走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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トレーナーさんきっしょーい♡


一番強くかましたのはサイレンススズカ

 

「え、じゃあ準備は良い? 水飲んどく?」

「良いわよ。来なさい」

「早くやりましょう。絶対解らないですから」

「ふふ。甘く見ちゃダメよ」

 

 

 ある日。マジでしんどかったクリスマスを乗り越えると、そこは愛バに囲まれたクリスマスパーティーだった。本気でしんどかった。単体では全然だけど重なるとヤバい。ブルボンもあんな気持ちだったのかな、なんて朦朧としていた。

 

 何なら、私は気にせず中山に行っておいでって言ったのを後悔してたくらい。寂しくて寂しくて、何度スズカに連絡しようとして踏み留まったか解らない。

 

 

 で、遅れてきたパーティー当日。四人で仲良く料理を作り、楽しく時間を過ごしていたところ、ちょっとした会話から一つの疑問が生まれた。

 

 

「絶対に解るからね」

 

 

 それは、利きエルナト、私なら完璧に解る説。つまり、私なら担当のことをどんなことでも判別できるとする説である。こんなもの、トレーナーなら間違いなくできる。絶対にできる。トレーナーとはつまり、担当のために自害できる人種を言うのだから。

 

 しかし三人は信じてくれなかったので、私は椅子に座らされ目隠しをしている。そして準備の時間を待つこと一時間とちょっと。作問を終えたらしい三人娘が意気揚々と戻ってきた。

 

 

「いくら何でも言い過ぎですよトレーナーさん。解ることと解らないことがあります」

「いーや絶対に解るね。あなた達のことは全部解る」

「どうしてほろ酔いでそういう意地が張れるのよ」

「大好きだから。あなた達が」

「では第一問。三人で料理をしましたので、誰の調理か当ててください」

 

 

 こういうことは私を全肯定してくれそうなスズカでさえ懐疑的だ。ブルボンも私を盲信してくれていそうな気がしたけどダメだった。スカーレットは……まあ常識人だからいいか。

 

 

「外したら一つずつ言うこと聞くのよ」

「良いわよ。何でも言いなさい」

「無制限に走らせてください」

「毎日特別メニューをやりましょう」

「ブルボン先輩と同じで」

「もっと可愛いお願いは無いの?」

 

 

 まあ良いけど。外すわけないし。何でも言うと良いわ。ぜっっっっったいに解る。

 

 

「では三口お食べください」

 

 

 ブルボンにあーんしてもらって一つ食べる。あ、エビチリ。私エビ好きなのよね。スズカが選んでくれたかな? 

 

 

 あむ。

 

 ……うん。美味しい。流石はうちの子、どんなにイカれているように見えても根本のスペックが高い。今日はスズカもちゃんと作っているだろうし、楽しみね。

 

 

「美味しい」

「ありがとうございます。それでは二食目……」

「これを作ったのはスズカね」

「……いえ、二食目を」

「スズカでしょ」

「……正解です」

「ええ……?」

 

 

 しっかりと即答すると、何故かドン引きするスカーレットの声。いや、解るって。違うじゃん。スズカが作った料理の味だったって。スズカは味付けにこだわっていないんだけど、いざやらせると出汁が多めになる。もしくは味のはっきりした調味料が多すぎる。今回は前者だったのでかなり解りにくかったけど、スズカの料理のなかでは相当美味しい部類かな。

 

 

「スズカの味がした」

「きっ……い、いやいや。先輩、次、次」

「あ、はい」

 

 

 二食目。うん。うん。

 

 

「スカーレット」

「正解です」

「ええ……」

「スズカまで引かないで」

 

 

 スカーレットは一番家庭的ね、良くも悪くも。味がはっきりしていて単純で濃いめ。あと、かき混ぜるとかそういう動作がちょっと荒っぽい。でも総合的には一番美味しいかも。

 

 

「三食目は食べますか? 私ですが」

「せっかくだし」

「承知しました」

 

 

 ブルボンはレシピ通りにしか作れないし作らないので、尖ったものがなく非常に食べやすい。やや物足りない感は否めないけど、来客に出すならこれかな。うん。解る解る。

 

 目を開けると、三人は結構ちゃんと引いていた。非常に遺憾の意を表せざるを得ない。私はトレーナーとして当然のことをしただけなのに。私は料理はそこそこ得意だから特に。

 

 

「どう?」

「どうします? 普通に解かれちゃいましたけど」

「うーん……とりあえず次行きましょうか」

「じゃあ次。これを聞いてもらうわ」

 

 

 数秒の作戦会議が行われ、スカーレットがICレコーダーを取り出した。私がいくつか備蓄してあるやつ。主に三人から言質をとった時のためにね。わざわざ使い方を調べたんだろうか。

 

 とにかく、今回は目を開けて良いようなので目隠しをとって、受け取って再生ボタン。耳元で音源を流す。

 

 

『──では行きます』

 

 

 と、ブルボンの声が入り、その後、ホワイトノイズでギリギリ聞こえるか聞こえないかの音がする。これは……ああ、スズカの足音ね。ウマ娘みたいに遠くの足音の判別はできないけど、しっかり聞こえる範囲なら私にも解る。

 

 

「誰の足音でしょうか」

「スズカ」

「正解です」

「本当に解るんですね……ただ足踏みしただけなんですけど」

「足音に重みがあって、ちょっと躊躇いが見えたわね。スズカ、アレでしょ。その場足踏みでも走りたくなって危ないから、肩か何かを二人に押さえてもらったわね」

「おお……」

「気持ち悪……」

 

 

 感心の拍手と、正解する度に目が冷たくなっていくスカーレット。スズカは既に一周回ったようで、普通に嬉しそうにしている。にこにこで私に駆け寄ろうとして二人に止められていた。

 

 まあ、これはね。歩調を見抜けないようではトレーナー失格だ。私じゃなくてもこれはできるでしょ。必須技能必須技能。

 

 

「どうします? これ三問目やる必要あります? 絶対解りますよ」

「そうねえ……どうしましょうか。別の何かを考えた方がいいかも」

 

 

 そろそろ信じてくれているらしく、ブルボンとスカーレットの足音は無かった。まあ聞いても解ると思うし。ちなみに三問目は何だったの? 

