走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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うすあじ。


後輩想いのサイレンススズカ

 

「じゃあお疲れ、二人とも。今日は来ないのね?」

「ん。一旦寮に帰るわ」

「お疲れさまでした、マスター」

 

 

 宝塚前の木曜日。金曜日は祝日につきトレセンとしてはお休みで、日曜日のレースに向けて基本的には強いトレーニングはもうしないチームがほとんどである。

 今日最終調整をして、金曜日ゆっくり休んで、土曜日に作戦会議をしながら移動して体を慣らし、そして日曜日にレース、というのが多いかも。もちろん、日曜日にレースがない子達や、あっても東京付近開催ならギリギリまでトレーニングをしている子達もいるけど。

 

 

「お疲れさま。また後でね」

 

 

 珍しく二人ともうちに来ないということで、駐車場あたりで別れることになった。スズカは基本的に寮に帰る選択肢はないので私に着いてくる。小さく手を振って後輩を見送り、助手席に座る。一旦波が引いてマトモなウマ娘面をしているけど、今日も大変だったんだからね。ありがとうエルコンドルパサー、フォーエバーエルコンドルパサー。

 

 エルナトは私の決死の交渉により前者となった。昨日に限界トレーニング、今日は調整目的の低負荷トレーニングとして、明日明後日とトレーニング無し。うちは作戦も考える必要がないので、本当に何もしないことになる。

 

 

「帰りにどこか寄る?」

「んー……大丈夫です。そのまま帰りましょう。今日のご飯は何ですか」

「そうね……ジャガイモがたくさんあるから、コロッケとか……肉じゃがとか鶏肉を入れたり……」

「やったあ」

 

 

 宝塚に出る有力な……つまりスズカ周りのウマ娘達は基本的には同じようなスケジュール感で動いているらしい。ああ、ライスシャワーは別としてね。あれは別の、そういう生き物だから。

 良い意味で、頂点に近づくほど余裕が生まれるのだ。前例を辿れば、未勝利ウマ娘がレース前日までオーバーワークを繰り返して当日のメディカルチェックで引っ掛かった、なんてことも枚挙にいとまがない。

 

 鉄則と言うほどではないが、三日前のメディカルチェックを終えたらその後は高い強度のトレーニングはしない、というのがほとんど常識化している。もちろん、調整とかは順次行うし、走りのコツを忘れやすい子は前日にも気を張るためにやるらしいけど、うちにはあんまり関係無いかな。

 

 

「はあ……なんだか走りたくなってなってきました」

「ふと感じたみたいな顔しないで」

「時速10kmを越えて動くと本能が目覚めるんです。私が私になってしまいますよ」

「普通逆でしょ。なんで理性を失って自分に回帰するの」

「走るために生まれてきたので……」

「絶対にそういう意味じゃないから」

 

 

 流れる景色を眺めつつ呟くスズカ。よくもまあこんなに頑張ったものね。まだ明日明後日はあるけど、最悪家から出さなければ良いし。他人の走る姿を見なければ、いくらスズカでもそう何度も発作は起こさないだろう。明後日の新幹線がちょっと怖いかも? まあ、いくらスズカでも新幹線は……電車の時もまあまあ大丈夫だったような気もするし……

 

 

「私が新幹線より遅いって言いたいんですか?」

「無理があるでしょ。いくら何でも電車と競うのはバカよ」

「そのうちそれくらい速くなるかもしれないじゃないですか」

「だと良いわね」

 

 

 最近、スズカのスピードの表示がおかしい。私の目には実数値とそれに合わせたアルファベットが表示されているのだけど、文字は黒、アルファベットはそれぞれ固定の色になっていたはずだ。なかでも、Sより上は金だったはず。スズカのスピードやライスシャワーのスタミナ、シンボリルドルフの賢さなど、金色はなかなかお目にかかれない。

 

 ただ、この禁止期間のいつだったか、スズカのSS+1,200が青みがかってきているような気がする。シンボリルドルフのレース映像を見て確認したが、ちゃんと金色だった。もちろん、特に問題になるようなものでないなら色なんて何でも良いんだけど、なにせ前例がない。怪我率や体力が見えている以上健康に関するものとは思えないけど、それでもちょっと怖いかも。

