走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

222 / 249
前回までのあらすじ

トレーナー、一人負け。



今回のあらすじ

トレーナー、一人勝ち。


交換するミホノブルボン

 

「じゃーん。見てトレーナー。これが私の勝負服よ!」

「え? ああ……本当だ。相変わらず可愛くて素敵ね」

「でしょ!」

 

 

 ある日。スカーレットがドヤ顔で勝負服のレプリカを持って来た。本物は専用の洗い方や保管方法があるので、個人的に持ち出すときはスペアやレプリカが主になる。

 スカーレットの勝負服はかなり王道的な……シンプルかつ走りやすいスズカ、深夜にデザインを考えたであろうブルボンと比べると、礼服ベースというのかな、ドレスっぽい気合いの入った豪華な仕上がりになっている。

 

 この間スカーレットがこれを着て桜花賞を勝ったと思うと感慨深い。スズカもそうだそうだと言っています。

 

 

「で、いきなりどうしたの」

「そろそろトレーナーもじっくり見たい頃だと思ったのよ。せっかくだししっかり見せてあげる!」

「確かにちょうど見たかったわ」

「でしょ!」

 

 

 見せつけたくてたまらないらしい。でも、自分から言うのは何か嫌だと。スズカもそうだそうだと言っています。それを見てうきうきで脱ぎ始めるスカーレット。慌ててドアに鍵をかけてカーテンを閉める。うわおっぱいでっか。

 

 

「脱ぐ前に言って。危ないから」

「あ、ごめんごめん。よっと……」

 

 

 着替えるところはあれだけど、スカーレットの晴れ姿なんて何度見ても良い。ドレスを着て、しっかり靴まで履いて、そしてスカーレットがいつもの一番ポーズをとる。くるんと回ると裾が翻り、びしっと指を立てて決めポーズ。他の人の前ではこの勝ち気な表情もここまで堂々としたポーズもとらないので、フルパワーのファンサが見られるのもエルナトの特権だ。

 

 

「はい可愛い。百二十点」

「もうっ、言いすぎよぉ」

「見る目には自信があるのよ」

 

 

 スズカもそうだそうだと言っています。

 

 

「というか私のプライバシーよりスズカさんの格好の方を気にしなさいよ。撮られた時より終わるのはそっちの方でしょ」

「そうかも」

「……」

 

 

 スズカもそうだそうだと言っています。猿ぐつわに目隠しをされた状態で。

 

 

「今回は何をしたの、それ」

「先輩をそれ扱い?」

「どうせろくなことはしていないんだから良いのよ」

「まあ確かに。今朝私が起きたらもういなくてね。鳥が誘ってきたから走るしかなかったんだって」

「もはや詩人じゃない」

「そのまま昼までよ」

「ええ……アンタの起きる時間って五時とかよね。その時点でいなかったの?」

「まあそういうことよね」

 

 

 その罰として全身を縛られ視界と発言権を奪われているスズカ。エルナトにおいてのスズカの罪のうち最高のものは私に黙って走りに行ってしまうことである。もちろんスズカの同意の上での束縛だけど。同意の上での束縛って何よ。そういうプレイみたいじゃない。

 

 

「そういうプレイじゃなかったの?」

「違うから。マジで」

 

 

 そういうこと言わないで。私だって心苦しく思いながらやってるんだから。

 

 

「まあ良いわ。それよりどう? 今シャッターチャンスよ」

「ん、じゃあ撮ろうかな。スズカも撮る?」

「んっ……! 撮ります」

「そういうところがプレイだって言ってるのよ」

 

 

 拘束を力ずくで引きちぎりスマホを構えるスズカ。仕方ないでしょ。ウマ娘の身体を本当の意味で拘束できるものなんて市販じゃ手に入らないのよ。

 

 

 ポーズを取るスカーレットを二人でたくさん撮っていく。うきうきで付き合ってくれるスカーレット。本当に楽しそうね。ウマ娘にとって勝負服は魂だ。たくさんの子達が凝ったデザインの勝負服を作ることを望んでいる。

 

 だが残念なことに、凝った勝負服はお金がかかるし、ちゃんとしたデザイナーさんに頼んで希望を聞いて貰って、とやるにはGⅠでも安定して掲示板を目指せるようなレベルじゃないといけないみたいな風潮もある。凝った勝負服は強者の特権なのだ。

 

