走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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スズカシニアⅢ/ブルボンシニアⅠ/スカーレットクラシック
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特別メニュー(スパルタ)の時間よ! オラァッ!」

「!?」

 

 

 ある日。謹慎明け早々しっかり回されてきた仕事をこなすべく冬休みのトレセンに出勤していた時のこと。突然トレーナールームの扉が蹴り破られ……てはないけど、あまりにもチンピラな台詞と共に強めに開けられた。

 

 

「捕まえてください」

「マスター。抵抗する度痛みを与えます」

「淡々とした脅迫……!」

 

 

 そしていつもの三人娘が乗り込んでくる。スカーレットの様子がおかしい。すぐに扉は閉めたものの、扉が開いたままああいう発言をするというのはポリシーに反するんじゃないだろうか。まあ、正直言ってほとんど人はいないけど。いくらトレセンでも三が日は大体休んでるし。

 

 

 スズカの指示と何故か抵抗しない私の働きにより、しっかり後ろ手に縛られる私。スズカを縛りすぎたせいでスズカ自身が縛り方を覚えてしまい、しっかり拘束されている。スズカなら麻縄くらい力ずくで破れるけど、私はできないのでそのままただ拘束されるがままに。

 

 

「何するの」

「あ、トレーナーさん、これは名前をつけて保存が良いですか?」

「いや上書きで良いよ」

「はーい」

 

 

 というか、あと五分あれば終わるんだけど。保存するくらいなら最後までやらせてくれない? 

 

 

「良いわよ。一回解くわね」

「ありがとう」

 

 

 一回解いてもらい、三人に見守られながらお仕事を終える。それからもう一度縛られ、気を取り直して椅子に座ったままキャスターで壁際に追い詰められた。

 

 

「何のつもり? 事と次第によっては怒るわよ。スズカがおやつ抜きになるわ」

「どうして私だけ……?」

「ブルボンとスカーレットは寮に帰るらしいし」

「上等じゃない。やりたきゃやれば?」

「スカーレットさん!?」

 

 

 今日一番掛かってるのはスカーレットか……スズカはまだ理性的かも。スズカは元旦に走って、その勢いで謎理論を振りかざして二日も走ったのでかなり落ち着いている。ブルボンは……あっダメな目をしてるな、これは。

 

 さて……何だろうな……この掛かり方は尋常じゃないなあ……スカーレットの理性が飛んでるのは結構珍しいし……

 

 

「新年明けましておめでとう、トレーナー」

「おめでとう、スカーレット」

「謹慎が明けたらしいじゃない。良かったわね」

「……そうね」

 

 

 などと現実逃避はしてみたけど、まあそうよね。そういう話よね。何なら入ってくる時言ってたしね。うちの子ってば走ることと勝つことに狂ってるから。でもスカーレットか。ブルボンが先かと思ったけど。ウオッカのせいかな? 

 

 

「トレーナーに問題よ。前回の特別メニューはいつでしょうか?」

「……えっと」

「二ヶ月前よ」

 

 

 早いなあ。惚ける隙もない。

 

 

「私が言いたいこと、解るわよね」

「解るわ。解るけど一つ聞かせて。スカーレットをこんなにしたのは誰? スズカ? ブルボン?」

「強いて言うならアンタよ」

「そう……」

 

 

「往生際が悪いですよトレーナーさん。もうやるしかないんです。私も心苦しいですけど、二人からひたすら逃げる役目を果たしますから」

「スズカは昨日走ったじゃない。一昨日も。もう良いんじゃないの? さも後輩のためみたいな顔をして」

「昨日の話はしてません。私は今日の話をしています。今日走れるか走れないかで今日の寝付きが変わるんです。ほら今日の話」

「今日は昨日の積み重ねでできているのよ」

「過去を見ていては成長できませんよトレーナーさん」

 

 

