走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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スズカさん、これまでの戦歴

ジュニア夏
メイクデビュー。トレーナーに好きに走れと言われ大逃げをかまして快勝。

ジュニア秋
出走レースを全てトレーナーに任せた結果見誤ってしまいクラシック路線へ。アルテミスステークスに出走し同じく大逃げをするが出遅れから失敗、それでも辛勝。

ジュニア冬
逃げの不安定さを危惧するトレーナーから先行、差し策をとるように指示される。一度は頷いたものの慣れない戦法に調子が下がりまくりホープフルステークスを回避。


クラシック春
弥生賞に出走。トレーナーの指示により差し策で走るものの惨敗。
日本ダービーに出走。今度は先行策を指示されたものの無視して逃げたが、躊躇いが祟り半端な位置取りにより惨敗。
現トレーナーと出会う。逃げで勝てるように努力すると確約を得る。

クラシック夏
レースを全て回避しトレーニングに努める。

クラシック秋←今ココ
神戸新聞杯に出走。スピードがカンストし、異次元の逃亡者として覚醒する。
エアグルーヴを突き放し天皇賞(秋)を快勝。その走りから一躍注目を集め、オークス秋華のティアラ二冠をとったエアグルーヴと二強と評価される。


勝手に走るタイプのサイレンススズカ

「スズカー」

「はい、何ですか、トレーナーさん」

「エアグルーヴ知らない?」

 

 

 ある日、私は昼にトレセンを歩いていた。

 

 トレセン学園では午前中に生徒への座学、午後はトレーニングやダンスレッスンになっている。朝早くから自主トレをするスズカみたいな生徒もいるし、ここの子達は自由時間なんか無いんじゃないかってくらい過密スケジュールで動いている。

 

 

 基本的に学園部分にトレーナーが赴くことは少ない。特に複数のウマ娘をもってるようなトレーナーはそんな余裕もないし、寮をはじめとして男子禁制の部分が多すぎるし。

 

 

「生徒会室だと思いますけど……何かご用ですか?」

「いや、生徒会に誰もいなくてね……コース許可の書類を出すだけなんだけど」

「走れるんですか!?」

「…………しまった」

 

 

 スズカのスイッチを入れてしまった。食堂に近い廊下は他のウマ娘の目も多い。ここで違うなんて言って、盾をとったウマ娘を凹ませてしまったら私がどんな目で見られるか。まだスズカのG1は一つだけど、天皇賞というのはそれだけの重みを持っているのだ。

 

 

「走って良いんですか? しかもコースで?」

「落ち着いてスズカ。これは違うの。誤解なの」

「それ以外でトレーナーさんがコースの使用許可をとる必要はありませんよね?」

「落ち着いて。ほら、ご飯を食べましょう? ね?」

 

 

 スズカを宥めつつ食堂へ。ウマ娘は超格安バイキング、人間はやや高めの食券制になっているので自腹を切らなければならない。まあ、スズカのG1勝利でボーナスが来てるから痛くも痒くもないけど。あ、今日の焼き肉ガーリックソースだ。これにしよ。

 

 

 ウマ娘が匂いを嫌がるので滅多に出ないメニューを貰いつつ、先に料理をとって席を取っているスズカのところへ向かう。

 

 

「それで、トレーナーさん。話を戻しますけど、コースの許可というのは……」

「はーいご飯を食べようね」

 

 

 

 ……実際のところ、コースの予約はもちろんスズカが走るためのものだ。しかし、少し理由が複雑なので言いたくないのだ。とりあえず食材をスズカの口に突っ込むことで追及をかわす。

 

 まず、何の力が働いたのか、今年の年度代表ウマ娘にスズカが選ばれた。ちなみにエアグルーヴと同列である。G1に三回勝ったエアグルーヴに影すら踏ませなかったのは大きい。

 

 教科書通りの抜け出しをするエアグルーヴと違い、スズカは逃げという圧倒的に不安定な作戦で勝っている。トレセンとしても世間としても、スズカの方にスター性を見出だしたのだろう。単純にエアグルーヴがメディアに冷たいというのもあるかもしれないけど。

 

