走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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ライブラ杯は専用に作ったゴルシが勝てなかったので昔適当に作ったゴルシ出したらA行けました。なんやこのゲーム!(更新遅れて申し訳ないです!)


ファンレターを受け取るサイレンススズカ

 

「はいスズカ、復唱。『私はトレーナーさんに無断で走りました』」

「私はトレーナーさんに無断で走りました」

「『だから、三日間はトレーナーさんの家にお泊まりして勝手に走りません』」

「だから、三日間はトレーナーさんの家にお泊まりします」

「『勝手に走りません』」

「……」

 

 

 ぷいっ。私の愛バは今日もできない約束はしないようだった。

 

 日本ダービーも近付き、スペシャルウィークの同期たるエルコンドルパサーがNHKマイルカップで快勝した日からも数日。いつものことだけれど、私はソファに正座するスズカにお説教をしていた。

 

 

「約束ーっ」

「ゃぅゃぅゃぅ」

「なんで走るのーっ」

 

 

 昨日のこと、それはもうスズカは走った。皐月晴れといった感じの日、今日はせっかくだし走らせてあげようかな、なんて電話をしたのがお昼前。その時既にスズカは我慢できなくなりトレセンを駆け出していたのだった。

 

 

「だめでしょーっ」

「ゎぅゎぅ」

 

 

 スズカの頬をむにゅむにゅにしながら、怒っているふりをする。当然いつものことながら、本気で怒っているわけではない。形だけお説教をしているだけで、約束もされなかったからといって特に何のペナルティもない。こういう距離感なのだ私達は。

 

 スズカも途中から拗ねて唇を尖らせるのをやめて、擽ったいみたいに笑い始めている。お腹いっぱい大満足まで走って、その勢いでトレセンに帰ってきて。ハイになったままファンの後輩に見付かり併走を挑まれ快諾、ぶっちぎった後寮に帰ってぐっすり寝たらしいからね。そりゃご機嫌にもなる。

 

 

「だってトレーナーさん、昨日のお天気見ましたか? 流石にあれは走らないとダメです」

「いやダメじゃないでしょ」

「んぅ……日が出てるけどそんなに紫外線もキツくなくて、気温も高すぎず低すぎず、少し乾いた風が吹いている……走るための日ですよ? ブルボンさんもそう思いますよね?」

「はい」

「ブルボン? 適当に返事しないで?」

 

 

 後ろのベッドで座るブルボンも一応話は聞いている。この子も最近は体を起こしていられるまでになって……トレーナーさんは感動しました。タイムをもっと切り詰めることにします。

 

 

「ほら」

「ほらじゃないけど。そのブルボンは勝手に走ってないけど?」

「……」

「あっ誤魔化すなっ」

 

 

 私の胸元に擦り付くスズカ。もう、反論できなくなるとすぐこれだ。可愛くて愛されていることを自覚した行動は控えましょう。私が困っちゃうからね。

 

 でも仕方ないのでちょっといい匂いのするスズカをそのまま抱き止めて頭を撫でる。響かせるつもりの無いお説教は響かないまま終わってしまった。ため息をついてやりたいようにやらせておく。

 

 

 こんこんっ

 

 

 と、ドアノック。ブルボンが颯爽と立ち上がり、迎えに行った。この子は坂路の後活動できるのを誇らしく思っているのか知らないけど、体育会系後輩気質がさらに増した気がする。スズカを一応一度引き離しておいて、ドアを開くとたづなさん。

 

 

「失礼します、トレーナーさん」

「お疲れ様ですたづなさん」

「お疲れ様ですっ」

 

 

 いつもながら眩しい笑顔のたづなさん。いつかのように、両手で段ボール箱をいくつか持っている。そのうち二つをブルボンに渡してきた。

 

 

「こちらスズカさん宛のファンレターと、トレーナーさん宛のお手紙が多数ありましたのでお届けに来ました」

「ありがとうございます……私宛?」

 

 

 スズカのファンレターは解るし定期的に来るが、私宛とは。私にファンがいるのか? そんなバカな。ネットでの私の評判酷いんだからね。スズカを解放しろとか言ってるのもいるんだから。するわけないだろ。

 

 

「はい。お見せするべきか悩んだんですが、その……ウマ娘の皆さんからの、ご要望と言いますか……」

「あー……なるほど……」

 

 

 チーム加入のどうこうか。溜めて溜めて来るんだろうね。たぶん今も猛アピールを続ける子は少なからずいるんだろうし、気持ちも解る。

 単純に私がそういうのを罰していないだけ。メンバー受付はしていないので、本来こういう手紙はよろしくないのだ。たづなさんが言葉を濁したのもそういうこと。大っぴらに言うべきことじゃない。

 

 

「とにかく両方受け取りましたので。すみません、ありがとうございます」

「いえ。一応検閲はさせていただいているので、何かあればご連絡くださいね。あと、たまにはトレーナーさんもどこかご飯に行きませんか?」

「か、考えておきます……」

 

 

 丁重にたづなさんを見送る。たづなさんとのご飯……万が一タイマンだった時が怖すぎる。あの人はウマ娘を語ることしかしないからな。私ではついていけない。

 

 

「お手紙……ふふ。嬉しいですね」

「そうねえ」

 

 

 一方段ボール箱を持ちつつ微笑むスズカ。走ることしか考えていないスズカも、ファンサを含めファンの方々への意識はそこそこある。ファンレターも返信こそあまりしないが、一応嬉しいという感情はあるらしい。

