走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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助長を止めないサイレンススズカ

 

「トレセーン、ファイッ」

「オー!」

「ファイッ」

「オーッ!」

「ファイッ」

「オー」

 

 

 ある日。今日は珍しく、合同練習のようなことをしていた。しかも、私がメインではない。何故か解らないけど先輩に誘って貰えたので、せっかくならとブルボンとスカーレットを連れてきたのだ。

 

 今はアップのランニング中。列を作って集団で走るなんてエルナトではあり得ないことだ。新鮮ね。

 

 

「ひぇ……っ」

「スズカ?」

「何でもないですよ、何でも……」

 

 

 こういう風に、うちには集団で走ることのできない悲しい獣がいるからね。スズカも参加して良いしうっすらそれを望まれている感じこそあったんだけど、他ならぬスズカ自身がそれに耐えられないので不参加で、ウマ娘なのに何故かトレーナー達の待機場所にいる。

 

 もちろんそれも仕方の無いこと。幸い次のレースが引退で現在の絶対王者であるスズカのことは全員が警戒してくれているので、こうして練習に参加していなくても、体力の温存や実力の隠蔽だと思ってくれる。スズカさまさまね。

 

 

「本当に落ち着いてね。みんなの目もあるんだからね」

「わ、解ってますよ。大丈夫です……うぅ……」

「それをやめろと言ってるのよ」

 

 

 スズカの先頭のウマ娘への感情移入は常に全力で行われる。今回も先頭にいるウマ娘は顔も名前も知らない別チームの子なんだけど、その子が一歩後ろまで迫られているという事実に心が震えているらしい。

 

 落ち着けるためにスズカの腿に手を置いて、体温が上がっていくスズカにポータブル扇風機を向ける。ブルボンとスカーレットは狂人ではない……いや狂人なんだけど、スズカよりはマトモなので、集団の中で周りに合わせて走ることができている。素晴らしいことよ、本当に。

 

 

「い、今からでも参加できませんか、何か考えてください」

「ダメ」

「そんな……」

「まだウォーミングアップよ。今からそんなリアクションでどうするの」

「こんな残酷なことをされるとは思わなくて……」

 

 

 何よその言い方は。別に私はあなたに拷問をしているわけではないでしょ。

 

 

「よし! じゃあ次、1000m競り合い行くぞ! 四人組に分かれて!」

「「「「はい!!!」」」」

 

 

 アップが終わり、スタートラインに並ぶブルボン達。よく見るとブルボンとスカーレットが同じ組にいる。二人に限って……というかウマ娘に限ってそんなことはないと思うけど、他のみんなの実力を感じ取って二人で組んだとか無いよね? 

 

 

「……ちなみに、どんな感じですか、差は」

「そうねえ……」

 

 

 スズカの頭を抱え込むようにしてひそひそ話。じっと見てみるが、ステータスは酷いものだ。というかまず適性が酷い。A適性って見れば見るほど限られた才能なのね。

 

 あれでは競り合いなどできないだろう。ある意味で二人が組むのは正解といえる。トレセンの残酷な現実だ。強者は強者とでないとトレーニングが成立しない。もちろん、ウマ込みから抜け出す練習とかなら相手は誰でも良いんだけど。

 

 

「二強よね」

「やっぱりそうですか」

 

 

「始め!」

 

 

 人間には音が小さすぎる特製ホイッスルで、一グループごとに走り出していく。まあでも、ウマ娘の中でも中央にいる時点で上澄みも上澄み、迫力は半端じゃないし、何より走りの基礎ができている。

 

 何組か走って、もう数回でスカーレットの番……といったところで、少しスカーレットの様子がおかしいことに気付いた。ここからだともちろん声は聞こえないし独り言だったらヤバいので声は出していないんだろうけど、双眼鏡越しに口元が僅かに動いているし、ややウマ耳が不機嫌そうだ。

 

 

「あれ、どうしたんだろうスカーレット」

「え? 何がですか……?」

「見えてないの? あなた余裕無さすぎでしょ」

「解ってるなら別で走らせてください……!」

 

 

 ちょっと気になるのでスカーレットを呼び出すことに。周りの人達に許可を取り、スズカの耳を塞がせる。メガホンどこだっけ……あった。

 

 

「スカーレット!!! ちょっとこっち来なさい!!」

 

 

 あんまりこの歳で大声は出したくないものね。喉が痛むし。しっかりスカーレットに声が届いたようで、周りに頭を下げつつ駆け寄ってきた。

 