 

 ともあれ、是非スズカを取材したいという声が多いのである。特に、走っている姿を見たいという声が大きい。

 

 

「トレーナーさん、聞いてますか、コースの許可を」

「はいはい。美味しいね」

 

 

 喋ってても口に物を入れられたらもぐもぐするしかない。私の焼肉定食が冷めちゃうけど、まあ走ることが懸かったスズカは怖いので安いものだ。

 

 

 そうそう、それで、取材の話だ。

 

 

「ところでスズカ、今度テレビの人が来て、色々とイベントを組んでくれるって話があるんだけど」

「はあ……んむ……んぐ……んぐ……それは、まあ、構いませんけど……どんなことをするんですか?」

「インタビューとかかな」

 

 

 そこで、スズカの写真や映像が欲しいという話が来ている。まあ、ウマ娘に肖像権は無い……無いというか、トレセンに来てる時点で一部を放棄をしている。だからまあ、許可は出すんだけど……じゃあ何を撮るのかって話になる。

 

 

「インタビューですか……上手く答えられるでしょうか……」

「心配なら練習しとく? そしたら緊張しないかも」

「ええと、緊張は大丈夫ですけど……」

 

 

 まあ、スズカを撮るならやはり走っているところだろう。それ以外でも良いけど、走ってる時以外のスズカは走ることしか考えていないし。走ってる時も走ることしか考えてないけどね。そういうことだから、撮影のためにコースを申請するわけだ。

 

 ただ、それをスズカに言うと、じゃあトレセン学園のためにちゃんと走りたいからランニングの練習をしましょう! とか言い出すに決まっている。だから黙っていないといけないのだ。なまじ言ってることはおかしくないのが腹立つ。

 

 

「じゃあ何が気になるの?」

「いえ、答えをどうしようかと……」

「……なるほど?」

 

 

 別に、そんな難しいことを聞かれるわけではないんだけど……走ることしか頭に無いから思い付かないということだろうか? 

 

 

「じゃあ……そーねー……速く走る秘訣とかは?」

「うーん……たくさん走ること……ですかね」

「なるほどね。じゃあ、普段のトレーニングはどんなことを?」

「んー……たくさん走っています……ね。あとは覚えてません」

「ふむ。そうね……普段はどんなことをしていますか? 趣味や休日の過ごし方などは」

「たくさん走っています」

「え? スズカ、休日走ってるの?」

「あっ……あの……は、走ってません。ちゃんと我慢してます……よ?」

 

 

 どう突っ込もうか考えていたけどもう良いや。ばっとご飯を掻き込んでお茶で流し込み、べしべしスズカの額を指で弾く。あぅ、わぁ、とか弱い悲鳴をあげるスズカ。

 

 

「スズカ。私言ったよね? 私の目の無いところで走らないでって。こら。この栗毛め」

「や、いぁっ、ご、ごめんなさい、つい我慢できなくてっ」

「このぽんこつ。おたんこだいこん。そうやって走る度に体を痛めるのがまだ解らないかい」

「あぅっ、ぅっ、だって、トレーナーさんが全然走らせてくれないから……」

「走らせてるでしょーが」

 

 

 先週なんか特に酷かった。結局こっちの望むトレーニングをしたのは七日中三日だけだったし。こちらとしては私が判断したトレーニング以外はさせたくないけど、調子が下がっちゃうのも困る。それに、私の生活はスズカのポテンシャルにおんぶにだっこだし尊重してあげる義務もある。

 

 だけどまあ、休日に走らせると突然三十キロ走りました! なんて言ってきたりするのでビビる。アホかと。いや、実際ウマ娘なら気付いたらそれくらい走ってるなんてこともあり得るというのがスズカ談。いやあり得ないでしょ。そんなわけない。

 

 

「このっこのっ」

「あっ、ごめ、ごめんなさい、許してくださいっ」

「もう勝手に走らない?」

「…………」

「このっばか栗毛っ」

 

 

 走れるからと言って走りまくっていたらすぐに足を痛めるのだ。しかもスズカは無意識とは言え悪路や坂路も平気で走る。走れりゃ何でも良いのかこのじゃじゃウマは。

 

