走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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最近更新が遅れがちですが、チャンミの追い切りとウイニングポストのせいです。飽きたとかじゃないので気長にお待ちください。ネタ切れ説はちょっとありますので、見てみたい展開とかは常に募集はしています。


苦労人なこともあるサイレンススズカ

 

「トレー……ナー……さんっ」

「どしたの?」

「これっ……流石に……キツ……い……」

「大丈夫! 頑張れスズカー。偉いぞー」

 

 

 ファン感謝祭は無事に閉幕を迎えた。

 

 最後のリレーに参加した赤チームアンカーのスズカだったが、バトンを受け取った時点で白チームアンカーのエアグルーヴと相当の差がついていた。もちろんスズカの方が圧倒的にスピードはあるが、1600mというそこそこ短い距離で、しかも大幅ビハインドから。

 

 まあそりゃ勝てないよね。スズカの伸び脚は『先頭を奪い取る』ものではなく『先頭を譲らない』執念によるものであって、最初から負けている段階からでは勝てない。まあそもそも伸び脚使うなとは言っていたけど……どうせスズカは使うだろうし。

 

 

 そんな理由で二番手でゴールになることになったスズカは、それはもう荒れに荒れた。エアグルーヴが苦手としている分ファンの人達には最後の力を振り絞って愛想よく対応したものの、そこからよたよたと私をトレーナールームに引きずっていって、息もあがったまま私をソファに押し倒して言ったのだ。

 

『走ります』と。

 

 

 今までに無い剣幕に正直ビビってしまった私は咄嗟にそれを許してしまい、まあ走った。それはそれは走った。

 

 とはいえそのおかげでこうして満足したスズカがかなりやる気になってトレーニングをしてくれているんだけど。

 

 

「っ……く……」

「頑張れ、頑張れっ、あと八メートルっ! 進んでるよスズカ! もうちょっと!」

 

 

 現在、スズカは犬かきでコースを泳いでいる。腰のベルトからそこそこ強めのゴムが何本か伸びていて、スズカのパワーだとギリギリ前に進めるかどうかというところ。それをプールサイドから応援する私という構図だ。

 

 

 水面に顔を出してあっぷあっぷしながら必死に水をかくスズカを見ながら声援を飛ばしていた私だったけど、そうしていると後ろに誰かが立った。

 

 

「マスター」

「え……ブルボン。もう平気なの?」

「はい。ステータスに異常はありません。高負荷でなければ十分活動可能です」

「強くなったねえ」

「ありがとうございます」

 

 

 トレーナールームで寝ていたはずのブルボンがそこにいた。ほんとこの子は最近復帰が早い。走った後も卒倒するのではなくしっかり自分の足で帰れることが増えた。

 

 そんな彼女がわざわざ水着に着替え私を訪ねてくるとは何事か。少し心配になりつつもブルボンを隣に座らせる。

 

 

「どしたの」

「ご相談があります。私では判断しかねる問題が発生しました」

「……何?」

 

 

 真顔……のなかでも、いつもより少し神妙に見える。私の問いかけに、ブルボンは淀み無く答えた。

 

 

「来週、友人の誕生日があります。クラスの方々に、クラスをあげてお祝いをすると言われました」

「……参加を迷っているってこと?」

「いいえ。参加は確定事項です。友人ですから。準備のヘルプの予定も入っています」

「おお……じゃあ何?」

 

 

 じっとこちらを見つめるブルボン。毎度思うけど、この子は別に無感情じゃないのよね。むしろ感情や情緒は幼く感じられる。話し方や効率重視の考え方、ストイックさを考えるに、そんなことは無駄なので出席しませんくらい言ってもおかしくなさそうだけどそんなことは言わない。

 

 

「誕生日プレゼントに何を渡すべきかと思いまして……」

「……何でも良いと思うけどね」

「ですが、対等な友人へのプレゼントの経験が不足しています。同様の判断が適切かどうか解りません」

「まあ……まあ、それはそうねえ」

 

 

 プレゼントは気持ちがこもっていれば良い……とはいえ、学生のプレゼントは学生のプレゼントだ。お歳暮やお中元ではない。貰った側も、まあ困る可能性はある。どうするべきでしょうか、というブルボンへの返答に困っていると、泳ぎきったスズカがプールサイドを掴んで話しかけてきた。

 

 

「あの、お、終わりました……何の話をしてるんですか……?」

「あ、お疲れスズカ。今ね、ブルボンが友達に誕生日プレゼントをあげるっていう話をしててね」

「お疲れ様です。参考までに、スズカさんは──」

「待ってください、まずゴムを外しっ、あっ」

「あっ」

 

 

 ゴムに引かれ、スズカが緩やかに吹き飛んでいった。わああぁ……と消え入るような声を残して力無く離れていくスズカを見て、不謹慎にも笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

 

「で、どんな子なの友達は」

「サクラバクシンオーさんです。以前会ったかと記憶しています」

「会ったねえ。あのやかましい子か」

 

 

 トレーナールームに戻り、三人でソファに座り話し合いである。走った上トレーニングをして大満足スズカが私の膝の上でごろごろしているのは置いておいて、そんなスズカを撫でつつブルボンと話し合いのお時間だ。

 

 

「はい。あのやかましい子です」

 

 

