走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「ただいまー」
「あ、帰ってきた。お帰りトレーナー」
「まだ起きてたの?」
「面白いテレビがやってたから」
スズカとのクリスマスデート……デートじゃない、お出かけが終わった後。家に帰るとスカーレットがまだ起きていた。中学生さあ。九時には寝なさいよ成長期なんだから。いや本格化してるから成長なんてしないけど。
ともかく十一時過ぎまで起きていたスカーレット。帰りの車で寝てしまったので背負ってきたスズカを渡すと、代わりに優しくソファに寝かせてくれる。
「というか帰ってきたんだ。絶対帰ってこないと思ったのに」
「いや、そりゃ帰ってくるでしょ。ご飯食べただけだし」
「スズカ先輩からメッセージ来てるのよ。ほら」
スマホを見せてくれた。確かにスズカから、『今からトレーナーさんとホテルで大人のデートです』と来ていた。何をしてるのスズカ。誤解されるでしょ。色々。まあその、確かに、ちょっと背伸びした感はあったけどさ。
「これが来たらもう朝帰りかなって思うでしょ」
「そんな簡単に朝帰りって言わないで」
「でもホテルって」
「ディナーだから。そういうホテルじゃないから」
「……全然、言ってくれれば玄関に芳香剤置いとくし、早めに寝とくし」
「生々しいこと言わないで」
頭思春期……まあ現実に思春期のスカーレットが目を逸らしながら言ってくる。絶対に無いから。そして仮に万が一億歩譲ってあったとしてもそれでスカーレットに気を遣わせたら私は死ぬわ。
黙らせがてらハンドバッグを投げつけておいて、ソファに捨てられたスズカに毛布をかけておく。後で着替えさせて運ばないといけないけど、それは私の支度が終わってからね。
「ちなみにスカーレットは晩御飯何食べた?」
「ん……トレセンで食べたけど。ちょっと身体も動かしたかったし」
「何か作る?」
「ん……じゃあ、ちょっとだけ。かるーく」
「かるーくね、かるーく」
ソファに座り、眠るスズカのウマ耳や髪を弄び始めたスカーレット。じゃあ軽く夜食でも作ろうかな。私はちゃんとコース料理だったからお腹いっぱいだけど。というか心配なのはスズカなのよね。人間用のフルコースだし、お昼も何食べたか解ったものじゃないし。
まあ、走っていなければお腹は……でもライブの後なのよね。お腹が空いたらそのうち起きるか……。
ということでそのままキッチンへ。にんじんが残り少ないかも。でもご飯が半分くらい残ってるし、お肉もあるし……丼とか? 全然軽くないけど、ウマ娘の『軽い』は量基準だから。小腹が空いた、に人間よろしく野菜スティックとか出したら普通に暴動でしょうね。
「にんじん何本ー?」
「にほーん」
「二本ねー」
にんじんをしりしりしつつスカーレットを眺める。横になり眠るスズカの髪を手で纏めたりさらさら遊んだり、絡み方を見るに普通に寂しかったのかもね。今日は寮で何かイベントがあったらしいけど、あんまり楽しくなかった?
