走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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私怨に走るサイレンススズカ

 

「お断りします」

「そこを何とか、ね、ねっ!」

「絶対にお断りします」

 

 

 旅行から帰ってきて数日。十二月もそろそろ下旬、色々と準備をしながら日々過ごすエルナトの部屋に、今日はちょっと珍しい子が殴り込んできていた。

 

 

「ファルコンさん、あまりに唐突ではありませんか? クリスマスまで一週間ですが」

「……い、色々調整とかあって……でもでも、十二月後半の土日ってことは伝えてたよね、ね!」

「絶対に嫌です」

 

 

 スマートファルコン。砂のサイレンススズカという名誉なんだか不名誉なんだかよく解らない称号を与えられた、ダートにおいて鬼の強さを誇るトップウマ娘の一人である。スズカ達とよく絡んでいるらしい。

 

 ただ、私と彼女の関わりはほとんど無い。というのも、彼女はダートウマ娘ということもあり地方を飛び回っていることが多いからだ。彼女の場合はさらに、自身がアイドル……ウマドルか。ウマドルをやっているというのも大きい。地方巡業ね。ウマドル活動にはスズカやブルボンも巻き込まれているけど、私はそこにはノータッチ。気恥ずかしいらしいのでライブも見に行っていない。

 

 

「お願いっ! 二人がサプライズで来てくれたらみんな喜ぶと思うんだ!」

「私は構いませんが」

「私は嫌です」

 

 

 で、そんな彼女がわざわざエルナトまで来て床で正座をしている。どうしてかと言うと、今度のクリスマスに……えーと……そう、逃げシス? だったかな。それでライブをしたいらしい。

 

 

「ファルコン先輩一人でもブルボンさんと二人でもみんな喜びますよ」

「もちろん私一人でも本気でやるよ? 喜んでくれるように頑張るよ? でもほら、や、やっぱりさ。告知の時も、あっ、二人はいないんだあ、って思ってるファンのみんながいるかもしれないでしょ?」

「いるかもしれませんが……私は嫌です」

「お願いお願いお願い! この通り!」

 

 

 ライブの告知はスマートファルコン一人で行い、セットリストも組んだらしいのだけど、一週間前になって気付いたらしい。やっぱりスズカとブルボンもいた方が盛り上がるな? と。そこで早速二人を誘いに来たそうで。

 

 エルナトでの予定はクリスマスパーティーくらいだし、生徒間でも有マがある都合上クリスマスはスルーされがちではある。なので、友達付き合いとどっち? みたいな話にはならない。何なら今年の有マはクリスマス当日だし。

 

 

 ……問題は、スズカが珍しく普通に不機嫌になっている点である。

 

 

「ファルコン先輩、別に土下座でも何でも良いんですけど」

「はい……」

「ライブ、二十四日なんですよね。解りました。それで、二十五日の先輩の予定はどうなってますか?」

「……それは、その」

 

 

 ソファに座り、床に正座するスマートファルコンを見つめるスズカ。ブルボンはいつも通りベッドの上が定位置で、スズカの気迫により何となく合わせて正座している。

 

 

「まあ、い、色々と……」

「そうなんですか。色々と。ちなみに聞かせてもらっても?」

「長くなるから……」

「全然聞きますけど」

 

 

 スマートファルコンを詰めまくりながら、隣の私の腕を抱くスズカ。ちゃんと不機嫌らしくいつもより肘が極っている気がする。耳も絞ってるし、声がいつもより平坦だし。

 

 しかしそこは流石スマートファルコンと言ったところ。冷や汗は凄いし目も合わせていないが、気まずそうながらも笑顔を忘れていないウマドルの鑑。トップウマ娘の精神力というのは凄いね。やっぱりある程度レース慣れして実績を積むと……もしくは、逃げウマ娘としての経験があると、『圧』に強くなるのかもしれない。

 

 

「に、二十五日は……」

「はい」

「と、トレーナーさんとお出かけでぇ……」

「声が裏返ってますよ? もっと堂々と言ってください」

「トレーナーさんにデートに誘われてます……」

「ですよね。前に言ってましたもんね。良かったですね、無事誘われて」

 

