走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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グッズを出すサイレンススズカ

 

「あ、エルナトのトレーナーさんっ。お疲れ様です」

「たづなさん。お疲れ様です」

 

 

 ある日。廊下を歩いていると、後ろからたづなさんが駆け寄ってきた。段ボールをいくつも重ねて持ち上げて、変わらぬ笑顔で声をかけてくる。

 

 

「どうしたんです? その荷物。どこかに運ぶならお手伝いしますけど……」

「いえ。これはお届け物です。エルナトのトレーナーさんにも……ええと……これですね。これをお届けです」

 

 

 差し出された段ボールを一つ受け取る。そこそこずっしりとした重さがあり、上面にはチーム・エルナト『サイレンススズカ』の文字が。スズカの何か? ファンレターとかかな。

 

 

「これは?」

「はい。いつだったかサイレンススズカさんのグッズ製作のお話をさせていただいたんですが、各所から試案が届きましたのでチェックをお願いします。そのまま差し上げますので」

「あーなるほど。了解です」

 

 

 そういえばそんな話もしたような気がする。こんな重くなるほどたくさんだったかと言われると微妙だけど……でもまあスターウマ娘ってのはこれくらいなのかもしれない。

 

 それぞれ説明書や御断り書きも中に入っているとのことで説明を受け、たづなさんと別れる。せっかくだしみんなで見るか。私は段ボールをえっちらおっちらトレーナールームへ運んでいった。

 

 

 ……一応平均的一般女性の私がそこそこ苦労して運んでるものをいくつも同時に持つたづなさんは一体何なの? 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「──ということらしくて。今からせっかくなのでチェックしようか」

「へえ……凄いですね。こんなにたくさん。びっくりしました」

「マスター、機械類が含まれていないなら私もお手伝いを」

「まあ壊しても良いやつだから大丈夫よ」

 

 

 トレーナールーム。今日の昼練習は既に終えているが、今日は調子が良かったのかブルボンも行動可能になっている。テーブルに段ボールを置きカッターで開くと、中には言われた通り大量のスズカグッズがこれでもかと詰め込まれていた。

 

 

「おー……じゃあ何か嫌なものがあったら言ってね。基本的に貰っても良いやつだからね」

「はい……あっタオル。じゃーん。見てくださいトレーナーさん」

 

 

 即座に走るのに使えそうなものを探し当てたスズカ。白と緑のタオルに文字とデフォルメイラストが描かれたマフラータオルだ。広げて見せびらかす面には綺麗なカタカナフォントでサイレンススズカと書かれている。

 

 

「あら可愛い」

「うーん……でもちょっと生地が……それに、マフラータオルはたくさん汗をかいちゃった時には使いづらいんですよね……」

「え? それちゃんと使う気なの?」

「はい。タオルですから」

「自分のグッズはアレじゃない?」

「別に気にしませんよ? 使えるなら何でも良いです」

 

 

 裏面には『異次元の逃亡者』というスズカの異名が。『ランニング狂』とかにした方が良いんじゃない? 

 

 

「これって要望出しても良いんですよね? シャーリングよりもパイルの方が使いやすいんですけど、言ったら何とかなりませんか?」

「買う側は汗拭く用にこれを使わないのよ」

「タオルなのに……?」

「ファングッズってのはそういうものでしょ」

 

 

 ぱっぱと行かないと。次は……ああ、キーホルダー系が纏められている。まあ、こういうのは全然問題無いかな。というかこういうので問題ってどうやって作るの。尖ってるとか? 

