走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
ただまあ、前々から申し上げております通り残り話数はそう多くありません。デカイベントはあと3つ、うち1つは宝塚記念ですので、シリアスの数もそれに準ずるとお考えください。
最後までお付き合いをお願いします。
「ダメですね。全然出ない」
「そうですか……」
委細省略。記録者、ミホノブルボン。本日、チームエルナトにライス、ウオッカさんを加えてスイーツバイキングに行く予定です。
珍しく私もスカーレットさんもマスター宅に宿泊していませんでしたので、三女神像の前で待ち合わせとしたのですが……マスターとスズカさんが来ません。
スカーレットさんが代表で電話をかけていますが、出ません、マスターが我々からの電話に出ないことなど滅多にありません……マスターは、というより、トレセンのトレーナーは担当ウマ娘を何物にも優先するので、活動可能状態ならば間違いなくレスポンスがあるはずですが……
「ヤバくないか、スカーレット。何かあったとかないか?」
「そ、そうだよブルボンさん。事件とか事故とか、そういうのがあるのかも……」
「いやあ、無いと思うけど……」
「しかし、一応行きましょう。待っていても仕方ないですし、気温が上がってきました。私達の活動に支障が出ます。スカーレットさんの体調を崩させるわけにはいきません。オークスもダービーも控えていますから」
マスター一人であれば、身の危険を考える必要はあります。マスターは体力、精神力ともに、私達が絡まなければ並の成人女性程度です。素手の男性相手でも抵抗は難しいでしょう。
しかし、マスターの側には基本的にスズカさんがいるはずです。我々ウマ娘ならば、武装した成人男性相手でも三人までなら制圧できるはずです。銃火器を持たれない限りは。
「それができるのはブルボンさんだけだよ」
「阻害要因は恐怖のみです。スズカさんに恐怖はありません」
「言いすぎじゃないすか」
「まあ、スズカさんならありそうですけど」
スカーレットさんがハイヒール、ライスがブーツですので、タクシーを呼ぶことになりました。適当な日陰に避難して、定期的にマスターに電話をかけながら待ちます。
「実際何だと思います?」
「普通に寝坊じゃないのか? そういう日だってあるだろ」
「いえ、マスターに限ってそんなはずはありません。エルナトの生活リズムはスカーレットさんを除いてはかなり健康的です」
「言われてるぞ」
「うるさいわね。テスト前だけよ」
「はい。テスト前一ヶ月のみです」
「頑張りすぎじゃない……?」
「喉渇いたし、じゃんけんで買いに行きません? タクシー、あと十分くらいなんで」
「珍しいね、スカーレットさん……いつも率先して行きたがるのに」
「こいつがいるんで。パシリは悔しいじゃないですか」
「おい」
「ではじゃんけんをしましょう」
ライスが負けました。
────
「ありがとうございましたぁー♡あ、電子マネーって使えます? クレジットカードでも大丈夫なんですけどぉ……」
「何度も聞いてるのに慣れねえんすよね、アイツの猫なで声……母ちゃんの電話口みたいで」
「懐かしいなあ。初めて会った頃はライスにもあんな感じだったよね」
「ですね」
マスターのマンションに到着しました。多人数で残ると迷惑ですのでスカーレットさんだけを支払いで残し、一足先に部屋に向かいます。鍵をライスに渡してロックを解除し、エレベーターで上へ。マスターの部屋の鍵も開けます。
「合鍵って三人とも持ってるんすか?」
「はい。マスターが留守でも入れるようにと」
一応、可能性は皆無でしょうが、中に潜む何者かに攻撃される可能性も考えられます。ここは警戒しましょう。
「ウオッカさん。私が先に突入します。援護をお願いします」
「うお……へへっ、任せてください、先輩!」
「えっ」
「ライスは外からの侵入に備えてください」
「コードネームとか決めません? コードネーム」
「私は『エコー』、ウオッカさんは『シスター』。ライスは『ポイント』とします」
「待って。いきなりライスを一人にしないで? 置いていかないで」
指を立て拳銃のジェスチャーをとりつつ、マンションのドアを挟んで二人で背中を壁にかけます。鍵を開き、少しだけ開けて殴り込みです。スカーレットさんに怒られることもありませんので、靴を脱ぎ捨て先に
「靴は揃えて」
「はい」
ライスに怒られたのでやめます。私と同じようにしていたはずのウオッカさんの靴は既に揃えられていました。裏切り者……?