 

 圧と台詞が合っているような、合ってないような。少なくとも段々とスズカがくっついてきているのは間違いない。あんまり不機嫌になられると困るので、絞ったウマ耳に頬で触れる。

 

 

「私は二十四日のトレーナーさんとのデートをキャンセル、二十五日はファルコン先輩はクリスマスデートですか。良いですね」

「デートじゃないけどね。クリスマスの買い出し」

「私はデートだと思ってます」

「私は思ってないけど」

「誠に申し訳無いと思ってるから……許してスズカちゃん……」

 

 

 ぺたんぺたんとスズカのウマ耳が私の頬を叩く。ぎりぎりと肘が軋んできた。おーおー怒ってる怒ってる。別にスズカが怒るのもおかしいというか、スマートファルコンもそこまで悪くないような気もするけどね。伝達が直前というのはともかく、別日に何しようと勝手だろうし。直前っていっても社会人でもあるまいし、一週間前ならそれなりな気もするし。

 

 ……まあ、それはそれとしてムカつくのも解るよ。どっちの肩も持たないけど。

 

 

「何とか……そこを何とか……」

「デートの時間と被らないなら良いですよ」

「デートじゃないけどね」

「……四時開演なんだけど」

「嫌です」

 

 

 普段振り回されているみたいだからね。良いんじゃない、たまには。スマートファルコン、たまに三日前とかに言ってきたりするからね。ただこれ以上強くされると腕が折れちゃうのでスズカの鼻をぷいぷいしてちょっとでも弱めてもらう。んふふ、と私の指を追って首を傾げるスズカ。

 

 

「ブルボンちゃん……あの、何とか説得とか……」

「了解しました。では、スズ──」

「え?」

「──不可能です」

「もうちょっと頑張ろうよぉ!」

「……エラー発生。エネルギーチャージを開始します」

 

 

 ベッドから降りてきて私の足に寝転がるブルボン。あなた達さ、スマートファルコンの前なんだけど。そんなにくっつくのはどうなの? 二人して丸まって近付かないで。特にブルボン、完全に丸まった猫じゃない。

 

 

「と、トレーナーさんからも何とか……」

「私はウマドル活動には口は出しません。どっちの方向でも」

「うぐ……う、ううん、ファル子、諦めないよ!」

「もう無理じゃない?」

 

 

 丸まるブルボンの背中を撫でていると、頬を少しだけ膨らませたスズカがさらにくっついてくる。アンガーマネジメント。手が使えないので頬擦りとかになってくるよね。

 

 

「逆にスズカちゃんはさ、何をしたら出演してくれる?」

「何を言われても嫌です」

「併走とか?」

「嫌です。先輩はハナ切りたいタイプですよね。相容れません」

「そっかあ……ファル子がよく使ってる、人気のほとんど無いランニングコースを教えるとかでもダメ?」

「……………………だめです」

 

 

 声が震えてる。こんなに意地になって普通に怒っていたのに、人の目が無いランニングをちらつかせられただけでこうだ。生きにくくないんだろうか。いやそんな程度で生きにくくなる子じゃないのは解ってるけど。

 

 案の定動揺が伝わり、これだ、と目を輝かせるスマートファルコン。スズカのウマ耳がぴこぴこしてくすぐったい。私が抵抗できるくらいに腕のロックが緩んでいる。

 

 

「都外ではあるんだけどね? 電車かバスで一時間くらいで、街中から緑地を通って夜空が綺麗に見える感じなんだけど」

「っ……」

「本当に人がいなくて、何なら主要道路から離れてるからクラクションとかも聞こえないし」

「ぁっ……ぅ、んっ……」

「ちゃんと舗装はしてあるし走りやすいよ。カスタマイズも全然できるし」

「くぅっ……ふ、ぅぅ……っ」

 

 

 耳元で喘がないでおかしくなるから。

 

 

