走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「スズカさんは誕生日はどうします? 三日後くらいにしますか?」
「え?」
ある日。トレーナールームにて、いつも通り三人が話していた。ブルボンもスカーレットもトレーニング後だが、今日のはそこまで過酷なものではなかったので普通に過ごしている。
スズカの誕生日は明日だ。明日でスズカは20歳になることになる。出会ったときは16だか17だったのだから、私も歳をとったものね。
「普通当日とかじゃないの……その質問って」
「サプライズとかね。まあ、スカーレットもブルボンもそんなことできるとは思えないけどね」
「どういう意味よ、それは」
二人とも嘘をつけないタイプだし、ちょっとカマをかけたらすぐに自白しそうだ。態度にも異様に出やすいし。スズカだったらたぶんずっと表情を変えずにいられるんだろうけどね。
「スズカさんを祝うのにサプライズや当日は適切ではありません」
「そうかしら……別に、サプライズは嬉しいわよ、私」
「当日にサプライズを仕掛けても、トレーナーとの約束があったらそのまま帰りそうですし」
「二人の中でのスズカはどうなってるのよ」
ええ……と後輩からの扱いに困惑するスズカ。恨めしげに私を見るけど、絶対に私のせいじゃないから。ムカつくので強めに抱き締めておく。むぎゅ、と奇声をあげて私の胸に突っ伏すスズカ。
「ほわわなわわ」
「抱きつきながら喋らないで」
「ぷは、別に、そんなことないと思うけど……」
「じゃあ仮に私達がこれからスズカさんのお誕生日パーティーを開くっていったらどうするんですか?」
「……誠心誠意謝るけど」
「ほら」
既に今日の夜から私とお酒を飲む約束をしているスズカ。別にそれはパーティーを優先してほしい。友達失くすわよ。
「でも、それと最初からやらないのは別だと思うわ。私だってちょっとは傷付くのよ」
「絶対傷付いてないですよね」
「そんなことないわ。だからいつもよりトレーナーさんにくっついてるの」
「平常時と比べれば誤差程度の違いしかありませんが」
ボロクソに言われ私に再度強めに抱きつくスズカ。可哀想なのでそのまま頭をぽんぽんと撫でる。表情は見えないけど、尻尾は普通にご機嫌に振られているから本当に一切傷付いてはないんだろうな。
「みんな思ってますよ。誕生日当日と翌日はトレーナーと過ごすからスズカさんを誘っちゃいけないって。だからたぶんみんな何もしないと思います」
「えぇ……ちょっと、みんなに聞いても良い? 一人くらいいるでしょ、当日に色々企画してくれている人」
「その場合スズカはそれを断る前提で聞くのよね? どういうつもり?」
そしてそんな人いるのかな。まあ一人くらいいるか。スズカはこれで人望に溢れているし、交遊関係はかなり広い。スズカに限らず強いウマ娘はみんなそうだ。時々嘘みたいなところから意味の解らない交遊関係を見せてきたりする。
その中には一人くらいいるでしょ、当日にスズカを祝ってくれる人が。いなかったら面白いもん。
「あと翌日は関係無いでしょ」
「え? 二十歳になったらちょっと強気に行くってってスズカさん言ってましたよ」
「あっ、内緒、スカーレットさんそれは内ぶぶぶぶぶぶ」
「調子に乗らないでねマジで」
そして強気に行くって何よ。強気に来た結果何が起こるの。胸元にスズカを何度も叩きつけ黙らせ、何となく抱きついているとまずいような気がしたので床に投げ捨てる。当たり前のように片手で着地してアクロバットにジャンプするスズカ。
何となくにまにましてるような感じがするのがムカつく。言っておくけど何もないから。絶対に。私は理性と良識のある大人なので、未成年に……あっ未成年じゃなくなるんだった、教え子に手は出さないから。元教え子でも。
「スペちゃんに聞いてみましょう」
「聞くだけ無駄だと思いますけどね」
思い悩む私をよそに三人で並んでスカーレットのスマホを囲み始める。本当にスペシャルウィークに連絡をしている。まあ実際そんな人いないでしょ。
大多数が私とスズカが二人で過ごすと思っているだろうしね。実際私にとってスズカは一番の存在だし、今現在においてスズカにとっての私もそうだと信じている。
