走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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意味解らん逃げ方で沸かせたサイレンススズカが死んでしまった一週間後にセイウンスカイが意味解らん逃げ方で菊花賞を勝って沸かせたって話ほんとすき。


無意識な強者たるサイレンススズカ(大阪)

「あ、スズカさんのトレーナーさん。お招きありがとうございます……」

「あらスペシャルウィーク。来たわね」

「どうもー。すみません、私も呼んでもらってー」

「スカイさん! 失礼でしょう!」

「別に気にしないで。そんな立派な人間でもないから私は」

 

 

 大阪杯、当日。阪神レース場の選手控室にて、私とブルボンはスズカの勝利を待っていた。

 

 控えめなノックとともに入ってきたのは、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイロー。既に今年の皐月賞への出走を表明し、枠を確保している今年のクラシックの星である。正確にはあと二人、エルコンドルパサーとグラスワンダーの五人での絡みが多いらしいけど、今日はいない。

 

 

「今パドックですか?」

「うん。もうすぐスズカだよ。外枠だからね」

 

 

 先ほどエアグルーヴが凛とした表情でカメラに目線を送っていた。メジロドーベルも……うん。可哀想だけど、ウマ娘記者は全員が女性ってわけじゃないからね。ちょっと顔が引きつってたかな。

 

 

 三人がここにいるのは、まあ、スペシャルウィークに対するお詫びのようなものである。この間は結局ただ呼び出してご飯を食べただけに終わってしまったし。もちろんトレーニングが休みってことも少しくらい走って良いかも許可は取っているけれど、それにしても余計に動いてもらっちゃったから。

 

 そこで、せっかくなので解説付きでレースを見たいとのことで、友達を呼んでもいいよ、ということでこうなった。キングヘイローは何故かスズカから何かを学んだみたいな不思議なことを言っていたもんね。

 

 そして……セイウンスカイはなんでだ。逃げウマだからかな? 距離が近いからそこそこ打ち解けてきたスペシャルウィークと、大先輩としてしゃんとしているキングヘイローと違ってちょっとだけ態度が気安い。もちろん、スズカに対してならともかく私に対してはかしこまる必要も無いけど、心臓が大きいんだろうか。

 

 

「あ、次だねスズカ」

「おおっ」

 

 

 モニターにスズカが現れる。ステージの前まで歩いていって、上着を脱ぎ捨てた。いつもの白と緑の勝負服には、いつもどおり装飾も何も無い。勝負服はどんな装飾をしても不思議な力で本人の運動の妨げにはならないのだけど、それでもあらゆる抵抗を省いた無二の勝負服だ。

 

 今日もスズカは絶好調だ。胸に両手を当てて、深呼吸一つ。控えめに、大挙したカメラマン達に手を振っている。おっ。モニター目線もある。これはラッキー。

 

 

「スズカさん……落ち着いてるなあ……」

「スペちゃんとは大違いだねー」

「うぅ……だって緊張するんだもん……」

「トレーナーさん。スズカ先輩の調子はどうですか?」

「絶好調かな。気持ちも身体もまったく問題無いわ。たぶん緊張もないでしょう」

 

 

 流石……みたいに目を見開く面々。これは確かにスズカから見習うべきところだと思う。特にスペシャルウィークは緊張しいみたいだし。ウイニングライブも酷かったしね。スズカにはそんなトラブルは無いので、羨ましく映ることもあるだろう。

 

 特にキングヘイローは食い入るようにスズカを見つめている。普段プレッシャーに負けたりしてるんだろうか。

 

 

「トレーナーさん。どうしてスズカ先輩は緊張しないんでしょうか?」

「まあ……スズカの場合、特定のレースにどうこうって考えが無いからね。相手には申し訳無いけど、自分しかレースにいないって考えでいるからね」

「スズカさんらしいですね……」

 

 

 ほんとにね。

 

 

 スズカのアピールが終わり、上着を拾って帰っていく。程なく出走だ。一度映像が切り替わり、私達も来てくれたみんなに飲み物を出しておく。

 

 

 三人の元気なお礼を聞きながら、まあ、私もちゃんとお役目を果たすことにする。もちろん私が話せるのはスズカがどんな存在かだけで、一般論については私が言えることなんてそれぞれのトレーナーさんの方が詳しいし良いことを言えるはずだけど。

 

