走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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後輩の高い壁になれるサイレンススズカ

 

「ふん、ふんふふふんふん、ふふんふふんふふんっ」

「ご機嫌だねえスズカ」

「ふふっ、解りますか?」

 

 

 そりゃ解るでしょ。

 

 

 翌日。スズカは昼ご飯も食べずにトレーナールームへ飛び込んできた。今日の昼練習はブルボンとスズカの併走トレーニングである。それもガチガチのやつ。私も私主導でやるのは初めてだ。

 

 併走トレーニングは平地の芝で行うと言っている。つまりスズカが最も好むコースである。それに、今までの私の態度から薄々解っているんだろう。トレーニングでちゃんと走らせた後はそのまま夜も走って良い許可を出すことが多い。

 

 

「はあ……今日はどこを走ろうかなあ……確か山の方の道、まだ右に行ってなかったし……ううん、せっかく走れるんだから、絶対気持ちいい道を走らなきゃ……あぁ、迷っちゃいます……トレーナーさんはどこが良いと思いますか?」

「……気分で走るのが一番なんじゃない?」

「むぅ……トレーナーさんは解っていませんね。どの道を走るかできぶぶぶぶっ」

 

 

 中途半端に走らせて我慢というのは流石に辛いだろうし、私から言い出した時や仕事の時は完全燃焼するまで走らせているわけだ。

 

 

 適当に返事をする私の返答で膨らんだスズカの頬袋を潰し、そのままむにむにと頬っぺたを弄くる。私の身体を背もたれに座るスズカは、ご機嫌な鼻唄を歌いながらぽわぽわとランニングの妄想と半々に生きていた。

 

 

「ちゃんと指示は守ってね? 大丈夫?」

「大丈夫ですよ。言い付けは破ったりしません」

「何回も破られてるんだけど?」

「…………」

「あっこら甘えて誤魔化すな」

 

 

 お腹に擦りついてくるな。そんなんじゃ誤魔化されないからね。何回、「今日はこうこうこういうタイムで走ってね」を無視されたか解らないんだから。いっつも我慢できなくなってつい、とか言うのよこの子は。

 

 

 今日のメニューとしては、まず通常の併走、つまり並んで走るトレーニングがあって、その後タイムを計りつつ2000mレースを二本。スズカはもっとできるけど、たぶんブルボンが掛かりまくるので一応これだけ。落ち着いて走ることができればもう少し行けると思う。

 

 

「スズカ。一旦ご飯食べようか。楽しみなのは解るけどどうせ晩御飯抜くでしょ」

「食べますよ?」

「どうせ夜風で走るのが楽しくなってそのまま寝ちゃうんだから。昼しっかり食べないと駄目よ」

 

 

 そして、夜トレーニングがスズカお待ちかね、ブルボンスズカの模擬レースだ。ちなみに、流石に差してくる子がいた方が気分的に練習になるのでゲストのメジロドーベルを呼んである。コースは2000mになるわね。

 

 

 ……本当はマチカネフクキタルも呼ぶ予定だったんだけど、今日はトレーナーと一緒に近所のビンゴ大会で優勝しなければ運勢が下がるらしい。意味が解らなかった。逆でしょ。

 

 

「じゃあ食べますね」

「ん、偉い。じゃあ食堂行こうね。ほら」

「ぅぁー」

 

 

 自分で立って? 同じ女としてこんなこと言いたくないけど、ウマ娘はそこそこ重いんだから。

 

 スズカがもう甘えたになってしまっている。可愛いから良いんだけど、よほど走って良いのが嬉しいらしい。あとは、後輩との合同トレーニングってのも少しはあるのかな。ウキウキよウキウキ。

 

 

 二人で食堂に向かい、いつものようにそれぞれで注文を済ませる。適当に決めた席に座ると、やはりいつも通り周りからの視線が凄い。流石はサイレンススズカ。挨拶ツイート以降マジで何も呟いていないのにウマッターのフォローが十万に行った女だ。

 

 

「いただきますっ」

 

 

 食べないと言っていた割にはいつもより多いように見えるわね。まあ浮かれてるんだろうけど、無理せず食べてね。

 

 

「んむ……あ、そういえばトレーナーさん。来週、タイキがバーベキューをするからって誘われたんですけど……」

「良いよ。行っておいで。来月は金鯱賞だから、ちゃんと火は通すんだよ」

「タイキが焼くから大丈夫だと思います。慣れてるので」

「それもそうか」

 

 

 タイキシャトル。スズカの友達その……いくつだ? 紹介を受けたのはエアグルーヴの次なのでその二にしておく。マイルを中心にスズカより短い距離で成功を収めているウマ娘だ。G1も二つ取っている。

 

 陽気な外国人のお姉ちゃんって感じの子で、グイグイ距離を詰めてくる上にすぐパーティーに誘ってくるので少し避けてる。ごめんね。

 

 

「トレーナーさんも来ませんか?」

「いやあ……私はやめとくね。友達だけで行っておいで」

「む……そうですか……残念です」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、夜がやってきた。まだ日が沈むのは少し早いけれど、月夜のレーンには結構なウマ娘がいる。寮の門限までは、というかそれを過ぎてもトレーニングをするのがウマ娘という学生である。

 

 

「じゃあ併走。スズカは二レーン外で、一周八分。インターバル二分で三本。三本目前に足のチェックをするから私のところに来るように。以上質問は?」

 

 

 こういう時に限り非常に動きの良いスズカが、タイマーやベンチの運搬を手伝ってくれてスムーズに終わった。プールの時も同じくらいやる気になってくれると嬉しいよ私は。準備は私の仕事だから、決してやれとは言わないけどね? 