 

「お疲れさまです、マスター」

「あ、ブルボン。ブルボンのスマホにもスカーレットの写真入れとく?」

「そうしましょう」

 

 

 結構撮った頃ブルボンも合流し、鞄ごとスマホを受け取る。撮影会後のモデルよろしく水分補給をしているスカーレットの写真も撮りつつデータを送る。じゃん、と写真を見せると、おお……と小さく手を叩くブルボン。

 

 

「変わった勝負服ですね」

「ブルボン先輩にだけは言われたくないです」

「そうかしら。走りにくいでしょう、その勝負服」

「良いんですよ、勝負服なんだから!」

「本当に、なんでその格好であのスピードが出せるんでしょうね、あなた達」

 

 

 ウマ娘の神秘に舌を巻きつつ、哀れみの目を向け始めた二人に目隠しを着ける。後輩をそんな目で見ちゃいけません。

 

 

「それとも着てみます? 私の勝負服。結構良い感じですよ」

「いかがですか、マスター」

「え……ちょっと見てみたいかも」

「……では、一度着てみましょう」

「おおっ」

 

 

 ちょっと予想外に素敵なものが見られるかもしれない。早速着替え始めるブルボン。ジャージに戻って私の隣に戻ってくるスカーレット。ドレスなんて普段からは着ないからか、かなり着るのにも苦戦しているようだ。ドレスどころかスカートもそんなに着なさそうだしね。勝負服は……まあ、あれをただのスカートと言うのは憚られるというか。ハイレグとかレオタードのおまけにひらひらが付いているだけだし。

 

 そして、着替えたブルボン。ブルボン自体のイメージカラーは桃色だが、青も似合うわね。ちょっと違和感は凄いけど。

 

 

「スカーレットさんより良いところのお嬢様って感じがしますね」

「わかる」

「今何か言った? ぶっ飛ばすわよノンデリカップル」

「カップル扱いしないで」

「ノンデリの方を否定してください」

 

 

 仕方ないじゃない。スカーレットの立ち姿は脚が開いてるけど、ブルボンの立ち姿は脚が閉じているんだもん。あとあなたの表情から自信が溢れすぎ。ブルボンもじっとしている分には結構清楚というか、まあ、スカーレットよりはね。

 

 

「はあ……どうしてここで私を素直に褒められないのよ」

「もちろん似合ってるのはスカーレットよ」

「それはそれとしてブルボンさんの方が清楚ですね」

「いぇい」

「え? 今聞いたことない言葉で煽ってきませんでした?」

 

 

 ふふん、とどこか勝ち誇った表情のブルボン。というかおっぱいでっか。

 

 

「スズカさんも着ますか」

「私?」

「せっかくですから」

「見たいですか? トレーナーさん」

「え……まあ、見られるものなら」

「じゃあ着ます。代わりにブルボンさんには私のレプリカをあげます」

 

 

 この部屋にスズカの勝負服のレプリカってあったっけ? 

 

 

「この前ドンキで見つけました」

「ええ……非公式グッズを本人が買うのはやめなさいよ……」

 

 

 それで良いの、あなたは。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「じゃーん。どうですかトレーナーさん。ダイワサイレンススズカです」

「人の名前を勝手に奪った割に自分の名前は略さないんですか」

「別の世界の私に申し訳ないし」

「それは私もそうなんですけど」

「サイレンスミホノブルボンです」

「ほら渋滞した」

 

 

 数分後。スズカ勝負服のブルボンとスカーレット勝負服のスズカが降臨した。うんうん……なるほど……。

 

 

「えっ」

「うわっ泣いてる。きっしょ」

「マスター……」

 

 

 ダメだ私、ドレス系のスズカの衣装を正気で見られないかもしれない。可愛い……好き……ダメだこれ、胸が苦しい……。

 

 

「スズカが可愛くて死にそう……」

「良かったです。似合いますか?」

「似合う……ツインテールにして良い……? スカーレット、ティアラ貸して……」

「いや、まあスズカさんなら良いけど……」

 

 

 スズカを呼び寄せて髪を縛り、ティアラを被せる。良い。素晴らしい。豪華なドレスというよりもダンス衣装のような趣が上がったかも。にしても良いなあ。スズカってやっぱり可愛いわ。うん。凄い。びっくりしたもんね私。

 

 

「ブルボンさんにも何か言ってあげてください」

「ブルボンも可愛……そ……れは大丈夫……? 苦しくない……?」

「呼吸機能の低下は通常時の四割に留まっています」

「大問題じゃない!」

 

 

 そして明らかにサイズが合っていないブルボン。身長こそ大して変わらないものの、普通に体全体が太いのでパツパツだし、ギリギリすぎてお腹が見えてしまっている。あと緑が似合わない。

 

 

「ギリギリ失敗かなあ」

「そんな……」

「アンタ贔屓目あるでしょ。スズカさんの勝負服に」

 

 

 無いけど? 

