走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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わんこそば食べさせたいなあって思っただけです。うすあじ。


大食らいのミホノブルボン

 

「では説明させていただきますね」

「よろしくお願いしますっ」

 

 

 翌日。つーんとしたスズカとスカーレットを連れて結構運転し、岩手まで来た。これは私の個人的な興味として、ウマ娘がどのくらいわんこそばを食べられるかが気になったので連れてきただけ。食べたら帰宅になる。

 

 ウマ娘のわんこそばは料金約五倍と高い……とはいえ人の十倍食べるのでそういう意味ではお得とも言える。実質食べ放題だし。引き換えに、見世物としての需要があるので囲まれるくらいは受け入れる必要がある。断ろうと思えばもちろん断れるけど、うちはそういうの緩いので。

 

 

 余所行きニコニコのスカーレット、少し視線に緊張しているスズカ、それからお腹が空きすぎてスズカに両手を押さえ付けられているブルボン。三人揃って割烹着のスタッフさん六人と、結構な数の観客に囲まれている。私は隣のテーブルでゆっくり食べることにしている。向こうはこれから戦場になる。

 

 

「トレーナーさんはわんこそばは初めてでいらっしゃいますか」

「はい、そうです」

「ではこちらも説明させていただきます」

 

 

 三人を連れている時点で私、どこ行ってもトレーナーさんって呼ばれるのよね。お客さんとかお姉さんとか言われても良いと思うんだけど。ともかく飲み物と、結構うっとなるくらいのおつまみが出されながら説明を受ける。うんうん、イメージのわんこそばと同じね。

 

 

「では準備をいたしますので、こちらお食事もお楽しみください」

「ありがとうございます」

 

 

 私はそんなにたくさん食べる気はない。ここから運転もあるし、そもそも少食な方だと思うし。何なら通常のおそばでも良かったけど、気分だけでも味わうためにわんこそばコースにしている。なので出された小皿の料理を普通に食べることにする。お刺身美味し。

 

 こっちは一人で平和にやっている間、隣のテーブルでは。

 

 

「スズカさん。放してください。バッドステータス:『空腹』。早急に解決しなければ、強制シャットダウンの危険があります」

「そばの箸休めにするからダメ。ブルボンさん全部食べちゃうでしょ」

「食べません。私のことを食いしん坊だと思っていませんか」

「思ってるけど」

「そんな……」

「お腹鳴らして言っても説得力無いですよ」

 

 

 目の前の料理を食べたいブルボンの両手がスズカとスカーレットにホールドされている。このためにブルボンだけ朝食を抜いたので、ウマ娘の代謝も合わせ、恐らくブルボンはじきに死ぬ。だから人間くらいには食べておきなさいと言ったのに。

 

 あ、二人がもう片手で小鉢を食べた。ブルボン? 人が見てるからそういう目をするのはやめようね? 

 

 

「お二人とも。古来よりこのような格言があります。『飯の恨みは恐ろしい』」

「解ったわ。復讐して良いわよ。芝2200左ね」

「……良いでしょう」

「大人気ない……あ、私は芝1600右で良いですか?」

「構いませんが」

「……もうちょっと躊躇ってもらって」

 

 

 別に三人は大食い自慢とかじゃないんだけど、ブルボンはどんなことでもスズカに勝ちたい盛りなのでやる気満々で、朝食を抜いたのもそのためである。そんなことしなくてもスズカはウマ娘的にも標準かやや少食だし絶対に勝てると思うんだけどね。

 

 

「目指せ1000杯よブルボンさん」

「期待してますよブルボン先輩」

 

 

 そして標準の二人はそこまでのモチベーションは無いので既にブルボンを煽りに煽っている。あの、戻したら本当に洒落にならないからほどほどにね? 

