走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
お詫びの気持ちにスズカさんに良い思いをしてもらいました。まあトレーナーさんも良い思いはできたんじゃないかと思います。
なおドーベルは先生とまでは行きませんが、趣味くらいはある程度の設定です。
「お願いスズカ。一回だけ。一回だけだから」
「え? うーん……まあ……良い、けど……」
五月某日、記録者、ミホノブルボン。本日はスズカさんに招待され、カフェテリアに同席しています。スズカさんとその友人、メジロドーベルさんがいらっしゃいます。
飲食代はメジロドーベルさんが支払うとのことだったので遠慮なく最大サイズのパフェを頼み、ついでにメロンソーダを飲みながら話を聞きます。
「どうしても必要なの。二人の絡みが」
「はあ、まあ、それは良いんだけど……」
何に必要なのか、マスターとスズカさんのポーズを写真に残したいと言います。スズカさんも細かいことを気にする方ではないので承諾はするようです……が、困惑が100%ではあるようです。
「どうして私達に……?」
「みんなトレーナーさんが男の人だから……流石に頼めなくて」
「まあ、そう……そうね。そうかも……?」
「でしょ!」
女性トレーナーは珍しいようですから、理由は理解できます。何に使うのかはさておき。
そもそも、やはりメジロドーベルさんはスズカさんの友人らしく、彼女の扱いを熟知しています。スズカさんに要求を通す場合、勢いで強行突破すると上手く行きます。走ること以外、自我の薄い方ですから。
「でもトレーナーさんが嫌がりそうだし……」
「お願いスズカ! やってくれたら私、スズカが走れるように頭を下げても良いわ!」
「やるわ。行きましょう。カメラは持った?」
そして、大抵のことはランニングを報酬とすれば何とかなります。突然乗り気になったスズカさんはそれ以上パフェに口をつけなかったので、私が食べることとなりました。スズカさんに便乗して私も走らせていただきましょう。そのためのエネルギーチャージです。
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「ということなんです」
「何が、ということなんです、なの」
ある日。スズカがメジロドーベルを連れてきた。カメラを持ったメジロドーベルと、それよりさらに乗り気のスズカ、謎にご機嫌なブルボン。とりあえず近寄ってきたブルボンだけ捕まえて私の側で撫で回す。頭を預けてきたので首もとをくすぐったり、少し膨らんだお腹を押し込んだり……何食べたの、これ。
「やりましょう」
「いや、は? んん?」
「お願いしますトレーナーさん。私、真剣なんです」
メジロドーベルとは、正直あまり関わりがない。というのも、基本的な性質として人見知り気味らしく、マチカネフクキタルとは違い自分から色々な人に絡んでいくタイプではないから。ただスズカの良き友人なのは間違いないし、実際周囲に人も多い。
そんな彼女が無駄に真剣に私とスズカの絡みを撮影しようとしている。怖い。いや、ネットに流されるとかは心配してないし、もちろんメジロドーベルにそんな趣味があるとも思っていないけど、もっと根源的に。
「デッサン人形だと気持ちが入らないんです」
「ああ、そう……なの……」
まあ、スズカの友達のことだし、別に害があるわけでもなし……受け入れるのは構わないんだけど、何だろう、この得体の知れない嫌な予感は。
「その代わりに私は走れるということになりました」
「は?」
「報酬代わりです」
「待って。私があなたに支払っているじゃないそれだと」
「ドーベルには頭を下げる覚悟もあります」
「だとしても一番損をしているのが私じゃない」
「私がそれだけ得をします。プラマイゼロです」
「勝手に幸せを合算しないで」
「大丈夫です、トレーナーさん。幸せは倍、悲しみは半分ってよく言いますから!」
「恋人ならね。恋人じゃないから」
マチカネフクキタルといいエアグルーヴといいメジロドーベルといい、私のことをトレセンのトレーナーの一人じゃなくてスズカの彼女くらいの扱いをしてくるのは何なの? 大人よ私は。仮にも生徒と先生の距離感じゃないでしょ。
「……ダメですか?」
「うーん……まあ……やるのは良いけど……」
膝枕まで倒れてきたブルボンを撫でて落ち着くことにする。気分良さげにしているが表情の固いブルボンが真っ直ぐにこっちを見ていた。
「ついでに私もお願いします」
「あなたは何も関係無いじゃない」
