走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

203 / 249
スカーレットはどこかオープンを走るとは思います。


露骨に匂わせるサイレンススズカ

 

「はあぁあぁああぁっ!!!!!!」

「…………ッ!!!」

 

 

 ある日。今日は普通にトレーニングの日。ブルボンとスカーレットが二人で並んで坂路を登ってくる。ブルボンはこれでスピードとスタミナが上がり続けるし、スカーレットに今足りてないのはスタミナなのでこれでちょうど良い。

 

 二人からは物凄い勢いで特別メニューにしろという圧がかかったが、私は強いトレーナーなので負けなかった。そんな簡単に担当に押し切られるようではトレーナーとして失格なのだ。ふははは。

 

 

「っあぁっ!!!」

「む」

 

 

 しかし素晴らしい脚だ。ストップウォッチ担当のスズカもどことなく嬉しそうにしている。他人を速いと褒めることはできないものの、圧倒的に自分が上だという自負があるので多少時計が上がったところで焦ったりはしない。

 

 もちろん、並んで走ったら一気にダメになるんだろうけどね。

 

 

「タイムは!?」

「+1.3」

「ぐっ……も、もう一回! もう一回お願いします!」

「良いでしょう」

「良くない。休憩ね。十分」

「……チッ」

 

 

 今舌打ちした? 怖過ぎ。

 

 

「休んだ後やって良いから」

「絶対よ」

「はいはい」

 

 

 最近のスカーレットは気合い乗りが非常に良い。スカーレットが良いということはブルボンも良くなる。この子達は一人高まり始めると呼応して全員やる気が高まるので何も悪いことはない。行き過ぎても私が止めれば良い話だし。

 

 ウッドチップに座り込みドリンクを呷るスカーレット。ぼちぼちトレセンにも人気が戻ってきたけど、まあこれくらいはみんなと同じようなものだし。疲れてるにしては座り方はお淑やかだし流石って感じ。

 

 

「次は私とやらない? ね? 良いでしょ?」

 

 

 そして人目など関係無く絡みに行くスズカ。こっちはこっちでもう少し隠せないの? 

 

 

「スズカはダメ」

「良いじゃないですか一回くらい。減るものじゃないんですから」

「あなたの脚の寿命は減るかもね」

「どうしてそんな怖いこと言うんですか……?」

「ごめん」

 

 

 それを言い出すとトレーニングもできなくなるし。すべては消耗とのトレードオフ。スズカは割と何歳になっても走ってそうだけど。

 

 しばらくゆっくり休んでいたところ、ブルボンがウマ耳をぴこぴこさせながら私に寄ってくる。今日はスカーレットがメインなのでブルボンにとっては負荷がとても軽い。あまり疲れていない様子で四つ足で近付いてきた。

 

 

「マスター。例の件ですが」

「あ、うん。今朝準備してきたから帰ったら作ろうね」

「ありがとうございます」

 

 

 競走寿命という常識に怯え始めたスズカはベンチで膝枕でもしてあげて、へにゃったウマ耳を無理やり立たせながら。ブルボンの言う例の件とは、ブルボンの実家からカタログギフトが贈られたことだ。本当に申し訳ないと思いつつせっかくなのでブルボンの欲しいものをと思って見ていたんだけど、そのなかのおせちセットをえらく気に入ったようで。

 

 

「じゃあ今日の晩御飯はおせちですか?」

「そうだねえ。あんまり単品で食事にするものじゃないかもしれないけど」

「というかちょっと遅いわよねたぶん」

「スカーレットさんは来ます?」

「絶対に行きます」

 

 

 こんなことを言うのは良くないけど、おせちは自分でも作れるので買う必要がない。じゃあみんなで作って食べようか、と言ったのが一昨日。材料を買って簡単に終わるように下処理等を済ませたのが昨日の夜から今日の朝にかけて。

 

 

「ステータス:『高揚』。調理方法のインプットも完了しています。お任せください」

「頼りになるわあ」

 

 

