走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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私ってXのアカウントは全く関係無いのしか持ってないし関係無いことしか呟いてないからそっちに誘導するつもりはないんですけど、それでも時々エゴサーチはするんですよ

で、ありがたいことに結構話題にしてくださることも多くてですね

そこでその、タイトルがやたらと長くて本当に申し訳ありません。文字数制限に無意味に引っかかりますよね
全然、私も『走ることしか考えていない』とかでしかサーチしてないので、もし略したら失礼みたいな価値観の方いらっしゃっても、そこは大丈夫ですと言っておきます

ところで本編はド真面目です



一番誇って、ダイワスカーレット

 

「それで、アタシ悔しくて、本当に、許せなくて……!」

「でも、何も言わずに出てこれたんでしょう? 偉いわスカーレット」

「だって……だって……! 絶対、い、言い過ぎちゃう……アイツが悪いんじゃないのに……!」

 

 

 スカーレットが旦那と喧嘩して家出……じゃなくて、ウオッカと喧嘩して飛び出してきて一時間。とりあえず冷えてはいけないのでお風呂に入れて、少しだけお腹を満たして、落ち着くと同時に泣き出しそうになったのでリビングのソファで私の膝を貸していた。

 

 泣きながらスカーレットが語るところによると、ウオッカが「オークスに出る」と言い出したらしい。事の発端は雑誌の記事。ウオッカが特集目当てで買ったスポーツ雑誌に載っていたトゥインクルレースに関するコラムで、『ウオッカはダイワスカーレットから逃げて無謀な挑戦をしている』だのと書かれたらしい。

 

 

 よしんば逃げていたとして、逃げた先、ダービーなんだけど。スズカ、確かに……みたいな顔しないで。本来ダービーってクラシック最高峰のレースだから。なんでオークスより上なのかは知らないけど、世間的にはそうなってるんだから。あなたもボロ負けしたでしょ。

 

 

「どうしようトレーナー……! アタシ、アタシ……ウオッカが……」

 

 

 ウオッカは前々からダービーを走ると言っていたので、そのことだけを見るなら事情を何も知らない奴が書いた記事でしかない。ただ、桜花賞に来てスカーレットに負けたのが不味かった。そのように見えてしまったのだ。それを書かれて、ウオッカが弱気になったのか、それとも怒りからか、オークスに出ることにした、と。

 

 で、自分を曲げようとしたウオッカに苛立ったスカーレットが、バカ! だけ言って、それ以上言ってはいけないことを言う前に駆け出してきたという。

 

 

「そうねえ……」

 

 

 衝動のまま割と言い過ぎてしまうスカーレット。それがウオッカならなおさらだ。喧嘩じゃ済まないことを言おうとしたので抜け出して来られたのは賢い。それだけ重要なことなのだ、ウオッカがダービーを走るかオークスを走るかは。

 

 

「……?」

 

 

 スズカをちらり。あまり良い顔はしていない。結構深刻な問題ね、これは。正直スズカの様子を窺わなくても解る。こればかりは二人の人生に関わることだし、実際、ウオッカがもしオークスを走ったなら、その行く末に関わらず、間違いなく一生の傷になる。

 

 が、私が言っても仕方のないこと。あくまでもスカーレットとウオッカで何とかしてもらわなければならない。方向転換をスカーレットに伝えたという時点で、ウオッカとそのトレーナーの間では話し合いもあったのだろう。私のようなゴミの考え方ではなく、ウオッカのことを本当に理解して、一番に考えてあげられるトレーナーとのやり取りがあったはずだ。そこで彼が彼女を止めなかったのは、きっと、そういうことだと私は思う。その場で何かを伝えることなく、スカーレットに報告するように促した、のかもしれない。

 

 

「まずはねスカーレット。やっぱりあなたは偉いわ。ちゃんと止まって、こっちに来られたんだもの。私達はあなたのことをよく知ってるからね。よく我慢できたわね」

「うん……」

「でも、あなたから言わないといけないでしょ」

「……うん」

 

 

 私の膝を枕にお腹に抱き着くスカーレット。私達と同じ香りが押し付けられる。お風呂あがりで結んでいない髪を丁寧に撫でて、人間の耳があるべき場所に指を添わせる。彼女のトレーナーは、ウオッカなら最後には決断をすると信じていたのだろう。そして私も、スカーレットでなければ最後の一線は越えられないと信じている。

 

 

「一晩寝て、電話をしましょう」

「……でも」

「私が一緒にいてあげるから。それなら言えるでしょ」

「……うん」

 