 

 

「スズカもこれスマホとかに付ける? スズカキーホルダー」

「自分のキーホルダーはちょっと……」

「ええ……」

 

 

 キーホルダーはダメなんだ。タオルは良いのに。

 

 私は使おう。この小さめのストラップみたいなやつ。綺麗な筆記体でサイレンススズカと書かれている。素晴らしいことに端の方におうし座が描かれている。そんなにこだわってエルナトって名前を付けた覚えはないけど、でもちょっと嬉しいわね。

 

 

「ブルボンは付ける?」

「はい。寮の鍵に妥当なサイズのものがあれば」

「結構あるよ。どれくらいのサイズが良い?」

「鍵と比較して大きすぎなければ問題ありません。キー部分が42ミリ、持ち手が25ミリです」

「じゃあ同じやつ使えるよ。色違い」

「ありがとうございます」

 

 

 スズカストラップは白と緑、そしてその混合の三色がある。基本的にスズカグッズは勝負服にちなんでこの三種類だ。白が人気出そうだな流石に。

 

 器用にストラップを付けるブルボン。私も携帯に付けよう。今まで付けてた何か変なやつより全然良い。突然流行の最先端って感じがしてきた。

 

 

「……やっぱり私も付けます」

「え? 自分のは付けないって」

「気が変わりました。ください」

「あ、うん……良いけど」

 

 

 二色のものをスズカに渡す。いそいそとそれを付けるスズカを見ながら次だ。

 

 

「これは……ポーチかな」

 

 

 あらかわいい。

 

 

「全然使えるねこれも。ちょっと材質は怪しいけど」

 

 

 仕方無いけどね。実用なんか前提にしてないだろうし。学生が持ってるなら良いんだけど、ちょっと私は厳しいかな……? まあでも小物入れとしてバッグに入れておくだけなら関係無いか。デザインも問題は無さそう。

 

 

「マスター。ぬいぐるみがあります。頂いてもよろしいですか?」

「待ってブルボン。一応確認はするから」

 

 

 ブルボンからぬいぐるみを取り上げつつ、他にもあるそれらを全て取り出す。何とは言わないけどちゃんと細部を確認しておかないと……二人に目を覆わせる。

 

 

「どうして目隠しをするんです?」

「一応ね」

 

 

 ぬいぐるみをひっくり返して…………あ、ほらあった。これ発禁にしなきゃ。もう、忠実再現は良いけどやりすぎだから。悪意があるかは知らないけど流石にダメ。御断り書きを記入して別で置いておく。しかもスズカのと違うしね。何とは言わないけど、ほんとに。

 

 ……でもあれか。別にこれを返却しても何にもならないのか。余計な人の手に渡る可能性を考えたら一つでも私が抱え込んだ方が良かったりするのかな。

 

 

「はい。ブルボン、こっちから選んで良いよ」

「はい」

「あっ目はもう開けて良いから」

「了解しました」

 

 

 全身のプチぬいぐるみから顔だけをデフォルメしたようなものまで結構幅広くある。スズカは毛色なりイヤーキャップなりで個性も出しやすいんだろう。

 

 

「凄いですね……こんな感じなんだ……」

「ね。デフォルメって凄いね」

 

 

 ちなみに、ぬいぐるみなりグッズ上のスズカは当然ギラついた逃亡者のスズカだ。結構目付きも鋭めになっている。今自分のぬいぐるみをつつきながら眺めるスズカのように、私のよく知る穏やかで優しいスズカではない。どっちもスズカだけど、世間からスズカがどう見られているかがよく解る。

 

 

「あ、これ可愛い。貰お」

 

 

 ふと見付けたぬいぐるみを手に取る。大きめの、寝そべったような格好のスズカのぬいぐるみ。ブルボンもそれを選んでいたようで、ちょこんと頭に乗せてご満悦そうにしていた。ちょっと微笑んでいるのが解る。

 

 

「トレーナーさんはぬいぐるみはダメです」

 

 

 が、私が持つそれをスズカが取り上げた。

 

 

「あっ何するのスズカ」

「私がトレーナーさんのお部屋に行きにくくなります」

「別に来れば良いでしょ」

「や、です」

「もー……何よ突然拗ねちゃって」

 

 

 スズカのぬいぐるみを私から守るみたいにいくつか抱き抱えるスズカ。大きめのやつばっかり持っていかれている。まあ確かに、自分のぬいぐるみがある部屋のベッドで寝るとか地獄かもしれないけど。スズカがそんなことを気にする子とは思わなかった。