 

 

「一問目も二問目も無理かなと思って……鼻先で髪をふぁさってしようかなと思ってたんです」

 

 

 それは……即答かな……。三人を匂いで判定するんでしょ? それは楽勝でしょ。できなかったらもう……あれよ。

 

 

 私はずっと自信満々で待機しているんだけど、どうしても私に外させたい三人娘はこそこそと少し離れたところで再び会議を始める。そこまでして走りたいのかと。こうなると、そもそも絶対に無理! と私を焚き付けたのも、外させて走りたいだけにしか思えなくなってきた。やけに長い準備も乗り気だったし、絶対そうでしょ。私は詳しいんだ。

 

 

「どうします? 何なら解らないんですかね」

「んー……ブルボンさん何かある?」

「スズカさんが思い付かないのであれば不可能ではないでしょうか」

「どうして諦めるの。走りたくないの?」

「しかし現実的に最も可能性の低かった足音を判別された時点で、我々に勝ちの目があるとは思えません」

「今から絵とか習字とかします?」

「完成度で解るでしょう」

 

「スズカさんがいる限り脱いでもダメですもんね」

「うーん……あんまり意味無さそうだし寒いし……」

「極まった変態ですからね……手とか足だと一瞬ですよね」

「どこを使用しようと、裸を見せていない限りにおいてしか有効ではありません。我々にはどうにも」

「そうよね……」

「最初をスズカさんにして動揺を誘った後、私とスカーレットさんを誤認させるという手はありますが、実効性には疑念があります」

「今さら何なら動揺するんですか? トレーナーって」

 

「トレーナーにやったことないことをしないといけないと思うんですよ」

「ええ……そんなのないでしょ。やったことないこと……?」

「何かないんですか?」

「無い……んじゃないかしら」

「……ですよね」

「そもそも経験の無い行為はそのほとんどがするべきでない行為と同一です」

 

 

 恐ろしい会議が数分なされた後、三人は何か納得してはいけないことに納得したようで、私に向き直る。いくら意地になったところで私に当てられないわけがないが、そもそも私がされたくないことだって……あるか? ある……いや、あるでしょ。教え子なら何でも受け入れられるかと言われると……何なら受け入れられないかな、私。結婚くらいじゃない? 

 

 自分の許容ラインがガバガバであることに戦慄していると、ブルボンが先頭に立って私に目を閉じるよう要求してきた。言われた通り目を閉じる。すると、ぱちん、と手のひらを叩く音がして、すぐにスカーレットが私の顔を優しく包んだ。

 

 

「良い、トレーナー。今からアンタをビンタするわ」

「!?」

「もはやこれしかありません」

「待った! 絶対他にあるって!」

「ありません。性的行為か暴力行為かしかありません」

「絶望の二択……!」

 

 

 注射をする前に消毒する看護師のごとく私の頬を擦るスカーレット。いや怖いって。めちゃくちゃ怖い。そりゃ手加減が完璧なのは解ってるし、後に引くようなこともしないって解ってるし、そうなると大して痛みも無いのは解るけど、でも怖い。

 

 

「考え直さない? ねえスズカ」

「ごめんなさいトレーナーさん」

「ブルボン」

「治療が必要ではないレベルを約束します」

「スカーレット」

「心苦しいけど必要なことなのよね。走るためには」

 

 

 優しくアイマスクがかけられる。目の前が真っ暗になって、三人娘のじゃんけんのコールだけが響いてきた。え? 本当に? 本当に今からビンタされるの、私? いやあの、良いけど、別に良いんだけど、心の準備というか、

 

 

「参ります」

 

 

 バシン! 

 

 

 いったぁっ!! 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「……どうしたんです? ブルボンさん」

「いえ……機会損失です。戦略が甘かったと言わざるを得ません」

 

 

 十二月二十六日、月曜日。記録者、ミホノブルボン。クリスマスパーティーが終わり、私は寮に戻ってきています。エルナト内で交換したプレゼントは、スズカさんのものだったはずです。恐らくランニング用品でしょう。見なくても解ります。

 

 

「あ、ところでケーキ食べますか? もし良ければなんですけど」

「いただきます」

「ありがとうございますっ。じゃあ切り分けますね」

 

 

 まだ少し早い時間ということもあり、寝巻き姿ではありますがフラワーさんが起きていました。日記を中断して、冷蔵庫からケーキを取り出してくれます。恐らく手作りではありますが、しかし店売りと遜色無いクオリティです。

 

 

 ……さて。それではフラワーさんのケーキを食べながら、通知表を読むこととします。来年のレースに向けて、現状を把握しておき、この数ヵ月での遅れを取り戻さなければなりません。スズカさん、スカーレットさんと協力し、より多くのトレーニングを要求するためにも、これは非常に重要な事柄です。

 

 

「ブルボンさん」

「はい」

 

 

 目次。私の評価は三ページ目からです。今年はマスターに時間があったこともあり、これまでより比較対象が多いようです。直接対決は無いであろうウマ娘の情報や、過去のウマ娘のシニア突入時のステータスも充実して、

 

 

「食べながら読むのはやめましょう」

「……申し訳ありません」

 

 

 後にします。




仮に傷付いたとして、中央のトレーナーは不思議な生き物なので、ウマ娘のために負った傷は五秒で完治します。
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