走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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本当に残り少なくなってまいりました。


集団でいじめられるサイレンススズカ

 

「動かないでください! 神妙にお縄についてください!」

「とらえろ~」

「な、何!? えっ!?」

 

 

 ある日。エルナトのトレーナー室に、雪崩れ込むようにウマ娘達が現れた。全員がお揃いの目出し帽とイヤーキャップ、サングラスを着用して入ってきて、そのまま私の膝で寝ていたスズカを捕まえる。

 

 

「そこの棚にロープと手錠と猿轡があるはず! 出して!」

「どうしてトレーナー室にそんなものがあるのよ!」

「気にしたら負けってやつなんじゃない?」

「ふふふ。スズカ先輩。年貢の納め時ですよ」

「確保! 確保デース!」

 

 

 どれが誰だか声で解る、以前に、それぞれ特徴があり過ぎて正体を隠す気が無いとしか思えない。イヤーキャップがいつもの雲デザインだったり緑だったりはまだマシな方で、エルコンドルパサーに関しては目出し帽の上からいつものアイマスクを着けている。やる気あるの? この子。

 

 

 混乱して抵抗しないスズカが私から引き離され、トレーナー室備え付けのロープで縛られていく。混乱しているというか、ロープを持ち出されたらとりあえず抵抗せず縛られるように体が調教されてしまっているらしい。私達のせいとはいえ悲しすぎる。誘拐事件とか大丈夫かしら。身内以外には縛られないようにしてね。

 ガチガチに縛られた後転がされたスズカ。その流れで私も何故か両手を後ろに掴まれる。グラスワンダーで良かった。一番手加減が上手そうだし。

 

 

「さあスズカさん。何故こんなことになっているかは解りますよね?」

「え? いや……解らないんだけど……」

「そうですか。ではスズカさん、これを見てください」

 

 

 私は仕事用のデスクの椅子、スズカはソファに寝かされる。黄金世代の指示を受けたブルボンが私を押さえつけ、スズカはエルコンドルパサー、キングヘイロー、グラスワンダーに捕まっている。流石に三人相手だと身動きは取れないようだ。その三人は下の世代でもエリートなわけだし、それは動けないよね。

 

 さて、そんなスズカにカレンダーを見せつけ、今日の日付を指さすスペシャルウィーク。どうしてセイウンスカイは捕縛にも参加せずカメラを回しているの? 言っておくけどこの襲撃に参加した時点であなたも共犯だからね。

 で、指し示された今日の日付はと言うと……別に何かがあるわけではない。誰かの誕生日とか、とも思ったけど、スズカはそういうところはちゃんとしてるし、友達の誕生日とかお祝いとかは欠かしていない。

 

 

「宝塚記念まであと二週間ですよ」

「!?」

 

 

 あ、そういう。

 

 

「突然力が……!?」

「しっかり押さえてください。吹き飛ばされますよ」

「ウマ娘よね? 怪物じゃないのよね?」

 

 

 宝塚まであと二週間。つまりまあ……スズカを走らせないために来たのだろう。そして、甘やかさないように私も捕縛したと。ブルボンの手で口が塞がれているので、大人しく何も話さないようにしておく。でも一緒に頭を撫でるのはやめてほしいなあとは思うわ、私。

 

 

「今日からランニング禁止です、スズカさん」

「まっ……待って、それはおかしいわ。スぺちゃん」

「何もおかしくありません。ランニング禁止の期間が長ければ長いほどスズカさんは強くなってくれる。そうですよね」

「違うわ」

「何も違いません」

 

 

 ぐいぐい行くわね。

 

 

「と、トレーナーさん。不当な要求です。パワハラをされています」

「パワハラというか普通に実力行使ですけどね」

「安心してくださいスズカさん。ただ走れないだけだとスズカさんが可哀想だと思ったので、ちゃんとご褒美も用意しました」

「走ること以上のご褒美なんて無いのよスぺちゃん。だからこの会話に意味なんて無いわ」

「あります」

 

 

 口を塞がれているのでスズカの要請にも応えられない私。カレンダーをしまい、スペシャルウィークは鞄から首から提げられるプラスチックバッグを取り出した。一枚の紙が入っている。ここからだとちょっと、文字が読めないのだけど、カラフルなデザインがされていることだけは解る。

 

 

「一日走るのを我慢できたらスタンプを押してあげます。スタンプはいつでも景品に交換できますよ」

「子ども扱いにもほどがあるわね」

「スぺちゃんがこれでいけるって……」

「うきうきでスズカさんがスタンプを貰いに来る姿を想像したら笑っちゃうもんね」

 