 でも、スズカについてこの世で一番詳しいのは私だ……と、ちょっと誇らせてほしい。

 

 

「これはスズカが逃げウマだからってこともあるのかもしれないけどね。結局、他人の目をあんまり気にしないからこそのサイレンススズカだから」

「それって、最初から最後まで、ですか?」

「そうだね。最初から最後まで。ゲートに入った瞬間から、既に他のウマ娘を見ていない」

「はあー……なるほど……私にはできそうもないですねえ……」

 

 

 セイウンスカイは逃げ適性がある子だったかな。それならばスズカから得られるものもあるのかもしれない……けど、どうも彼女の場合は純正の逃げじゃないような気もしてきている。先行適性がBと現実的に実用ラインだ。もしかしたら後ろから捲るレースもできるんだろうか……? 

 

 

「まあそこまで極端じゃなくても、あんまり後ろは気にしない方が良いとは思うわ、私は。特にスズカは速さで勝ってるから、気にするべきは基本的に自分のスタミナだけだし」

「なるほど……」

「マスター、出走のようです」

 

 

 ブルボンに促され、私達は再びモニターに目を向ける。ちょうどスズカがゆっくりとゲートに入っていくところだった。流石にここまでくればどの子も周りなど見ずに集中している。中でもやはりスズカの集中は異様にも映るレベルではあるが。

 

 ちなみに、スズカはゲート入りも早い。一秒でも早く走りたいからだ。これはまあ、言わないでおこう。

 

 

「じゃあ、一応私は細々話すから、何かあったら聞いてね」

「はい……」

 

 

 三人……いや、ブルボンも含めて四人は集中モードに入ってしまった。私の解説いるかな……とは思いつつ、それが目的なので勝手に話すことにする。モニター越しのファンファーレ。ちなみに控室モニターは実況を切っている。音は無い。走り出した足音以外は無くなる。

 

 

「……まず、だけど」

 

 

 スタート。全員一斉に飛び出した。ブルボンとセイウンスカイがむっとする。逃げウマにしか解らないこともあるのだろう。あるいは、自分があそこにいたらどうなるかを考えているのかもしれない。

 

 答えを言おう。スズカに先頭を取られている。

 

 

「スズカの逃げウマとしての強みの一つは、絶対に出遅れない、と言わんばかりの集中力よ。しかもよく見ると解るのだけど、出遅れ無しのスタートの中でも一足先に出ているでしょう」

 

 

 そして、間髪入れずトップスピードに近しいところまで乗っていく。私がスズカのパワーを育てるごとに、この加速力にも磨きはかかるのだけど……それにしても速い。同じ逃げウマがいるが、既に三バ身は離されている。

 

 執念と欲望から来る圧倒的な集中力。それについてこれるウマ娘は少ないだろう。スズカの一人旅が始まっている。

 

 

「それに、ここからもそう。普通、ハナを取ったからと言ってあんまり飛ばさない。大きく離しても失速したら意味が無いから、大体はそこそこのリードを保つ。でも、スズカの場合は大逃げと言うべきで、勝手に自分のペースで逃げていく」

 

 

 するとどうなるか。後続は逃亡者を捕えるためにハイペースにならざるを得ない。スズカ本人はそんなことは考えていないだろうけど。

 

 

「だけど、そもそもスズカのペースは狂ってる。逃げの有利を捨てるくらい超ハイペースで逃げるから、必然的に後続に二択を強いることができるわけよ」

 

 

 択一は示された。後続がどちらに乗るかは一瞬の判断が必要だ。一縷の望みのために、一瞬たりとも迷えない。メジロドーベルはあまり変わらない位置にいるが、明らかにエアグルーヴが前に出ている。掛かっているんじゃないかというほどペースを上げているけど、たぶん違う。ジャパンカップでスパートが足りずに逃げ切られた、と、彼女は考えているんだろう。

 

 

「それは……どちらが正解なんですか?」

「正解は無いわ」

 

 

 ちらり、と聞いたスペシャルウィークがこちらを見た。ぎょっとして眉を顰める。

 

 

「スズカに乗ればハイペースになり、元々バ群に飲まれないためにスタミナを消耗しやすい差しウマは脚が残らなくなる。でも、乗らないとスズカに追いつけない。もちろん、圧倒的なスピードがあればそれでも何とかなるけどね」

 

 

