走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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新シナリオ来ましたね。これはネタバレですが新曲のセンターをスズカさんにすると可愛いので幸せになれます。

あとジャーニー好き。そのうち出るかもしれません世代がちょうど良いので。作中残り期間、2ヶ月しかないんですけど。


素早く静かにダイワスカーレット

 

「オッチャホイという料理がトレセンで話題だそうです」

「あ、それクラスでも言ってました。結局何なんですか、それ」

「諸説ありますがシンガポールの料理だそうです」

「へえ。じゃあ誰かシンガポールに行ったんすかね」

「いえ、日本でしか提供されていません」

「は?」

 

 

 委細省略。記録者、ミホノブルボン。エルナトのトレーナールームに向かう最中、スカーレットさんとウオッカさんに会いました。

 幾度となく日常的に衝突するお二人ですが、私の前では衝突の頻度が減ります。それは、主にウオッカさんに、先輩の前で揉めないようにしようという意識があるからだそうです。常々マスターも、より社交性があるのはどちらかといえばウオッカとおっしゃっています。

 

 

「行ってみてえすよね、シンガポール。国際レースってあるんだっけ?」

「確かあったと思うけど……どうでしたっけ」

「近年廃止が撤回されましたが、縮小傾向ではあります」

「へえ……そりゃめでたい」

 

 

 身体能力は何と互角だそうです。スカーレットさんはエルナトでも随一の才能の持ち主ですし、マスターのトレーニングは身体能力を伸ばすことにかけてはトレセンで最上位でしょう。それでも互角というのはつまり、彼女を凌駕するほどの才能と努力が揃っているということです。

 

 春シーズンの最終戦はダービーとオークスでお二人の路線が分かれます。その次は秋華賞でしょうか。スカーレットさんはオークスで確定ですので、後輩かどうかという観点ではウオッカさんを応援したいところです。前年の三冠ウマ娘として。ふふ。

 

 

「なんか突然笑ってるぞブルボン先輩」

「気にしないで。エルナトではこんなの気にしてたらやっていけないの」

「嘘だろ……」

 

 

 おっと。表情筋が……よし。

 

 

「何かあったらすぐに言ってください、ウオッカさん。ダービー、応援しています」

「え? あ、どうも……じゃあそのうち併走とか」

「前年ダービーウマ娘にお任せください」

「ああ、そういう笑い……」

 

 

 彼女ほどの存在との併走であれば、マスターも受諾してくださるでしょう。それは私の成長にも繋がります。ただ、ウオッカさんは気迫で押すようなタイプではないような気もしますが。

 

 

「アンタ間違ってもブルボン先輩のライバル面なんてするんじゃないわよ。アンタなんか逆立ちしても勝てない人なんだから」

「なんだよ。やってみなきゃ解らねえだろ? 不可能なんてことはねえ」

「何その根性論。やっぱバカなのよねアンタ」

「ビビってんのか?」

「あ? 喧嘩なら買うわよ。また桜花賞の時みたいに千切られたい?」

「はん。秋華賞より前に勝負をつけても良いんだぜ俺は」

 

 

 始まってしまいました。

 

 

「スカーレットさん。行きましょう」

「あ、ああ、はい……ふん、命拾いしたわね。アンタ先に帰ったらベッド直しといてよ。私はたっぷりトレーニングして帰るから」

「自分でやれよ! 俺にもトレーニングはあるんだぞ!」

「アタシの方が遅いんだからやってくれたって良いでしょ!? この間はアタシにやらせたじゃない!」

「くっ……お、俺は今日特別に延長するから俺の方が後だぜ!」

「じゃあアタシだって特別メニューをやるんだから! アタシの方が後!」

 

 

 仕方がありません。抱き抱えて行きましょう。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「はな……放してくださいブルボン先輩……!」

「またウオッカさんと揉めるでしょう」

「もういないんですけど!?」

「着きましたよ」

「まず放して!」

 

 

 トレーナールームに到着しましたのでスカーレットさんを解放します。部屋に入ると、既にスズカさんとマスターがいらっしゃいます。マスターは眠っていました。スズカさんの膝を枕代わりにして、スーツのジャケットを上からかけられています。

 

 

「お疲れさまです、スズカさん」

「お疲れさまです」

「お疲れ。ごめんなさいね、少しの間静かにしていてもらわなきゃいけないの」

「あ、いえ、それは全然」

 

 

 マスターの眠っている姿を見ることは非常に珍しいことです。マスターの部屋に泊まったとしても私は午後九時には就寝準備モードに移行しますし、起床時間は七時で一定ですのでマスターより早く寝、遅く起きる形となります。