 

 

「大丈夫ですっ」

「問題ありません。オーダー、遂行します」

「はい、じゃあストレッチ終わったら行っておいで」

 

 

 ともかく、スズカもブルボンもやる気に満ち溢れている。二人で相互にストレッチをしながら……スズカはなんか別のものを見てそうだけど、ブルボンは目の前の相手に集中できている。

 

 夕方、よろしくお願いしますと私のもとに来たブルボンとも話したが、ブルボンはブルボンでスズカとやれるのが嬉しいらしい。もちろんブルボンから言い出したことなのだからそれで当然だけど、絶対に負ける勝負を積極的に仕掛けられるのは強い証拠だ。少なくとも私にはできないし、スズカもやりたがらない。

 

 

「こんにちは、スズカのトレーナー。今日はよろしく……お願いします」

「ああ、メジロドーベル。今日はよろしくね」

「う……はい。お願い……します」

 

 

 二人がストレッチを終えたあたりで、約束通りメジロドーベルが来てくれた。阪神ジュベナイルとティアラ二冠の実力者で、他にG2も勝っている。

 

 スズカやマチカネフクキタルと同期であり、つまりエアグルーヴの一つ下。トレセンでの評価も高く、一部生徒からは熱狂的な人気を誇る……らしい。あとトレセン外の男からの人気も。

 

 

「良いよ。いつも言ってるけど話しやすいように話しな。私も気にしないから」

「うん……ごめん、ありがと……今日はよろしくね」

 

 

 彼女はかなり強気というか……変に気が強いのに自分すら振り回されている。特に男相手だとマトモに話せないレベルで反抗心が芽生えるらしい。でもトレーナーは男なんだよね。普段どうやって話してんの? 

 

 

「えっと……アタシは二人を差すように走れば良いんだよね。どれくらい走るの?」

「こっちは2000を二本。メジロドーベルはどれくらい走れる?」

「一本で良い? アタシも大阪杯あるから」

「ん。そしたら準備運動しておいて。三十分後にスタートね」

「了解。手伝ってもらっていいかな」

 

 

 残念……だけど、まあ当たり前。スズカのようにいくら走っても楽しければセーフみたいなのが特殊なのだ。

 

 メジロドーベルのストレッチを手伝いながら、走り始めた二人を眺める。うん、しっかりスズカもタイム通り走れてるかな。本当は併走にタイム設定はしたくない……というのも、自由に競って走らせた方がトレーニングになるからだ。タイムを決めるなら一人で良いし。

 

 

 でも、スズカはすぐ掛かるからそうせざるを得ない。今だってギリギリ同じペースだけど、スズカの方がちょっと前に出てるし。走る自分の視界に他のウマ娘がいることが許せないから、並んで走ることができないのだ。

 

 

「相変わらずね、スズカも」

「わかる?」

「まあね。一応その、友達だし」

「そっか」

「まあまだよく解らないとこもあるけどね。ぽわぽわしてて話聞いてないこともあるし、突然ちょっと走ってきますって駆け出したりするし」

 

 

 ごめんよ。うちのスズカがポンコツで。あと後者についてはあとで詳しく教えてね。

 

 

 メジロドーベルのストレッチ姿勢に見惚れつつ、スズカ達は二本目に入っていた。かなり遅めのペースだしトレーニングというのもあり、ブルボンもしっかりついていけている。

 

 こう見ると、ブルボン、かなり自分でもスタミナを実感できているのかもしれない。ステータス上はギリギリEと正直まだまだだけど、それでも出会った頃から考えれば嘘みたいに上がっている。このまま朝日杯までにはDを超えてくれば皐月に楽勝で間に合うわね。

 

 

「っと……ありがとう。良ければアップに三本目、付き合っても大丈夫?」

「良いわよ。八分で走ってるから」

「了解」

 

 

 少し待ち、二人が戻ってきた。用意してある折り畳みベンチに座らせ、足に触れつつ体力も見ておく。うん。やっぱり大丈夫ね。多少息は上がってるけど……

 

 

「ブルボン、行けるわね」

「はい……はぁっ……ふー……疲労は軽微、パフォーマンスは充分に発揮できます。呼吸、心拍ともに予想以上に安定しています」

「スタミナがついてるのよ。頑張ったわねブルボン。このまま突っ切るわよ」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

「スズカは大丈夫ね」

「はいっ。あの、この次は抑えなくて良いんですよね? もう今からうずうずしちゃって……早く走りたい……っ」

「今走ってたんだよねスズカは」

「ドーベルもよろしくね。頑張りましょう?」

「うん。よろしく。絶対追い抜いてみせるから」

 

 

 それぞれへの声掛けとチェックも終わり、三人はまた走り出した。そして、帰ってきて念のためもう一度体力を確認して、そして。

 

 

「じゃあレース、やろっか」

「はいっ」

「はい」

「よし……絶対負けない……!」

 

 

 ……今さらだけど、大阪杯に出るってことは普通にスズカと当たるな。まあ良いか。今さら隠す技もないし。

 

 

「ふぅ……じゃあ行きましょうかドーベル。ブルボンさん」

 

 

 スズカが仕切る。それだけでも全員に完全に火が付いた。伸び脚を片方縛ろうと思ったけど余計か。好きに走らせよう。

 

 

 

 

 そして数分後、スズカにボコボコにされたメジロドーベルと、二人にボコボコにされたブルボンが戻ってきた。心底悔しそうなメジロドーベルと、一見無感情なブルボン。それに比べて、スズカはやはり楽しそうに、もう一本やりますか? などと問いかけていた。

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