 でも、スズカは速い。誰より速いから、逃げウマの癖に差しウマのスパートから逃げ切ることができてしまう。そして、スズカのスタミナもどんどん補強されている。もう止まることはない。レースは中盤、スズカのリードは八バ身。差し策を基本とするエアグルーヴが二番手にいるという異様な光景を、四人が息をのんで見つめている。

 

 なかでもブルボンとセイウンスカイの視線は険しい。今彼女達が見ているのは大逃げと言う戦法の最たる例だ。マイペースに走り、そして無意識ながら他のウマ娘に択を強いることでレースを支配する。これを再現すれば負けることはないと言ってもいい。

 

 

「崩す手段はあるんです?」

「あるよ。スズカに先頭を取らせなければいい。スタミナでスズカを圧倒して、潰し合いに持ち込めばスズカには勝てる。もちろん、そこから他の子から逃げ切る力が必要だけどね」

「……つまり、後ろからでは勝てないと……」

「そうだね。後ろからで勝つには……圧倒的な加速力を持って、スズカに最後方からでも届くくらいの速さが無いとダメかな」

 

 

 ひゅぅ、と誰かの喉から息が漏れた。現実的にスズカに勝つならそのどちらかだ。前者は何度も言うがマルゼンスキー。現状私から見てスズカの一番の天敵だろう。シンボリルドルフやナリタブライアンはハイペースに乗らずともその距離を詰めるだけの加速力がある。これはスズカの大逃げが少し普段より遅ければ捉えられる可能性もあるレベルだ。

 

 レースは終盤に差し掛かる……直前。私は少し声を大に、四人に聞かせるように言った。

 

 

「ここ。今スズカが減速したのが解る? しっかり息を入れるタイミングを作って、ここからのスパートに備えているのね。もちろんこのままでも勝てそうだけど、スズカがスズカたる所以はもちろんここから」

 

 

 そう、異次元の逃亡者が強いのはここからである。

 

 

 終盤最終コーナーで、スズカがスパート体勢に入る。そのまま大きく息をついて、私には解る。あの地面が抉れるくらいの踏み込みから、スズカが飛び出した。

 

 

「だからこそこうやって最終コーナーで伸びる。これをすると、さっきの二択をもう一度強いる形になるわけ。スパートを早めるか、あるいはスズカに置いて行かれるか」

 

 

 そして、エアグルーヴが同じように飛び出す。メジロドーベルや他の数人も、他より早くスパートに入っている。ここで差し切り態勢に入っていないウマ娘はもう無理だ。今回の二択は明確に正解がある。スパートをかけなければならない。それをすれば切れ味が鈍ると解っていても、進まなければならない。そうでなければ絶対に届かない。

 

 伸びる伸びるサイレンススズカ。恐ろしい勢いで逃げていく。後続も迫るが、これもスズカの強さだ。最初から飛ばしているぶん、最高速度に乗るまでに時間がかからない。結局差しウマや先行ウマというのはある程度抑えて走っているわけで、そこからの加速とは話が違ってくる。

 

 

 後輩四人が見守るなか、スズカが一人突き放して直線に入った。ここからの加速については説明ができないので私も黙ることにする。

 

 ……ある意味、ハイになって行われるこの加速が、一番スズカらしい加速なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「トレーナーさんっ」

「スズカ」

 

 

 レースの結果は言うまでもない。控え室の扉を開けると、スズカが満面の笑みで私に飛び込んできた。そのまま熱を持った身体で擦りついてくる。

 

 ぶっちぎり先頭でゴールしたスズカのことだ、やはりというか興奮冷めやらない様子で、んんっ、と抱きついている。私もちゃんと頭を撫でつつ……ただ、今回はちょっと後ろにね。いるからね。

 

 

「スズカごめん、みんないるから。ね?」

「えっ……あっ、ごめんなさい……」

 

 

 スズカが引いていく。後輩達も特に何も言わず流して挨拶に入ってくれた。お祝いの言葉も述べて、スズカと何か楽しく話し始める。

 

 

 うん。スズカが今日も可愛い。次は宝塚記念……また、こうして祝えることを私は確信している。

 

 

「あ、そういえばトレーナーさん。帰りですけど……」

「流石にここから東京は無理だからね。走っちゃダメだからね」

「ぁぅ」

 

 

 お茶目を言う余裕があるほど、スズカは余力を残しているのだから。

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