走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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会話はターン制のサイレンススズカ

 

「ここではない……どこかへ……」

「うん」

「限界です……はし、走る、走ります……」

「そんなこと言わないの。頑張れ頑張れ」

「無理です……」

 

 

 宝塚を翌日に控えたある日。宝塚記念前のランニング禁止期間はマチカネフクキタルが課題を持ち込み、ついでとばかりにスペシャルウィークにも声をかけて頭を使わせることで何とかやり過ごしていたのだけど、昨日それも終わってしまい、結果としてずっと座って勉強していたストレスもプラスしてスズカが不味い。

 

 

「くっ、う、ぅ……」

「よしよし。頑張れー。頑張れスズカー」

「絶対に走ります、今すぐ走ります……」

「明日は思い切り走れるぞー」

 

 

 トレセンの体操服を着てランニングシューズを既に履いているスズカ。無意識にここまでやってしまったらしい。この格好になるまでは走るつもりは本当に無かったのだと。でもこの格好になったからには走るしかないと。

 

 無意識に着替えたというのもスズカだとなんか信じられるな。

 

 

「今日が良いです、本当にもう身体が爆発しちゃいそうです……」

「大丈夫、ウマ娘は爆発しないわ」

 

 

 完全に走る格好のスズカを膝の上に乗っけて、撫でたり抱き締めたり。何だかんだおねだりがちょっと弱いし、他に意識を割いていたというのは大きいようだ。ストレスと換算してギリギリプラスかな。

 

 次のレースでも同じことができると良いね。天皇賞……の前に一レースくらい出るかな? オールカマーか毎日王冠あたり。それから天皇賞連覇に挑むと。

 

 

「ちょっとだけ、先っちょだけ走らせてください」

「だめ。どれだけ走るつもりよ」

「……解りました。私も学んでます。トレーナーさんが思わず『それならスズカの好きにして良いよ』と言ってしまうようにします」

「ほう」

「……二十キロでどうでしょう」

「ダメに決まってるでしょ」

「ゃんっ」

 

 

 額を弾く。何も学んでいない……どうしてそれでいけると思ったのか。

 

 

「に、二十キロですよ? 普段の半分以下ですよ?」

「人間にとって二十キロとは絶対に足では行けない距離よ」

「トレーナーさんがひ弱なだけですよ。やーいひ弱ー……なんちゃってふふ、ふふふっ」

「言ったな? 事実でも言って良いことと悪いことがあるのよ」

「ふひゅ、ふふふっ、ふへへ……」

 

 

 スズカをくすぐって黙らせる。いうて今日ももう日が沈む。ブルボンが起きたら坂路やって終わりだし、そしたらすぐ夜行列車に乗らないとだから。

 

 

「次に私のことをひ弱と言ったら人前で耳に悪戯するからね」

「あー良いんですかそういうこと言って。そんなことしたらみんなにトレーナーさんの匂いについてお話しますよ」

「やめて……」

 

 

 あまりにも残酷な脅しに声が震えちゃった。ダメダメ。それはたとえ私が女子高生でも無理だから。

 

 

「じゃあこうしましょう。まず私が走ります」

「うん」

「あ、うんって言いましたね? 走ってきます」

「ずるでしょ! 相づちじゃん今のは!」

「わわっ」

「うおあっ」

 

 

 駆け出そうとしたスズカの手を掴む。引き留めようとしたら当然のように私が引きずられた。床に叩き付けられた私を、しゃがんだスズカが眺めている。大丈夫ですか? と強かにぶつけた肩を撫でてくれる。砕けるかと思ったわ。

 

 

「やめてくーだーさい」

「走らせてくーだーさい」

「ダメ」

「じゃあせめて勝手に走った時のお仕置きを決めておきませんか?」

「破る気満々じゃんか」

 

 

 助け起こされソファへ舞い戻る。

 

 

「あっ」

「なに」

「UFOです」

「古典的すぎて今あなたが愛おしくてたまらないわ」

「UFO……?」

「愛おしいのがもう一人増えたわ」

 