 そして、それはスカーレットさんも同様です。彼女の場合は時々マスターより早く起きていることもありますが。原因は不明です。まさか寝顔を見ているなんてことはないでしょう。

 

 

「珍しいですね、トレーナーがこんなにぐっすり」

「最近ずっと寝不足が続いてたから。コーヒーをノンカフェインにすり替えたらすぐにぐっすりよ」

「ちょっと怖い……」

「では、今日のトレーニングは」

「その時になったら起こすわ。寝ていて二人のトレーニングができなかったなんてなったらトレーナーさんも悲しいでしょうから」

 

 

 荷物を置いて定位置へ。部屋のソファはお二人が使っていますので、後ろのベッドにスカーレットさんとともに腰かけます。スカーレットさんのSNSファン対応を隣から覗き込みながらしばらく時を過ごします。

 

 ……しかし、起きませんね。外からはトレーニング中のウマ娘の掛け声も聞こえますし、窓も開いています。どうやら、体力低下はかなり深刻だったようです。

 

 

「マスターの体力回復のため、食事療法をとりましょうか」

「良いわね。トレーナーさんには長生きしてほしいし」

 

 

 こちらへ振り向くスズカさん。その目からは、やや怒気が検知されています。やはり、原因たる我々へのスズカさんの心象は芳しくはありません。スズカさんからすれば、原因が何を、といったところでしょうか。

 

 

「別に怒ってるとかじゃないのよ。トレーナーさんが良いって言ってるんだから」

「言ってなかったら怒ってるんですか?」

「……」

「黙らないでください怖いから」

 

 

 レシピを検索しておきましょう。いわゆるスタミナ料理は多くありますし、料理は私の得意とするところです。料理というより調合に近しい感覚ではありますが。

 

 

「冗談よ。それでトレーナーさんは幸せだし、ここにいてくれるんだから何でも良いの。これからもこのチームにいてあげてね」

「言われなくても脱退なんかしませんよ」

「それは良かった」

 

 

 スズカさんがマスターの頭を撫で始めます。それにしても、本当に熟睡しているようです。全く起きる気配を見せません。我々の声量も通常時とほとんど変わりありませんが、それでも問題無いようです。せっかくなので、どの程度までマスターが起きないか試してみましょう。

 

 

「スカーレットさん。何かありませんか」

「スズカさんに怒られますよ、そんなことしたら」

「良いわよ。気になるし」

「すぐにやりましょう」

「乗り気すぎない?」

 

 

 部屋の色々な場所を漁ります。マスターの部屋ほどではありませんが、ここにも様々なものが置いてあります。

 

 というのも、チーム・エルナトは我々の友人達が持ち物検査等から逃れるためにものを保管しに来ることがよくあります。もちろん限度はありますが、他の方々は個人トレーナーであり個室が与えられていなかったり、規模が大きく私物を持ち込めないことも多いそうですし。

 

 

「あ、ジェンガありますよジェンガ」

「やりましょう」

「思いきったわね……」

 

 

 ジェンガを組み立て、順番を決めます。わー、と微笑んで静かに手を叩くスズカさん。精密さでスカーレットさんに負けるはずはありませんが、どこまで私に追い縋れるか試して差し上げましょう。

 

 

「余裕みたいな顔して……言っておきますけど絶対に負けませんよ」

「賭けますか。スカーレットさんが勝ったら明日あなたの代わりにスペシャルウルトラにんじんパフェの列に並んで差し上げます」

「あ、あの限定十食のスペシャルウルトラにんじんパフェのですか!?」

「ん……」

「起きちゃう起きちゃう」

「あっ……」

 

 

 目覚めようとしたマスターをスズカさんが揺すって眠らせます。背中を叩き頭を撫でて寝かしつけると、しーっ、と指を唇に当てます。危ないところでした。

 

 

「スズカさんもやります? 一回トレーナーを置いて」

「うーん……やるのは良いんだけど、トレーナーさんと離れるのはちょっと……」

「あっすみません……せっかくの膝枕だし、それはそうですよね」

「ううん。それは何でも良いんだけど、今ギリギリなのよ」

「ギリギリ?」

「ええ。トレーナーさんが可愛いという気持ちと、外が快晴だから走りに行きたいっていう気持ちが。今必死に戦ってるのよ」

「ああ……」

 

 

 少し刺激すれば走り出してしまうのでしょうか。

 

 

「ではスカーレットさん、先行をどうぞ」

「絶対負けませんからね……!」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「スカーレットさん?」

「待ってください……い、今やるので……!」

「あっスカーレットさん、その真ん中なんか良いんじゃない? 緩んでるわ」

 

 

 八ターン目、スカーレットさんのターン。ほぼ骨組み同然となったジェンガタワーを前に、手を震わせてピースを手に取るスカーレットさん。しかし、これはもう不可能でしょう。私の見立てでは既に取れるピースは存在していません。

 

 

「遅延行為とみなしますよ、スカーレットさん。不可能です。降伏してください」

「い、今探してるんですよ……!」

「ジェンガ、ジェンガ、ジェンガっ」

「スズカさん……黙っててください……!」

 

 

 眠るマスターの片手を振りつつ煽ってくるスズカさん。逆にそれで起きないのであれば、今さら外的刺激で起きることはないのでは……? 

