走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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脳が壊れるミホノブルボン

 

「実際どうなんですか?」

「何が?」

「新メンバーの話」

 

 

 委細省略。記録者、ミホノブルボン。本日マスター不在につき、エルナトメンバーのみでのトレーニング中です。私とスカーレットさんのトレーニングは終了し、スズカさんのみが逆さ吊り腹筋をしている状態です。

 

 筋力持続トレーニングであり、マスターの監視もありませんのであまり負荷は高くありません。スズカさんも重りやギプスは着用していませんし、特に話し方に違和感が生まれるほど負担でもないようです。

 

 

「入れないでしょ。トレーナーさんのことだし」

「へー……やっぱりスズカさんがいるからですか?」

「どういう意味?」

「手がかかるから……」

「そんなこと……ない、とは思うけど……」

 

 

 スズカさんが首を傾げます。マスターの手間……であれば、我々は皆通常のウマ娘に要する以上の管理が必要ですから、負担は大きいのでしょう。そのためにマスターが新たな担当を加入させられないのであれば、早急に改善する必要があります。

 

 

「そもそも入ってほしいの? 私はそんなに、増えてほしくはないけど……」

「どっちでも良いですけど……後輩がいると何か変わるんですかね」

「マスターの手間が増えるか、あるいは我々への管理に費やす時間が減るかのどちらかでしょう」

「減るのは確かに困りますけど」

 

 

 スズカさんのトレーニングが終了し、通常通りスカーレットさんが片付けを始めます。マスター不在時の後処理は当番制だったはずですが、いつしかスカーレットさんに全て奪われていました。スズカさんには報告等の役割がありますので、私だけ何もせずただいることになります。どうもこれではいけないとは思うのですが、事実として機械には触れられませんし、雑用についてはスカーレットさんが『やりたい』と言ってこうなっているのですから仕方がありません。今度マスターに直訴の後何かのタスクを頂きましょう。

 

 

「後輩がいるってのも成長に繋がるかなって」

「そうなの? たくさん走れば速くなるじゃない」

「スズカさんはそうかもしれないですけど」

 

 

 そのまま更衣室へ向かいます。ここでも一人だけ脱衣の早いスズカさんが、スマートフォンでトレーニングの報告をしながら呟きました。

 

 

「それにね、私も二人の時より過ごす時間が少なくなったなあって……思う……わよ?」

「なんで自信無さげなんですか」

「うーん……なんかよく考えると減ってないなあって……」

 

 

 普段通り体型について哀れまれつつシャワールームへ。衝立越しに真ん中が私、左側にスズカさん、右側にスカーレットさん。洗う順番は体、頭、顔です。

 

 

「二人のおかげでトレーナーさんの距離感が前より近付いたような気もするし。前より頻繁にトレーナーさんの家に泊まってるなあって」

「泊まるというか住んでるじゃないですか。スぺ先輩も何も言わないし」

「スぺちゃん、もう私のベッドをお泊りベッドだと思ってるから……」

「ブルボン先輩シャンプー終わりました?」

「終わり……ぁぅっ」

 

 

 し、視界エラーにより衝突……視覚器官から泡を取り除いて……ぐわっ。エラー、エラー……鈍痛……

 

 

「先輩!?」

「動かないで。今行くから」

「今行くからじゃないですから! 裸裸!」

「誰も見てないわ。見られたってウマ娘しかいないんだし」

「そういう問題ですか!?」

 

 

 スズカさんの助けにより視界回復。お礼と共にボディーソープを頂きます。リンスインシャンプーをスカーレットさんに渡し、彼女の持っていた洗顔フォームをスズカさんへ。

 

 

「今度シャンプーハットとか買う?」

「待ってくださいスズカさん。私が幼児同然であるかのように聞こえます」

「手遅れじゃないですか?」

「スカーレットさん?」

 

 

 幼児ではありません……オペレーション『一人でお留守番』も可能ですし、一人で真っ暗な部屋で眠ることもできます。自分の精神がライスやフラワーさんより幼いことは間違いありませ──いや、飛び級のフラワーさんより低いのはどうなのでしょうか……? 私ももう製造から十八年……いえやめましょう。私の性質も私の個性であるとマスターも言っていましたから。

 

 

「今度買いに行きましょうね」

「必要ありません。偶然です」

「いやそんな話じゃないんですよ。新人の話です」

 

 

 シャワーを終えて更衣室に戻ります。こちらもスズカさんの着衣が最も早いのですが、スズカさんは髪や尻尾が濡れている状態で風を受けると死ぬのでドライヤーの時間が異様に長くなっています。雨天走行は問題無いようですが、果たしてそこに何の違いが……? 

 

 

「うーん……まあでも、二人はともかく他の子が来たらたぶんもっと時間が減っちゃうと思うし、来て欲しくはないかな……」

「私達二人は良いんですか?」

「…………まあ、まあ。良いわよ。うん……」

「スズカさん?」

 

 

 黙り込むスズカさん。やはり我々は邪魔なのでしょうか。確かに、マスターの関心を三分してしまったことは間違いないのですが……スズカさんも、私達を後輩として認めてくださっていたと思っていたのですが……

 

 

「あっブルボンさん待って。違うの。本当に微妙なの。だから泣きそうな顔はやめて」

「何のフォローになってたんですか? 今の」

「違うの、トレーナーさんの時間が減ったのは間違いないし、二人のせいでトレーナーさんの傷が増えちゃったのは間違いないんだけど」

「何も違わなかったですよね?」

「でもその、それはトレーナーさんも解ってやってることだし、二人のおかげでトレーナーさんの鎖が増えたから、そこは感謝してるの」

「ええ……怖……」

 

 