 

「はい! トレーナーさん! 何かありましたか!」

 

 

 目の奥に、『何邪魔してくれてんのよ』という圧を感じる。今改めてこうして近づいてくるのを見ると、スカーレットのあの圧に周りが気付いている様子はない。エルナトだからこそ気が付いたと言うべきだろうか。

 

 

「こっちに来なさい」

「はいっ」

 

 

 圧をひた隠しにして私に素直について来るスカーレット。人前だと制御しやすくて助かるわあ。校舎の陰、誰もいないところに連れ込んで、一気に目付きが鋭くなったスカーレットの頬を手で包む。

 

 

「はい、落ち着いて。深呼吸」

「……なによ。別に何ともないわ」

「それなら良いんだけどね」

 

 

 余計なことしないで面はしているが、それはそれとしてさっきまでの熱が消えた気がする。良かった。大方、集団で走ることに慣れていなかったのとブルボンとの直接対決、にテンションが上がってしまったのだろう。

 

 こんなことを言ってはいけないが、私としては今日のトレーニングは半分ダウンみたいなもので、そこまで本気を出されても困る。幸い競り合いを前提としたトレーニングなら実力が抜けている二人は全力は出さないだろうけど、それでも一応ね。なんならスカーレットが掛かってトレーニングを完遂できない可能性だってあったし。

 

 

「アンタ私のこと何だと思ってんの。そんなわけないでしょ」

「やりかねないと自分でも思わない?」

「アンタや先輩達がめちゃくちゃやるからアレだけど、アタシ学園では普通に真面目な優等生で通ってるから。バカにしないでよね」

「ははっ」

「笑顔の数だけアンタを殴り飛ばすわ」

 

 

 私に掴まれたまましゅっしゅっとファイティングポーズを取るスカーレット。これで良し。気を付けてトレーニングをしようね、本当に。

 

 ターフに戻り、周りに頭を下げつつ参加していくスカーレットを見守る。ブルボンは言われたことを無心でやるタイプなので問題は無さそう。確固たる先頭走者がいなくなり少し気持ちが楽になったらしいスズカがぴこぴことウマ耳を動かして待っていた。

 

 

「今の行動大丈夫ですか?」

「何が?」

「言われてますよ、周りから結構」

 

 

 スズカとひそひそ話。何を言われることがあるの。あいつ合同トレーニングするのに全然他のトレーナーと話さんじゃん根暗かよ、みたいなこと? 

 

 

「いえ、まあ……トレーナーさんが良いなら良いんですけど」

「思わせぶりなことをーっ……言わないでよね」

「ひゃ……ぅ、ん」

 

 

 いつもの勢いで脇腹でも擽ろうとして、人前なのでやめた。スズカもやられ待ちだったが私が落ち着いたのを見て落ち着く。危ない危ない。チームとしては鬼畜と思われていても、私自身は清楚で丁寧な新人トレーナーと思われたい……もう無理か? 

 

 そろそろブルボンとスカーレットの番らしいのでもう一度双眼鏡を構える。四人での競り合いではあるが、大方ブルボンとスカーレットが抜けるだろう。笛を吹かれて飛び出す四人のなかで、二人だけ抜きん出ている。中央二人が一歩前、内と外から追い縋ってという形。

 

 

「……発狂しないの?」

「私が何でも騒ぐと思ってませんか」

「思ってるけど」

 

 

 抗議でもしたいのかスズカの尻尾が巻き付いてくる。それにしてもうちの子達は競り合いが汚いわね。逃げしかやってこなかったし、そもそも集団行動が下手なのかも。一応スカーレットはそれでも何とか頑張ってはいるけど、こればかりはどうにもならないかも。

 

 

「そっちを見てる場合ですか? まだ私との会話が終わってないんですけど」

「一応私、トレーナーなんだけど」

「放っておいても速くなる二人とトレーナーさんがいないとダメな私、トレーナーさんはどちらが良いんですか」

「スズカは私がいなくても速いんだから前提がおかしいじゃない」

「そういう話はしてないんです。二人と私どっちが大切なのか聞いているんですよ。返答次第で今夜酷いですよ」

「え、怖……」

 

 

 答えは沈黙。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「「「お疲れさまでした!」」」

「では各位、自分のトレーナーの指示に従うように! 解散!」

 

 

