走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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力押しするサイレンススズカ

 

「ぁー……トレーナーさん……」

「何」

「気が狂いそうです……」

「特に理由もなく狂気に落ちるのはやめて」

「大変そうですねえ」

 

 

 ある日。台風が近付いてきた東京では、既に結構な雨が降っていた。この天気では何もできない……となるのは私のような意識の低い人間だけで、ウマ娘達には格好の室内トレーニング日和になっている。

 

 エルナトでも例に漏れず、三人娘は筋トレのためにマシントレーニングを終えたところ。トレーニングは真面目にやってくれることに定評のあるスズカが、帰宅した瞬間騒ぎだした。

 

 

「大変どころじゃないわ。私は今拷問を受けているのよ」

「受けてません」

「地球が私を苦しめているの。あとトレーナーさん」

「私を地球と同列に扱わないで」

 

 

 当然のように泊まりに来ているブルボン、スカーレットも今日は体力の消耗が軽いので、なんならもうちょっとやりたそうに見える。やっても良かったけど……まあ、ギャラリーも増えてきちゃったし、一応ね。

 

 テレビをつけてくつろぎ体勢のスカーレットと、いつも通りじっと部屋の定位置に座るブルボン。おやつでも作ろうと思ってキッチンに立つ私の後ろからスズカが抱きついてくる。

 

 

「くっつかないで。危ないでしょ」

「じゃあ走りに行って良いですか」

「何がじゃあなの?」

「許可してくれたらくっつくのをやめます」

「そんなにスズカさんに得しかない交渉ってあります?」

 

 

 ちょっと心配になるくらいの雨ではあるので、流石のスズカもパフォーマンスで走りたいと言っているだけだと思うんだけど……それでも許可したらすぐに走りに行きそうなのがスズカの恐ろしいところね。暴風雨のなかでも風を感じたいとか言いそうだし。

 

 

「スズカさんの気を逸らすものを探しましょう」

「赤ちゃんみたいなこと言われてますね、スズカさん」

「もうちょっと言い方選べない?」

「スズカさんをあやすものを探します」

「それじゃストレートに赤ちゃんじゃない」

 

 

 面白がったブルボンが本当に探し物をしだした。別に女の一人暮らしだし、結構激務ではあるし、趣味もない独身の部屋にそう面白いものはないけど……言ってて私悲しすぎるな。何か趣味とか見つけようかな。

 

 

「ランニングなんかどうですか? 健康的ですし将来のためにもなりますよ」

「言ってることは間違ってないのが腹立つのよね」

「なんと初期費用は無料です。今すぐ始められます」

「今すぐは無理ね、外は雨だし」

「解りました。走れるってことを今から実演します」

「スカーレット」

「はいはい」

 

 

 突然脱ぎ出そうとするスズカを止め、スカーレットに引き渡す。巾着みたいになって前が見えなくなった半裸のスズカがソファに寝かされた。とりあえずオーブンだけセットしておいて、後は待つだけということで私も合流。

 

 

「ブルボンは何か見つかった?」

「トランプが見つかりました」

「やめましょう。死人が出るわ」

「ではリバーシは」

「もっと運の要素が強いと良いわね」

「ナンジャモンジャがありました」

「誰が買ったんです、そんなの」

 

 

 誰かしらね。この家、どうしてか解らないけど私も知らない物が増えていくのよね。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「これを『うさぎ』と名付けます」

「名付けが怖すぎる……」

「完全に鬼の絵ですけどね、これ」

 

 

 やることもないのでお菓子ができあがるまでナンジャモンジャをやることに。私の反射神経では絶対に勝てないので参加は名付けだけになるだろうけど。三人のプレイを眺める。

 とりあえず序盤は順当に名付けパートで、三人ものほほんと名前をつけている。ブルボンの名付けのセンスが危ういけど。

 

 

「これは『ねこ』です」

「禍々しい猫ね」

 

 

 何となく名付けの基準が赤ちゃんと言わざるを得ない。でも、それで誰が不幸になるわけでもないし、なんなら覚えやすくて良い。ゲーム的にはあれだけど、お遊びだからね。

 

 

「……『環太平洋協定経済戦略的連携』にします」

「小狡いのよねやり方が」

「こうでもしないとブルボン先輩に勝てないでしょ!?」

 

 

 そして、勝負事とあれば本気を出してしまうスカーレット。早口言葉みたいな用語を決めつつ、ブルボン対策にめちゃくちゃに間違えるという謎の戦略を見せている。そこまで勝ちたいか、と思いつつ、まあスカーレットは基本的に勝負では二人には勝てないから仕方がない。カーストは上なんだけどね。

 

 

「じゃあ……『スペシャルウィーク』にしようかな」

「このでぶをスペ先輩としてスズカさんはそれで良いんですか?」

「まあ間違ってもないかな……」

 

 

 可愛い二人、修羅一人って感じ。と、ここで私にも名付けが回ってきた。緑の化物。そうね……どうせ私はやらないし、何かこう、三人の勝負が面白くなりそうな……そうね……。