 一応我慢しようとしているスズカだったが、完全に心が持っていかれているのは明白である。たぶんもう一押しで堕ちる。九割五分ライブに出ても良いという気持ちになっていることだろう。誤魔化すためか私の腕に顔を押し当てた。しかし、脚がそわそわと動いているので何も誤魔化せていない。

 

 

「トレーナーさん……」

「はいはい」

 

 

 助けを求めているようだったのでスズカを受け入れ、首元をくすぐって宥める。まあこの子もね、根本的な芯は強いとはいえ、それは走ることに関してのみ。それ以外のことに関しては大体振り回される側で、基本は周りに流されがちだから。こうしてウマドルになったのだって元を辿ればそういうことだし。

 

 正直ちょっと意地悪がしてみたかっただけで、本気で断るつもりは無さそうだし。何だかんだ優しくて自分が薄い子だから、よほどでなければ友達の要求は聞く。嫌がっていれば私が解る。だから平気だ。

 

 

「……ファルコン先輩」

「……はい」

「二十四日だけですね? この前みたいに、好評だったから明日もやります! ってライブ中に宣言しないですよね?」

「しません! しませんから!」

 

 

 そんなことしてたの? 

 

 

「……解りました。しょうがないので今回だけ参加します。今回だけですよ。先輩は私がデートをキャンセルしたということを思いながらセットリストを組んでください」

「デートじゃないけどね」

「やったぁっ! ありがとうスズカちゃん! じゃあこれセトリ、渡しておくね! 明後日から三日間スタジオを押さえてあるから、後で予定を聞かせてね!」

「……む」

 

 

 スズカとブルボンに小冊子、私にもチラシを渡し、そして嵐のように去っていくスマートファルコン。うーん鋭い。スズカが断らないであろうことを読んでいたのかもしれない。気が変わらないうちに走り去るのも賢い。

 

 

「むむむ」

 

 

 そして、ふにゃふにゃになって私の腿に倒れてくるスズカ。ブルボンも合わせてひっくり返ったので、私の足に頭を合わせて寝転がる形になった。可愛いので二人の首をくすぐる。スズカの頬はすべすべ、ブルボンはもちもち。ちょっとスズカの方が顔が小さい。撫で比べだ……。

 

 

「ブルボンは良かったの?」

「はい。感情表現やレース演出、ファンサービス……ファルコンさんには学ぶべきことが多くあります。私の不得手スキルを保有していると考えています」

「そうなのねえ」

 

 

 今度はそっちのライブも見に行こうかな。よく考えると先頭狂じゃないスズカのライブが見られるのはレアだもんね。

 

 

「二人にはコールとかあるの?」

「え? えと……」

「逃げ切りシスターズ共通のものと、我々固有のものがあります」

「共通のは?」

「ぶるぶるぶるぶる……」

「ん」

「ブ・ル・ボ~ンッ♡」

「ぁー! かわぃぃねぇ!!!」

 

 

 少しだけにこっと笑いながら両手でハートを作ってくれるブルボン。きゅんきゅんに左右に揺らしてアピールしてきたので、ハートをとんとんして指で内側をなぞる。満面の笑みもできるはずだけど、ほんのちょっとだけ微笑むのが本当に可愛い。

 

 このファンサが毎回見られるの……? これは流石に行くしかない。私はブルボンのことが大好きなので、今すぐにでもチケットを買いたい。幼稚園内だけのチャリティーとかじゃないよね? 

 

 

「ブルボンは可愛いねえ!」

「……トレーナーさん」

「スズカ」

「すずすずすずすず……」

「おっ」

「スズカ~っ♡」

 

 

 ……ぅぁ(心停止)

 

 

「……スズカ」

「は、はい……」

「恥じらいが残ってる……ぅ」

「言うことが違いますよね……!?」

 

 

 ぐ(尊死)




ところでずっと設置されてるアンケートなんですけど、お察しの通りライスシャワー関連です。

ライスがどんな経緯で春の天皇賞に挑むかがちょこっと変わるだけで結果もその後の関係も大して変わりませんのでオマケみたいなものです。選ばれなかった方はIFエンドにでも書こうかなと思ってます。
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