走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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こちらは二話同時投稿の二話目です。
一話前がありますのでご注意ください。ただしシリアスの方なので別に読まなくても大丈夫です。


充電中のサイレンススズカⅢ

 

「じゃあ行くわよ。覚悟は良いわね」

「良いけど、そのダサいサングラスは何」

「気合い入るかなって」

「似合ってないわよ」

「そう?」

 

 

 宝塚三日前。詳細は省くが卑劣な愛バの罠により、一週間前から三日前まではブルボンとスカーレットに特別メニューを課すことを約束させられていたわけだけど、ついに最終日が訪れた。

 ダサいと言われたのでサングラスは隣のキングヘイローにかけて、軽くジョギングを済ませた二人に声をかける。なお、スズカは外の空気に触れたら不味いと全員が理解しているので完全拘束……つまり手錠、マグネットシューズ、目隠しと猿轡で連れてきている。

 

 唯一擦り切れていない、今日の監視役キングヘイローがスズカをめちゃくちゃ気遣っているが、まあ……これは良いか。今さら黄金世代に何を思われてもって感じだし。

 

 

「今日ここであなた達を叩き潰すわ」

「やれるもんならやってみなさいよ」

「私にはあらゆるトレーニングへ耐性があります。マスターの愛バですから」

 

 

 特別メニューは基本的に連続ではやらない。体力の回復……というか怪我率の低下が追い付かないからだ。一日おきでギリギリ、ベストは二日おきになる。

 一昨日潰されておきながらやる気に満ち溢れている狂人二人。いつものように二人でストレッチを始めさせる。簡単な伸縮から大ジャンプ、人間からすると雑技団かサーカスかみたいなパフォーマンスで行うダンスにも似た体操とつつがなくこなしていく。

 

 

「スズカもストレッチくらいする?」

「むぐ……!」

「大人しくね」

 

 

 一旦拘束を解く。目隠しはたぶん取らない方が良いのでそのままで、こっちはもっと大人しく静的に身体を伸ばしていく。動的な方は人間では基本的に手伝えないので、ふにゃふにゃのスズカで遊ぶことに。

 

 

「おー凄い」

「柔らか……」

「んー…………」

 

 

 180度開脚から胸までつく。押していても抵抗を感じない流石の柔軟性にちょっとワクワクする。これでもまだ余裕そうなのが凄い。骨とか無いのかなこの子。

 スズカの身体を弄んでいるうちに二人も終わったようなので、スズカを戻して笛を咥えさせる。勝手にスタート位置につく二人。既にブルボンには限界ギリギリの走行ペースを、スカーレットにはそのブルボンに全力で競るようにと指示を入れている。

 

 

「用意は良い?」

 

 

 少し大きめに声に出せば、スタート地点の二人が手を振る。そうそう、スズカのウマ耳を塞がないと。

 

 

 ぷぴぴっ

 

 

「はの……っ、ほつれんうぃうぃをさわあらいでくぁさい」

「何言ってるか解らないわ」

「んぅぅ」

 

 

 塞ぐついでに指を差し入れて擽る。キングヘイローがウマ耳を塞いだのを確認してからスズカに合図。くすぐったく悶えるスズカが大きく笛を鳴らした。ロケットスタートを決める二人。

 ブルボンが先行しかけたところにスカーレットが張り合い、ほとんど真横へ。珍しくブルボンが内、スカーレットが外になっている。

 

 

「ひっ、ふ、ふぅ……っ」

「どうどう」

「み、みみをはなして、はなして……」

 

 

 先頭をすれすれで維持するブルボンにスズカが狂いかけたのでウマ耳を弄ることで引き戻す。くりくりと内側をなぞり悶えさせながら二人を見守る。腕のなかでぐねぐね動かれると見辛いわね。

 

 

「やっぱりこのスピードだとスカーレットが限界ね」

「そうなんですか? しっかり走れているように見えますけど……」

「ん、まあ走れてはいるけどね。ほぼ全力だし、ずっとスパートをかけ続けている感じかな。本番想定ならこれに慣れてもらわないと」

「……ずっと全力で走るんですか? 本番も?」

「じゃないと勝てないし」

 

 

 ずっと全力は誇張にしても、ほぼそれと同じことをすることにはなる。何をどう考えても無茶だがそうするしかない。本気でスズカに勝とうと思ったら、スズカの前に出てひたすら粘り続け気合いで最終直線を乗り切る方法しかないからだ。

 地獄のハイペース先頭争いでスズカを潰さないと、単独で先頭に立たせた時点で少なくとも逃げ先行に勝ち目はない。

 

 スズカとの競り合いに勝った上で後ろから漁夫の利を取られないように耐える必要があるから、前脚質には非常に厳しいレースになる。後ろは後ろで仕掛けが遅いとどんな末脚でも追い付かなくなるリスクがあるのでどっちが良いかは諸説あるとは思うけど。

 

 

「っふぅ……く……」

「遅れてるわよスカーレット。先頭を取られたら負けだと思いなさい」

「……無茶な作戦です」

「相手が相手だからね」

 