 

 

「じゃあ『私は遅いです』で」

「……!?」

「ちょっと!」

「別に宣言するわけじゃないわ。ただの名前よ名前」

 

 

 さらにちょっとした一言で場を盛り上げたいと思った。

 

 

「今焼いているにんじんケーキは最下位にはあげないことにするわ」

「!?」

「優勝者はトレーニング関連で何でもお願い聞いてあげる」

「……ちょっと、あったまってきたわね……」

「マスター。戦争です」

「負けないのは得意でしょ」

 

 

 自分がやらないボードゲームってこんなに面白いんだ。あるいは、自分が罰ゲーム決定権を握っている状態って。にんじんケーキといえばウマ娘にとっては大好物であるし、自分で言うのも何だけど私のお菓子はそこそこ美味しい。

 それに何より、ジャンキーどもにとって『トレーニング関連のお願い』とはフリーランニング及び限界ランニングに他ならない。三人がレース中のようなオーラを出し始めた。

 

 

「……ちょっと、服だけ替えても良いですか」

 

 

 長袖だった上を脱ぎながら寝室に引っ込み、半袖に着替えてくるスカーレット。これまで出た名前を高速で呟き始めたブルボン、私の腕を引っ張ってくっつくスズカ。何もない休日にこのレベルの地獄を……。

 

 あらゆる意味でガチとなってしまったナンジャモンジャが始まり、早速一枚カードが捲られ

「「「ねこ」」」

 

 

 ……マジ? 私まだ絵柄すら認識してなかったんだけど。

 

 

 正気とは思えない速度で名前が呼ばれ、絵柄を確認すると確かに『ねこ』だった。やはり一流ウマ娘だ。ウマ娘は人間の上位種族と言われるなかで、さらにスピード勝負に身を置いている子達は格が違う。あまりに速すぎて私には全く区別がつかなかった。

 

 

「……引き分け」

「私が速かったですよね」

「私よねトレーナー」

「マスター。私です」

 

 

 ここってダービーとかだったっけ? 気合い入りすぎじゃない? 

 

 

「審判が判定を放棄しては勝負として成立しません」

「そうは言っても区別つかないわ。まったくの同時にしか聞こえなかったし」

「……良いわよ。私が一番早く言えば良い話なんだから」

「……それもそうですね」

 

 

 果てしない集中状態に戻っていく三人。次は私が捲る番なんだけど、怖い。結構手を止めている私の顔とかは一切見ずに、手元だけを瞬きせずに注視しているのが一番怖い。フェイントとかかけたらどうなるんだろうか。捲る振りをして指を滑らせてみる。

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 凄い……誰も息すら漏らしていない。勝ち気と餌があるとこの子達ってこんなに本気になれるんだ。レースより本気なんじゃないの。このままでは私は殺されるかもしれない。普通に進めよう。

 

 

「トレーナーさんが捲ってくれても良いですよ」

「……そうね。それが平等かも」

「影にだけならないようにお願いします」

 

 

 ……ひぇっ…………

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「「「エアグルーヴ」」」

「……引き分け」

 

 

 花の妖精のような怪物に声が揃ったところであと一枚。ここまで三人はまったくの互角で、私が引き分けとしか判定できないし、三人が自分で判定することはスポーツマンシップ的にあり得ないので、未だだれも一枚も取っていない状態だった。

 

 

「ふー……っ」

「はぁ……」

「……ふぅ」

 

 

 そして、この盤面。二人は解っているはずだ。ブルボンが残りのカードを把握していないわけがない。スズカやスカーレットも頭脳的にはできなくはないが、反射に神経を割いたままではほとんど不可能だろう。

 

 そして、私はもうフェイントをかけないということも恐らく察している。つまり、ブルボンからすれば捲られた瞬間記憶にある名前を叫べば良く、二人はそれを越えるしかない。圧倒的にブルボンが有利だ。

 

 

 私達って今娯楽のカードゲームやってるのよね? デスゲームとかじゃなくて。

 

 

「……っ」

 

 

 しかし、それで諦めないのがチーム・エルナト。スズカがさらに私を強く引き寄せ、スカーレットがいつもの捕食者の目を剥く。圧倒的に有利な立場にいるのに集中を崩さないブルボン……いや、何かこれは、ブルボンの様子がおかしい。

 

 どこか緊張しているような、いつもの無表情ではあるんだけど、少しこわばっている。ウマ耳もちょっと元気がない。精神的に思うところがありそうだ。

 

 

「捲るわよ」

 

 

 さて、勝負がつくか。軽く宣言してから、ゆっくり手を伸ばしカードに触れ、スズカが完全に呼吸を止めたのを感じつつ一気に捲る。視界の端に緑がちらついた。

 

 

「ゎ……ぁ」

「……っ」

「わ……っ!?」

 

 

 一瞬にして三人の呻いたような声がして、すぐに全ての動きが止まった。完全にカードが捲られ、そこには、あの緑の化物がいた。

 

 

「……ぐぐぐ……」

 

 

 当然、名前は解っている。あとはそれが言えるかだ。しかも、今は『勝ちたい』というモードに入っていて、それがまだ達成されていない。欲求が最高に高まっている状態で、果たしてこの子らにそんなことが言えるか? という話である。

 

 

「……チッ……」

 

 

 今誰か舌打ちした? 

