走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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レオ杯の追い切りやってて投稿遅れました。
無事オープンA突破です!


後輩をも利用するサイレンススズカ

「じゃあブルボンは坂路四本。55秒の14秒、インターバル30秒」

「オーダーを受理。直ちに遂行します」

「スズカは一本だけね。我慢できなさそうなら走らなくても良いからね」

「はいっ。走りますっ」

「即答かあ」

 

 

 年の瀬も近付いてきたある日。私は今日も二人を連れて坂路コースに来ていた。ブルボンがギリギリ走れるタイムの見極めも完了し、指示を出してひたすら走らせるだけの練習が続いている。

 

 本来ならブルボンとスズカはやるべき練習が違うが、二人とも何も言わなければひたすらくっついてくる。スズカ……は、まあそういう子だから。ブルボンは何を考えているか解らないままプールで座っていたりする。

 

 

 ブルボンの扱いやすさは本当にピカイチだった。もちろん私の比較対象はスズカだけだけど、言われたらすぐに練習を始めるし、話は黙って聞く。制御はしやすい、本当に。

 

 

 帰ってきて、息を整えすぐに走り出すブルボンと、案の定我慢できず二本目に入ろうとするスズカ。忠実だが目標を絶対に曲げない子と、目標はこっちに任せてくるが自由人な子ってこんなに違うんだねえ。

 

 

「トレーナーさん、もう一本……」

「だめ。だから言ったでしょ、我慢できないなら走らないでって。懲りないわねスズカも」

「だって、今日はこんなに走りやすい天気で……コースにも全然人がいないですし……」

 

 

 日が出てて適度に暖かいもんね。でも君、曇ってても眩しくなくて良いとか言ってたよねこの前。何でも良いんか? ん? 雨でも冷たくて気持ちいいとか言うじゃんか。

 

 

「スズカにはプールがあるでしょ。疲れちゃうじゃない。そっちがメインなんだからね」

「でも、見てください、私、もう走りたくて震えてるんです」

 

 

 寒いからじゃないの。

 

 

「上着着る?」

「……それは着ます。でも走ります」

「強情だなあ」

 

 

 ジャケットをスズカに手渡し、ふわふわと浮くような足取りで走っていってしまいそうなスズカの肩を掴んで止めておく。ごつんごつん後頭部をぶつけてくるが、もちろん許さないわよ。

 

 

「走りたいです……トレーナーさん……」

「はいはい。頑張ろうね」

 

 

 ブルボンが入ってもスズカの走りたい欲はまったく落ち着かない。落ち着くとも思っていなかったけど。おかげでブルボンにも何度も暴走を見られている。当のブルボンは一つも気にしていないようだから特に説明もしてないけど。

 

 

「はぁっ、はあっ、はぁっ……マスター、オーダーを遂行しました…… 」

 

 

 今回も、戻ってきたブルボンに、スズカに後ろから抱き付いている形になっているのを見られてしまった。もちろん彼女は気にする余裕なんか無いだろうけど。私が見れば解るのだが、次走ったら怪我をする可能性が高いほど体力を限界まで消耗している。

 

 

「どう?」

「スタミナは……大幅に減少、呼吸の乱れと四肢の震えの回復まで、およそ……およそ……およそ、二十二分ほどと算出……されま……す……」

「うん、歩けるだけ成長してきてるわ、ブルボン。昼トレーニングは終了ね。次は夜です」

「承知、しました……っ」

 

 

 だがこれで良い。普通ならこんなギリギリまで練習なんかできないが、私の力と彼女の根性があれば可能だ。ふらつきながらも私やスズカの少し後ろをついてくる。夜もひたすら坂路だ。少なくともメイクデビューを越え、秋まではこれで行く。彼女には何よりもスタミナが重要だ。あまりにも低すぎるし。

 

 

「スズカは今日はどうやって泳ぎたい?」

「走りたいです」

「日本語が通じない子ね」

「ブルボンさんはこんなに走ってるんですよ?」

「あれを見て羨ましいと思うの……?」

 

 

 あんまりにも倒れそうなくらいで、私もいつ手を貸そうかと考えているくらいなんだけど。というか同じことやったらスズカは壊れるからね。

 

 というかブルボンもなかなかヤバい。スズカと喋っている場合ではなく、まっすぐ歩くことすら覚束ない。一応並んで支えてやって、そわそわと背中を震わすスズカを見やる。

 

 

「同じ量を走ったら怪我するわよスズカは」

「ううん……怪我は嫌ですけど……でも、走りたくて……平地なら大丈夫ですから……」

「そういう問題じゃないから」

 

 

 ゆっくりプールに着き、二人は水着に着替えに行った。私も流石にスーツは不味いのでジャージに着替え、他にも練習をしているウマ娘を眺める。おっ、あれはサクラバクシンオーじゃん。あの子もトレーナーを捕まえたのね。

 

 正直な話、ブルボンがもしスプリンターとして適性を持っていたとして、短距離であの子に勝てる気がしない。絶対に無理だ。というか、あの子が短距離で負けたら桜の木の下に埋めてもらっても構わないよ。それくらい自信がある。

 

 

「お待たせしました、トレーナーさん」

 

 

 と、スズカが来た。本当に、いつ見ても惚れ惚れするくらい走るための身体って感じだ。まだ走ることに未練があるのか窓の方をちらちらと見ているけど、彼女は磨りガラス越しに何を見ているんだろう。

 

 

「ん。じゃあストレッチ。ブルボンは……うーん……少しなら行けるか。ブルボンもストレッチして」

「了解しました」

 

 