 

 あくまで自分のペースで、と店員さんに窘められつつ、先に私のわんこそばが始まった。うん。美味しい。あんまりおそばの品質なんか解らないけどたぶん美味しい。薬味がたくさん用意されてるのが良いわね。

 

 

「トレーナーさん頑張ってくださーい」

「んー」

 

 

 頑張らないって。あなた達と違って私はすぐ太るし痩せるのも大変なんだから。

 

 というわけで適当に食べて30杯くらいで終わらせる。ま、メインは私じゃないし、全然お腹いっぱいだし。こんなもんでしょたぶん。なお後日同僚の葵は150杯を食べたことがあるという話を聞いた。嘘でしょ……。

 

 

 私が即ギブアップとなったので、残された薬味を食べつつスズカ達を眺めることに。まだ始まったばかりだったが、やはりウマ娘、食べるスピードが半端ではない。よそわれた分からばんばん消えていく。私も遠巻きに眺めていたが、まあ500くらいまではものの数にはならないだろう。

 

 

「ブルボーン。二人に負けちゃダメよー」

「お任せ、ん、お、ちゅる、おま、んんっ」

「食べながら話さないでねー」

 

 

 どんどん積み重なっていくお椀。食べるのが早いので、よそう側も数人がかりである。何か、お皿に水滴がありました、くらいの軽い感じで食べていくわね。本当にそれくらいの量なんだろうけど。

 

 50杯で机が片付けられて、代わりに金色のお椀が出てきた。三人娘は全く速さを変えずに食べ続けている。しばらく暇なので、私単独に話し掛けてくる奇特なファンの方々に対応しつつ待つ。

 

 

「あとでサイレンススズカさんと写真をお願いしても良いですか?」

「ごめんなさい、食後は色々あるのでお断りしてるんです。サインとかなら大丈夫なので、申し訳無いです。またご縁があったらお願いしますね」

「サイレンスさんって来年はどこで走るんですか!? 自分絶対に現地でリアタイしたいんですけど、下半期はめちゃくちゃ忙しくなりそうで!」

「あー……たぶん上半期だと思います、まだちょっと調整中ですけど」

「やった! 自分絶対に投票券買うので!」

「ありがとうございます。一番高いので大丈夫ですよ。絶対にスズカが勝つので、最前列で応援してくださいね。サイリウムは緑ですよ」

 

 

「ブルボンちゃんってたくさん食べるんですか?」

「そうですね。ウマ娘基準でもそこそこ食べる方かもしれないです。平気な顔してたくさん食べるのでびっくりしますよ」

「えー! だから強いんですね! かわいーっ」

「そ……れはあんまり関係無いかもしれないですけど、よく食べてよく走るのは良いことですから」

「あの、ミホノブルボンって来年はシニア王道って聞いたんですけど本当ですか?」

「そうですね。一応そういう風に調整はしてます。宝塚は是非ブルボンをよろしくお願いします。シニア制覇も達成しますので」

 

 

「トレーナーさんって彼氏とかいるんですか?」

「あー……今はいないですけど、ちょっと気になってる方はいるので、そういうのは……」

「なあトレーナーさん。来年のクラシック三冠路線は誰が来ると思う?」

「ごめんなさい、来年の三冠路線は走らないので、他の路線のことはあんまり……」

「私、ジュニアの子を推すのが好きなんですけど、エルナトって新しい子は……」

「まだ考えてないですねー……」

 

 

 ブルボン六割、スズカ三割、私一割って感じかな。ファンの数で言えばスズカが不動だろうけど、やっぱり三冠は大きい。話題性が永遠に尽きないのがクラシック三冠という栄光である。もし仮にスズカが十年後忘れ去られていても、ブルボンは今後何十年と歴史と記憶に残る。

 

 私に対しては……うん、よくこんな人前でナンパできるなあって感じ。その度胸、私以外に向けてくれないかな。私はスズカに人生を捧げてるから、スズカがお嫁に行っても結婚しないのよ。

 

 

「はい、これで300!」

「どんどん行きましょう、はいっ」

 

 

 三人娘が300を超えた。つくづく思うのだけど、大体のウマ娘が明らかに胃袋の容量を超える食事を摂れるのはどうしてなのかしらね。ウマ娘七不思議のうち一つ。

 

 それから、あ、そうそう、時々ちゃんとスカーレットに興味を持ってくれる人もいた。そういう人にはね、しっかりと布教をしていかなければならない。

 

 

