走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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チキンレースは好きじゃないのでそんなつもりじゃありませんが、ここまで描写を省けばガイドラインも問題無いでしょう。誓って性的な要素は書いていません。


泳ぎは速くないサイレンススズカ

「よーい……どんっ」

 

「っ……」

「わっ」

 

 

 ある日。今日は非常に気温が高く、流石のスズカといえども陸を走るのを十秒躊躇うほど過ごしにくくなっていた。目が覚めた瞬間びっくりしたもん。昨日まで結構涼しかったし布団並べて三人で寝てたんだけど、寝相の良さに定評のあるうちの子達が掛け布団を蹴り飛ばしていた。三人そろっておねしょでもしたんかってくらい寝汗かいてたし。

 

 ただまあ、だからといって何もしないままでも暑いものは暑い。旅館のクーラーをガンガンにして過ごすのも何か違うな、ということで、今日は珍しく海に入っている。

 

 

「頑張れ頑張れー」

 

 

 といっても、ちゃんとトレーニングだ。二人はね。私は浮き輪で浮いてるだけ。二人は両方そこそこちゃんと泳げるということで、ひたすら泳ぐスピードを競っている。さっきからこの子達が泳ぐたびに波が発生して私の浮き輪はひっくり返っているけどご愛敬。

 

 

「はい、ブルボンの勝ち。これで六戦六勝ね」

「やりました」

「あー……」

 

 

 で、なんと泳ぎについてはブルボンが優勢だった。ちょっと驚き。身体スペックはスズカの方が圧倒的に上なのだけど、ブルボンの方が効率とか、体の使い方に精通しているから、そしてパワーはスピードほど大差でもないから、ということだろうね。さっきから勝ち星を重ねる度にブルボンがとても嬉しそうにしている。

 

 一方我らがスズカはやはり走りほど熱は入っていないようで、あまり悔しそうにはしていない。泳ぎ終わるたびに力無く水面に浮かぶのみだ。水をかいて二人の元へ向かう。

 

 

「一旦休憩しようか。飲み物とかいるでしょ」

「はい……うぅ、負けました……」

「はいはい」

 

 

 二人に引っ張られる形で浜へ戻る。クーラーボックスから取り出した飲み物は、流石に少し温くなっていた。残念、パラソルだけでは限界があったか。ワンチャンあるかと思って持ってきたアイスは完全に溶けている。

 

 

「はい、これスズカ。これブルボン」

「あい……」

 

 

 三人入るとパラソルも狭いし。二つ借りてくるべきだったな、失敗した。でも今更戻る気は起きない。もう水着に着替えちゃったから。まあ私のは水陸兼用な奴だから戻ろうと思えば戻れるけど。

 

 

「暑いですね……」

「だねえ。今日明日だけって聞いてるけどね」

「明後日……いえ、明日は慣れて走れるかも……」

「走る気なの……? 正気……?」

 

 

 二人はトレセン指定のスクール水着である。なんかこう、ブルボンとかは大丈夫? って聞きたくなるわね。私も詳しく知らないけど、一応学生だしあんまり過激なものや派手なものを着られては困るってことでスクール水着指定ってことらしいんだけど……犯罪感が増すだけじゃない? 

 

 でもこのルールが無かったらタイキシャトルやシーキングザパールあたりはやべー水着着てきそうだから指定があって助かったと言えるかもしれない。

 

 

「あー……」

 

 

 現に、私の肩に寄りかかって暑さで溶けているスズカに関してはむしろ似合ってるまであるし。冷たく感じるタオルを二人に載っけるけど焼け石に水かもしれない。まあ気温のピークはもう過ぎているし、二人も暑いだけで何か体に異変があるわけじゃない。怪我率も出ていないし、脱水にさえ気を付ければ全然平気ね。

 

 

「というかスズカ、勝てないわね」

「ブルボンさんが速いんです……」

「スズカは遅いってこと?」

「は?」

「ごめん」

 

 

 泳ぎの話でも一旦は反応してくるな、この栗毛。

 

 

「まあ、泳ぐのはあんまり速くないですね……まあ良いです、走るのは誰よりも速いので」

「それはそう。ブルボンも泳ぎで勝ってもねえ」

「はい。陸では依然として大きな差があります」

「ふふふ。毎日挑んで良いんですよ」

「毎日挑みます」

「毎日はやめようね?」

 

 

 休憩もそれなりに取ったということで、再び炎天下に飛び出していく。ちなみに現実的に一番倒れる可能性が高いのはどう考えても私なので、麦わら帽は手放せない。二人は普通に気力に満ちていて凄いわ。種族差ね。ウマ娘に人間が勝てる身体的特徴は超長距離走行のみ、というのは過言でも何でもないのだ。

 

 

 二人の髪を縛り直して海へ。次は少し負担をかけよう。区間を区切り往復する。私の浮き輪を体に繋いだままで。一往復ごとに交代してひたすら繰り返す。

 