 

「とにかく次走ったらこんなんじゃ済まないからね。今度こそ本気で怒るからね」

「はい……」

 

 

 しゅんとするスズカ。この会話ももう何十回目である。

 

 

「でもそれと今の話は関係ないたいっ!」

「このっ! まだ言うかこのっ!」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

「あ、エアグルーヴ。いたいた」

「ん……ああ、スズカのトレーナー。どうした、珍しいな」

 

 

 エアグルーヴは外の花壇にいた。スズカがここじゃないかと言ってくれたので、結果としてスズカに頼ったのは正解だったことになる。

 そういえばガーデニングか何かが趣味だったような気がするな。何となくイメージには合っている……いや、どうだろう。合っていないような気もする。

 

 

「……何か失礼なことを考えているな?」

「いえ考えてないわよ。はいこれ。これが用事だから」

「ん? ああ、解った。確かに受け取った……が、スズカは何をされているんだ……?」

「そりゃ猿轡でしょ」

「頭がおかしいのか?」

 

 

 スズカがマスクを少しずらし、その下の完全に塞がれた口を見せつける。彼女は昼食後、呻くこともなくただ歩いてついてきているだけだ。見る人が……というか誰が見てもどう考えてもおかしいのだが、まあエアグルーヴなら良いだろう。スズカがただのスターではないことを知っている。

 

 

「それをよく見てもらえれば解るから。今日はランニング禁二日目だから発作をおさめるのが面倒なの」

「何だと……なるほどな。解った。これはこちらで進めておく。担当はどこだ?」

「私はたづなさんから聞いたけど」

「よし。私からも会長に言っておく。お前も頑張れ」

「ありがとね」

 

 

 

「……スズカも挨拶しとく?」

「…………!!」

「……ほう」

 

 

 と、スズカが何か言いたげにしているので口を塞ぐハンカチを取ってあげることに。絶対余計なこと言うな、この感じだと。何かを訴えかけているもの。

 

 

「エアグルーヴ聞いて、トレーナーさんが酷いの、私はただ走りたいだけなのに、走るなって」

「はあ……おい。一応聞いておいてやるが、何についてどの程度強く禁止したんだ」

 

 

 ほら、言わんこっちゃない。救いとしては周りに誰もいないってことと、エアグルーヴも解ってて聞いてるってところ。本気で注意する気ならもっと怖い目をするからね。

 

 

「休みの日に勝手に走るなって言っただけだけど。もう何十回注意したか解らないくらい」

「お前が悪い。諦めろスズカ」

「うそでしょ……」

「いや、スズカが悪いでしょ」

 

 

 スズカでなくてもトレーナー付きのウマ娘が勝手に走るのはご法度ではある。もちろんほとんどのウマ娘は自分が疲れたら走らないし、走らない休み方を知っているのでそこまで厳しくは言われないけれど。スズカはちょっとね……

 

 

「お前に潰れられては困る。ジャパンカップに出るのだろう? 今度こそ差し切ると決めワタシもトレーニングに励んでいるんだ。体調管理は怠ってくれるなよ、スズカ」

 

「でも、この間の日曜日はとても風が気持ちよくてね、星もよく見えてて、しかもいつものコースがちょうど追い風で、どうしても我慢できなくて……それに、脚の調子がとっても良かったの。私もほんのちょっとにしようと思ったんだけど、あのトラックが私を追い抜いていってね、それが本当に嫌でつい本気になっちゃって、それで気付いたら夜更けまで走ってて……でも、ちゃんと次の日は元気だったし……」

 

「待て、場合によってはお前が法定速度を破っているだろうそれだと。スズカのトレーナー。何とかしておけ。トレセンから逮捕者を出すなよ」

「善処するわ。ほらスズカ。私は帰るけど、すぐにトレーニングだから着替えて集合だからね。プールだからね」

「やです」

「やかましっ。遅れないようにね!」

 

 

 何かまだ言っているスズカの声は、耳を塞げばもう聞こえてこないのだ。




覚醒が史実より少しだけ早いスズカさん。なお割を食ったマチカネフクキタル
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