走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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一回やってみたかったシリーズ。もちろん本編はぶらさないで書きますけど、これはこれで評判良ければサブタイ変えてちょくちょく書きます。たぶん良くはないと思います。反省。


根性では負けられないスペシャルウィーク

「じゃあルールね。芝2400、左。全て内からブルボン、スズカ、スペシャルウィーク。ゲートはゲートくん三号。良い?」

「はい!」

「はいっ」

「問題ありません」

 

 

 ついにこの時がやってきました。私とブルボンさん、そしてスズカさんの耐久模擬レースです。三人で並んでスズカさんのトレーナーさんの説明を聞きながら、私は逸る気持ちを抑えるのに精一杯でした。

 

 昨日の夜、あまり良くない頭で必死にトレーナーさんを説得して、「そこまで言うならスペの好きにしなさい。その代わり、必ず何かを掴むんだぞ」と言われた瞬間から、私はドキドキしっぱなしです。スズカさんが寮にいなくて良かったです。それはいつも通りですけど。

 

 

「一レースごとに私が脚をチェック、休憩を取ります。何か異常が見付かるか、無くても私がそれ以上は危ないと判断した時、もしくはスペシャルウィークのギブアップでのみ終了とします」

「はいっ!」

 

 

 昨日の電話の時は不思議なくらい無言だったスズカさんのトレーナーさんも、今は真剣な表情で私達一人一人をゆっくりと見比べています。こうして見るとやっぱり凄い人なんだなあ……。

 

 もちろん、スズカさんを育てた方ですし、ブルボンさんもデビュー前とは思えないくらい速いですから、凄くないわけがないんですけど……普段、スズカさんとのやり取りを見ていると忘れそうになります。

 

 

「ではコースに入って。よいしょ……っと」

 

 

 ゲートくん三号を転がすトレーナーさんを見ながら、しっかり外枠に入ります。本当なら一緒に走る二人に何か声をかける方が良いのかもしれないけど、走る前のスズカさんに何を言っても聞いていないだろうし良いや。

 

 私達の目の前にバーが下ろされます。ボタン一つでこれがしゃきんと引っ込むゲートくん三号は便利なんですけど、一つだけ弱点があって。

 

 

「良い? 行くよ」

 

 

 機械からバーを伸ばして引っ込める都合上、ほんの一瞬だけスタートに差が生まれます。今回なら外から伸びているので私が遅れることになりますね。

 

 ……もちろん、同時だからといって何が変わる訳じゃないけど。

 

 

「よーい」

 

 

 いけない、切り替えなくちゃ。まずは一本目。だけど、毎回本気で。すべてはダービーのため。日本一のウマ娘になるため。そのためにスズカさんやトレーナーさん達にも手伝ってもらっているんだ。

 

 ここで、私はもっと強くなるんだ。

 

 

「どんっ」

 

 

 かしゃん。バーが目の前から消え、スタートを切りました。ダービーは最後に坂と長めの直線があるから、私の末脚を活かすため少し抑え気味に走ることになっています。

 

 びゅんびゅん飛ばす二人に乗せられないように自分のペースで。しっかりと脚を溜め、直線で一気に抜け出す差しの作戦です。

 

 

 府中に合わせたスタート位置からコーナーへ。予想通りのハイペースで進むのはスズカさん。かなり離れてブルボンさんは私から少し前。スズカさんを抜くつもりはないのか内ラチギリギリを走っています。

 

 

 先頭を進むスズカさんの呼吸のペースさえ聞こえてきそうなくらいに二人は崩れません。大きく逃げられると不安になってかかってしまうのは悪い癖です。落ち着かないと。中盤のスピード勝負で勝っても何の意味も無いんだから。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ……」

 

 

 それでも、いくら言い聞かせても私のペースは上がっています。さっきまで感じなかったブルボンさんの規則正しい呼吸音がはっきりと聞こえてきました。つまり、私が詰め寄っているか彼女が遅くなったか。まだ三コーナーにもかかっていません。たぶん前者です。

 

 落ち着け私、今じゃない。まだ、まだだ。ここからじゃ届いても差し切れない。三コーナーを越えて、まだ。下がってきたブルボンさんをかわして外に少し出て、大きく息を吸って、吐く。

 

 

 その時。私の前の方。七バ身先のスズカさんの身体が大きく沈みました。すぅ、と私より深く、強い呼吸の音。ほんの一瞬だけ、スズカさんの影に私は近付きます。

 

 二秒、三秒。スズカさんに追い縋れたのはそこまで。四コーナーに入った瞬間、沈んだままのスズカさんが──消えた。

 

 

「そんな……、いやッ──!」

 

 

 信じられない速度で離されていく。私も負けじとスパートに入るけど、それでも差が縮まらない。伸ばされていく。突き放される。

 

 歯を食い縛って、折れそうなくらいに地を蹴って、知らないうちに叫んででも走って。少しも縮まらない差を、スズカさんが通って、その風すら無くなった場所を通る。内か外かなんて段階にすら持っていけない。ただひたすらに一人で走っている。

 

 

「く……ッ」

 

 

 一瞬諦めそうになる、と、後ろからの足音が私を急かす。まだ差は開けている。だけど、スズカさんとのそれより小さい。クラスの差は同じはずなのに、私の後ろにはちゃんとブルボンさんがいる。

 

 そして、再び力を込めた私など見ていないみたいに、スズカさんがゴール板を通過していた。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 今日もスズカが絶好調だ。

