走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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不自然に感じたあなたは自然です。


幸せを掴むサイレンススズカ

 

 ある日。久しぶりにスズカと二人きりで、家でゆっくりする時間がとれていた。つい最近炬燵を片付けたリビングで、ソファに座る私の膝に寝転ぶスズカ。流れた髪を指に絡ませつつ、さして興味もないテレビを眺める。今日も変わらず、ゴールデンタイムはグルメかクイズが多かった。

 

 

「スズカこれ読める?」

「『きょなん』ですかね」

「へー……よく読めたものね」

「そういうサービスエリアがあるんですよ。一回行ったことあるので」

「……千葉にあるらしいけど。しかも田舎の方じゃない? これ」

「日本に私が走っていないところなんてほとんどありませんよ」

 

 

 よく考えるとかなり恐ろしいスズカの台詞は流して、マグカップのはちみーを少し。スズカも欲しがったのでストローを入れて差し出す。そろそろ飲み終わりそうだし、お代わりを取ってこないと。

 

 

 まあ、私と出会ってからも頻繁に走っているし、出会う前はそれに輪をかけて走っていたわけだから、まあギリギリ理解できなくはない。それにしても、とは思うけど。

 

 

「それよりトレーナーさん。明日なんですけど、お日柄も良いので走ってきても良いですか?」

「明日は仏滅だけど」

「でもフクキタルは縁起が良いって言ってましたよ」

 

 

 番組をほとんど見ず、そこそこ流れの速いウマッターを眺めるスズカ。仲の良いウマ娘や交流のあるウマ娘、それから謎フォロバにより厳選された一部のヒト。そのおかげか、彼女のタイムラインはインターネットにしてはやたらと治安が良い。

 

 たまに返信をしたりしなかったり。友達には割と返信をするようにはしているらしいが、まあ、そちらは別に個別に連絡先を知っているわけで。どちらかといえば、ウマ娘同士がパブリックで交流を持っていることそのものがファンサの一種なのかもしれない。

 

 

「あの子神社の娘でしょ? シラオキ唯一神じゃないの?」

「フクキタルは割とオカルトなら何でも良いと思ってるので良いんじゃないですか」

「そんなことある?」

「神社で神様面する子ですよ。今さらです」

「辛辣ゥ」

 

 

 まあ、お互い迷惑をかけあってるんだし構わないか。どっちが正しいとは言わないけど、少なくとも彼女らはこれで良いんだろう。ところで、凄く自然に言ったけど、この子明日レースなのよね。

 

 

「じゃあ明日レースだからってトレーナーさんに何かあるんですか? 言っておきますけど、控えろとか言ったらいくら私でも怒りますよ」

「言うわけないでしょ。普通に走れば勝てるのに作戦を立てて歪めてどうするの」

「……んふふ。ですよね」

 

 

 そう言わせたいだけでしょ、とは思ったがぐっと飲み込む。可愛いので大体のことは許せるし、スズカも私のことが大好きなので許してくれる。ちら、と目線だけでこちらを見上げる彼女に胸がくすぐったくなった。

 

 

「好きに走りなさい。あなたが一番速いんだから」

「……ん、良いですよ。ランニングの許可をくれたら許してあげます」

「ああ。それでも無条件では許してくれないんだ……ん? 今私何かした? 何も悪いことしてないよね?」

「バレた……」

「バレた、じゃないのよ。適当に押し切ろうとしないで」

 

 

 まあ、何の心配もいらないだろう。スズカのことだ、負けるはずがない。何がどうあれ、速度そのままに走るだけで誰も追い付けないのだ。背中からうなじ、後頭部まで丁寧になぞって撫でる。そのまま起こすと私の首に腕を回し、再び私ごと寝転がる。

 

 

「いくらでも言ってほしいですから。明日のレースも私は勝てますよね」

「もちろん。絶対に勝てるわ。スズカだもの」

 

 

 ご機嫌に口角を歪めるスズカ。んふふ、と笑う彼女に口付けを落とす。優しく私の頬を挟んで数秒受け入れると、彼女はそのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

 ────

 

 

 