 

 ばっと起き上がるブルボン。こんなの真に受ける人、この世にまだいたんだ。寝起きにも関わらずぱっちりお目目で私達の方……ではなく、窓から見える夕焼けを見ている。

 

 

「UFOはいないのよ、ブルボン」

「……いないのですか?」

「どこかにはいるかもしれないけどここにはいないわ」

「……そうですか……」

 

 

 ブルボンががっかりしてしまった。まさかそういうのを信じてるタイプか。確かにサンタさんとか言ってたもんね。去年のクリスマス、親に何貰ったのとか聞かなくて良かった。夢を見てる子は見てた方が良いよ、ほんとに。

 

 

「UFO好きなの?」

「UFO……宇宙船には興味があります。より正確に言うなら戦闘機やロボットに類するものです」

「へえ……そうなんだ。そういうアニメとか見たの?」

「はい。父と一緒に」

 

 

 お父さんはブルボンをロボットに育てたかったんだろうか。少し聞いてみると、あくまで偶然見ただけだし、お父さんに言われる前に興味を持ったと言う。どちらかと言えばブルボンの趣味がそういうのなんだろう。

 

 

「UFOはいないから寝てても良いのよ」

「いえ、既に体力回復は完了しています。問題ありません。それよりもスズカさんが」

「え?」

 

 

 振り向くと、スズカがソファの隅で膝を抱えて寝転がっていた。

 

 

「スズカ?」

「つーん」

「どうしたのスズカ」

「トレーナーさんなんか知りません。今は私の番でしたよね」

「いや……まあその、ごめんてスズカ。スズカのことを蔑ろにしたんじゃないのよ」

「もう知りません。言うこと聞いてあげませんからね」

 

 

 言いつつ私の膝を枕にふて寝してしまった。まあ耳が立ったままだから本気ではないんだろうけど、確かにブルボンの話で放っておいちゃったか。拗ねるスズカの頭を撫でて、ウマ耳をマッサージしながらご機嫌斜めスズカに語りかける。

 

 

「ごめんね。怒らないでスズカ」

「ふん」

「拗ねても可愛いだけよ。今から明日どれくらい走るか決めとこうか。お祝いのご飯も決めて良いよ」

「お祝いはスペちゃんがしてくれるって言うのでそっちに行きます……」

「んー。お祝いは一回だけなんてルール無いんだから。ほらほら。あんまり拗ねてるとくすぐっちゃうわよ」

「ん、んぅ、んふ、ふふひゅ、んふふふふっ」

 

 

 ほら笑顔に戻った。ちょろいものよ。強引だけど笑えば良かろうなのだ。流石に我慢がヤバいのか情緒不安定ではあるので、今回は私が反省しないといけない。これで不調に陥っちゃったら元も子も無いし。

 

 

「ほらスズカ。ブルボンの坂路見に行く? そしたら電車乗らないといけないから」

「坂路を走ります……」

「それはダメだけど応援してても良いから、ね?」

「やです……」

「応援してくれるのですか?」

「……応援はします」

 

 

 偉いねえスズカは。わしゃわしゃしてあげよう。

 

 その後もスズカのテンションを大幅には下げないように宝塚後の話をして、時間を潰した。なお、応援を受けたブルボンが坂路を一本増やすというのでやらせたところ、あの、これ以上は乙女の名誉のために言わないでおきます。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「頭が……頭が爆発します……」

「ウマ娘は爆発しないわ」

「うぅぅ……」

 

「元気かスズカ……元気そうだな」

「何してるの、スズカ……?」

 

 

 坂路も終わり、ベッドで完全機能停止を迎えたブルボン。私達は変わらずソファでお話をしていたが、そこに宝塚でのスズカの……なんだろうね、まあとにかくメジロドーベルとエアグルーヴがやってきた。

 

 言葉に困ったのはその、スズカの勝ちを疑っていない私が、この二人をライバルと呼ぶのは白々しいような気がするからだ。ライバルというのはたぶん、スペシャルウィークにとっての同期のような関係を言うのだろう。少なくとも私はこの二人に勝つための練習も戦術も考えたことはない。