 

 私の腰に手を回し、さらに顔を押し付けてくるスカーレット。ソファの下から、スズカも背中を撫でてあげている。不安げに背中を丸めるスカーレットの腿を引いて、尻尾の付け根から揺れる毛束に指を絡める。

 

 きっとスカーレットなら大丈夫だ。とても賢い子だし、何より強い子だから。正反対であろうウオッカと親友としてやっていけているのは、ウオッカとの相互理解だってある。お互いに、「何言ってんだこいつ」と言いつつも、本当に言いたいことを理解している。ここまで深い関係性の子はきっと他にはいない。スズカとスペシャルウィーク、ブルボンとライスシャワーよりも、もしかしたら深い絆かもしれない。

 

 

「一緒に寝る?」

「……寝る。スズカさんも」

「しょうがないですね」

 

 

 毛先をふぁさふぁさと弄びながら、にこやかに笑うスズカ。そのまま私が抱き上げてベッドへ運ぶ。私とスズカで挟んで抱き締めると、すぐに寝息を立て始めた。お姉さんぶって……実際年齢はかなり上だし先輩なんだけど、あやすように背中を叩くスズカがちょっと面白い。あと少し興奮しているスカーレットが肉付きも合わせて普通に暑くなってきた。冷房入れよう。

 

 明日で仲直りして全て終わりだろう。オークス出走もきっとウオッカの真意ではない。オークスはスカーレット、ダービーはウオッカが勝って終わりだ。決着は秋華賞、それがお互いにとって最良なはずだ。間にスカーレットを挟んで、私とスズカは眠るスカーレットを撫でながら笑い合った。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「じゃあ良い? 電話をかけるわよ」

「うん……うん、大丈夫。ちゃんと、話せる」

 

 

 翌日。身支度を整えてご飯を食べて、朝からシャワーまで浴びてから。座る私の脚の間に座り、後ろから抱き着かれる形で深呼吸を繰り返すスカーレット。あすなろに抱いてウマ耳の間に顎を乗っけて、頬から顎までをゆっくりとなぞる。

 

 走っているわけでもないのに、スカーレットの鼓動はかなり高まっている。レースより緊張してるんじゃないだろうか、この子。スズカは私のさらに後ろから見ている。せめてもの情けで映像を切って通話をかける。ウオッカはワンコールで出た。私は一切喋らないと言ってあるので、スカーレットが最後に引きつるようなひゅうぅ、という呼吸をしてから話し始めた。

 

 

「あのっ! う、ウオッカっ」

『……なんだよ。何か用かよ』

「何その……っ! ぁ、う……!」

 

 

 かちんときて咄嗟に声を荒げそうになったスカーレットの喉元に触れる。さらなる深呼吸と共に鎮火して、私にさらに寄りかかるように目を緩めていく。

 

 

「そのっ……あ、あのね、ウオッカ。その、わ、私っ……」

 

 

 そして、震えながらスカーレットが話せば、ウオッカも察してそれ以上は煽ってこない。このバランスが、二人を親友たらしめている。スカーレットのことを熟知しているから、必死なことさえ伝わればそのまま待ってくれる。スカーレットが次の言葉を紡ぐのに一分かかったが、ウオッカは急かしもせず声も発さず待っていてくれた。

 

 

「き……昨日のこと、あ、謝りたくて……」

 

 

 言えて偉い。ぎゅっと力を強めて頭を撫でる。横に倒れたウマ耳を指で擽り、スカーレットが持つスマホを支えておく。

 

 

「あの、わ、私ね! 本当に、ウオッカがオークスに出るの、く、悔しくて……!」

 

 

 ウオッカに対して気を張ってしまうという残念な本能を抑えつけて、スカーレットは必死に声を出す。ここで大きな声を出してはいけないとしっかり理解して、私とスズカに触れて本気で我慢を続けている。

 

 

『……別に、良いじゃねえか。決着をつけるんなら』

「違うの、ウオッカと走るのは、良いの、良いんだけど」

 

 

 頑張れスカーレット。

 

 

「ウオッカがオークスに来るのは、怖いの。私、勝てないかもしれない。桜花賞もギリギリだったのに、府中だなんて、私、勝てない……っ」

 

 

 スピーカーの向こうで、息を飲むのが聞こえた。

 

 

「でもね、でも、それでも、ウオッカが来るなら、私ももっと頑張るし、どんなことをしても勝つつもりでいるの。絶対負けない。それだけは本当なの。ウオッカがオークスに来ると決めたなら、それでも良いの」