『──あ、ご、ゴールイン! 今ゴールインしました! 一着はサイレンススズカ! サイレンススズカです! 後続はいまだ最終コーナーを抜けたところ! 信じられません! 歴史に残る大差となりました! タイムオーバー対象者がいないことが幸運とも言えるレースでした!』

 

 

 翌日。スズカはあまりの大差にレース中盤から実況が黙り込んでしまうほどの圧倒的な力を見せつけ、全てを置き去りにしてGⅠをぶっちぎった。後続がまだ走っているなか観客から拍手で迎えられる異次元の逃亡者を、私は涙ながらに眺めていた。

 

 

「トレーナーさんっ」

「スズカ!」

 

 

 歓声すらあがらない、風の音しか存在しないターフを駆け抜けたスズカが戻ってきて、扉を開けるとすぐに私に飛び付いた。その勢いで鼻先をくっつけ、唇を軽く合わせてから、ドキドキと身体が跳ねるような鼓動を腕のなかで落ち着ける。大逃げ直後のスズカの体温で私の心臓は煩くなるけど、それはともかくとして。

 

 

「気持ち良かったです……」

「良かった。素敵だったわスズカ。惚れ直した」

「ふふ……良かったです、私も大好きですよ、トレーナーさん」

「もちろん、私も。大好きよスズカ」

 

 

 少し崩れた化粧がスーツに付いた。人目につくからあまり派手なことはできない。だけど、さっきの走りを見て、やっぱり私はスズカのことを愛していることに気付いてしまっていた。今すぐに拐ってしまいたい。ライブでのファンサービスすらもやもやするくらいに。

 

 

「……? どうしました? トレーナーさん」

「ううん。何でもないの。でも……スズカ。今日は夜、どこかに出掛けようか」

「…………はい。楽しみにしていますね」

 

 

 だけど、スズカは私のものだ。誰にも渡せない。

 

 

 ────

 

 

 

 スズカとの夜のデートは、結構早くに終わることが多い。彼女はお酒が飲めないし、夜になれば行けるところも限られてくる。食事も私とは量が合わない。

 

 

「~~♪」

 

 

 だから、少し遊んで、ご飯を食べて、その後はこうなる。お気に入りのランニングウェアに身を包み、準備運動をするスズカ。しなやかで細い身体が伸び、縮むたびに期待にウマ耳がぴこぴこと振れる。

 

 フリーランニングだ。やはりこれが一番良い。スズカはたくさん走れて幸せ、私もスズカが幸せで幸せ。誰も損をしない。

 

 

「じゃあ、行ってきます、トレーナーさん」

「ん。気を付けるのよ」

 

 

 頬にいってらっしゃいのキスをして、アスファルトを抉って駆け出す彼女を見送った。一瞬遅れて吹き荒れる土埃に身体を持っていかれそうになりながら、一歩目からトップスピードの天才を見ながら、私は車のトランクを開けた。

 

 

 

 ────

 

 

「あ、トレーナーさん。やっと来た」

「速いのよスズカが。これでも飛ばしてきたのよ」

「気を付けて運転してくださいね」

 

 

 あなたに言われたくない、と額を小突く。夜景の見える小高い丘のベンチに、スズカは座って待っていた。隣に座る。

 

 

「長生きしてほしいですからね」

 

 

 たらふく走った後だからか、普段の数百倍可愛い。上気した頬、静かに上下に揺れる肩、囁くような声。やっぱりダメだ。私、この子が好き過ぎる。

 

 ──本当に、あなたのことを愛してる。

 

 

「ねえ、スズカ」

「はい」

 

 

 ばくん、ばくん、と暴れる心臓に気付かれないように、スズカには触れない。少しでも冷静に見えるように大きく息を吸った。

 

 

「結婚、しようか」

 

 

 

 

 

 

「……やっとですか? 私、ずっと待ってたんですけど」

「……うん、ごめんね」

 

 

 言いたいことは言えたから、今度はぎゅっと抱き締める。すぐに、スズカも手を回して抱き返してくれた。そして、思った以上に軽く頷く。

 

 