 

 レース中と同様の真剣な眼差しでタワーを眺めるスカーレットさん。そしてさらに数分。もはや安全にピースを取るのは不可能と判断したのか、大きくため息をついて腕を捲ります。

 

 

「見てなさい……女は度胸よ」

「愛嬌では?」

「それはいつもあるから良いんじゃない」

「やってやれないことなんてないのよ……!」

 

 

 そして、明らかに取得不可能なピースを摘まみます。上に積み上がったピースを少しだけ整え、テーブルに手を置いて気合いを入れます。

 

 

「優雅に……勝たせてもらうわ……!」

「優雅という感じの眼力でもありませんが」

「頑張れーっ」

 

 

 毎回思いますが、スカーレットさんはどうしてレースでもない勝負にレースレベルの気迫を放つことができるのでしょうか。理解できません。

 

 

「はああぁぁぁっ……!」

「む」

「だああぁぁっ!!」

 

 

 集中力を極限まで高めたスカーレットさんが、全力でピースを引き抜きます。ピースにはタワーの重心がそのまま乗り、それを引けば当然ながらタワーはそのまま崩壊──

 

 

「おっ」

「何……っ!?」

 

 

 ──しませんでした。どうやら重心がかかっていただけで、完全に依存していたわけではなかったようです。テーブルクロス引きと同じ原理でしょう。いかにウマ娘のパワーとはいえ、ジェンガでそれができるとは驚きです。

 

 

「はあっ……はあっ……は、ははっ……や、やってやったわ! はははっ!!! どうですかブルボン先輩! やってやりましたよ! これでアタシの勝ちですね! はははははっ!!」

「バカな……ふ、不可能だったはず……」

「やってみないと解らないんですよ! 不可能なんてない!」

「ぐ……っ」

 

 

 予想外です。どう考えても不可能だったはず。そして、この状態で私のターン……わ、私のターン……? 取れるはずがありません。勝ち誇るスカーレットさんの前で、私に取れる手段は残されていませんでした。

 

 

「……っ」

 

 

 しかし、何もせず降伏はできません。スカーレットさんにもできたのですから、私にもできないはずが……

 

 

「……ん、スズカ……?」

「あ、おはようございます、トレーナーさん」

 

 

 ……しまった。

 

 

「私、どれくらい寝てた……?」

「二時間くらいですかね。もう足が痺れちゃいました」

「ごめんねスズカ、大丈夫?」

「痺れを取るためにちょっと走ってきますね」

「それとこれとに何の関係があるのーっ」

 

 

 マスターが起きてしまいました。スカーレットさんの咆哮によるものであるのは明らかです。しかし、今は私のターンですし、そもそも、不可能とまで言ったものを引き抜かれた時点で、私は精神的には敗北しています。

 

 起き上がり、スズカさんの頬をつねるマスター。仕方がありません、私の敗北です。

 

 

「スカーレットさん。参りました。明日を楽しみにしておいてください」

「やった! ねえトレーナー! 私勝ったんだけど!」

「え、な、何……? 何で勝ったって……?」

 

 

 突然の宣言にマスターが困惑しています。明日の昼休みは頑張らなくては。スズカさんに覆い被さってその耳を弄ぶマスターが、反応に困った結果近寄ってきたスカーレットさんの頭を撫でます。

 

 

「今日は調子が良くなったわ! さあガンガン行くわよトレーナー! 今日は特別メニューで行きましょう!」

「え? いや今日は筋トレ」

「特別メニューで行きましょう!」

「いやだから」

「は?」

「……はい」

 

 

 眠っていた負い目があるからか、それともまだ頭が回っていないからか、勢いで押し切られてしまうマスター。しかしこれは好都合です。まさかマスターも、スカーレットさんに特別メニューをやって私にやらないことはないでしょうから。

 

 

「じゃあついでに私もその間走って待ってますね」

「だから何の関係があるのよあなたにーっ」

「ふぁふぁふぁ」

 

 

 それでは準備をしましょう。今日は楽しくなりそうです。どんどん成長して、次も、その次も勝たねばなりませんから。

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