 ブルボンはまた、回復も早い。彼女を見るに、恐らく少しくらいのトレーニングは平気そうだ。身体が丈夫で根性があるって凄い。

 

 ブルボンは自分が後輩という意識が結構あるのか、自分からスズカに言ってストレッチを手伝い始める。良い子だ。非常に身体の柔らかいスズカを見ても驚くことなく、ぺたん、と胸が地面に着くまで押し込んでいる。

 

 

「スズカもやったげてね」

「ぁいー……」

 

 

 潰れたスズカの返事を聞きながらトレーニングメニューを眺め、しっかりスズカを鍛えないと、と私は決意を改めた。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「走りたいです」

 

 

 食堂にて、私達は三人で食事を取っていた。驚いたのはブルボンの食べる量である。ウマ娘平均のスズカより遥かに食べる食べる。あまりにも素早く大量に食べるので、途中からスズカと私は面白がって私のプレートのご飯をブルボンの口に運んでいた。

 

 

「だめ。この間走ったでしょ」

「二日前じゃないですか……そろそろ良いと思うんです。頃合いですよ?」

「そんなわけなくない?」

 

 

 交互にブルボンの頬におかずを突っ込む。箸を持ったままひたすらもぐもぐと咀嚼するブルボンを見て、スズカは唇を尖らせた。

 

 

「ブルボンさんは毎日走ってるのに……」

「スズカにはあの練習は必要無いからねえ。というか後輩をやっかんでどうするの」

「そういうわけでは……ん、後輩……?」

「そうよー。ちゃんとお手本にならなきゃ」

 

 

 私の指示を守ることについてはスズカがブルボンをお手本にしてほしいけど……なんて、頬がリスみたいになったブルボンへの餌付けを止める。スズカも箸を置き、何かを考え込み始めた。

 

 そして、はっと何かを思い付いたのか椅子を少しずらしてブルボンの隣につけると、そのままもぐもぐブルボンの肩に手を回すように近付いていった。

 

 

「ブルボンさんは後輩なのよね?」

「んぐ……んむ……んっ、はい。マスターの担当ウマ娘であること、入学順を考えてもその表現が妥当です」

「そう……じゃあ、私はトレーナーさんと仲良しだし、私もトレーナーさんみたいなものよね?」

 

 

 スズカが間抜けなことを言い出した。私達が一心同体なこととそれは関係無いよね? いくらブルボンが大人しくて忠実だからってそんなおかしなこと言ってもしょうがないでしょ。

 

 

「そんなわけないじゃん」

「オーダーを頂ければ従います」

「なんで????」

「やったぁっ」

 

 

 やったぁっじゃないんだけど。え? トレーナーは私だよね? 乗っ取られたの? 私。

 

 

「え? ブルボン? 何言ってるの?」

「これまでマスターとスズカさんを観察、分析した結果、お二人の精神的な距離、つまり、絆が大事なのではないかと考えられます。その状態を維持するために、お二人をほぼ同一視するべきと判断しました」

「ええ……?」

 

 

 だれかー。私のウマ娘おかしくなっちゃったー。取り替えてー。

 

 

 担当が何を言っているか解らない。それを聞いてうきうきでまた餌付けを再開したスズカの言葉も意味は解らなかったけど、ブルボンも何かを掛け違えているわよ絶対。直さなきゃ。

 

 

「ブルボン? 良いのよスズカの言うことは聞かなくても。ろくなこと言わないんだから」

「しかし」

「いやしかしじゃなくて」

「ブルボンさんは今日の夜一緒に私と走りに行きますよね?」

「はい」

「はいじゃないが」

 

 

 あまりにも雑で無理矢理なやり方に愕然とする。まあブルボンも直後に私がだめと言ったら引き下がってくれたけど、スズカがニコニコなのが怖い。いつブルボンを利用して走りに行くのか? というところである。

 

 ……というかブルボンには夜練習もあるし。走りに行ったって疲れてて見てるだけなんだから実質スズカのひとり旅でしょ。

 

 

「ブルボン、スズカのこれは無視して良いから」

「これ……以前から疑問だったのですが、スズカさんは何故走りたいのですか?」

「走りたいからですけど?」

「なるほど」

 

 

 何にもならない会話も繰り広げられ、食事を終えた二人はプレートを返しに行った。まあ、何だかんだ馴染んでいるというか……仲は良さそうで何よりだ。ブルボンもたぶん物事を深く考えるタイプじゃないし、スズカがまるで当然のように喋るとそれを簡単に受け入れられるんだろう。

 

 それに、天皇賞(秋)とジャパンカップはこれからブルボンが行く中長距離路線なら是非押さえたいレースだ。それを勝っている逃げウマ娘への憧れだってあるのだろう。

 

 ……たらればの話をするつもりはない。現実には負けたしそれは覆らないが、もしクラシックレース前に私と出会っていればスズカはダービーまでは勝てただろう。それは私だけの評価ではない。一部のクズなスズカファンはダービーの結果に文句を言っていて、その対応にトレセンも動いたほどだ。それも、ブルボンにとってスズカが憧れである理由の一つだろうね。

 

 

「じゃあブルボン、一旦休憩にはするけど、スズカを勝手に走らせたりしないこと。良い?」

「了解しました」

「ブルボンさん。でも私が走っているところ、見たいわよね?」

「はい」

 

 

 ………………。

 

 

「スズカ? 後輩を利用しないで?」

「トレーナーさん? 私は後輩のためふぇふふふぇっ」

 

 

 妄言を吐き既に勝った気でいるスズカの頬を両手で弄くりながら、私はスズカとゆったりとした午後を過ごした。ブルボンはずっと私達にくっついて、ひたすらにじっとそれを見ていた。

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