 

 しかしやはり一本目、スカーレットは気合いで競り続けた。ブルボンも凄いわね。あのハイペースで競りかけられてなおほとんどペースが乱れていない。

 特にこのトラック坂路だと帰りは全力走行を想定していない長く緩い下り坂になる。それでも速度を変えないのは流石と言わざるを得ない。これだけはどんな天才にも匹敵するあの子の才能だ。

 

 

「うああぁあぁぁっ!!!!」

「む」

 

 

 坂路コースはブルボンの庭。流石のスカーレットも最終的には少し置いていかれていた。まあこれは想定内。むしろスカーレットはよくやっているくらいで、普通なら褒めちぎるくらいでちょうど良い。

 ただし、どんな事情であれ、敗北した時褒められると怒るのがうちの子達の厄介な点なのだ。

 

 

「お疲れブルボン、スカーレット」

「目……標タイ、ム……達……成……しま……た……」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 

 どうして私はこんなに頑張った子達に鞭を打たなきゃいけないの? いやまあ、そうせざるを得ないのは私の未熟ゆえなんだけど……。

 

 

「ブルボン」

「はい……」

「次の一本も同じペースで良いわね」

「ちょ、ちょっと、いくら何でも次も同じペースは」

「了解……しました……」

 

 

 常識人キングヘイロー。帰ってくるなり倒れた相手に全力疾走をお代わりするなんて正気じゃない。私もそう思う。それでもやるのがこのチームなのだ。

 

 で。

 

 

「離されてるわよスカーレット」

「はっ……はぁっ、わかっ、んぐ、げほっげほっ!! 解ってるわよ……!」

「次は死ぬ気で追い縋りなさい。上りで離されたら今日は終わりにするわ。良いわね」

「見てなさいよ……!」

「命を削るのはやめてね。あなたもうできそうだしやりそうだから。ブルボンもよ。絶対にやめてね」

「はい。やりません」

「逆に白々しいわね……」

 

「今何の話してます?」

「あるのよ、そういうのが。キングさんは真似しないでね」

「はあ……」

 

 

 もう一度送り出し、スズカに笛を吹かせむぐぐぐ。

 

 

「自分でやってください」

「いきわぃぁいふんの」

「何を言っているか解りません」

 

 

 咥えさせられたので自分で吹く。うーん、さっきよりスタートが良い。最初は手を抜くとかではないんだけど、やっぱり追い詰められれば追い詰められるほど実力を発揮してしまうのよね。これはあの二人に限らず、一流のウマ娘はみんなそうだ。

 

 だから本当に怖い。この宝塚でスズカが勝てるのかを正直な話断言できない。

 

 

「というか目隠しで笛を突き出すのやめなさい。外したら顔に付くでしょ、色々」

「汚いって言いたいんですか?」

「いや汚いでしょ。あなた私のこと何だと思ってるの」

「……恋人?」

「億が一恋人でも汚いでしょ」

 

 

 スペシャルウィークやグラスワンダーは言わずもがな爆発力がある。グラスワンダーはまだマシかもしれないがスペシャルウィークがどれだけ強いかは想像もつかない。そういう意味ではライスシャワーもそうだ。しばらくこっちを……今度はスズカをどこかから監視していたようだが、トレーニングをほとんどしないと解ると春の天皇賞前のようにどこかにふらっといなくなった。

 

 セイウンスカイは身体能力こそ大したことはないけれど、レース勘や作戦を立てる頭はトレセン屈指だろう。数値が見えているとスペシャルウィークやキングヘイローに勝てたのが本当に不思議でならない。

 

 

 比較的因縁の薄いエルコンドルパサーやウオッカは本当の天才だ。年次が下とかそういう話ではない。それこそ、ジュニアでもデビュー前でもシンボリルドルフやマルゼンスキーは強い。したがってあの二人も強い。それだけの話だ。

 

 

「ブルボン。今度はちゃんとスパートをかけなさい。言い終わって五秒後。スカーレットは三秒は粘りなさい。以上」

 

 

 言い終わった瞬間スカーレットがさらに前に出た。ああ怖い。あの二人がレースで突然急成長する可能性だってあるし、何かしら条件を満たして爆発力を見せてくることだってゼロではない。

 いくら下りとはいえこの極限で加速する二人を見るとどんどん怖くなっていく。

 

 

 スズカがもし負けるようなことがあったら、私はどんな気持ちになるんだろう。

 

 

「今変なことを考えてませんか?」

「……何も?」

「嘘です。見れば解ります」

「目、見えないじゃない」

「見えなくても解ります」

 

 

 顔を直接触るのはやめて。メイクが落ちるでしょ。

 

 

「そんなに不安にならなくても大丈夫ですよ。負けるわけないですから」

「……具体的に読んでくるわね」

「当たってるでしょう?」

 

 

 したり顔でムカつくので俯せにして肘と膝で挟んでおく。まあ、大丈夫か。負けたら負けたでこの子は大丈夫そうだし、私だってたぶん、恐らく、もしかしたら。

 