 とても真面目な顔で言うブルボン。もうやかましいのは間違いないのね。台詞の全てにびっくりマークが付いてそうなあの子。でもステータスは良いんだよねえ……たまに見かけることがある。あえて言葉を選ばず言うと、クソみたいなスタミナから嘘みたいなスピードを持っている子だ。何をどう間違えてもブルボンが短距離路線に行かなくて良かった。絶対ボコボコにされて終わる。

 

 

「その子の欲しいものが解れば簡単なんだけどね」

「はい。ですので三日前、直接リサーチを行いました。みなさんが元気にいてくれるのが一番です! とのことです。私個人からと伝えたのですが、ブルボンさんはちゃんとメンテナンスをしてください、と」

「ええ……」

 

 

 ブルボンに意味の解らない友人ができている。お母さん……お母さんって歳じゃないけど、お母さん悲しいやら嬉しいやらだよ。いや、この間も思ったけどさ。

 

 しかし、友人の意味の解らなさはブルボンも認めるところ。言ってることがおばあちゃんだもん。直接聞くブルボンも直球が過ぎるような気もするし、答えも個性的が過ぎる。

 

 

 ただまあ、一応聞かれたからには答えなければいけないわけで。

 

 

「……その友達の好きなものとかは?」

「確証の持てるものはデータログにはありません。ですが、人助けと以前聞いた気がします」

「ええ……?」

 

 

 どういう子なのか解らなくなってきた。確かにこの間も、豪雨のなか走るのが速いから走って帰るとか言い出すイカれた部分は見えてたけど……ウマ娘ってのは個性のある子しかいないんだなあ、と、スズカをちらり。

 

 

「……なんですか?」

「いや……スズカだったら友達に何渡す? というか渡したことある?」

「当たり前じゃないですか」

 

 

 撫で続ける私の手を掴んでおもちゃにして遊んでいたスズカに問いかけると、流石に失礼だったか少し唇を尖らせた。ごめんね、とスズカの身体を起こし、なお寄り掛かってくるスズカを支える。

 

 

「あんまり特別に気にしてない時は、ヘアスプレーとかちょっとした小物とか……あ、でもこの間のエアグルーヴの誕生日にはジョウロとスコップをあげました。お気に入りが壊れたと聞いたので」

「やっぱりそういうのが無難かなあ」

「まあ……貰って困りはしないかなって……あと、その、タイキとかフクキタルとかパールさんとか、訳の解らないものを欲しがるから……手に入らなくて……」

 

 

 遠い目をするスズカ。いったい何を言われたんだ……やはりウマ娘には変わったのしかいないわねこれは。

 

 

「大変だねえスズカも」

「いえ、あの……はい。割と……」

 

 

 そのまま、スズカが聞いてもいないのに語り出す。

 

 

「クリスマスとか、誕生日とか、私が決めると全部スポーツ用品になっちゃうのでちゃんと聞いて選んでいるんですけど、フクキタルは聞くたびに違う答えが返ってくるうえにどこで買うのか解らないものを言ってくるし」

「うん」

「虹色の首飾りとか、枯れた花の押し花とか、黄金の鎧とか……ラッキーアイテムらしいんですけど、とにかく訳が解らないんです。かと思ったらフリル付きのハンカチとか普通のことを言うし」

「ほう」

「パールさんは海外のものを欲しがるんですけど、結構マイナーみたいで調べても英語のページしか無かったりして怖くて買いにくいし、そもそも非売品だったりするし……」

「はい」

「タイキはプレゼントよりもパーティーデース! ってそもそも答えてくれないし、やっと答えてくれたと思ったらこれからはキスとかハグで挨拶とかそういうことを言うし……」

 

 

 スズカが止まらなくなってしまった。苦労してるんだなあスズカも……と思ったのも一瞬のこと。別に逆も然りだ。スズカと付き合う友人も大変だろう。なにせ話を半分聞いていないし、下手に走らせるとすぐに火がついてしまうし。緊急通報用にスズカの友人達に連絡先渡してるんだからね、私。

 

 まあそれはそれで良いんでしょう、知らないけど。ウマ娘がみんな個性的なのはもう解ったし、だったら相互に迷惑をかけたうえでそれを許せる子と付き合うのが良い。

 

 

 ……良い話だけど、ブルボンの解決にはなんないねえ、スズカくん。

 

 

「とにかくまあ、一旦無難というか、ウマ娘みんなが持ってるようなものは用意して、その後変わったものを考えたら良いんじゃない? 思い付かなかったら無難でも良いと思うし」

「そうでしょうか」

「そうだと思うよ。それにみんな渡すんでしょう。だったら狙っても仕方ないだろうし」

「なるほど。一般的なウマ娘向けのプレゼントについてリサーチを進めます。ありがとうございます、マスター、スズカさん」

 

 

 ろくなことは言えてないけど、お礼は受け取っておく。リサーチってどうやるんだろうね。ブルボン、機械触れないのに。

 

 

「あ、でもブルボンさん、やっぱりね」

「はい」

 

 

 代わりに調べようかと言う前に、スズカが遮った。

 

 

「貰って嬉しいものをあげるのも一つの手だと思うわ」

「それは……難しい問題です。スズカさんもそうしていますか?」

「……してないかも……忘れて」

 

 

 もうちょっと粘るとか……無いのこの子は。

 

 

 結局ブルボンは悩みに悩んだ末文房具セットとかいう小学生みたいなプレゼントを持っていったらしい。バクシンオーいわく「減りが早いしすぐ失くすので助かります!」とのこと。

 

 トレセンって凄いところなんだね。




ダークな欲求が高まる高まる。

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