 

 

 ここではじめて私やお互いをちらちらと見出した三人。牽制と押し付け合いが始まっている。

 

 勝てば無制限ランニングないし限界ランニングのうえ、負ければおやつ無しの罰ゲーム。しかし、このカードを取るには自分は遅いと言わなければならない。嘘だろうとなんだろうと三人にとってそれは屈辱である。ブルボンは比較的気にはしていないが、お姉さんぶりたいお年頃なので、スカーレットの前では決して言わないだろう。

 

 

「『私は』」

 

 

 お、ブルボンが口を開いた。

 

 

「『スズカさんより遅いです』」

「今間に何か挟んだでしょ」

「マスターの聞き間違いです。ウマ娘の聴力は人間の倍と言われています。私の会話ログには何もありません」

「ノーカウント」

「……くっ」

 

 

 ギリギリ可能性を持っていたブルボンが撃沈した以上、これでゲームは終了かもしれない。一位も最下位もいないってことで、ランニング無し、ケーキありってことにしましょうね。それが一番争いがなくて平和で良いからね。

 

 

「……同率って、全員一位ですよね」

 

 

 ん? 

 

 

「……私もそう思うわ。だってそう思うもの」

「ですよね」

 

 

 スカーレット? せめてあなたはもっと理屈で来て? 

 

 

「……捕まえて二人とも」

「えっ」

 

 

 私の両脇からブルボンとスカーレット。腕を抱くようにして私の動きを封じ、ついでに片足をホールド。完全に四肢の動きを封じられた。そして、そんな私にスズカが近づいてくる。

 

 

「そうですよねトレーナーさん。このカードを誰も取らなければ全員同率一位ですよね」

「いや、私は一位も最下位もいないってことにしようと」

「マスター。三人で競って同順位になったとき、一般的には一位が三人という表記がされるはずです」

「ねえトレーナー。可愛い教え子の言うことは絶対よね?」

 

 

 三人に囲まれ身動きもできず、少しずつ近づいてくるスズカから逃げることも許されない。肩に手を置き押し倒そうとするスズカ。うわ~~~~~~~~好き……。

 

 

「待ってスズカ。こんなことしたら大変なことに」

「まだお酒がたくさん残っているので、何かあればトレーナーさんの記憶はリセットできます」

「人の心が無さすぎる……!」

「どうしますか? 私はどっちでも良いですよ」

「どっちでも良くはないんですけど。トレーナーが折れないと私達に利が無いじゃないですか。こっちは死にそうな思いで引き分けを許容してるんですよ。早くしてください」

「先輩のためよスカーレットさん」

「たとえスズカさんでもトレーニングの機会を奪うことは許されません。マスターを脅迫して同率一位とすべきです。そうでないなら決着をつけましょう」

「あの、せめて三人の方向性は統一しない?」

 

 

 仲間割れを起こすアホ栗毛ども。行動のチームワークと内心のチームワークがちぐはぐすぎる。勝ち気が暴走しつつあるので、かなり気が張っているみたいだ。いや、何がどうあれ私には何の解決策にもならないんだけど……。

 

 

「まずはマスターの自我を奪ってから決めましょう」

「……それもそうね」

「わーっ! だから! 全員一位でも最下位でもないってことで良いじゃない! 丸く収まるでしょ!? カードをわざと取らないのは普通に卑怯じゃない!」

「問答無用です」

「覚悟しなさいトレーナー。もしくは私達にスパルタをしなさい」

「くっ……うおおお……」

 

 

 もちろん一切動けない。両側からブルボンとスカーレットに囁かれ頭がおかしくなりそうだ。私がスズカのことが好きとか関係無く、ウマ娘に囲まれて正気を保っていられる人間がいるはずがない。

 

 くっ……ダメだ、これ以上粘っても私がおかしくなってしまう……! 

 

 

「わ、解った、解ったから! 全員同率一位で良いから!」

「ふふん。最初からそう言えば良いのよ」

「ミッション達成。解放します」

 

 

 両脇の二人が離れる。完全にしてやられた。私は弱い女、可愛い愛バのおねだりを強く拒否することができない。いやもちろん、やるよ? 何もなくても。やるけどさ、それはそれとして何かこう、嫌じゃん。

 

 

「じゃあみんなでケーキを食べましょう。四等分です四等分」

「トレーナーさんは食べないですよね」

「そうね。食べないかな」

「では三等分しましょう。正確に三等分します。お任せください」

 

 

 ギリギリトラブル無く収まった。どちらにせよスパルタはやるつもりだったしちょうど良い。良いってことにしたい。しておいて。よろしく。




トレーナーさんは何だかんだ三人に迫られると目はハートになります。口では逆らいますけどね。
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