……そもそも、仮に私と過ごさないにしても、スズカが誕生日プレゼントでランニング権を貰って走り回っていることを予見できない子はスズカの友達にはいないだろう。百歩譲って私との時間はまあ断る可能性もあるが、フリーランニングをスズカが捨てるはずがない。
『もしもしスカーレットさん? どうかしました?』
『スペ先輩、ちょっと良いですか? 聞きたいことがあるんですけど』
ウマ娘の通話はビデオ通話がほぼ全てなので、気付かれないようにちょっとだけ隠れるスズカ。さもスカーレットとブルボンだけで通話をしているかのような状態だ。特に話す必要もないしスマホも触れないのでやることがなく小さく手を振るブルボン。可愛い。
「明日スズカさんにサプライズパーティーを仕掛けようと思ってるんですけど、スペ先輩参加します?」
『え? 明日? スズカさんの?』
「明日誕生日じゃないですか」
『それは知ってるけど……え? 当日? 当日はやめた方が良いんじゃない? スズカさんの予定が埋まっちゃってるでしょ』
ほらね、とスズカに黒目だけ向けるスカーレット。いつも通りの営業スマイルのままだが、ちょっと勝ち誇りが滲んでいるような気がする。
「そうですか? 暇そうですけど」
『……? いや、トレーナーさんと過ごすでしょ……? どうしたんですか? スカーレットさん、体調でも悪いんですか?』
「あっ、いえ、そ、そうですよね、わ、解ってますよ~」
『今さらそんなこと気付かないわけあります?』
スズカへの信頼が厚すぎて遠回しに聞くことすら若干成立していないじゃない。スペシャルウィークが人を疑うって相当のことよ。
『明日はチームで遊びに行く約束しちゃってるんですよね。スズカさんは何か……三日四日経ってからで良いかなって』
「で、ですよね~、あはは……すみません、つまらないこと聞いちゃって」
思った通りなので嬉しいが、それはそれとして、まるで自分がスズカのことを理解していないかのような扱いをされたのは不満であるらしいスカーレット。電話を切ると、ふう、とストレスを発散したあと、スズカに笑いかけた。
「ほら」
「ま、待って。スペちゃんはあれよ、結構私に冷たいところあるし……」
「そうですか? あんなに好き好きオーラ出してる人もそうそういないと思いますけど」
「そのスペシャルウィークをして冷たくさせるスズカが悪いんじゃないの……ぐえっ」
「余計なことを言わないでください。最近寮長にも言われたんですからね。そろそろ部屋を明け渡しても良いんじゃないかって」
それは私悪くないでしょ。これまで一度だって、スズカを家に招いたことはないんだから。私は三人がうちに来たいというなら止めないし、いつまでいても怒りはしないけど、積極的にうちに来なさいとは言わないわよ。
私にクッションを投げつけ、ちょっと悔しかったらしく次を指定するスズカ。次はエアグルーヴにするらしい。もっと無理じゃない?
────
『え? うん。当日はトレーナーさんと過ごすかなって。違った? ごめん、予定入れちゃったんだけど……』
「あ、いえいえ、トレーナーと過ごすと思います、大丈夫です」
エアグルーヴ、マチカネフクキタル、メジロドーベル、メジロブライト……名だたるスズカの友達に連絡を取り、スマートファルコンまで行ったところで、何と誰もスズカの誕生日を当日に祝おうとしていなかったことが判明した。
つまりこの子、私との予定が無かったら一人ぼっちの誕生日になっていたということ。みんなと仲が良さそうで何よりね。
「こんなのおかしいわ……ひ、一人くらいいてくれたって良いじゃない……」
スズカもスズカで傷付いているんだかいないんだか。ちなみに、当日に祝わない理由としては走るだろ二人、トレーナーと過ごすだろ四人であった。
「私達が正しかったようですね!」
「当然です。スズカさんの理解に不足はありません」
「ぁぅ……トレーナーさん……」
「はいはい」
いや傷付いてないわねこの子。声はちょっと落ち込んでる様子だけど、普通にいつも通りに抱き付きに来たし。肩にずりずりと頭を擦り付けるスズカ。ぽんぽんと背中を叩いて慰めるふりをしつつ、スズカを弄って楽しそうなブルボン達にも声をかけておく。
「ちゃんと祝ってもらえるんだから良いじゃない。ねえ?」
「それはもちろん。まあ、相変わらずプレゼントだけマジで思い付かないんですけど」
「それは私もそう」
「トレーナーさんは婚姻届で良いですよ」