 

 スペシャルウィークが勝てるだなんて思っていたわけではない。だけど、それにしたって七バ身差は衝撃だ。一つ下のクラスということを考えたら余裕くらいかな。

 

 

 もちろん誰が悪い、誰がおかしいかと言えば間違いなくスズカだ。スペシャルウィークは真っ当にレースをしていた。普通ならあれで正解のレースだ。三人だからバ群こそ無いけど、中団やや後方の位置取りだろうか。そこから最終コーナーで前に出て、長い直線をパワーと末脚のキレで押し切る。理想的ね……相手がスズカでなければ。

 

 

 相手がスズカでなければ、というのは正直褒め言葉として私は使いたいよ。これは相手が皇帝でなければとかそういうレベルの話。スペシャルウィークはそういう、頭のおかしな速さには届いていないし。

 

 

「ん。全員異常無し。次行っておいで」

 

 

 だから走り方については私は何も言わない。私が知っているのはスズカへの勝ち方であって、セイウンスカイに同じことをやってもたぶん意味が無い。皐月賞もそうだったしね。

 

 二レース目に向かう三人を見送って、私はまたゲート位置で号令をかけた。

 

 

 

 

 ────―

 

 

 

 

 スズカさんは、本物だ。天才とはこういうことなのだと思う。何度挑んでも落ちず、変わらず、ひたすら私から離れていくスズカさんを見て、私は強く実感していた。

 

 

 それも、ただの天才じゃない。優秀なトレーナーさんがいて、今も成長し続けている。スズカさんに勝ちたい。でも、敵うはずがないって言う私もいる。

 

 

「は……はあっ、はあっ……く、ふはっ……」

「…………けほっ」

 

 

 レースは一回一回全力でやるもの。そのぶん消耗だって半端じゃない。もちろん練習だから本番よりは消耗しない。でも、逃げウマ娘で常に全力を出し続けているスズカさんは、私よりさらに疲れていなければおかしいはず。

 

 

「はぁ……あっ、トレーナーさん、これいつものドリンクじゃないですけど」

「ああごめん、どこかの誰かが朝ばたばたさせたお陰で間違えたのよ」

「私のせいって言いたいんですか?」

「そうだけど?」

 

 

 それなのに、現実は違う。倒れている私やブルボンさんの横で、スズカさんは涼しげな顔でトレーナーさんと笑いあっている。トレーナーさんも心配していない。あれが当然なんだ。四レースを終えて、まだ走れる。途中の休憩なんて二レース目からほとんど意味がない。

 

 スズカさんの走ることしか考えていない性格は、結構厄介だったりもするし、話を聞いているとトレーナーさんも厳しいというより、スズカさんが訳の解らないことを言うからトレーナーさんが止めているような感じがするけど、同時にスズカさんの強さでもあると解らされる。

 

 

「ブルボン? まだ行ける?」

「……けほっ、問題ありません……まだ……システムグリーン、続行可能です……」

 

 

 そして立ち上がるブルボンさん。スタミナは私より少ないはずなのに、スズカさん達の方をまっすぐ見ている。肺が苦しい。息をする度に刺すように痛む。身体を動かしていなくても整わない。お腹の底がむかむかして、戻してしまいそうになる。

 

 

「スペシャルウィークは?」

 

 

 でも、まだ私は走れるらしい。この地獄は私が折れるか怪我の危険が生まれるまで終わらない。トレーナーさんが私に聞くということは、まだ私の身体は走れるということ。ブルボンさんにスパルタ特訓をやっている観察眼は信頼できる。まだ私は走れる。あとは気力の問題だ。

 

 

「走れ……ます……!」

 

 

 スズカさんは2400までしか走らない。私は少なくとも3000、もしかしたら3200まで走る。負けられない。スピードで勝てなくても、根性で負けちゃいけない。

 

 私は日本一になるんだ。そのためにはこんなところで諦められない。私が望んだことなんだ。絶対に身体の限界まで走ってみせる。負けてたまるか。日本一は日本一だ。スズカさんにも負けちゃいけないんだ。

 

 

「やりましょう……次は勝ちます……!」

「……楽しみね」

 

 

 身体が重い。でもまだ走れる。コースに立つと、少しだけ気力が戻る気がします。条件は同じ。それに、どこでスパートをかけるか、いかに道中を楽に走るか、身体が覚えてきました。

 

 何かを掴む。必ず。この二週間で、あの背中に追い付く力を、知恵を得る。そうでなければ勝てない。みんなダービーに懸けているんです。私だけじゃない。強くなるのも私だけじゃない。

 

 

「良い? じゃあ行くよ」

 

 

 勝てる。勝つ。絶対に差す。これは私の夢なんだ。絶対に諦めない。全身全霊で駆け抜けて、届かせてみせる。何でもないことのように話す二人のところに私も行くんだ。

 

 

「よーい」

 

 

 すっと前しか見えなくなる。見るべきは二人だけ。自分と走るライバルだけ。最終コーナーからは絶対に負けない。

 

 

「どんっ」

 

 

 一歩を踏み出した。意識を切らすな。どうしたら勝てるかを考え続ける。初日だとかは関係無い。

 

今、今日、このレースで勝つ。




トレーナー「はえ~すっごいこの子……」

スズカ「気持ちいい……!最高……!」

ブルボン「通常トレーニングと相違ありません」

スペ「負けない!日本一のウマ娘になる――ッ!!!」
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