 

 

「移動、飛行機にしようかしら」

「空は嫌です。窓を開けていいなら良いですけど」

「ウマ娘でもギリギリ死にそうね……」

「息を止めれば大丈夫ですよたぶん」

「ふふ……大丈夫なわけなさすぎるでしょ……」

 

 

 途中でスーパーに寄ってちょっとだけ調味料や日用品を買い足してマンションへ。何故かいつも私が荷物持ち担当、鍵とか色々がスズカなのはなんでなの。逆じゃない? パワーが違いすぎるでしょ。

 買ってきたものを片付けている間、スズカは制服から部屋着に着替える。一回ジャージに着替えようとしたのでトイレットペーパーを投げつけて止め、私も部屋着へ。

 

 

「リプ返?」

「はい……最近また増えましたね。やっぱり宝塚が気になるんでしょうか」

「当たり前でしょ。大注目よ」

「いつもと変わらないと思いますけどね」

 

 

 着替えて戻りソファへ。すぐにスズカが膝枕に入り、上を向いたりお腹を向いたりしながらスマホでファンサを始めた。一応文面は見ているけど、良くも悪くもスズカは定型文みたいなものしか返さないので安心だ。

 油断すると「トレーナーと付き合ってますか?」「はい」みたいなやり取りをし始めるのでいつでも止められるようにはしておかなければならないが。

 

 

「普通のレースじゃないですか、別に」

 

 

 本気10割。スズカにとっての宝塚は所詮その程度……ということでもない。確かにスズカにとってどんなレースでも何も変わらないのは間違いないし、そうなるように適正外のレースには出さないようにしているが……それに加えて、「自分にスペシャルウィーク達が追い縋ってくるのは当然」と考えている節もある。

 

 スズカが一番速くて、それを全員が解っている。スズカに勝つために全員が必死になって当然だから、それがどんなレースであろうと普段と何も変わらない、と本気で思っている。たぶん向こうもそれで良いと思っているのだろうし。

 

 

「あ、この人私達のイラスト描いてくれる人ですよ」

「えぇ……嬉しいけど何かちょっと複雑ね」

「ちゅーまであります」

「今はっきり嫌になったわ」

 

 

 返信するな。今すぐブロックしろそんな奴。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「スズカーちょっと来てー」

「はーい」

 

 

 一時間くらい後。晩御飯の準備中はスズカにはやることがない。この子を調理に参加させ……ても良いけど、まあ私一人の方が早いので味見くらいのお手伝いになる。別に料理ができないわけじゃないんだけどね。

 

 どうせ二人とも気にしないので、菜箸でじゃがいもを食べさせる。箸で差し出すとぱくりと一口で食べてしまった。熱いでしょ。

 

 

「っ、ふぁ、むぅあ……わぁ……」

「そりゃ熱いでしょ。煮たじゃがいもよ」

「み、みじゅ……」

「味が解らなくなるでしょ? どう、美味しい?」

「ほーしーれすけろ……」

 

 

 はふはふして悶えつつも美味しいらしいので調理はこの辺で。スズカ用の鍋はもう少しで完成、私用の鍋はたぶんそろそろ。どうしてもスズカの料理に力を入れてしまうのでこっちは雑になりがちだけど、まあどうにでもなるでしょう。最悪食べられないものにはならないし。

 

 

「じゃあ準備をお願いね。一応コロッケも味見しておく?」

「美味しいので大丈夫です」

「あらありがとう」

 

 

 さくさくコロッケを揚げて、お皿に積み上げていく。しばらくウマ娘の出力は発揮していないはずだけど、それでも食欲が止まることがない。まあ、別に食べ過ぎているってことはないけど、何かちょっと怖いような気もする。

 

 付け合わせにいくつかおかずを作りカウンターに置くと、スズカが勝手に持っていってくれる。スズカと引退した後、飲食店でもやろうかな。

 

 