「あの赤髪の子は……」

「ああ、今年デビューしたダイワスカーレットというウマ娘ですね。来年はティアラの主役になるので是非追ってください」

「ってことは、ウオッカと同世代っすよね? めちゃくちゃ強かったすけど」

「スカーレットの方が強いので応援しておくと得ですよ。トリプルティアラも必ず勝ち取るので」

「はえー……そうなんすか」

「はい。ブルボンと並んで来年の主役ですよ」

 

 

 こういう営業みたいなことは正直やらなくてもいいんだけどね。やった方がいいことには間違いないから。あ、三人が500超えた。

 

 

「ふー……ふう。ちょっと休んでも良いですか……?」

「テーブルの誰かが食べてれば大丈夫ですよー」

「ブルボンさん、よろしく……」

「あい」

「私もちょっと、休憩……お、お水貰っても良いですか……?」

「トレ……あ、えっと……あの」

 

 

 反射で私を呼ぼうとして、ギャラリーが多いことに気付いたらしいスズカ。たぶん私を呼んで寄り掛かろうとでもしたんだろうけど、残念。スカーレットは普通に休んでるし、一方ブルボンはさらに食べ進めている。

 

 そのうち復帰はしたものの、結局あまり食べられずスズカは断念。スカーレットも少し頑張ったがギブアップ。そしてブルボンだったが、なんと1000杯に届いた。

 

 

 ……届いた、けど。

 

 

「キャパシティ……オーバー……」

「頑張ったねえブルボン。でも無理しすぎね」

「三冠ウマ娘ですので……退くわけには……」

「別に大食いの称号じゃないのよね、それは」

 

 

 車内。コンビニの駐車場に停め、私は助手席に倒れるブルボンを擦っていた。お腹がぽんぽこりんになって口元を押さえるブルボン。1000杯食べるには少しキャパが足りなかったらしいのだけど、よく頑張れたものだわ。900超えたあたりから完全に手が止まってたのに。

 

 

「ブルボンさん大丈夫ですか? あの、一回戻しときます?」

「吐くのを手軽な解決策としないで?」

「でも有効じゃないですか?」

「最善策かどうかとか有効かどうかじゃなくて、そんな軽いノリで嘔吐させないでって言ってるの。女の子でしょ」

 

 

 まあ今さらだとは思うけど。

 

 

「しばらく出発できないですか?」

「まあ、そうねえ……ちょっと治まるまで厳しいかも」

「もうしわけ……」

「喋らなくて良いから」

 

 

 ぱんっっっぱんのお腹を優しく撫でる。こうして停車してるのも、ブルボンが突然「マスター……嘔吐まで残り三十秒です」とか言い出したからである。そりゃ食べ過ぎたらそうなる。ブルボンの場合は少し前は結構簡単に吐いてたというのもあるけど。

 

 

「もう一時間か二時間くらいはこのままかもね」

「なるほど……」

「なんで今バッグを出したの。言ってみなさい」

「……別に、腹ごなしとか思ってませんけど?」

「思ってるじゃない……あっスズカそれは待って流石に。こんなところで着替えないで」

「許可してくれたらコンビニで着替えますけど」

「それもそれでダメなのよね」

「三十秒あれば着替えられるので普通にトイレ行くより早いですよ」

「そういう話じゃなくてね?」

 

 

 後ろでコンビニアイスを食べつつ休む二人。まあ、ただ待ってるのも可哀想だし走らせてあげようかな。こういう狭いところにずっといるとスズカのストレスが半端じゃなくなる。それにしてもあんなに食べたのによくもまあ走れるものね。

 

 

「スカーレット、外で周りを見られる? 陰に停め直すから」

「しょーがないわね」

「……なに? お腹いっぱいでご機嫌なの?」

「別に?」

 

 

 走れると悟りうきうきになるスズカ、わんこそば終了あたりからやけに機嫌の良いスカーレット。お腹さえ何とかなればブルボンも達成感でにこにこになるだろうから、帰りは三人でご機嫌カラオケでもしてもらおうかな。

 

 

「ますたー……」

「はいはい」

 

 

 それまでにブルボンがダメにならなければだけど。




わんこそばエアプではないですけど二回行って二回同じ店なので危ないって気持ちがあります。
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