「お願いします!」
「わーっやめて! 頭を下げないで! 私が悪いことしてるみたいじゃない!」
トレセンではトレーナーに人権はない。ウマ娘に求められれば何でもするのが責務である。
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「じゃあとりあえずこれを履いてもらって」
「わあ凄い厚底。どこで売ってるのこんなの」
「これでスズカとトレーナーさんの身長差が20cmになるので、このままで」
「こんな脚の長い人を想定してるの?」
「絵なので」
厚底の靴を履かされ、ほぼ着けたことのないネクタイを着用させられる。私のスーツはパンツルックなので良いけど、スカートだったら着替えさせられていたんだろうか。
部屋の隅をちょいちょいと片付けてスペースを作り、二人で並ぶ。スズカが走るかはともかく主導権はメジロドーベルにあるので、言われるがままに動いていくことになる。
「まずはスズカ、そのまま抱きついて」
「こんな感じ?」
私に正面から抱きつくスズカ。私の背が伸びてしまったので、当然いつもより下に……まあベッドのなかではいつもこんな感じだけど、胸元にしがみつくくらいの形になる。そのまま顎のすぐ下辺りにスズカのつむじが来る。
……嫌がらなかったのもこういうところよね。別に密着度が上がるわけでもなし。
「そのまま強めに抱きついて。トレーナーさんも抱き返してください」
「はいはい」
言われたままに動き、ぎゅうぅーっとスズカが力を込める。私も手を回し、首の後ろを押し付ける。うん、まあこれくらいいつもやってることか。いつものスズカの……といっても私と同じものだけど、シャンプーの良い匂いがする。数回のシャッター音がして、少し手の位置を変えたりしてさらに数枚。
「スズカ、上に手を回してキスする感じで」
「どんな絵を描こうとしてるの?」
「一応! 一応です!」
言われた通りに体勢が変わる。背伸びをして首に手を回し、ん-、と唇を尖らせてくる。
「何本当にキス待ちしてるの」
「してませんよ。そう見えます?」
「見えるね」
その唇に指を押し付け、かなり珍しい斜め上アングルのスズカを楽しむ。真っ直ぐにこっちを見てふふんと笑うスズカ。くっと曲げて口を開くようにすると、私の指を唇で食んだ。
……いや、違うな。これは私達が個人的に楽しんでるもんな。
「次は何したら良い?」
「あっ……ええと、次は……そうですね、スズカはこう、倒れる感じで座ってもらって。トレーナーさんはその上から覆い被さってください」
「嘘でしょ」
「良いから」
この後走れるということで、あるいは単純に私との接触を楽しんでいるのかかなりノリノリなスズカ。腰を抜かした格好のスズカに迫るようにして上から被さる。ちょっと普段は無い格好かも。いやなんかこれは……ダメじゃない? ダメだと思う。メジロドーベルのことが心配になってきたわ私。めちゃくちゃテンション上がってるし。
「押し倒されているみたいですね」
「あなたを縛るときは大体こんな感じでしょう」
「それもそうかも」
「その会話をしておきながら私に困惑するのは違うんじゃないですか?」
「恋人だもの」
「恋人じゃないのよね」
支えるために地に突いた手にスズカの尻尾が巻き付いてくる。腕を少しずつ引かれると、当然私の身体もスズカに寄っていってしまう。鼻先までスズカの可愛い顔が近付いてくる。これがダメなのよね私。ベッドの中ならまだ平気なんだけど、普段の格好だとマジで無理かもしれない。うわ近、可愛い、無理……
「マスター」
「はっ……ありがとうブルボン」
ときめきが手拍子で中断される。危なかった……やっぱり反射的にスズカにときめいてしまう。何だこれは。私はどうしたら良いんだ。
「じゃあ、次壁ドンお願い」
「どっちが?」
「トレーナーさんが」
壁ドン、まあそれくらいはね。実際別に大したこともないだろうし。立ち上がって、壁際にスズカを追い詰める。またハグと同じアングルになり、さて、じゃあやりますか。できるだけ強めに行った方が良いのかな。結局何にドキドキするのか解らないのよね、壁ドンって。まあ、イケメンがやったらたぶん私もとは思うんだけど……えいっ。
ドンッ!
「ぁっ」
「どう、スズカ」
「えっ、と、あの、ん……はい」
やたら小声のスズカ。肘でヒトミミあたりを強くどんとやってみたのだけど、目を丸くして少し縮こまってしまう。この距離のスズカと目が合わないのはかなりレアだ。ちょっとずつ頬が赤くなっていく。照れてる? こんなことで?