 縁起物だし、めったに食べないものだし、いつになくブルボンのテンションも上がっているような気がする。カタログギフトで何を買うかも一緒に決めたいね。流石にこの状態でコンタクトをとらないのは人間として終わっているし、シンプルにありがたいので久しぶりにご両親と挨拶をすることになるんだけど。

 

 

 そういえば、今年はスズカの親御さんから特に何も来なかったな。スズカ自身が何も気にしていないから私も気にしていなかったけど、何かあったんだろうか。休憩時間も終わり、二人が走り出したのでそれとなくスズカに聞いてみる。

 

 

「ああ、最近私がほとんど寮に帰ってないことがお母さんにバレたんです」

「うん」

「だからです」

「うん?」

「ん?」

 

 

 ……よく解らないけどまあ良いか! 会うたびスズカとの進展を聞かれるのも面倒だったし! 

 

 

「でも卒業の時は一回会うのが良いと思いますよ。それからのことにも関わるので」

「まるで結婚の挨拶ね」

「そうですよ?」

「うん?」

「ん? ……いたたたたたトレーナーさん痛いです耳が千切れちゃいます」

 

 

 変なこと言わないでよね。絶対にそういう関係にはならないから。確かにしばらく一緒に住むとは言ったしその件での挨拶はしないといけないけど、結婚とかじゃないから本当に。私はスズカとは結婚しないしマジで。

 

 意味不明なことを供述するスズカのウマ耳を引っ張って脚をばたばたさせる。その状態でもしっかりストップウォッチは止めてくれるスズカ。

 

 

「タイムは!?」

「+1.3」

「ぐぅ……ッ!」

「もう三本目よ。むしろ離されてないだけ上出来だと思うけど。相手は坂路のプロなんだから。ねえ?」

「はい」

 

 

 圧倒的に消耗が少なく見えるブルボンを撫で回す。尻尾をびゅんびゅんにして自慢げにしているブルボン。可愛い。

 

 

「バカ言うんじゃないわよ……私は一番になるの。誰にも負けないウマ娘になるのよ! ブルボン先輩にだって必ず勝つんだから!」

「そう……」

 

 

 流石だ。結局生徒会三人との併走も決まり、さらにやる気が漲っている。

 

 

 実際問題勝てはしないだろう。今のスカーレットでは一戦目ナリタブライアンもたぶん無理だ。エアグルーヴに勝つには明確に身体能力で上回るのが最低条件になる。あれは作戦勝ちできる相手ではない。彼女は速さ以前にレースが上手すぎる。

 

 それに、多少強くなったくらいでは──それこそ、GⅠを安定して勝てる程度のレベルではシンボリルドルフには勝てない。あれはスズカと同じ理外の化物だからだ。一回負けた後のナリタブライアンも同様。

 

 

 ただ、それでもスカーレットならそのうち並べるくらいにはなれると思う。これに関してはブルボンがそこに行ける確率より高いし、なんならそこに行かなくてはいけなくなる時が来る。何故なら──本人に言ったら怒られるが、ウオッカがそういう域のウマ娘になる可能性があるからだ。それに勝てれば良い。確固たるライバルというのはそういう意味では素敵よね。

 

 

「次行くわよ! じゃなかった、行くます、行き、行きますわよ!」

「もうめちゃくちゃじゃない」

「私相手に敬語を使う必要はありませんが」

「噛んだだけです!」

 

 

 四本目。感覚がバグってるけどこれでもかなり過酷なトレーニングのはずなのよね。ブルボンはかなり速度を落としているから平気として、スカーレットが平気な顔をしているのは普段のスパルタに慣れてしまったからか。悲しいなあ。

 

 

「……そろそろ一回走っておきますか? なんかトレーナーさん、今失礼なこと考えていた気がするので」

「……顔に出てた?」

「理事長の前でちゅーしますよ」

「どうしてそんな怖いこと言うの……?」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「んー……美味しい……」

「だってさブルボン」

「ありがとうございます。なますは私の担当です」

「そうなの。やっぱりブルボンさんは料理が上手よね」

 