「じゃあ、結婚しましょう」

「……スズカ、私、重いよ」

「良いですよ」

「凄く束縛するよ」

「良いですよ」

「すぐに嫉妬するよ」

「良いですよ」

「スズカが私のことを嫌いになっても、私はずっと好きでいるよ」

「嫌いになんてなりませんよ」

「一生スズカの隣にいるよ」

「良いですよ。……まだ、何か言いたいことはありますか」

 

 

 

 

 

「あなたを愛しているわ、スズカ」

「はい。私もですよ」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「おいで、スズカ」

 

 

 スズカに手招きして呼び止める。まさか、そのまま寝られると思っていたのだろうか。

 

 

「……その、一回良いですか? 埃っぽいですよ私」

「それでも良いの。早く来てスズカ……待ちきれないの」

「しょうがないですね……ふふ。悪い人ですトレーナーさんは」

「スズカが可愛いのが悪いんでしょ」

 

 

 手を引いてベッドへ引き込む。薄暗い自室。超至近距離に来るまで表情ははっきりとは見えない。だけど、息がかかる距離で向き合えば、柄にもなく照れで顔を赤らめるスズカの姿が映る。ぷちん、と脳内で何かが切れる音がしたその瞬間! 耳を貫く轟音と共に窓ガラスが割れ、数人のウマ娘がもつれるように飛び込んできた!!!! 

 

 

「!?」

 

 

「スズカさん!!!!!!!! 今日のカフェテリアのパフェはメロンですよ!!!!!!」

「スズカ!!!!! おいスズカ!!!!!! 見てくれ!!!! 綺麗な花が咲いたんだ!!!!! 見ろ!!!! 

「た゛い゛へ゛ん゛て゛す゛スズカさん!!!! 今日のスズカさんは大吉です!!!!! 全てが上手くいく素晴らしい日ですよ!!!!!」

「しゃいっ!!!!!!!!!!!!」

 

 

「!?」

 

 

「スズカ見て!!!!! ほら!!!!! 結婚式しよ結婚式!!!!!!」

「結婚式!!!!????? マスター!!!!!! 余興モードに移行します!!!!!!!!」

「余興も私が!!!!! 一番なんだから!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

「!?」

 

「あ、起きた。どうしたの? 珍しいわね、スズカが魘されるの」

 

 

 四月も一日、早速春の温度が部屋を包み、暖かな小春日和の中でうたた寝をしていたスズカが、突然にぱちんと目を見開いた。さっきまで顔をしかめていたのだけど、悪夢か何かからやっと脱出できたって感じかしらね。

 

 

「……!?」

 

 

 私の膝で寝て起きて、まず辺りを見回すのは今までにない行動ではある。普段はまず私の方を見るからね。

 

 

「……あの、トレーナーさん?」

「ん?」

「えっと……ん、ん? あら? んー……」

 

 

 何かを語ろうとして、忘れてしまったのか首をかしげるスズカ。コーヒーでも飲む? と差し出すも、やはり砂糖を入れていないものは拒否されてしまった。というか、飲む余裕すらなかったきらいすらある。

 

 まあでも、顔をしかめるといっても苦しんでいる様子ではなかったし。よく友達に振り回されている時の可愛い困惑顔だったから、起こさずに眺めてしまっていたわけだし。

 

 

「どうしたの?」

「……何でもないです。ちょっと……はぁ……ごめんなさい、走ってきます……」

「え? ダメだけど」

「お願いしますぅ……」

 

 

 何やら疲れきったような顔でねだってくるスズカ。これは珍しい。欲望が感じ取れないまである……なんかちょっと怖いかも。今日は特別に許可しようかな。

 

 

「夜遅くなる前に帰ってくるのよ」

「あ゛ぃ゛……」

 

 

 走れるというのにテンション低めのスズカ。普段からは考えられないスピードで着替えて、そのまま部屋を出ていった。どんな夢を見たらそうなるの。相変わらず何を考えているんだか……

 

 ……スズカが何を考えているか解らないって認めるの嫌だな。スズカのことだもんな。親を除けば世界で一番私が詳しい……ああ恥ずかしい。何言ってるんだろ私。仕事しよ。




次回、桜花賞。
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