「んー……いや、めちゃくちゃ楽しかったわよ。何も言うことないくらい楽しかったわ」
「じゃあ何。今楽しくなさそうじゃない」
「そういう気分の時だってあるでしょ? 楽しんだ反動が来てるの今」
「感性が大人じゃない? 子供なんだから楽しい気持ちのまま寝るまでテンション上げるか電池切れで寝なさいよ」
「電池切れは流石に私のこと幼く見過ぎでしょ」
「あなたスズカを見てみなさい。十九でこれよ」
「……スズカさんは別じゃない」
それはそう。
────
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「ん、お粗末様でした。お風呂入る?」
「シャワーで良いわ……お湯張る? やっておくけど」
「お願い。ありがとうね」
食事後。小腹が膨れたスカーレットが浴室に消えていき、依然熟睡中のスズカと二人で残された。起こすのもかわいそうだし、このまま着替えさせるか。
明日は朝起きて午前中に買い出しを済ませて、準備をしながらお昼を食べた後中山に行って有マを観て、帰ってきて準備を終わらせてクリスマスパーティーとなる。友達を呼んでも良いとはなっているけど、まあわざわざ来ないでしょたぶん。
と、いうわけで適当にスズカを剥いて寝巻きを着せ、担いでベッドに放る。おやすみを言って外に出て、つきっぱなしのテレビを見ると、どうやら見ていたのは地上波ではなくビデオ配信型のネット番組らしかった。なるほど、ゲストがウオッカ。だからか。
再生すると……まあ、よくあるインタビューと、密着型の番組だった。流石はウオッカ、既に来年の主役扱いだ。確かに、控えめに言って彼女には圧倒的な才能がある。それこそ、スカーレットなんかを遥かに凌駕する……マルゼンスキーやシンボリルドルフ、エルコンドルパサーのような圧倒的な強さがある。それはつまり、場合によってはスズカに手をかけるレベルということだ。
次走はチューリップ賞から。恐らく桜花賞、そこからスカーレット曰くダービー。菊花賞は走れないから秋華賞かな。スカーレットはもちろんトリプルティアラだから……うーん。性格的にはチューリップ賞に被せて闘志を煽った方が良いけど、普通に負けかねないのよね、ウオッカの場合は……。
とにかく、来年はまずダイワスカーレットVSウオッカ。そしてシニア一年目、ミホノブルボンVSライスシャワー。最後に黄金世代VSサイレンススズカの最終対決。いわゆる王道の路線はここが見所になるだろう。
『今のところは、全体的に意識してという感じですね。特定の誰かというのはないです』
ウオッカのトレーナーも出ていた。まあ、そうよね。スカーレットはほとんど走っていないんだし。まだまだ世間的にもスカーレットに評判なんて無い。顔人気はありそうだけど。幼めの美人系だしおっぱい大きいし。
「出たわよー……あ゛っ!? ちょっと、何見てんのよ!」
「自宅のテレビだけど……」
やっぱり大きいな……普段スズカと過ごすのが長いから、よりヤバい感じに見える。浴室からバスタオル一枚巻いて出て、慌てて私からリモコンを奪い取るスカーレット。すぐに一時停止をかける。
「ふふっ……」
「くっ……くっくっくっ……ま、待って無理……!」
半分フェードした決めポーズで止まるウオッカ。次のシーンが薄く映り、親指で自分を指し示したまま止まった。止めた本人が笑っちゃってるじゃない。でも面白い。ドヤ顔も格好いいからなお面白い。とりあえずそのままにして写真を撮るスカーレット。
「……じゃない! 何見てんのよ!」
「だから、自宅のテレビ……」
「アンタは見る必要ないでしょ! ろくなこと言わないんだから!」
「ええ……私を何だと思ってるの」
スカーレットから見る私、何? そりゃ特に言うことはないけど。むしろコメントを求められたら困る。スカーレットが勝つと断言できないので。もちろん演技はできるけど、スカーレットに通用するかどうか……。
と思ったけど別に通用するな。ちょろいもんなこの子。
「心配しないでスカーレット。あなたが一番よ。スズカとブルボンの次」
「三番じゃない!」
「めちゃくちゃ頑張ればいつかブルボンは越えられると思うわ」
「スズカさんは?」
「あれは殿堂入りだから。並ぶことはできても越えるのは無理……ところで、来年はどこから走る? チューリップ賞に直行する?」