 

 帰宅後。予定通りみんなでおせちを作って食べている。たぶん足りないと思うのでテーブルのど真ん中に大きめの鍋うどん。おせちを作ったのはスズカ以外の三人だ。

 

 

「私も作りたかったわ。一緒に」

「作れば良かったじゃない」

「いらないって言われたので……」

 

 

 料理が上手いのはスズカだけど、お手伝いが上手いのはスカーレット。行動が早いから。だから私はどっちでも良かったんだけど、ブルボンは確定で手伝うとして、正直三人は多い。というわけでスズカかスカーレットだったのだけど、走ることが絡まないとカーストが底辺になってしまうのが我らがチームの最年長、サイレンススズカである。何ならスズカは次の誕生日で二十歳になり、一方のスカーレットは中学生だというのにこの力関係はどうしちゃったの。

 

 スカーレットはお手伝いしたがりなので無事内定し、結果としてスズカは味見担当として時々呼び出されてはあーんされて感想を言って帰っていくという、まあ大体幼稚園児くらいの扱いだった。

 

 

「スズカさん、こちらもどうぞ」

「うん、もちろん全部食べるけど……よほど自信があるのね?」

「本日のため、インプットを完璧に行いました。ライスにも太鼓判を貰っています」

「そうなのねえ」

 

 

 自分の作った分を次々にスズカに差し出していくブルボン。ウマ娘じゃなかったら迷惑なくらいぐいぐい来ているが、もちろんスズカなら大丈夫。着々と食べ進めていく。一方、手伝いに終始したので渡せるものがなく悔しそうなスカーレットの頭を撫でる。

 

 

「助かったわスカーレット。本当に」

「別に……当然のことだし……」

「でも偉い。またよろしくね」

「ん……」

 

 

 ちょろかわ。少し加減があったブルボンと違ってスカーレットは相当疲れているはずなんだけど、それでも手伝ってくれたので実際偉い。助かったのも本当だし。一人で作れなくはないけど大変だしね。

 

 

「デザート食べる? アイスがあるけど。スカーレットから選んでいいわよ」

「にんじん……」

「良いけど……いつも思うけどあんなのよく食べられるわね。にんじんアイス。めちゃくちゃまずいと思うけど」

「トレーナーさんがおかしいです」

「人間の味覚は理解できません」

「アンタよくそれで美味しい料理作れるわね」

 

 

 めちゃくちゃ言うじゃん。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「トレーナーさん……次はいつ走って良いですか? 明後日ですか? 明日ですか? 今日ですか?」

「普通未来に行かない? そういうの」

「スズカさんは一昨日走ったはずですが」

「あれは許可を貰ったわけじゃないのでカウントしないわ」

「何を誇らしげに……いつでも怒れるんだからね」

 

 

 入浴権についてはスズカに権力が戻る。基本的に他二人は複数でも一人でも良いタイプなので、時間的にも長くなるので三人一人で分かれることが多い。これは私も恥ずかしいんだけど、私と入らないんだったら一人でも良いかあ、らしい。嬉しいやら何やら、たぶん洗う技術の話。湯船に浸かりぽかぽかのスズカと、私に洗われるのでただ座っているだけのブルボンを見ると解る。

 

 

「ブルボンさんだって私が走れたら嬉しいでしょ?」

「いえ特には。本質的には無関係ですから」

「そんな……良い後輩だと思っていたのに」

「以前スペシャルウィークさんからもお聞きしました。スズカさんは走らないことで際限なく強くなる可能性があるため、むしろ走らないでほしい、と。やや誤認も見られますが、概ね私も同意見です」

「そんな……スぺちゃんには後でお説教しておくわ」

 

 

 哀れスペシャルウィーク。でもあの子も本望でしょう。

 

 

「でも本当のことじゃない。宝塚を走るとして、またランニング禁をするわけでしょ? 今回はスペシャルウィークも直接監視に来るかもね」

「走るのやめようかな……」

「そんなに?」

「冗談ですよ?」

「スズカさんなら本気の可能性もあります」

「無いわよ。スペちゃんがあんなにやる気なのに」

 

 

 ブラッシングが終わったのでシャンプーへ。以前ブルボンがうきうきで買って来たシャンプーハットを着けて洗い始める……今思ったけど、お風呂の床で正座は痛くない? 