 トレーニングが終わり、各々自分のトレーナーのもとに散ったり、トレーナーがいない子はそのまま帰ったり。もちろん帰るところがあるうちの子達は私のもとに戻ってくる……目の奥を激しく燃やしながら。

 

 

「お疲れ二人とも。それじゃあ今日は疲れただろうし、どう、久しぶりに大きなお風呂とかに行く?」

「まあ待ってくださいよトレーナーさん」

「マスター。提案があります。優先度SSS。拒否した場合、マスターの身体に危険が及ぶおそれがあります」

 

 

 くそっ逃げ切れないか。

 

 

「ちょっと裏に行きましょうか」

 

 

 そのまま周りからは見えない角度で二人の指が私の脇腹に突き刺さっている。逆らえるはずもなく再び校舎の陰へ。行った瞬間愛バ二人に壁に押し当てられる。

 

 

「この後時間あるわよね、トレーナー」

「あの」

「マスター。事前調査によれば、本日のトレーニングコースの予約は一日でされているため、この直後は何の予約も入っていないはずです」

「えっと」

「アタシらが言いたいこと、解るわよね?」

 

 

 解りたくないが、残念ながらエルナトは一心同体以心伝心。というか、二人の表情と瞳が何よりも雄弁に語っている。とてつもない『圧』。私トレーナーよね? 何この勢いは。

 

 

「怪我はさせないでくださいね」

 

 

 そして、スズカも助けてくれない。どうして。あなた私のこと好きなんじゃないの。今まさに私が大変なことになろうとしてるんだけど。

 

 

「トレーナーさんがこの後走らせてくれるなら助けてあげても良いですよ」

「ねえ! ずるじゃんそれは!」

 

 

 ぐいと顔を無理やり向き直させられる。

 

 

「じゃあこっち見なさい」

「マスター。拒否権は認めません」

 

 

 練習強度も足りない、ずっと競り合いや集団行動でストレスが溜まった二人はもう止まる気は無いようだった。顔は近いし胸はぎゅうぎゅうに当たってるし息もかかるし大変なことになっている。これまでのトレーニングがちょうどいいアップになってしまったらしく、ウマ娘特有の体温が押し付けられてくる。

 ちょっと笑っているように見えるのがなお怖い。爛々と目を輝かせてさらに詰め寄ってきて、いい加減体に痛みが走り始めたので、もはや私は折れるしかなかった。

 

 

「返事は?」

「……はい」

「ありがとうございます。申請はこちらでやっておくので、先に戻っていてください」

 

 

 解放された。私はダメなトレーナーだ……愛バの圧にまた勝つことができなかった。また気を失うまでやらせるんだ……うわあ……ねえおかしいじゃん……いや解るよ、オークスもあるもんね。でもさあ。これは現実的な話で、ウオッカ不在のオークスなら命を削らなくても勝てるって……本当に。

 

 

「大変でしたね、トレーナーさん」

「半分くらいはスズカのせいだけどね。助けてくれなかったし」

「トレーナーさんが弱いのが悪いと思います」

「言ってくれるじゃない」

 

 

 くすくすと笑うスズカをこの後どうしてやろうかと考えつつ、準備のために戻ることにした。というか、まだギャラリーいるんだけど。この前でいつものトレーニングするの、私? 

 

 

 

 ────

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……!」

「っ……ふ、ふぅっ……」

 

「立ちなさい。次に行くわよ」

 

 

 そこから二時間。一応二人もそれなりにはトレーニングした後なわけで、ゆっくりゆっくり追い詰めるようなトレーニングを続けてあげた。大きく体力は減らさないがひたすら精神に来る疲れを受けるトレーニングをさせた結果、案の定倒れ伏す二人。

 

 

「早くして。時間がないから」

「……っ、り、了解……しました……」

 

 

 なかなか立たない二人に水を掛けて立たせる。わざとでしょあなた達。あなた達がこんなんで立てなくなるわけないもの。水を掛けられたかっただけなんじゃないの、もう。

 

 

「っし……行ける、行ける行ける行けるッ……!」

「じゃあ行くわよ。構えなさい」

 

 

 まあ、今日は二人とも頑張ったし勘弁してあげようかしらね。なんで「勘弁する」のにスパルタなんだろう。不思議ね。私何か悪いことした? 

 

 

「日頃の行いじゃないですか?」

 

 

 うるさい。




前々から忙しい忙しいとは言ってましたがピークは8月なので今度こそマジに更新が遅れる可能性があります。ご理解お願いします。
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