 

 

「何か変わったものとかあったりしますかね……」

「あとで読んでみれば良いじゃない……あ、これとかほら、ウマ娘からよ」

「本当ですね。また私みたいになりたいって走ってくれる子がいたりするのかな……」

「ね」

 

 

 いて欲しいやらいて欲しくないやらだけどね。スズカみたいにはなれないっていうのがほとんど確定しているんだし。憧れるならシンボリルドルフやエアグルーヴが良いよ。

 

 

「私はこっちを読まないとなあ……」

 

 

 ファンレターはスズカが箱を開け始める。私も一応手紙を見ておかないと。新しい子を取るつもりは無いけど、読まずに捨てるのも何かなあって。返事は……あーだめだめ。こんな量返事できません。文字通り山ほどあったわ。

 

 読み始めると……まー凄い。熱意がもう大変なことになっている。そりゃそうよね。何せクラシック未勝利戦は夏の終わりまでで、それ以降は強制的に引退となる。六月までにトレーナーを捕まえて夏に特訓しまくって、何とかオープンまでは行かないととみんなが思っている。

 

 

 ……でもなんか、みんな書いてることがおかしくない? 私は厳しい練習にも耐えられますとか、やる気は誰にも負けません! とか。私のこと、能力の無いウマ娘をスパルタで何とかするトレーナーだと思ってるでしょ。逆だからね。

 

 

「トレーナーさん見てください。このお手紙、挑戦状です。これは受けないと失礼ですよね?」

「そんな野良の勝負を受けちゃいけません」

「でも芝2000ですよ?」

「何がでもなの?」

 

 

 せめて2200って言うなら宝塚と一緒だね、くらいは言えたのに。

 

 

「というかキリがないでしょそんなの受けてたら。そもそも相手は誰よ」

「……聞いたことないです」

「そりゃそうよね」

 

 

 差出人を見たけど私も知らない。もう、うちのスズカをそういうのに使わないでよね。私達はシンボリルドルフをブルボンの練習に使うけどそれはそれ、これはこれ。

 

 私の側はもうこれ以上読むこともないので、適当にしまってスズカの隣へ。んー、と手紙を広げながら私に倒れ込むスズカ。

 

 

「マスター。私が代わりに受けることは可能でしょうか」

「ブルボンもダメ」

「そうですか……」

 

 

 贅沢な練習ができるのだから、わざわざ下を見る必要はない。ブルボンが目指すのは重賞一勝とかG1出走とかそういうレベルではない。三冠なのだ。申し訳無いが比較対象が違いすぎる。

 

 しゅんとしながらチーム宛の手紙を眺め始めたブルボンは放っておいて、スズカが新しく手を伸ばした手紙の便箋は少しサイズが大きいものだった。

 

 

「こっちは小さな子からのお手紙ですね……お返事しようかな……」

「あらほんと。可愛いねえ」

 

 

 レターセットの便箋にひらがな交じりの長い手紙。こういうのがあると嬉しくなる。ファンを区別するのもどうかと思うけど、気持ちがね、違うね。

 

 

「何て書いてあるの?」

「私のこと、好きですって。速くて可愛いって……」

「解ってるねえ」

「ええ、本当に」

 

 

 とにかくスズカを言い表す言葉なんてそれで十分。格好いいって言うのもある。まあ大体のファンレターはそんなことが書いてあるんだけどね。スズカは速くて可愛い。それだけを胸に生きていってほしい。スズカも謙遜しないもんね。私が日々可愛い可愛い言ってるから。

 

 

「お手紙、住所……書いてますね。後でお返事書きます」

「そう。一応書けたら見せてね」

「はいっ」

「マスター。こちらにも挑戦状があります」

「ええ……?」

 

 

 そんな気軽に挑戦状を送るな? まあちゃんとしたトレーナーがいないからこういう手段を取るんだろうし、強く非難もできないけど……早く見つかると良いね、トレーナーさん。

 

 それはまあしまって。代わり映えのしない手紙をいくつか消化して、届いた報告をウマッターに呟くことに。みんなでスマホを覗き込み、スズカが打ち込む文字を見届ける。

 

 

「えっと……たくさんの方から、お手紙を貰いました……んー……ありがとう……ございます……」

 

 

 相変わらず打つのが遅いんだよなあ。

 

 

「併走のお誘いは、トレーナーさんにダメだと言われてしまいました……」

「待って……ギリギリ燃えそう……」

「トレーナーさんに怒られたので……」

「燃える燃える」

 

 

 事実なのが複雑な気持ちではあるけど。マイルドな言い方に変えさせて投稿しておく。早速いくつか返信がつき、残念だの早めに相談してだの適当な言われようである。私か? 私のことを相談するのか? ん? 

 

 

「あ、スペちゃんから返信来ました」

「ほう」

「……今から行きます……?」

「え?」

 

 

 確かにそう書いてある。それも、記号も絵文字もなく、ただシンプルに一言だけ。スペシャルウィークらしからぬ物言いに、私達は首を傾げながら待つことにした。




忘れないうちに言っておきたいんですが、ダービー、メイクデビュー、宝塚とやったあと一気に毎日王冠に飛びまして、そこからかなり早いペースで天皇賞(秋)まで行きます。皆さんご存じの通りあれがあるからです。性質上うちのトレーナーは曇りに曇るので、できるだけ早く駆け抜けたいと思います。一応アンケートも置いておきます。

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