「ねえブルボン。ブルボンは良い子よね。私の言うこと聞いてくれるわよね。私を困らせたりしないわよね」

「アンタ悪い親みたいなこと言うのやめなさいよ」

「マスター。大阪杯は四月です。時間がありません」

「そっかあ……四ヶ月ってすぐだもんね……」

「マスターには選択肢があります。二日に一度特別メニューを実行するか、毎日実行するかです」

「イカれた二択ね」

 

 

 スパルタ狂い二人とランニング狂い一人に捕らえられた時点で勝負は決まっていたのかもしれない。事実私もそんなに強く抵抗するつもりはない。

 

 去年とは事情が違っている。ブルボンにはライスシャワーという怪物がいるということが解ったし、どう考えてもブルボンの出るレース全てに被せてくるだろう。そしてスカーレットにもウオッカという百年に一人の逸材がいる。私は一流トレーナーではないので、二人を勝たせるにはどうすれば良いかというと、そう、スパルタだね。

 

 

 いや、これは本当にそうだ。別に三人の要求はおかしくない。勝つためにトレーニングを厳しくしてほしい、うん、ウマ娘なら当然の要求だ。私もそう思うし、言われなくてもやるつもりではあった。

 

 

「さあ外に行くわよ。今日は死ぬまで帰さないから」

「本日は夜も予約を取ってありますので、回復の後午後も実施しましょう」

「ふん、ふふん。ふふん」

 

 

 でもどうしてだろう、この三人については何か違うような気がする。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「よーしやるわよー」

「ふーっ……ふう、よし、よし! 行くわよ!」

「……!」

「あの、この境遇に異論があるんですけど」

 

 

 トラックにて。いつも通り準備をして外に出た私達。スズカとベンチに手錠をかけて、ブルボンとスカーレットはスタート位置についている。ゲートくん三号を前に気合いが高まりきっている二人は、やはりしばらくスパルタをやっていなかったからか体力があり余っている。普通のトレーニングはしていたんだけど、二人の身体はもはやそんなトレーニングでは疲労を残さないように調教されてしまったのかもしれない。

 

 

「スズカはいいでしょ。最近ずっと走ってるし」

「そんなのおかしいですトレーナーさん。トレーナーさんは二日ご飯を食べたら次の日はいらないんですか?」

「まあ正直ご飯は一日おきでも死にはしないわ」

「それは人間の話ですよね」

「今あなたが人間の話をしたのよね」

「それとこれとは関係無いです」

「じゃあ逆に何が関係あるのよ」

 

 

 一応手錠はパワーで外れてしまうし、レースウマ娘ともなればベンチごと地面から引き抜いて引きずることも不可能ではない。ということで鋼鉄マグネットブーツも履かせている。これでスズカは身動きできない。あとはまあ、膝枕して私の手でも動きを制限しておく。

 

 

「ブルボン。いつものタイムからハロン0.2秒早めて。スカーレットは最終着差を五バ身までに抑えなさい。あと、可能な限りブルボンの前に出ること。良いわね」

「目標修正。いつでも行けます」

「っし……イン入りますね、ブルボン先輩」

「はい。内ラチから二メートルを越えないようにお願いします」

「了解です」

 

 

 脚を放り出し仰向けに転がるスズカと、既に目が本気になりつつスタート位置につく二人。一旦スズカを置いておいてゲートくんのスイッチに手を掛ける。

 

 

「覚悟は良い? 一応言っておくけど途中でやっぱやめたとか無しだからね。やるからには今日は死ぬと思ってやりなさいよ」

「初めからそのつもりです」

「良いから始めて。誰に言ってんのよ」

 

 

 ドドドド……とオーラが噴き出る二人……いやこれはブルボンだけだな。スカーレットはまだ無理。まあこれは別にどうでも良い。出してるのは一流だけど、出せないからと言って二流三流ってわけではない。

 

 

「じゃあ行くわよ。位置について、よーい──」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「走ります」

「走りません」

「走ります走ります」

「走りません走りません」

「走ります走ります走ります」

「走りません走りません走りません」

「走ります走ります走ります走ります」

「走りません走りません走りません走りません」

 