 

 

 褒められて満足げなスズカがなんとソファに脚を組んで座った。激レアだ。あんまり脚が痺れるような座り方は好まないものと思っていたけど。

 

 

「サイレンススズカ、行くわよ。私が一番なのだわ」

「口調が適当すぎる」

「はい、サイレンススズカです」

「こっちの物真似はめちゃくちゃ上手いのよね。雰囲気だけだけど」

 

 

 ブルボンの一芸も見られたところで、私に不評を受けてしまったブルボンが勝負服から制服に着替え、ふう、と一息ついて立ち上がった。

 

 

「私の勝負服も持ってきます。トレードしましょう」

「えっ」

「いやブルボン先輩それは」

「きっと似合うはずです。お待ちください」

 

 

 思い立つと人の話を聞かないのがうちの子達の悪いところ。全てを無視して勝負服を取りに行ってしまった。ブルボンには絶対に悪気はないんだろう。無いんだけど……スズカもスカーレットも震え始めた。

 

 

「スズカさん」

「スカーレットさんで良いじゃない」

「でもブルボン先輩はスズカさんのために行ったと思うんですけど」

「でも今交換をしていないのはスカーレットさんよね」

 

 

 ブルボンの勝負服はレオタードにオマケのミニスカートである。スカーレットはもちろん、流石のスズカもちょっと抵抗があるらしい。そりゃそうよね。本人は喜んでいるし世間もブルボンの容姿と性格で何となく誤魔化されているけど、冷静に考えるとヤバすぎるし。

 

 いくら何でもブルボンの勝負服はちょっと憚られる二人による醜い押し付け合いが始まっている。一応相手の魂に関わるものなので本人に向かって嫌とは言えない。それは勝負服持ちとしてはあり得ない。それはそれとして別に着たくはないと。

 

 

「スカーレットさんの方がスタイルが良いんだから似合いますよ」

「ブルボン先輩も先輩にこそ着てほしいんだと思いますけどね」

「私はほら、今あなたの勝負服を着てるし」

「脱いでください」

「ん?」

「ん?」

 

 

 スカーレット衣装を絶対に脱ごうとしないスズカ。この子については普通に嫌ってのもあるけど、それ以上にスカーレットに着せて遊ぼうとしている感はあるわね。そりゃ面白いかどうかって話をするならスカーレットよね。私もそう思う。

 

 

「私に暖色は似合わないと思うわ」

「ブルボン先輩の桃色は言うほど暖色じゃないですから大丈夫ですよ」

「でもどっちかと言うと暖色よね」

「そういう話じゃないんですよね」

 

 

 不毛な争いよね。いっそのこと二人とも順番に着たら良いのよ。案外似合ってるかもよ。

 

 

「……じゃあこうしましょう。芝左回り1800mで負けた方が着るってことで」

「芝右3600なら受けます」

「……わがまま言わないの」

「スズカさんこそ」

 

 

 笑顔でのにらみ合いが続く。いくら何でも二人ともトレーナーは不味いということで共通しているらしく、今回の私はついに安全圏だ。ココア淹れちゃお。平和で良いわね。二人なら本人が恥ずかしいだけでどっちになっても可愛いだろうし。

 

 

「1800」

「3400」

「1800」

「3200」

「1800」

「3000……こういうのってちょっとずつ歩み寄りません? なんでスズカさんだけ不動なんですか」

「マイル中距離以外は負けるから走らなくて良いってトレーナーさんに言われてるもの」

「トレーナー!」

「これは私悪くなくない?」

 

 

 交渉の全てを拒絶する女、スズカ。口でこの子を言い負かすことはできない。何故なら自分が不利になるとbotになるから。スカーレットはなまじ頭で考えてしまうのでスズカには勝てない。考えるな、感じろ。スズカは大体野生動物みたいなものなのよ。