これは珍しいものが見られた。今のスズカはこれが終われば走れるというメンタリティのはず。その上で取り乱すのはよほどのことよ。やっぱり予告なくやったのが大きいのかもしれないわね。スズカの精神を揺さぶれているうちに畳みかける。ドンしたまま後頭部に手を回し、うなじを擽りながらさらに距離を詰め、ウマ耳を後ろから弄る。
「どうしたのスズカ。らしくないじゃない」
「い、いや、あの」
「いつもみたいに強気で来たら? ん?」
「うぅっ……」
スズカの胸に手を当てながらほとんど密着するまで近付き、ウマ耳に囁きかける。もっと攻めるなら噛んじゃっても良いけど、流石にそれだとやり過ぎか。上がっていく鼓動に合わせてとんとんと叩きながら息を吹きかけたり裏側から指で擦ったり。近過ぎてスズカの顔は見られないんだけど、大方かなり混乱しているに違いない。指の腹でつつつと上がって行き、首筋に触れる。
胸元にいるスズカの息が上がっていくのを感じる。ふふふ。苦しむが良いスズカ。ちょうどいい感じに体温が上がっていて抱き心地が良いわね。どうしてくれようか。
「スズカ? 何とか言ってみなさい」
「くっ……ぅ……うぅ~~~~……」
さらに縮こまるスズカの背中を壁に押し当てて伸ばす。潰される形となったスズカは、しばらく言葉にならない声を漏らすと、唐突に私を突き飛ばした。強めに。吹き飛ばされ、壁に激突する私。
「げふっ」
「マス……マスター? 大丈夫ですか……?」
「大丈夫……かも……?」
「スズカ!?」
「ご、ごめんなさい、つい……あの、ごめんなさいドーベル、ちょっと走ってきて良い? お願い」
首に何かが当たっていたら死んでいたかもしれない。幸いにも背中からだったのでダメージは少なかったけど、それでも体の芯を揺さぶられるような痛みが走る。ブルボンに支えられながら立ち上がると、スズカがドーベルの肩を強めに握っているところであった。あなたは友達に何をしているの。
「ごめん、最後にお姫様抱っこだけお願いしていい?」
あなたも結構ぐいぐい来るわね。
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「ありがとうスズカ。助かったわ」
「ねえっ。ドーベルっ」
「あ、ごめんね。トレーナーさん。そういうことなのでスズカを走らせてあげてください」
「二人で言ってておかしいと思わない? この会話」
お姫様抱っこは割とつつがなく終わった。私達はそもそも色んな抱きかかえ方を試しているのでそれは平気だったようだけど、どうも壁ドンから様子のおかしいスズカはまだ様子がおかしいままである。ほくほくのメジロドーベルからも頼まれたし、どうせ止まらないだろうから走らせるのは良いんだけど……うん、今日は良いものが見られた。スズカの明確な弱点を知れただけ今日は収穫があったと思おう。まあ嫌ではなかったのも事実だし。
ウマ耳を絞ったスズカに走る許可を出す。同級生の前でありながらその場で脱ぎ始めるスズカに対してメジロドーベルもブルボンもリアクションすらせずカーテンを閉め鍵をかけている。もしかして私達の前以外でも普段からやってる?
「そうですね、たまに」
たまにやってるんだ……。
「たまに我慢できなくなって遊んでいる最中に走り出したりするので……この間もカラオケでそれっぽい歌詞を歌わせたら我慢できなくなってそこで帰っちゃいました」
何してるのこの子は。バカ?
「たまにですけどね。フクキタルより頻度は下です」
「ごめんねドーベル。末永く仲良くしてあげてね」
「もちろん、もう慣れてますから」
スズカが何か言いたげにこちらを見ている。恐らくはメジロドーベルの何かを伝えようとしたのだろうが、既に走行欲に飲まれているスズカに発言する余裕などあるはずがない。容赦なく下着姿になりお気に入りのランニングウェアに着替え、いつもの持ち物と共に外へと駆け出して行った。
「ありがとうございました。助かりました」
「いえいえ。私も助かったわ。今更スズカの弱点が見付かるなんて。今度から面倒になったらこれやるわ」
「……やめた方が良いと思いますよ」
「同意します」
「えっ」
突然真顔になるメジロドーベル、長らくの無言から口を開くブルボン。あまりに表情が切実だったので、何も言えずに黙るしかない。
「あんまり、どっちでも良いですけど」
「はい。推奨しません」
「……そうなの……」
次にやったら何が起こるんだろう。めちゃくちゃ怖いが、それ以上聞かないでと言う雰囲気があったのでそこで止めた、知らない方が良いこともある。
「ところで、もう少し撮りたいものがあるんですけど……ブルボンさんとちょっとやってもらっても良いですか?」
「……本当、スズカの友達って図々しくないと務まらないのね」
「まあ、スズカですからね」
それでも私は知っている。走ることさえ絡まなければ、スズカはスズカの友達と比べるとマトモだということ。
「やりましょう」
ただ、走ることが絡むと一番の狂人になってしまうのだ。目を輝かせるブルボンの頭を撫でつつ、そんな友達関係がこれからも続くと良いなあ、なんて現実逃避のようなことを考えていた。
「次高い高いでお願いします」
あと、彼女の作品は後で何が何でも見せてもらおうと思った。裏アカウントとか、無い?
違う方向に走り出そうとするスズカとフクキタルをメジロドーベルが中央で首根っこ掴んで止めているイメージでお願いします。