 しばらくスズカさんの乾燥を待ち、チームルームに戻っていきます。幸運にも人気がありませんので、スカーレットさんも気を張らずに話すことができているようです。

 

 

「だから、追い出そうとかは思ってないから信じて? 本当に」

「何も信じられないんですけど……」

「あの、えっと……でもほら、ふ、二人も想像してみれば解るわ。チームメンバーが増えて、トレーナーさんが構ってくれなくなったときのこと」

「……いや、別に……」

「考えてみてブルボンさん。ブルボンさんなら解るわよね。ブルボンさん一人がメンバーとして、専属トレーナーとして接してくれるトレーナーさんのこと……」

 

 

 シミュレーション開始。チームメンバーの増加、マスターからミホノブルボンへの興味関心の低下を考慮するべく、現在の理想から修正を試みます。

 

 

 

 

『マスター。オペレーション『坂路5000兆本』を終了しました。バイタル、オールグリーン。問題はありません』

 

『凄い! 偉いわブルボン! 流石私の誇りの三冠ウマ娘よ! 褒めてあげるわ、こっちにいらっしゃい。さあブルボン、私の愛バね!』

 

『ありがとうございます──』

 

 

 

 ──なるほど。これは……

 

 

「でも、人が増えたらその時間が減るのよ」

 

 

 

『すみませーんトレーナーさーん! ちょっとご相談があるんですけど……』

『トレーナーさん! 練習見てください!』

『トレーナーさん! マッサージお願いしまーす!』

 

『あ。ごめんねブルボン。期待の才能溢れる後輩達のことを見てあげなきゃ。ごめんだけど一人でダウンしといて! じゃーね!』

 

『いえ、あ、あの……』

 

 

 

 …………???? 

 

 

 

「ブルボンさん? ブルボンさーん」

「あーあ、フリーズしちゃった。スズカさんが変な想像させるからですよ」

「再起動する?」

「ふふっ……あんまり機械には良くなさそうですけど……」

「まあ大丈夫でしょ。ぽちっと。シャットダウンっ」

 

 

 ミホノブルボン、シャットダウン。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「起動っ」

「ミホノブルボン、起動します」

 

 

 起動。バイタルチェック──正常。現状認識。ここは……カフェテリアでしょうか。

 

 

「あ、ブルボン先輩。パフェ買ってきたんですけど、デラックスとスペシャルとキャロットどれが良いですか?」

「キャロットで」

「じゃあこれどうぞ」

 

 

 目の前にキャロットパフェが置かれます。カフェテリアの看板メニューにして一番人気メニューです。スズカさんがスペシャル、スカーレットさんがデラックスを取って食べ始めます。

 

 

「何故カフェテリアに?」

「甘いもの食べたいわねって話してて。ちょうどブルボンさん倒れちゃって、近かったから……」

「倒したのはスズカさんですけどね」

「でもこれで解ったでしょう。人が増えるのは大体嫌なの。例外はあるけど」

 

 

 ……甘くて美味しいです。

 

 

「じゃあ後輩無しですか……? ちょっと楽しみにしてるんですけど私。後輩への指導とか、一緒にトレーニングとか」

「スカーレットさん、それは……」

「私の指導能力が低いと思われるのも嫌ですし」

「……そうよね、スカーレットさんはそういう感じよね」

 

 

 普段の発言権や行動の決定権はそのほとんどがスカーレットさんに支配されています。私は自発的な行動を得意としていませんし、スズカさんも一定の事項の他は興味を持っていませんから。

 

 しかし、新メンバー勧誘はスズカさんにとってその『一定の事項』に該当するといえます。よって、スズカさんが拒否している限り、新メンバーは加入しないのでしょう。マスターも、スズカさんの意思に反することはしません。

 

 

「後輩を教え導く素敵な先輩って良くないですか? そういうのに憧れますよね。身近にはいないので」

「私は……?」

「導かれたとは思ってますけど教えられた覚えはないです」

「スカーレットさん。私は教えています」

「勉強をですね。レースの話をしてるんです。そもそも勉強も全部覚えろとしか言われてないですよ」

 

 

 む……定期試験であれば、教科書と授業のノートを全て暗記すれば問題はないと思いますが……

 

 

「また体験とかできないですかね」

「良いけど……耐えちゃう子がいたら困るわ。二人みたいなのはそうそういないと思うけど……」

「でもみんなで厳しくやるってことなら私達無制限に走れるんじゃないですか?」

「っ……そ……ふーっ…………」

 

 

 葛藤するスズカさん。私とスカーレットさんのトレーニングに他のウマ娘がついてこられるはずがない、という確信はあります。スズカさんも理解してくださっているでしょう。

 

 つまり、一時的にメンバーが増えようが、恐らくは脱落するでしょう。しかし万が一、耐え得るウマ娘がいたら参加することになります。マスターのトレーニングとそれに耐え得る身体があれば結果は残せるわけです。私ですら三冠ウマ娘になれたのですから。

 

 

「スズカさん?」

「今すぐ電話するわトレーナーさんに」

 

 

 スズカさんは本当に電話を始めました。したり顔で胸を張り、スズカさんのパフェを掬うスカーレットさん。何だかよく解りませんが、とにかく特別メニューの実施ができそうです。素晴らしい。

 

 

『い、いきなり何? 今ちょっと会議終わりで急いでるんだけど。長引いちゃってちょっと……』

「体験を許可してくれたらお手洗い行って良いですよ」

『意味が解らない……突然何?』

 

 

 今のうちからカロリーを大量に摂取しておきましょう。さしあたってはお代わりのパフェを注文します。太り気味……は、怖いので控えめに。大阪杯もありますから。




次回か次々回、桜花賞。
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