 

 

「それにこんなの飾ってどうするんですか」

「え……まあ眺めたり抱いたりするけど」

「私がいるのにですか?」

「……あ、そういうこと?」

 

 

 気付きを得た。ふん、と顔を逸らすスズカに、私は慌てて寄っていって撫でる。

 

 

「本物のスズカが一番だって。ね?」

「知りません。走らないし甘えないサイレンススズカを可愛がったら良いんじゃないですか、トレーナーさんは」

「ごめんて」

「つーん」

「ごめんってスズカぁ」

 

 

 段ボールからグッズを取り出しては装備するブルボンを横目に、完全に拗ねてしまったスズカに身体を寄せて尖った唇を指で弄ぶ。

 

 

「ふいっ」

「走るし甘えるスズカの方がもちろん好きよ。ね? 解ってるでしょ?」

「私の方が好きですか?」

「好きよ」

「走る私がですか?」

「うんうん」

「じゃあ走ってきて良いですか?」

「それはダメ」

「ぇぅ」

 

 

 そんなー、と倒れてくるスズカ。油断するところだった……危ない危ない。まあスズカは大丈夫そうなので、そのまま次だ。

 

 

「あっ無視しましたねトレーナーさん。怒りますよ」

「あ。ほらスズカ、タペストリーあるわよ。部屋に飾ろうか。どっちが良い? 立ち姿と、走ってるやつと」

「あーあ。もう私知りません。拗ねました。勝手に走ります」

「やっぱり走ってるスズカの方が可愛いから、こっち飾ろうか」

「褒めてもダメです。おこですよ、おこー」

「はいはい。おこー」

「ぶぶぶぶっ」

 

 

 口先を尖らすスズカのそこを指で弾きつつ、タペストリーは横に置いておく。気が付いたらブルボンがシャツと上着、タオルとウマ耳カチューシャまで着けたオタクになっていた。頭と肩にスズカが乗っている。

 

 

「ポスター、シール、バッテリー、スマホケース……あ、目覚まし時計だって。どう、これ。スズカ」

「これは売れるんですか……?」

「さあ……売れるんじゃない?」

 

 

 確かにこんなの売れるのかな。一応今のところはスズカの声とかが録られた覚えもないし、説明書にも特に書いていない。本当にデザインだけか。まあ、スズカが持ってるみたいに時計盤があるデザインはお洒落ではあるけど……

 

 

「マグカップとか……あっこれはちょっと気持ち悪いかも。これNGにしとこ」

「どんなのですか?」

「いや、スズカの印刷の位置が……一瞬想像したら気持ち悪くなっちゃった」

「ああ……なるほど」

「スズカは気持ち悪くないの?」

「私じゃないですから」

「はえー……」

 

 

 思ったよりスズカがドライでびっくりしている。でも私の精神衛生が良くないのでNGで。クリアファイルはOK、ラバーマットもまあ良くて……最後に手に取ったのは、Tシャツだった。何だこれ。スズカの印刷はあるけど、不自然にスペースが空いてるな。

 

 

「説明書……んー……あ、スズカ。これはスズカのやつ」

「何ですか?」

「ここになんか、スズカに何か言葉を入れて欲しいんだって」

「はあ……」

 

 

 そういうのもあるんだ。私、ウマ娘グッズとか見たこと無いからなあ。シンボリルドルフとかのもあるんだろうか。マーベラスサンデーとかも気になる。マーベラス! 以外に何かあるのかな。

 

 

「うーん……何でも良いんですよね?」

「良いと思うよ」

「じゃあ……これで」

 

 

 スズカが自ら説明書に書き込む。彼女の直筆で書き込まれた文面を見て、私はこのTシャツが本当に売れるのか心配になってきた。

 

 

『先頭の景色は譲らない』

 

 

 ちなみに、ブルボンは最終的に完全装備のまま寮に戻っていった。途中から楽しくなっちゃったんだと思う、たぶん。周りの人にバグとか言われないことを祈っておくね、ブルボン。

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