 

 

「エアグルーヴ……ドーベル……助けて、助けて……」

「ああごめんね二人とも。スズカは今瀬戸際だから」

「だとしてそんなになることある……? びっくりした」

「いやドーベル。スズカはいつもこうだ」

「ええ……」

 

 

 私の膝で丸まるスズカを見てそれぞれの反応が痛い。エアグルーヴは慣れすぎて、私に声をかけて冷蔵庫の缶ジュースを取り出した。それを受け取るメジロドーベルはここまで来たスズカを見るのは初めてかな。

 

 

「やっぱり明日の話?」

「もちろん。まあ宣戦布告とまでは言わんが、様子を見に来ただけだ。明日はスズカの全力が見られそうか?」

「全力で走れそ?」

「無理です……頭が真っ白になっちゃいます……」

「いつも通りじゃないか」

 

 

 確かに。

 

 

「レース中に頭が真っ白になるの、キツすぎませんか……? 私、まだたまに危ないんですけど……」

「ドーベルはそのまま克服すれば良い。スズカのこれはお前のとは性質が違うものだから気にするな」

 

 

 メジロドーベル、確か男の人が苦手で、それはそれとして他にも緊張しぃなんだっけ。それは大変だろうなあ。私も小市民だから気持ちは解るよ。そもそもこの歳で、メジロという家の名と名誉を背負って、全国民が結果を知るレースで走っているというのが凄いことなのだ。胸を張って欲しい。

 

 

「スズカはこれで良い。半端に私達のことを意識されても困る。栗毛の逃亡者は自由に逃げていれば良い。私が捕まえる。指名手配というやつだ」

「女帝だけに? 私はスズカの異名は『異次元の逃亡者』の方が好きよ」

「異なる次元になど行かせてなるものか。絶対に勝てないとでも? 私は同じ次元に上がり続けるぞ」

「ふふふ。できると良いわねエアグルーヴ? スズカ相手に? 同じ次元に?」

 

 

 スズカが負けるわけ無いんだから。何をどうやったってスズカの勝ちよ。少なくとも私は一欠片もそれを疑っていないし、明日ひっくり返るような要因があるとも思えない。それこそ今日の夜行列車で腰を痛めるとかそういうレベルのトラブルが無い限りね。

 

 それだって私とスズカの距離感で、私も一応トレーナー試験は通ってるんだし。そう簡単に怪我はさせないのよ。

 

 

「……言っただろうドーベル。スズカは何も言わないが、スズカのトレーナーの態度を見ていると闘志が滾ると」

「はい……ちょっと解りました。あと、うちのトレーナーもどうしてこれくらい言えないかなって怒りも」

「それは……そうだな。後で聞いてみるか」

 

 

 二人のトレーナーが私のせいでとばっちりを受けてしまった。ごめんなさい先輩。でもメジロドーベルはともかくエアグルーヴのトレーナーは腰低すぎると思います。女として思うんですけどなんか、もう少しちゃんとしないとその、奥さんとか、ね? 

 

 

「明日を楽しみにしておけ」

「ん。ウイニングライブも楽しみにしてるね」

「……ふん」

 

 

 二人は……というかエアグルーヴはかなり上機嫌で部屋を出ていった。何故か直後に機嫌が直ったスズカがくっついてきて、ニコニコ笑顔でブルボンを運んで、私達は阪神へと向かうのだった。




そろそろ次の更新辺りでアンケート消しておきます。結果としては『仕方無いけど明るくして欲しい』と『めちゃくちゃ重くして良い』が僅差、その次に『まあ書いても良い』が続きます。読者によって許せるラインが二分されてるのわろける。

まあ言ってしまえばめちゃくちゃ重くは個人的にはなりません。書く前にも『ここから○○話でやります』と言ってからにするので。何なら章にと思ったんですけど流石にやりすぎかもしれん。
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