が良すぎますよお父さん。私が逆の立場なら全力で止めている。マトモなトレーナーはスプリンターをステイヤーとして育てる真似はしない。せっかくの才能を潰すに等しいからだ。

 

 

「彼女は……サイレンススズカさんのことは私も何度もテレビで聞いています。逃げで大成した、それ以外では勝てていない……ブルボンも逃げしかできないのですよ。どうも抜けているというか……悪く言えば愚直なもので、駆け引きなどはとてもとても」

 

「…………」

 

「ですから……こういう言い方は少し態度が大きいようですが、私はあなたを信じることにします。娘を、よろしくお願いいたします。三冠が獲れるよう、娘を鍛えてやってください」

 

「……お任せください。できる限りのことはします」

 

「あの子は丈夫で、強い子です。並のトレーニングじゃ倒れやしません。それだけは保証します。あの子は夢のためにどこまでも頑張れる子だ。ひたすら鍛えるにはうってつけのはずです」

 

「ええ……三冠に可能な限り近付けます。スタミナさえ補強すれば彼女にはそれができる素質が、強さがある。お父さんのおかげです。彼女には、壊れるギリギリの練習をさせます。勝つために、です」

 

「……ありがとうございます……良かった……ブルボンの夢のために、私は何かできているのかと……」

 

「……約束はしません。ですが、納得はさせます。誰から見てもブルボンが勝つと思えるように……サイレンススズカのように、誰にも捕まらないと思わせるように」

 

「ああ……ありがとう……ございます……」

 

 

 歯を食い縛って泣きそうなお父さんを前に、私ももらい泣きをしそうになっていた。何も言われなくても……いや、お父さんに文句を言われてもブルボンを勝たせるのは私の中で確定事項だったけど。

 

 

 それでも、私への期待はスズカが勝ち得た信頼だ。裏切るわけにはいかない。そう、私は強く決意していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スズカ! ほら、帰るよ!」

「やです、まだ走るぅ……」

「ちょっとだけって言ったでしょ!」

「でも、ちょうど良い風が吹いてきて……それに、地面も適度に柔らかくて走りやすくて……あっ、だめ、思い出したらもう……は、走ってきます……!」

「あっスズカ! こら!」

 

 

 帰りの車にスズカはどうしても乗ろうとしなかった。それもこれも、夜道は危ないですし泊まっていきませんか、とお父さんが言ってきたせいだ。だったらまだ走れますよね? というスズカのスイッチが入ってしまった。

 

 まあ、話が弾んでしまった私も悪いんだけども。

 

 

「ごめんなさいっ、すぐに戻りますから……っ」

「くっ……」

 

 

 そして、私が彼女に追い付けるわけもなく。異次元の逃亡者は夜道を駆け出していってしまった。どうしてくれるんだお父さん。私、着替えなんか持ってきていないのに……そうでなくても人の家に押し掛けて泊まるなんて申し訳無くて死にたくなる。

 

 騒がしさに目を覚ましたブルボンが何事かと辺りを見回す中、私は絶望して崩れ落ちていた。

 

 

 

 

 

 なお、着替えがないのはスズカ共々であり……わざわざ新品を出してもらって悪いが、流石はブルボン母娘。

 抗いようのないサイズ差に、私はスズカを抱きしめて泣きながら寝た。

 

 ……そして、遅くまで走って朝起きられなかったスズカを運ぶのも死ぬほど疲れたので、私は仕事を休んだ。




たぶんシリアスちっくなのはここで終わりか、あと一話くらい。お付き合い頂きありがとうございました。アンケートも置いておきます。
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