「お邪魔しまーす……あ、荷物はこの辺に置いておいてね」
「先輩も馴染みすぎじゃないですか?」
寝室に向かいます。後ろの方でスカーレットさんが入ってきた音がしました。マスターとスズカさんの寝室に入ります。扉を開けたとたん、汗の香りがしました。空調は効いています。すなわち、推測される事実とは一つしかありません。
「原因が判明しました」
「え?」
「マスター、スズカさん。起きてください」
カーテンを開きます。ベッドにはやはり、マスターと、スズカさんとおぼしき膨らみ。窓から差し込む正午の光に、マスターが反応を見せました。
「ん……んっ……?」
「おはようございます、マスター」
「ブルボン……?」
「はい。ミホノブルボンです」
数ミリマスターの目が開きます。そして、寝室に乗り込んできている私達の姿を見て、大きく見開きました。そして、勢い良く飛び起きます。
「今何時……ったぁっ!?」
「うぐっ」
「ブルボン先輩!?」
「なんで起こすとき顔を寄せちゃうの! 危ないよ!」
し、身体的ダメージはごく軽微……回復まであと三十分と推定……
「ラ、ライスシャワー……? ウオッカ……」
「お、お邪魔してます……」
「どもっす……えと、今十二時回ったところっす……」
「嘘!?」
倒れる私、目覚まし時計を持って頭を抱えるマスター。しばらく落ち込んだあと、ベッドの中にいるであろうスズカさんに声をかけました。
────
「スズカ? スズカ、起きて」
「んぅ……ん……?」
「起きて。もうお昼よ」
ある日。今日、私は盛大に寝坊していた。エルナトとその友人達で出掛ける約束をしていたんだけど、めちゃくちゃ寝坊した。いや、まあ、寝坊するべくしてしたというか。昨日は大変だったし、何ならちょっと記憶も曖昧だし。
「ほら起きてスズカ」
「んー……ランニングですか……?」
「ランニングじゃないわよ」
掛け布団の中で丸まっていたスズカを引っ張り出す。やはりと言うか何と言うか、スズカは全裸だった。
「なっ……」
「おはようございますスズカさん」
「いや、おはようじゃないよ……? なんで服を着てないの……?」
「おはようございまーす。スズカさん、もしかして昨日走りに行きました?」
起こしに来たのはブルボン、ライスシャワー、ウオッカ。スカーレットも入ってきた。恐らくスズカが脱ぎ捨てたのだろう服を一式持って。
「まずは服を着てください。お二人が困惑しています」
「ウオッカ。相手はウマ娘よ、何顔赤くしてんの」
「だってお前……お前……!」
「まあ、全裸はちょっと珍しいわね。大体下着なのに」
「変わらねえよ!」
昨晩、スズカが限界を迎え、絶対に走りに行くと言い出した。何とか止めようと思ったのだけど、私は力不足で振り切られてしまったのだ。帰ってきたら夜食を作ってあげようと思って待っていたんだけど、午前三時を回ってしまい、結局眠ってしまった。
「起きてスズカ。ほら。服着て。スカーレット、悪いけど新しいのを持っ……いや、どうせシャワーも浴びてないだろうから良いや。このまま浴槽に放り込んでおいて」
「はいはい。行きましょスズカさん」
「ま、待って……今起きるから……お、お腹、お腹に肩が食い込んでるって……」
米俵のように連れて行かれるスズカ。何が起こったかなど簡単に解る。おおかた、スズカは私が寝たもっと後に帰ってきたのだろう。そもそもが逃げるようにして走りに行っているし、この上で何もせずベッドに入ったらさらに怒られると思ったのだろう。
しかし、いくらスズカでもそんな時間まで身体を動かしていれば、帰ってきて一息ついた瞬間に眠気に襲われたに違いない。シャワーを浴びようとしたが面倒になったか、あるいは最初から折衷案として服だけ脱いだか。