軽く伝えつつそう聞くと、スカーレットは一瞬止まって考え込み、そのまま座った。
「いや服着て。風邪ひくわよ」
「あ、ごめん」
改めて浴室に戻り、服を着て帰ってくるスカーレット。座る。
「直行して良いの?」
「ん、まあ……良いわよ。もちろん違うところからでも良いけど」
「……そうねえ…………」
しばらくウオッカのことを見ていないから細かくは言えない。隣で目を閉じて天を仰ぐスカーレットの腿のあたりを擦る。お風呂上がりなのでぽかぽかだ。ただ、気持ち落ち込んでいるような気がしないでもない。
「……どうなの。仮に今、私とウオッカがぶつかったとして」
「……まあ、スカーレット有利かなあ」
「いつもの九割じゃないんだ」
「そうねえ……」
なるほどねえ……と嘆息した後、再び番組を再生する。ジュニア級でありながら、既に取材慣れが見える。あそこは専属トレーナーで先輩がいなかったはずだから、よっぽど数をこなしたんだろう。密着取材は負担が大きいからスズカも断っているくらいだ。ブルボンも……まあ、ちょっと考えないといけないかも。
「まあ……ムカつくけどそうよね。そりゃそうだわ」
「納得なの?」
「まあね……アンタがそう言う時はさ、圧倒的な差がついてる時でしょ?」
「まあね」
「じゃあ……しょうがないかってなるじゃない」
「……ごめんね?」
「別にそれは良いんだけど」
ウマ娘の強さはトレーナーの力量による。だからこれは一部の有能なトレーナーなら、才能など関係なく強くなる。だからまあ、スカーレットが勝てないのは私のせいだ。流石にね。
私のそういう考えをちゃんと理解しているようで、スカーレットは特に責めることもなく私の隣に来て、そのまま腕を抱いてきた。お、珍しい。こういう直接的な接触はそんなに好きじゃないイメージだったな。でももちろん悪い気はしないので私からも寄り添っていく。
「そうよね。悪いのはトレーナーよね」
「えっ」
頬を撫でようと伸ばした手が掴まれる。悪い、私死んだ。
「ところでもう今年が終わるわよね」
「……まあ」
「今私達が練習できてないのはトレーナーにも原因があるわよね」
「そうね」
「私が負けたら嫌よね?」
「もちろん」
「じゃあ私が言いたいこと、解るわよね」
あっヤバい痛い痛い痛い痛い痛い。腕が。腕が破壊される。こんな精密な力加減ができるようになって立派ねスカーレッ痛い痛い痛い痛い痛い! 曲がる! 曲がっちゃいけない向きに!
「待って、痛い、ちょ、うお……」
「私が言いたいこと、な~んだ?」
「いぢぢぢぢぢぢ」
私の腕の曲げられないところを無理矢理曲げようとしながら、語尾にハートをつけて話すスカーレット。満面の笑顔があまりにも怖い。トーンはあくまで恋人レベルなのも。
「おれ、おれる、折れる折れる!」
「え~? 本当に解んな~い?」
「それやめて! マジで!」
あ、ちょっと緩んだ。危なかった……スズカなら折ってた。
「もうっ、トレーナー。私が言いたいこと、解るわよね?」
「……ワカンナイデス」
「ウオッカにも他の子にも負けないために、たくさんトレーニングが必要よね?」
「……ソッスネ」
「今まで二ヶ月ちょっと、私に我慢させてきたお詫びは?」
「……スイヤセンシタ」
スカーレットの目が決まってきている。このまま食い殺されるんじゃないかという目だ。怖い……!
「やらなきゃいけないことがあるわよね?」
「……ケーキバイキングに連れていくとか?」
「それは連れていって。でも違う」
「……また遊びに行く?」
「行くけどそれも違う」
「あの、あの……」
完全にマウントを取られ、腕を掴まれ動けない。ひえっ……ここ最近は結構平気だったのに、ついに誤魔化せなくなったらしい。まあ、ブルボンやスズカもそうなるだろうから全然良いんだけど……はあ……。
「もちろんトレーニングよね?」
「ち、近い……圧が……」
「よね?」
「はい……」
鼻先をつける距離まで詰め寄られ、輝く瞳に見つめられると反論ができない。興奮しているうえにお風呂上がりで体温が上がりきったスカーレットに圧され、私は頷くことしかできなかった。弱き者、私……。
次回、(特に何があるわけじゃないけど)有マ。そこでライスシャワーの分岐が確定します。各レースの結末は何も変わりませんが。