 

 

 だけど、と口を開くと同時に、スカーレットが大粒の涙をこぼす。

 

 

「だけど、アタシ、アンタのこと、本当にかっこいいと思っててっ、アタシなんて何も考えないで一番一番ってバカみたいに、でも、アンタはいつも、ちゃんと、考えててっ」

 

 

 ちかちかと衝動性が覗くスカーレットを落ち着けて、涙で濡れないようにスマホを引く。声がちょっとずつ大きくなってきている。もう少しよスカーレット。大丈夫。頑張れ。

 

 

「だからね、アタシ、アンタのこと、本当に、凄いと思ってて! だって、ダービーに出るって言ってた時、本当に、かっこよくて、だからっ」

 

 

 スカーレットとウオッカの決着は、桜花賞の次は秋華賞になるはずだった。末脚勝負のウオッカにとって、一番の舞台は府中で間違いない。もしウオッカが府中に来たなら、強敵どころの話ではなかったはずだ。本当にスカーレットに勝つことを考えていたのなら、オークスに出ない選択肢はないのだ。

 

 それでも、ウオッカはダービーと言っていた。ライバルへのリベンジよりも、自分のロマンを選んだのだ。私のように損得で選んだのでもなく、夢を追い、さらに自分に不利な舞台でスカーレットに挑もうとしている。

 

 

「逃げたとか言われて、そんなことで折れるのが、本当に悔しくて……!」

 

 

 それは、スカーレットの押し付けなのだろうけど。それでも、彼女の生き方は尊敬に値するものなのよね。きっとウオッカもスカーレットのどこかを尊敬しているはずだ。だからこそお互いに、こいつには負けたくないと本気で言い合えるのだから。喧嘩するほど仲が良いのではない。ここまで理解し合っている仲だからこそ、その相手に勝つことに価値を見出しているのだ。

 

 顔を伏せてぼろぼろと泣き始めたスカーレットの上体を後ろから支え、代わりにスマホを持ち上げる。小さく鳴った声を拾うため少し近付ける。しゃくりあげる力にウマ娘としての力が入り始め、私の身体も持っていかれるのをスズカが引っ張ってくれる。

 

 

「だから、ごめん、ごめんねウオッカ……アタシ、頑張るから、アンタがオークスに来ても、絶対、負けないから……」

 

 

 嗚咽交じりの言葉を、ウオッカは本当に聞き取れているだろうか。

 

 

「それだけは、勘違いしてほしくなくて……! どっちを走ってほしいとか、そんなこと、言わないから……!」

『…………っ』

 

 

 返事を聞かずに、スズカは通話を切った。途端に声をあげて泣き始めるスカーレット。返事は……聞かなくても良かったのだろう。きっとウオッカはダービーに行く。スカーレットが、何があってもティアラを走るように、それが彼女の誇りだからだ。

 

 

 事実、スカーレットも、強制的に終わらせられたことに対して何も言わず、反転して私に抱き着いてきた。

 

 

「お疲れ、スカーレット。よく頑張ったわね」

「立派だったわよ、スカーレットさん」

「うん……っ」

 

 

 スズカと二人がかりでよしよしと撫でつける。素直になった反動、私が全部被るのかあ。怖いなあ。でもまあ、仕方ないか……ウオッカが潰れてしまったらスカーレットも潰れてしまう。それは困るので、まあ、ウオッカの分も甘んじて受けなければならない。

 

 ……でも、顔だけは勘弁してくれないかな……何とか、言葉だけで気を済ませるわけにはいかない? 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「ああ、もしもしトレーナー、今大丈夫か?」

 

 

「その……あのよ」

 

 

「この間の話、全部、無かったことにしてくれねえか」

 

 

「いや、解ってる、違うよな、一回言ったことを引っ込めるなんてよ。俺だって、こんなダセえことは言いたかねえよ。でも、これじゃいけないんだ。本当にごめん。もう間に合わねえかもしれないけど、何とかダービーに……」

 

 

「……取消はしてない? 追加登録も? 最初から何もしてないのか? 本当に?」

 

 

「……そうなのか。良かった……はは。なんだ、解ってたのかよ」

 

 

「ああ……よく解ったよ。全部な。危うく、俺はとんでもないことをするところだった」

 

 

 

「もちろん、謝りに行くよ。今度は俺から。手土産は……トロフィーで許してくれるかな。どう思う、相棒?」

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