 

 

「無いけど禁止は三日くらいで良いですか? それくらいならギリギリ頑張れると思うんです」

「三日でギリギリは理性が弱すぎるでしょ」

「では仮に、禁止を自らの意思のみで達成したらマスターがスズカさんと結婚するとしたらどうですか?」

「なんてこと言ってるの」

「……一週間……ううん、十日くらいなら……でも……も、物凄い頑張れば二週間いけるかも……? でも十四日なんておかしくなっちゃうし……そう考えると十日ってのも長すぎるような……い、一週間でどうですか? トレーナーさん……何とかなりませんか……?」

「仮定の話で何を言ってるの」

 

 

 それを言われて私はどんな反応をしたらいいの。スズカをして二週間を悩ませるくらいだって喜べばいい? それとも、結局一週間しか我慢できないスズカの理性か私への好感度を嘆くべき? 

 

 

「一週間なら本当に頑張って我慢するので……いや、そうです、私の手足を縛って風も太陽も届かない地下に閉じ込めてくれたら誘惑が減って二週間いけるかもしれません。やってみませんか」

「やりません。お縄よ私が」

「二十歳になったら合意の上で……」

「言うほどそこまでして結婚したい?」

「誘惑に弱すぎませんか」

 

 

 シャンプーハット越しだし後ろからだから見られないけど、流石のブルボンも呆れているような気がする。この子結構ずばずば行くし仲良いと雑に扱うわよね。でもそれはウマ娘みんなそうか。スズカとマチカネフクキタルなんてその最たる例でしょ。スズカってば仲良い相手ほど話半分だからね。

 

 

「そもそも結婚しません。付き合うこともしません。スズカはいつか素敵な旦那様を見つけて幸せな家庭を築きスペシャルウィークかエアグルーヴあたりが友人代表スピーチをするのよ」

「トレーナーさんじゃないんだ……」

「ご祝儀くらいは送っても良いわよ」

 

 

 スズカのウエディングドレスを見たら絶対に泣くから式には行かないけど。

 

 

「では私とではどうですか?」

「は?」

「ブルボンは可愛いねえ。ブルボンにお相手がいなかったらね」

「待ってください。私の時と反応が違いますよね」

「ブルボンは可愛いけどスズカは可愛くないから」

「泣きます」

 

 

 嘘泣きを始めるスズカ。ブルボンのトリートメントを終えて浴槽に放り投げて、やっと私自身を洗う番だ。私の代わりにブルボンに軽いマッサージをしつつ、思いっきり唇を尖らせてこっちを睨むスズカ。怖い怖い。でも普段のスズカだろうが『異次元の逃亡者』だろうが今更スズカの圧が私に通るわけもなく、思ったより強い肩揉みにブルボンが全身を震わせたくらいで済んだ。おあ、うあ、と魘されつつも、スズカの力加減はそう簡単には崩れないから、かなり痛いマッサージで済んでいる。

 

 

「スズカさん。肩に深刻なダメージが」

「そこまで拒否しなくても良いじゃないですか。ちょっとした世間話ですよね」

「でも承諾したらそのまま流してくるでしょ」

「……しませんよ? とりあえずトレーナーさんが一生一緒にいてくれるってことは約束しているので、戸籍は些細なことです」

「スズカさん? スズカさん。鎖骨が、鎖骨が軋んでいます」

「そんな約束してないわ」

「私が結婚するまで一緒ですよね。なら一生です」

「スズカさささささささ」

 

 

 今度スズカ用のお見合いとか組もうかな。トレセンに掛け合ったら組んでもらえないだろうか。




トレーナーさんのヒミツ
実は、スズカに匂わされる度に心臓が破れそうになっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。