 

 どうやら、夏休みのラジオ体操のスタンプカードみたいなものを自作してきたらしい。見た感じ結構ちゃんとした材質みたいだし、結構頑張って作ったんでしょうね、あれ。

 

 

「景品を発表します」

「スタンプ一個で20kmなら頑張るから、ね、スぺちゃん」

「それは一体何を頑張るんですか」

「ちゃんとスぺちゃんに許可を貰ってから走るってことを……」

 

 

 追い詰められたスズカ。このまま約束させられてしまうのだろうか。私やブルボン、スカーレットとの約束は割と簡単に破るが、後輩との約束はちゃんと守る子だから一度約束させられたら大変だ。もちろん、それを知っていて体を押さえつけて約束させようとする黄金世代もなかなかイカれている感じもするけど。

 ちょっと息が苦しくなってきたのでブルボンに口を解放してもらい、カードを見せてもらう。結構デザインとか凝っているわね。小学生ならめちゃくちゃ喜びそう。

 

 

「スタンプ一個でカフェテリアで一品奢ります」

「結構大きいわねそれは」

「カフェテリアにランニング権って売ってましたっけ……?」

「売ってるわけないじゃないですか」

「人権ですよ?」

「じゃあなおさら売ってませんよ」

 

 

 スタンプ三つだと奢りラインナップに特製パフェが解禁されるらしい。結構高いもんねえあれ。それでもスタンプ三つ。今日を入れても十四個しか取れないことを考えると、それぞれ一回ずつくらいは奢る覚悟があるんだろう。これって申告した日に奢ってくれるの? 

 

 

「いえ、太ってもらっては困るので宝塚の後です」

「ああ、なるほど。それって大丈夫? どういう気持ちで奢るの?」

「ふふん! なんデス!? まさかエル達に負けた後っていうのが怖いとでも!?」

「ううん。スズカにやられた後でしかもお小遣いを使うの辛くないのかなって」

「っ、ふーっ……」

「エルちゃん! 煽っちゃダメ勝てないから!」

「流石に火力が高いですね本物は」

 

 

 五スタンプで好きな食べ放題を奢ってくれるらしい。スズカに物欲が無さすぎるのとランニング権をここに入れられない都合上、普通に食べ物だらけになっている。まあスズカももちろんウマ娘、食欲が大きいことは間違いないし、勝敗を問わず宝塚が終われば大量にランニングをするのだから栄養補給としてもあったら嬉しい。

 

 

「ちょうどいいみたいなこと言わないでくださいトレーナーさん、それで私が人権を失おうとしてるんですよ」

「大げさな。ただちょっと二週間走れないだけでしょう」

「それがどれだけの苦行か解ってますよね」

「知らないわねえ」

「裏切り者……鬼……悪魔……たらし……」

「たらしはやめない?」

 

「話には聞いてたけど本当にこんな感じなんだねえ」

「流石にビビっちゃいますね……」

「エルさんのテンションが下がるのは相当ね……」

 

 

 私達のことがどう伝わっているかはともかく、やはりスズカを食で服従させるのは難しいらしい。決して頷くことなくスペシャルウィークを拒み続けている。本来宝塚記念を走ると決めた時点でそれも覚悟していたはずなのだけど、流石に直接禁止を突き付けられるとダメみたい。

 

 

「さあスズカさん、約束してください。今日から宝塚記念の日までランニングを禁止すると」

「い、嫌……せめてあと一回、いや二回、三回くらい走ってから……」

「ここで言うランニングって薬物の隠語だったりしない? 大丈夫なの?」

「ドーピングしててほしいよねえ……それだったらもう少し勝率も上がるんだけど」

 

 

 そろそろ助けてあげるか、と立ち上がり、スズカの元へ。作戦総指揮スペシャルウィークの指示で解放されるや否や私に抱き着いてきた。手足のロープを引きちぎり、私の胸でむむむと唸り始める。

 

 

「よしよし。可哀想なスズカ」

「トレーナーさん! スズカさんを甘やかさないでください!」

「トレーナーさん……!」

「まあまあ。スペシャルウィークもどうしたの。いつになく強行突破してきたじゃない。そんなことしなくても真剣に頼めばスズカは走るのを我慢してくれるわ、あなたなら」

「そうですそうです」

 

 

 そうじゃなさそうな相槌のスズカ。うんうんと適当に喋る顎を下から叩いてあげて、擁護されたということでご満悦な頬を指で挟む。

 