 ……ん。ブルボンは今回も規定ペース通り。スカーレットが三秒遅れで帰ってきた。二人ともダメそうだったのでぱしぱしとスズカの背中を叩く。目隠しを外し、倒れ込む二人を一緒に抱き止めに行ってくれるスズカ。

 

 

「大丈夫、ブルボン」

「スカーレットさん? スカーレットさん」

 

 

 ブルボンは空を掴もうとしたり私に突っ伏したり意識が朦朧としている様子で、帰ってきたのに結果報告をしない。スカーレットも完全に飛んでいる。スズカが身体を叩いて呼び掛けても反応がない。

 

 本当なら焦るところだけど、私の目に二人のバッドコンディションは見えていないし、体力も残ってはいるし怪我率も出ていない。そもそもこれくらいのことはよくある。ただの立ち眩みよね。

 

 

「ほ、保健室……!」

「大丈夫大丈夫。落ち着いてキングヘイロー」

「落ち着いている場合じゃないでしょう!?」

「すぐ起こすから」

 

 

 は? と漏らすキングヘイローを横目に二人を寝かせ、冷たい水を顔面に落とす。まずブルボンがぱちりと目を開けた。ドリンクを飲ませるのはスズカに任せる。

 

 

「良かったと思うわ」

「ありがとうございます……」

「でもたぶんもう少し強くスパートできると思う。まあ今日はもう良いけど、シミュレートしておいてね。命を削らなくてもあと少しできるから」

「……はい」

「じゃあ五分休憩」

 

 

 で、スカーレット。何度か呼び掛けると意識を取り戻し、焦点の合わない目でドリンクを飲み始める。

 

 

「スカーレット、大丈夫? 息はできる?」

「まえ……やぶって……」

「それはダメ」

「……っ、ふーっ……!」

 

 

 破るわけにはいかないが、苦しそうではあるのでトレーニングウェアをギリギリまで捲り、お腹の方から手を突っ込んで襟まで前を持ち上げる。うわおっぱいでっか。

 基本的にはスカーレットは叩かないとやる気が出ない。ただ、できた時はちゃんと褒めるべきで、実際この周回はよくできていた。ぴったりスカーレットの自己評価、自己肯定感と同じ空気感で褒めないと怒るのが面倒ね。

 

 

「……75点くらいね。今日は良い感じだったんじゃない? もうトップスピードは無理だろうし、もう数回流して終わりね」

「舐めんじゃ……ないわよ……! まだ、やれる……!」

「はいはい。少し休んでいなさい。回復したら次行くから」

 

 

「スズカさん……私にもお願いします」

「あ、ええと……こう? 苦しくない?」

「はい……」

「かわいそう……やっぱり邪魔よね……? 手術とか……」

「怖いことを言わないでください」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「よっと」

「うんしょ」

 

 

 そこからさらに数本。ドン引きするキングヘイローの前で二人を走らせながら、脚の回復を待ちつつ上半身の筋トレを挟み、ボロボロになるまでトレーニングをさせた結果、二人とも気を失ってしまった。

 怪我率が高めに出ている以上、叩き起こしても仕方がないので今日は終わりにしておく。やりたいと言うのでやらせてみたものの、全身くまなくスパルタをすると流石の二人でもこうなるのね。

 

 

「……どうするんですか? この後」

「下校時刻までに起きれば帰すし、起きなければ家に連れて帰ることになるわね」

「今更ですけど、外出許可とかは?」

「しばらく出してないわね……たぶん怒られないとは思うわ。トレーナーさんがクビになるくらいだったらそれはそれで」

「それはそれで、じゃないのよ」

 

 

 二人が倒れ帰り支度をするので、監視役の仕事もこれで終わり。キングヘイローと別れ、トレーナー室のベッドまで二人を運ぶ。すれ違うウマ娘達の目線がとても痛い。寝かせてソファに座ると、すぐにスズカが腿に飛び込んできた。

 

 

「はあ……疲れました」

「嘘おっしゃい。二人を纏めて持ったって大したことないでしょ」

「そうじゃないですよ。内なる自分と戦うのに疲れたんです」

「勝手に戦ってなさいよ」

「私の中の天使と悪魔が囁くんです。走るのはコンクリートにしよう、いや森林が良いと」

「理性ってものが無いの?」

 

 

 また私が病みかけているからか、口で言うほど本気で走りに行こうとはしない。私の手を掴んで自分の頬に沿わせ、ふふ、と満足げに微笑む。

 

 

「無かったらもうここにいませんよ」

「それはそうね」

「私偉いですよね? そういうときはどうするんですか? 走る? 許可を? 出? す?」

「うるさい」

「ふぎゅ」

 

 

 顔面をお腹に押し付け黙らせる。くすぐったいから息をしないで。嗅がないで。怒るわよ。

 

 

「冗談ですよ。約束しましたから」

 

 

 そう。そうね。まあ、スズカが負けることはないか。目の奥の炎は心から信じられる。それと、金色に輝く『スピードSS+ 1200』の文字。

 

 ……なんか若干色褪せてない? こんな青っぽかったっけ?

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