いずれにせよ、さすがに寝るのが遅すぎたせいで二人してアラームに一切気が付かなかったと。申し訳ない。予約じゃなくて良かった。
「いずれにせよろくな考えではありませんね」
「まあ、そうね」
「も、もっと驚きません……? 裸だったんですよ……?」
「スズカさんに羞恥心はありません」
「絶対に言い過ぎ……」
────
「あの、本当にごめんなさい、許して……」
「ダメです」
「本当に、あ、頭がおかしくなっちゃう……」
「反省してください」
スズカがお風呂から上がってきた後のこと。行く予定だったバイキングは予約不可先着順だったので、本日分は終了していた。それを知った四人は……正確にはブルボンとスカーレットがお冠だ。ライスシャワーとウオッカには謝罪の気持ちを込めて私が今ちょっとしたお菓子を作っている。
「スズカさんに全責任があります。冷静に考えればマスターがアラームに気付かないなどということはありませんでした」
「スズカさんは自分の快楽のために後輩を犠牲にしたんですよ」
「あの、言い方……間違ってはいないのだけど……」
フローリングに正座させられ、腿に私の勉強用の教材を積まれるスズカ。扇風機の弱風がスズカに襲いかかっている。格好は昨日着ていたランニング用のジャージ。私は当然何も言う資格がないので、二人に任せていたらこうなっていた。
スズカについては、眠るときにアラームを切っていたという余罪も発覚した。帰ってきた頃には日が昇っていたらしく、私は休みの日でも六時か七時には起きるので、このままでは私と眠る時間が減ってしまう。たっぷり走って走行欲が満たされたスズカは寝ぼけながらそう考え、アラームを切ったらしかった。
「せめて着替えさせて……? そ、外の匂いがして走りたくなるから……」
「ダメです」
「この際裸でも良いから……」
「ダメです」
お陰で私は無罪放免となり、全ての怒りがスズカに集約された。普通に考えてギリギリまで起きていようとした私にも結構責任はあるんだけど、まあスズカが身代わりになってくれるなら良いか。
「二人とも苦手なものとかある? ビターチョコとか、ナッツ系……ベリーソース系とか」
「何でも大丈夫です」
「ライスも平気です」
「はーい」
「せめて風はやめて……?」
「では宣言してください。向こう一週間決してランニングはしないと」
「……」
「風量を上げます」
「待って、これ以上風を浴びたら私はダメになっちゃうわ」
「我慢してください。スズカさんが宣言するまで風量を上げていきます」
「そんな……」
大変そうよね、スズカも。さあどこで宣言してしまうのかしら。スズカもここで嘘で宣言をしてしまったらさらに怒らせてしまうことは解っているらしく、なかなか宣言しないし。スカーレットがVRゴーグルを取りに行った。
……いや、昨日走ったばっかりよね? 一週間くらい我慢したら?
「スズカさん、良いんですか。宣言しなければゴーグルをつけますよ。私のランニング目線動画を流しますよ」
「まあ、それくらいの速度なら……」
「つけます」
「待って、嘘、やめて、つけないで、死んじゃう死んじゃう! 頭がおかしくなっちゃう!」
「では宣言してください。今日から宝塚記念までランニングを絶つと」
「重すぎる……!」
その後、スズカは最後まで決して口を割らなかったが、最終的には二週間のランニング禁止で許してもらえたらしい。流石に今回はスズカもちゃんと反省したのか、契約は守られた……私の手首に手錠の跡がしばらく消えなかったが、これくらいは尊い犠牲だろう。
気に掛けるべきこと:
ウオッカは育ちが良い