「これで全部ですか?」

「お漬け物を食べるなら勝手にとって。タッパーにいっぱいあるから」

「青でしたっけ」

「黄色」

 

 

 自分用の肉じゃがをよそって、エプロンを片付けて私も食卓へ。お漬け物と一緒に飲み物も持ってきてくれたスズカに感謝して、いただきます。若干作りすぎたかも? まあ食べられるか。

 

 案の定物凄い勢いで食べ進めていくスズカ。流石。何をどれだけ出しても全部食べてくれるから助かるわ。

 

 

「大丈夫そう?」

「はい。美味しいですよ」

「良かった。お腹空いてるの?」

「何故だかお腹が空くんです……」

「それって」

「いえ、天皇賞の時みたいな悪いものではないと思うんです。たぶん……」

「なら良いけど……」

 

 

 もう本人も限界の先のそのギリギリを把握しているはずだし、二度とやらないと約束してくれている。大丈夫だとは思うけど、だけど、少しだけ怖くはある。私の目の……というかスズカのスピードの異変もそうだけど。

 

 まあ、見た目にも体温とかでも何の変化もないけど……どうしてもね。ぱくぱく食べ進めていく姿からは不調なんて感じられないし、レース前のメディカルチェックも問題なかったし。

 

 

「何かあったらすぐ言いますよ。レースも辞退します。みんなには悪いですけど」

「そうならないことを祈ってるけどね」

 

 

 ノンストップでご飯を片付けていくスズカ。無理や虚勢を言う子じゃないし、とりあえず何かあるまでは信じておこう。もちろん、何かがあったら誰が何と言おうと止めることになるけどね。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 ぴーんぽーん

 

 

「ん?」

「ああ。ちょうど良いですね」

 

 

 その後、お風呂にも入って寝る前、テレビを観ながら何となくおしゃべりしていたところ。チャイムが鳴り、ちょうど食べ終わったところのスズカが珍しく立ち上がった。来客対応なんてしなかったのに、すぐさま立ち上がって廊下に駆けていく。

 私も追って廊下へ……行くと、スカーレットが立っていた。

 

 

「お疲れさまですスズカさん」

「お疲れ。ちょっと早かったんじゃない? もうちょっとゆっくり来ても良かったのよ」

「時間通りですよ。しかも五分前とかじゃなくて時間ぴったり」

 

 

「スズカ?」

「じゃあトレーナーさん。今日は帰ります。また日曜日に」

「えっ」

 

 

 玄関からこっちに来るスカーレットと入れ替りで、スズカが玄関の荷物を持って出ていこうとする。普通に意味が解らないので駆け寄って止めようとしたところで、後ろからスカーレットに手を掴まれた。

 

 

「大丈夫です。勝手に走ったりしませんよ」

「いや……」

「大丈夫ですから」

「トレーナー」

 

 

 矢継ぎ早に後ろからも。背中にぽん、と抱き付かれたような。

 

 

「良いから」

「……解った」

 

 

 いつになく二人が真剣だ。何かあるんだろう。私には解らない何かが。ウマ娘だけでレース場に行くことはそう珍しくもないし、もうホテルもとってある。特に支障はない。

 

 ……私は三人を信じている。理由なくふざけたりしないし……それに、スズカが理由なく私から離れることはない。間違いなく。

 

 

「次は日曜日ね?」

「はい。全部解ってますから大丈夫です。では」

 

 

 帰る先は寮か、東京に宿でもとっているのか。いずれにせよ監視は外れてしまうが……あの目をしたスズカが今さら勝手に走るなんてことはないだろう。スズカを見送って、後ろのスカーレットの頭を撫でる。お風呂は入ったのだろうか、髪を下ろしていた。

 

 

「とりあえず寝ましょうか」

「ん……」

 

 

 心当たりは一つだけ。ちょっと恥ずかしくなる発想だけど……とりあえずスカーレットの望み通り、二人で眠ることにした。




更新が遅くなりまして大変申し訳ありません。

この先も遅くなってしまう可能性もありますが、どうかお付き合いいただければと思います。
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