 

 何回か後。好き勝手に走る二人を見て、スズカが早くも落ち着きを無くしている。誰もいないことを良いことに私に絡み付いて耳元で囁いてくる。声は良いけど台詞が同じだからおかしくなりそう。私が走り出すんじゃないの、これだと。

 

 鋼鉄ブーツへの順応も少しずつ早くなってきている。ベンチの金属に反応してくっついてはいるが、位置の調整もできている。もたれかかるみたいに私に抱き付いてきているが、別に自立もできるだろうスズカなら。

 

 

「意地になっちゃダメですよトレーナーさん。素直になりましょう?」

「今私は過去一素直よ」

「私のこと好きですか?」

「何言ってるのあなた」

「素直って言うから……」

「言い直すわ。あなたを走らせないことについて素直よ」

「そこは天の邪鬼でも良いんですけど」

「あちょっと待ってねスズカ」

「あ、はい」

 

 

 メガホンをとるとスズカが耳を塞ぐ。

 

 

「スカーレット!!! あと一ハロン粘りなさい!!! そんな簡単に抜かれるんじゃないわよ!!!!」

 

 

「一回だけ。ちょっとだけですから。絶対に本気は出さないので一回だけお願いします。ちょっとだけ」

「ダメ男かおのれ。私はそういうのには騙されません」

「良いじゃないですか。本気は出さないって言ってるんですから信じることも大切です。それともトレーナーは私のことを信じていないんですか?」

「あ、ストップ」

「あ、はい」

 

 

「ブルボン!!!! 速い!!!! もう少し落としなさい!!!!」

 

 

「信じてるわよ。あなたは絶対に本気を出す。絶対に。そして何もかもぶっちぎってくる」

「照れますね。ではご期待にお応えしてぶっちぎってきます」

「応えなくて良いからここにいなさい」

「お手洗いは大丈夫ですか? お腹空いてませんか? ガスの元栓と家の鍵は閉めました?」

「私を排除する方向にシフトしないで。オール電化だしオートロックだから」

 

 

 バカな話をしている間に二人が帰ってきた。ん、と頬を撫でると、スズカがんー、と微笑んで私から離れる。帰ってくるなり崩れ落ちる二人。これは疲れているだけね。特に意識がどうとかって感じじゃないかな。

 

 とはいえ何度か走っている以上消耗は大きい。スズカは動けないので飲み物を渡そう……として、どこか期待に満ちた目で見ている二人。あー。うん。良いけど、良いんだけど、それはもうスパルタで圧倒的成長! とか関係無くない? 

 

 

「ブルボン。まだこのタイムで行けそう? 下げとく?」

「い……え……問題……ありません……」

「スカーレットは……あなたはまだ頑張りなさい。もう少しペース上げないと、次は六バ身つくわよ」

「わかっ……るわよ……! 話し……かけんな……!!」

 

 

 顔面からドリンクを掛けるいつもの飲ませ方を実行。もうかなり久しぶりのはずだけど、二人とも完全に順応して水分補給ができている。先に立ち上がったのはブルボン。体重をかけて持ち上げるようにしてスカーレットも起こす。

 

 

「持ってて……!」

「はいはい」

 

 

 新年早々上着を脱ぎ捨て半袖になるスカーレット。体温と汗が蒸気になって立ち上っている。同じくブルボンも脱ぎ、ふーっ、と大きく息を吐く。蒸気機関車みたい。

 

 

「じゃあもう一本。位置につきなさい」

「っし……できる、できるできるできる……!」

「ふーっ……ふー……っ」

 

 

「……トレーナーさん。ちょっと……一ハロンで良いので……」

「ダメ」

「気持ち良さそう……羨ましい……」

 

 

 全員狂ってるなあ……

 

 

 

 ────

 

 

 

「お疲れ。うーん……少し待てばもう一本行けるかも。五分休憩ね」

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

「げほっ……ぐ……ぅぐっ……」

 

 

