走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「トレーナーさん、起きて、起きてください」
「んー……あー……」
「約束、約束ですよっ」
「んー……」
翌日。私は朝早くからスズカに揺り動かされ起こされていた。
「ブルボンさんも」
「はい。起床しました」
変わらず流石に三人は狭いベッドで、私とブルボンと、その間に挟まれたスズカ。時計を見る。まだ四時半だ。ブルボンも跳ね起きたものの、流石に目の焦点が一瞬合っていなかった。私も正直死ぬほど眠い。
しかし、そんななかでもお目目ぱっちり元気元気スズカ。ベッドから降りて、何の躊躇いもなくばっとパジャマを脱ぎ捨てた。カーテンから外を覗き込んで、機嫌の良い時のニコニコ笑顔で喋っている。
「良かった……今日は晴れたみたいです。風も少しありそう。絶好のランニング日和ですね」
「そう……良かったねえスズカ」
「良かったです。おはようございます、トレーナーさん」
「おはよう、スズカ」
さて、今日はスズカが自由にして良い日、ということになっている。宝塚記念に向けたランニング禁の条件として、最後に一日好きにやらせてほしいということになったのだ。
じゃあ朝起きてから日付が変わるまでね、ということで、スズカは私の部屋に前乗りして、『トレーナーさんにおはようを言う』を達成していた。そのままトレセンのジャージに着替え、私の手を引いて洗面所へ。ブルボンもゆっくりついてきた。
「大丈夫、ブルボン。もうちょっと寝る?」
「いえ、ステータスに異常はありません。平均起床時間からすれば二時間ほど早いですが、それに備え昨日も二時間早くスリープモードへ移行しています」
「そういうので何とかなるんだ……」
「睡眠は心身の回復行為です。単純に時間を変更するだけなら問題ないと教わりました。事実お父さんは時に帰りが遅く、深夜のトレーニングもありましたので」
「そうなの……身体を壊しそうな理屈ね」
そんなんでよくこんな育ったもんだ。歯磨き中の二人を見ながらしみじみ思う。スズカは性格上基本的に夜更かしはしないし、食事も……いや食事は怪しいな。まあ睡眠と運動はちゃんととっているはず。でもブルボンと身長は変わらないし、本人が気にしていないとはいえ発育の差も物凄いことになっている。
あとお父さんは娘に何教えてんの。生活リズムとか……ご存じ無いんですか? やっぱあの人元トレーナーだな。トレーナーってのは必ずどこかイカれていくって昔先輩が酔って話してたもんな。私もそうならないように今から気を付けよう。
「まあ良いんじゃないの、もう成長期も過ぎたでしょ」
「あむ……ぺっ。いえ、依然としてバスト、ヒップサイズは微増傾向ですが」
「ええ……まだ育つの君は」
「良い子は大きく育つそうです。私はステータス、『良い子』なので大きく育ちます。サンタさんも来ますし閻魔様に舌も抜かれません」
動揺のあまりスズカの髪をセットする手が止まりかけた。凄いのねこの子。色々。
二人の髪のセットを終え、食卓へ戻る。どうせ早朝から起こされると思っていたので、昨晩既にほとんど作り終わっている朝食を温めていく。
「ブルボンさん、本当についてくるんですか?」
「はい。スズカさんと同じ速度を維持することはトレーニングにも有用です」
「無理だと思うけどねえ」
ダイニングで話す二人に、キッチンにいる私も交ざる。今日はスズカデーなので一応スズカ気味に話すことにする。普段ならそんなことしなくて良いよ、くらいにしていたところだ。無理だと思ってるのは本音だけどね。
「ふふっ、ですよね? 一人でずーっと行っちゃいますから」
「必ずついていきます。お任せください」
「ふふふっ」
でーきたっと。二人に食器を出して貰い、朝御飯だ。別に学園で食べれば良いのにわざわざ私に作ってほしいと言うスズカは一旦可愛い。
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朝食を食べ終え、着替えまで終えて三人でトレセンの食堂へ。まだ六時だが、何とトレセンの食堂はもうやっている。朝食から夕食まで対応するのがあのやべー学生食堂である。流石はちょっとした村か町くらいの規模を誇る中央トレセン学園をたった三つの食堂で支えているだけある。
お腹いっぱいの私は一緒にいるだけで、スズカとブルボンはそれぞれいつも通りの量を頼んできた。空腹でも人間には厳しい量を平気な顔で食べ始める二人を前に、暇なのでノーパソを開いて色々と始める。
周りには……まあ流石にほとんど人はいない。だからこそ目立っちゃってるけど。こっちをちらちら見てる子、たぶんステータス的にジュニアか、上手く行ってないクラシックなんだろうけど、朝早くから頑張ってるのね。
朝食を済ませ、ゆっくり歩いてトレーナー室へ。荷物を置いて、活動開始がちょうど七時だった。まあ予定通りである。制服からジャージに着替えた二人を校門まで見送りに行く。
「じゃあスズカ、ブルボンも、授業には遅れず出るのよ」
「はい」
「はい」
「ん。じゃあ気を付けて行ってらっしゃい」
ストレッチを済ませ、物凄い勢いで駆け出していく二人。やっぱりブルボンのスタートダッシュは一級品だ。スズカに負けず劣らず。