「ぜっっっっっったいに嫌」
「はっきりとした声……」
適当なことを言いおってからに。そもそも、それがプレゼントになるなんて思い上がりも甚だしいでしょうが。私だったら嫌ね、そんな奴。いやまあ……物凄い好きな相手にされるなら……いやでもそれでもキツいかなあ……。
実際今年の誕生日も悩んではいるけどね、私も。二人よりも数段悩んでるし、最終的には何かこう、高級テールオイルとかにしておこうかなって結論になったわね。
「何も無くて良いですよ。欲しいものもないですから」
「だから、何回も言ってますけど、そういうわけにはいかないんですって。私はブルボン先輩とは違うんですから」
「待ってください。私のことを何だと思っているんですか」
スズカが基本的に何かを要求することはない。ウマ娘への無難なプレゼントにランニング用品があるものの、トレーニング用品は絶対に私の財布から、企業を支えるための出資はスズカの財布から、と徹底しているので、友人から貰いたいものが無いわけだ。それに、スズカはこだわりが強すぎるので下手に渡しても使われないことをみんな解っている。だから毎年意味の解らないプレゼントを貰うことになる。
「大丈夫よスカーレット、どうしてもあげたいなら適当な小物でも買ってあげて。あってもなくても変わらないようなやつ」
「まあ、そうですね、開運グッズよりはその方が良いですね」
「フク先輩はまだそんなもの渡してるんですか?」
「いっぱいあるわよ。私の運を吸い取りたいんだって」
「動機が不純過ぎませんか」
そろそろ六時か。門限もあるし、解散かな。今日はこの後病院の予約が入っている。スズカ達ウマ娘は夜間の予約も受け入れて貰えるのが便利で良いわね。今日の通院目的なんて一切トレーニングには関係無いんだけど、それでも特別扱いだ。
「じゃあスズカ、行きましょうか」
「あ、はーい」
「二人も早く帰るのよ。あと変な邪推をしないようにね。普通に明日も登校するから」
「まだ何も言っていませんが」
「二人はそういう邪推をしそうだから釘を刺してるのよ。特にブルボンはそれに加えてデリカシーもないから。ライスシャワーあたりに変なことを吹き込みそう」
「……心外です」
日頃の行いを恨むのね。
────
「じゃーん。貰ってきましたよ、トレーナーさん」
「あら早い。スムーズに終わったのね」
「ですね」
その後、病院にて、ロビーで待っていると、診断書を貰ったスズカがにこにこで戻ってきた。
「楽しみですね」
「そうねえ」
本来、ウマ娘には毒が効かない。アルコールもその一つで、余程の……火がつくような度数のものを大量に一気飲みでもしない限りは酔うことはない。だから、酔おうと思ったらそういうお酒を飲むことになるが、それだとヒトと同席したときにお酒の取り違えでヒト側が死にかねない。
そこで、病院で検査を受けたうえで、アルコール耐性を下げる薬が貰えるのだ。三ヶ月に一回検査を要するのでそれなりに面倒なんだけど、逆に言えばそれだけでヒトのお酒で楽しめるようになる。それでもかなりお酒には強くて、ほろ酔いまでは早いがなかなか潰れない、くらいの耐性に留まるけど。
「じゃあ行きましょうか。どんなお酒が良い?」
「そうですね……トレーナーさんはどんなお酒が好きですか?」
「うーん……まあ、割と味の少ないやつというか……お酒の味がするやつかな……」
処方箋を受けとり、スーパーに寄ってお酒を買いながら。色んな種類を買うのは当然として、おつまみをたくさん買い込んで、適時料理も作れるように食材も補充しておく。
「じゃあ私もそうします」
「合わせる必要はないのよ」
「これからずっと合わせることになるんですから、同じものを好きになりたいじゃないですか」
「……そう」
可愛いことを言うスズカの頭を撫で、くすくすと笑わせる。車に戻りつつ、携帯の電源を切った。いっぱいのエコバッグを抱えたスズカが、ご機嫌にウマ耳を揺らす。たたたん、と膝を叩いて出発を急かされた。
「……ちなみに、本当に外のお店じゃなくていいのね?」
「今さら何を言ってるんですか?」
怖いって、スズカの微笑みが。
「トレーナーさんと二人が良いんです」
ブルボンか、スカーレットか。今からでも良いから、私の隣にいてくれないかな。私が変なことをしてしまわないように。
行くぞおおおおおおおおお!!!!!!!!