 実際そうだと思うし。スペシャルウィークは大切な後輩であり親友だ。本来引退するところだったが、それでも条件を付けてそれを引き延ばしたのだから。もちろん、それは他の友人に言われる以上の効果があっただろう。それで信頼を消費したわけでもあるまいし、もう一度それをやればよかったのに。

 

 

「一週間くらいならやってくれそうでしたけど、二週間は頼んでも無理そうだったので」

「良かったわねスズカ。素敵な後輩がいて」

「一回やってみてから言って……?」

「警戒されたら困るので……」

 

 

 哀れスズカ。あなたにこの方面での信用なんてこれっぽっちも無いのね。

 

 

「で、やってくれますよね?」

「い、嫌ぁ……」

「お願いしますスズカさん!」

「スズカ先輩、お願いします」

「お願いしまーす」

「さあ! スズカ先輩!」

 

「流石は黄金世代ね。作戦とゴリ押しのバランスが良い」

「同期ながら恥ずかしくなってきました」

「キングもそんな感じだもんね。作戦を立てるけど最後は全部忘れて気合になる」

「今私は関係無いでしょ!?」

 

 

 大きな声でのゴリ押しにシフトされたスズカ。私もろとも完全に囲まれて威嚇じゃないかと言う声量でお願いされている。いくら走ることに関してとはいえ、今回はスズカにも若干の負い目……負い目ではないんだけど、負い目がある状況。勢いに押されてはっきりと断ることができていないのを見て、本当にこの子、誘拐とか……まあ三、四人なら銃でも持っていない限り制圧できるとは思うけど、めちゃくちゃ心配だわ。

 

 ……流石に冗談だけどね? ウマ娘相手の誘拐とか……少なくとも日本では無理かな……。

 

 

「選択の時よスズカ」

「でも……せめてあと三日くらい走らせてくれれば……」

「だからそれじゃ意味無いって」

「トレーナーさんは私の理解者でいてくれないと困ります」

「スペシャルウィーク達だって理解しているでしょ」

「全肯定してください」

「嫌だね」

 

 

 ワガママ娘を転がして叩き落とす。すぐに全員に囲まれるスズカ。これは時間の問題ね。コーヒーを淹れて戻ってくる頃には、既にスズカは頭を抱えて圧を受けるだけ受けてしまっていた。何なら暴力でも受けているんじゃないかと言う追い詰められ方だ。何なら圧と同時に擽られてもいるから普通に暴力も受けているかもしれない。

 

 

「絵面が最低過ぎるでしょ」

「これがアクション:『リンチ』……」

「これって訴えたら罪になるかな」

「なるんじゃない? たぶん……」

 

「ひゃはは、ふひゃ、わ、解ったから……走らないから、走らない……」

「やっと折れましたか……」

「思ったより粘りましたね」

「これでエル達の勝利デス!」

 

 

 決まってしまったらしい。宣言してしまった以上これは破れないだろう。可哀想なスズカ……呼吸も落ち着かないままに私の元に帰って来て、また唸りながら私のブラウスのボタンをつけたり外したり。本人ももう守るしかないと解ったようで何よりだ。誰も損はしていないわね、ヨシ! 

 

 

「トレーナーさん……死にます……」

「我慢出来たら褒めてあげるから。頑張りましょうね」

「やぁ……」

 

 

 満足した様子でお菓子を食べ始めるスペシャルウィーク以外の面々。ずっと我関せずを貫いてきたブルボンがボードゲームを提案し、スズカなどいなかったかのように遊び始めた。完全に拗ねてしまったスズカの相手を私に押し付けた形になる。これで本気でスズカを尊敬しているというのだから手に負えない……大体のことはスズカが悪いんだけど。

 

 

「この世界は……鬼畜ばかりです……」

「言い過ぎ。あなたの後輩だけよ」

「すみませんスズカ先輩……代わりに謝らせてください……」

「ううん、キングさんは悪くないわ……というか、悪いと思うなら止めて……」

「まあ、それは……はい。他に何かあったら教えてください」

「ぅぁ……」

 

 

 常識の残っているキングヘイローもスズカを見捨て、スズカの味方はいなくなってしまった。

 

 そして、ここからスズカの地獄が始まることになるとは……全員が確信していた。




少し前からお気付きかと思いますが、メインシナリオはともかくコメディパートは本当にネタが無いので書けていません

なので特に見てみたいものとかなければメインシナリオが大きく進んで最終回となります。
ただ、展開リクエストは感想欄ではダメという事実。ふふ。ままならないね。
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