 

 しかしそれに気付かずスズカに押され気味のスカーレット。日常生活でスズカのカーストが一番下なのは、あくまで本人が上であろうとしていないからだ。その気になればそうなる。走ること関連では今も上にいるし。

 

 

「着なさい」

「嫌です」

「着て」

「いや」

「良いから」

「トレーナー! 躾ができてないんじゃないの!」

「無茶言わないで」

「私のことを動物みたいに言うのはやめてください」

「同じようなものでしょ」

 

 

 スカーレットの服って何となく背が高く見えるのね。ヒールは履いていないはずなんだけど。それか、単純に威圧感でそう見えているだけか。

 スカーレット不利のまま話し合いは平行し、そして、ついにブルボンが部屋に戻ってきてしまった。ブルボンの勝負服はケースであるアタッシュケースまで含めてのものであるが、それを三つ持って。

 

 

「どうぞ」

「えっ」

「三着……?」

「せっかくですので。いつかお三方にも着ていただこうと思いレプリカは多数用意しています。それぞれバージョンが異なりまして、比較してより楽しめます」

「……」

 

 

 再三言うが、勝負服を悪しく言うのはウマ娘達のなかでのタブーである。それは魂であり、アイデンティティの象徴なのだ。脚が遅いとかレースが下手とかは言って良いし容姿をバカにしても怒りはしないだろうが、勝負服だけは不味い。

 

 そして、その勝負服をうきうきで持ってきて、三人に着てほしいと言ったなら。それを言われた側はもはや何もできない。勝負服は憧れであり、それを着させてもらえるのは栄誉である。勝負服トレード自体を嫌がる子もいるが、何せさっきまで乗り気だった身。

 

 

「……ブルボン。レースに出ない私がそれを着るのはみんなに失礼だと思うの。頑張っても勝負服が持てない子だっているんだから」

「裏切り者……」

「最低……」

 

 

 何とでも言いなさい。私はこれを回避するためなら何でもするわよ。

 

 

「そうですか……仕方ありません。ではお二方、どうぞ」

「あ、りがとう……」

「やったあ……」

 

 

 そして、断れる段階は終わった。アタッシュケースを受け取り、嫌な顔はできないのでゆっくりではあるが確実に衣装を取り出す二人。ウマ娘はダンス衣装なんかを特注することがあって、結構ウマ娘の要望が通って露出が激しくなったりもするんだけど、ブルボンのは別格ね。手に持つとよりいっそうぺらぺらに見えるし。

 

 

「写真撮ろうか?」

「この……ッ」

「良いんじゃない。三人でブルボンさんの勝負服で写真っていうのも」

「ではこれは私が着ましょう」

 

 

 そして、断れないと見るや楽しむ方向にシフトしたスズカ。この子は本当に簡単に羞恥心を消せて良いわね。割とノリノリで着替え始めた。ブルボンは当然誇りを持っているので問題ない。スカーレットとしても一番遅いといらない誤解を……まあ誤解でもなんでもないんだけど、誤解を招くので急がざるをえない。

 

 そして、レオタード三人衆が爆誕した。何だかんだ言って着てみると普通に似合うし可愛いのは流石ウマ娘。それに、ブルボンの勝負服もブルボンの願望だけじゃなくてちゃんとデザイナーさんの監修も入っているわけで、流石にきっちりしている。

 

 

「じゃあ写真撮るわね」

「ちょっと待った。マジでウマッターだけはやめてね」

「……? 是非アップロードしましょう。エルナトの絆です」

「い、いやいやいや……絆は解りますけど……」

「ダメよ。ネットにはどんな奴がいるか解らないから」

「そうですか……」

 

 

 この写真は私が個人的に保有して楽しみます。あとこうして並ぶと本当に胸が小さいのねスズカって。今画面越しに見てびっくりしたわ。

 

 

「じゃあポーズでもとってもらおうかな」

「では」

「……ま、やるからには私を一番可愛く撮ってもらおうかしらね」

「ふふふ、嬉しそうねスカーレットさん」

「スズカさんは首を洗って待っていてください。先週私を買収してランニングに行ったことをバラしますから」

「は? スズカ?」

言っちゃったらダメじゃない……!

 

 

 撮影会後、スズカ、お仕置き決定。私の写真フォルダは潤い、幸せな一日になりそうだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。