「あら? エルナトのトレーナーさん。おはようございますっ」
「あ、おはようございます、たづなさん。早いんですね」
「毎朝挨拶をしてますから」
入れ違うようにたづなさんが来た。私もしばらくやることはないし、しばらく会っていないからかたづなさんも自然に隣に来て話す気満々だし。まあお話ししようかな。ついでに挨拶運動も一緒にやろう。善行善行。
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「あー……疲れる……」
チャイムギリギリまで続く挨拶運動を終え、その後カフェテリアでたづなさんに非常に熱く今年のクラシックのことを語られた後。十一時に解放された私はお昼ご飯のため食堂に来ていた。今日の日替わりは唐揚げだった。
どう考えても割高で、いくら東京と言えどその辺のご飯屋さんに入った方が良いんだけど、美味しいし来てしまう。こうして私達の給料をトレセンに戻そうとするのだ。怖いね。
ちなみにお昼は基本的に一人だ。大体のトレーナーというのは激務に激務を重ねているため、お弁当とか軽食で昼を済ませることが多い。あとは担当と食べたり。スズカはお昼は私と友達を天秤にかけ友達の方を選んだ。まあそれはそう。そもそもまだ授業終わってないし。
食べ終わって、トレーナー室に戻る。しばらく仕事をしよう。スズカが来るまでまだ時間があるし。
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六月十五日、記録者、ミホノブルボン。
本日は朝から、チームの先輩であるスズカさんが全てのスケジュール設定を行い、マスター共々それに従うことになっています。
「んしょ……じゃあ行ってきますね、トレーナーさんっ」
「あの、ブルボン。本当に大丈夫? 確かに身体は大丈夫だろうけど、シンプルにその、体力とか」
現在、午後二時三十分。授業を終え、スズカさんに誘われ複数人での食事を楽しんだ後、私は通常通り坂路トレーニングを行いました。
この日もマスターの指示通りのタイムで走破することに成功。またさらに短縮すると言われ、次に向けて奮起しました。そして、トレーニングを観察していたスズカさん曰く、これから走りに行く、とのことです。
「問題ありません。身体機能はオールグリーン。スタミナはレッド……危険域でしたが、現在はイエローまで回復しています。また、マスターの分析に則るなら私の根性次第、ではないでしょうか」
「そうだけど……まあいっか。好きにしなさい」
「ありがとうございます」
当然ついていきます。朝のランニングにおいては開始二十分で差が大きく開き、終了時には動けずスズカさんに抱えられてシャワー室へ向かう結果となりました。次こそ最後までついていきます。
「行ってらっしゃーい」
マスターの見送りを受け、朝と同じように校門よりランニングを開始します。並んで走ることはスズカさんより禁止されているので、三メートル後ろを追走します。コースについてはスズカさんの気分次第です。
坂路等、パワーのステータスが必要なコースでは私はスズカさんに有利かもしれない、というのはマスターの分析です。現実にそうなれば良い経験となるでしょう。
前を走るスズカさんに続きます。朝よりペースが10%上昇しています。スタミナはイエローを維持。分析中。判断を変更します。これは無理です。
そして、予測通り私は大きく離され、スタミナ危険域で大幅にペースダウンしてしまった頃には背中すら見えなくなってしまっていました。
走りながら体力回復に努め、再びスズカさんを追います。コースのランダム性は高く一度見失うとほとんど追い付くのは不可能ですが、はぐれたら合流するポイントを事前に決めていました。このことによりスズカさんのランニングを妨害する結果になってしまうことに強く憤慨を覚えます。
ですがそれ以外に私の取れる行動はありませんし、自己判断でトレセン学園に戻ることもできません。約束ポイントである小さな公園へ到着すると、ベンチに座り数人の人間に囲まれているスズカさんがいました。
険悪な空気ではないと判断。であればファンの方でしょうか。話し掛けるべきではない可能性があります。全員いなくなるまで待機するべきでしょうか。
「あ、ごめんなさい、来たみたいなので、これで……はい。ありがとうございます」
ですが、スズカさんは会話を終了してこちらへ。手には自動販売機で購入したと思しきスポーツドリンクのボトルがあります。それを私に差し出しました。
「良かったわ。大丈夫? 相当辛そうだけど……まだやる?」
「……ぷは、勿論です。マスターへの連絡をお願いします」
「……解ったわ。頑張るのね」
マスターは、一度でも休憩を挟んだ場合その時点で続行の判断を仰ぐように指示されています。理由は不明ですが、必ず守るようオーダーを受けています。それに従い、スズカさんのスマートフォンを使ってマスターに連絡を取ります。
……私は続行不能と判定され、その場でマスターの車を待つことになりました。じゃあ行くわね、と話すスズカさんとの背中に、解析不能の感情が感知されました。