 ついに二人が動けなくなってしまった。ラスト一本に備えて休憩に入り、スズカと二人で水をかけたり扇いだり。流石にこの段階に来るとスズカも大人しくなり、一緒に作業に入ってくれる。結構マネージャー適正があるというか、サポートとしての能力はあるのよね。何よりも自分が走ることが好きだから、必要なものが理解できている。

 

 

「と……れ……」

「何?」

「人……い……る……?」

「人? いや……別に誰もいないけど」

 

 

 回復体位だったスカーレットが仰向けに直り、人がいないことを確認して、そして、

 

 

「そ…………!」

「こらこらこら!」

「な……ほど…………」

 

 

 自分のウェアを掴み、胸元からちぎろうと強く引いた。ブルボンも続こうとしたので二人で慌てて止める。こんなところでエルナト三人中二人が上半身下着は不味い。私も捕まる。あと女を捨てすぎね。

 

 

「何してるの!」

「いきが……くるしい……」

「さんそ……」

「だからって外だから! 露出は不味いって!」

「ぐ……」

 

 

 悔しそうに体勢を戻すスカーレット。確かにまあ、解るけど。これはもうそういうものなので仕方がないが、ウマ娘用のスポブラ、普通に苦しいのよね。巨乳不利説は昔から囁かれているし、正直私もそう思う。ただ、ウマ娘の力とウマソウルの前にはそんなもの誤差だっていうだけで。

 

 日々成長中の二人で、かつスパルタは結構久しぶり。感覚的に息苦しさが増しているのかも。

 

 

「大丈夫ですか……? 酸素ですよ」

「く……」

 

 

 ああ……スズカの目が心底哀れみに満ちている……この子には無縁の苦しみだものね……普通に良心からトレーニングの手伝いをしているだけなのに施しに見える。

 

 

「寝るときは脱いでも良いからトレーニングの間は着てて」

「マジで……頼むわ……」

「じゃあラスト一本行こうか」

「あと……五秒……」

「はいはい」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「お疲れ二人とも」

「……」

「……」

「聞こえてないですね」

 

 

 さらに後。ついに二人が物言わぬ屍になってしまった。しかしまあ、かなり持った方だと思う。休み明けで体力があり余っていたのと、久しぶりのスパルタで気合いが入っていたというのもあるかな。その分本当の本当に限界を攻めてしまったので、ほぼ気絶同然となっている。

 

 

「運ぼうか」

「はい」

 

 

 二人を背負い、さらに荷物まで持ってくれるスズカ。トレーナー室に帰り約束通り二人を脱がせて寝かせると、ほっと一息ついてからソファの隣に座ってきた。

 

 

「懐かしいですね、この感じ」

「そう? 言っても二ヶ月ぶりでしょ?」

「そうじゃないですよ」

 

 

 んー、と私の胸元に寄りかかり、うなじ辺りでこんこんと顎に触れてくるスズカ。唇に指を伸ばすと、軽く食んで微笑んだ。

 

 

「二人きりってところがです」

 

 

 そうかな。確かに長らく無かったかも? 正直覚えてないけど。いてもいなくても同じようなものだし。

 

 そのまま唇から顎にかけてのラインを撫でながら、さらにぐっとくっついていく。ふふん、とご機嫌なスズカがそのまま私を押し倒して横になる。ソファは狭いので、当然ほぼ抱き付く形になった。

 

 

「……二人ともいるけど」

「寝てるんだから良いじゃないですか。風情がないですね」

「スズカに言われたくない。私気付いてるからね。外をちらちら見て。このまま良い感じの雰囲気にして流れで走りに行こうとしてるでしょ」

「……何のことだか解りません」

「ほうらね」

「ぷあぷあ」

 

 

 鼻を摘まんだり放したりして鳴かせると、ぐりぐりとおでこを擦り付けられる。長髪に触れて抱き寄せ、抜け出せないようにスズカの頭にくっつく。目を閉じるスズカ。とても幸せそうに、んふふ、と笑った。

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