 ……というのがまあ、割と普通にあるトレーニングなんだけど、正直言ってめちゃくちゃ怖いわけ。今私がどうなってるかって、物凄い勢いで牽引される浮き輪から、バランスを崩したら吹き飛ばされる、みたいな状態で片手にストップウォッチを持っている状態よ。下手な絶叫より怖い。別に泳げるし良いけど、本能的に恐怖を感じるわ。

 

 

 でも、こうやってタイムを計っててもブルボンの方がやや速いような気がする。もちろん走ったときみたいな大差ではないけど。ひたすら往復させられながら、二人の疲労具合も見ておく。まだ流石にスズカの方が楽そうだ。

 

 

 二人のスタミナは正確に把握しているが、見られないステータスというのもある。これはブルボンが顕著だが、スタミナが尽きた、あるいは尽きそうな時への対応力である。根性とはまた違う適応力みたいなものがあるんだと思う。

 

 それでいえばブルボンはその能力が非常に高い。これはスズカより圧倒的に上だ。全ウマ娘の中でもピカイチではないかと感じている。そして、得意距離の都合上ブルボンのスタミナ要求値はスズカより上。ゆくゆくはブルボンの方が平気な顔をしている、という状況を作りたいものね。

 

 

「はーいそこまでー。今日はおしまい。夜はもし涼しくなったら砂浜を走るからね。それまで休憩」

「はい」

「了解しました」

 

 

 終わりのストレッチはこの際シャワーを浴びてからでも良い。二人を連れて、私は旅館に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「あー……」

「トレーナーさん、おばさんみたいですよ、声出すの」

「やめて、傷付く」

「マスターの年齢はまだ『おばさん』と呼ばれるものではないのでは」

「『まだ』って言わないでマジで」

 

 

 こっちは二十歳からどんどん若さを失うことを恐れてるんやぞ。

 

 

 夜は結局ほとんど気温が下がらなかったので、トレーニングは室内での筋トレに切り替えて終えた。特に何があるわけでもなく普通に終わり、私達は今、三人で温泉に入っている。まあスズカとは毎日入ってたんだけど、今日はブルボンが倒れていないため三人だ。

 

 

「ところでトレーナーさん」

「なあに?」

「誰かから申し込みは来たんですか?」

「まあ……いくつかはね」

「ふふっ。楽しみですにゃぶっ」

 

 

 近場どころかかなり離れたところからも合同練習の申し込みが来ている。結構多い。期待に目を輝かせたスズカを引き寄せて、水鉄砲を顔面に飛ばす。今回はスズカは何も悪くないけど、勝ち誇った顔がムカついたので一応。

 

 

「何するんですか!」

「合同トレーニングはしません」

「ええ……どうしてですか?」

「得るものが無いからです」

「むむ……」

 

 

 スズカもそのあたりは解っているはずだ。スズカどころかブルボンでさえ、そんじょそこらのウマ娘とはレベルが違う。言っては何だが差が開きすぎて、そこまで格下とやる理由がない。たくさん集めて模擬レース……はちょっと考えたけど、別にブルボンは逃げだし、相手が何人いても大して変わらない。

 

 

「私が走る権利を得るんですけど」

「合宿中はずっと持ってるでしょ」

「むー……」

「何、そんなにレースにこだわることがあるの?」

 

 

 聞くと、スズカはんんっ、と背筋を伸ばし、深く湯に浸かる。別に、レースじゃなきゃいけないわけじゃないですけど、と呟いた。

 

 

「宝塚記念で見えた、スピードの向こう側……一人で走っていても全然見られないんです。相手がたくさんいた方が良いのかなあって」

「まあ……何かしらの条件はあるかもしれないわね」

 

 

 スズカの言う『スピードの向こう側』は、とりあえずスズカの第三の伸び脚だと思うことにした。であれば発動条件があるはずだ。先頭に立っている以外の何かが。珍しく真剣に考えているらしいスズカ。まあ、そう言うなら多少やるのは構わないんだけど。大体の申し込みは日程はこっちに合わせるって言ってるし、こっちが圧倒的に選ぶ側だし。

 

 

「ブルボンは良い? たくさん人が来ても」

「問題ありません。一般的な考えに基づけばむしろ、練習はある程度大人数で行った方が効果があると認識しています」

「そうかあ」

 

 

 私以外は、基本的にはそうなんだけどね。ズレまくってるからさ、君のマスターは。でもブルボンも良いって言ってるし、スズカもやりたがってる。断る理由が無くなっちゃったな。二日か三日に一回ならこっちのトレーニングと十分並行できるし、じゃあ集めておこうかな。

 

 

「……わぶぶ」

「スズカは何やってるの」

「いえ……いつもの癖でトレーナーさんにくっつこうとしたら沈んじゃって」

「肩まで浸かってるからそりゃそうなるでしょ」

 

 

 何間抜けなことをやってるんだか。隣に座らせ、少し湯から肩を出す。すぐにスズカが頭を乗せてきた。反対側には無言でただそこにいるブルボン。静かになった。じわじわ気温が暑い。今日は私はサウナも入ろうかな。これだけ気温があれば水風呂が気持ちいいかもしれない。

 

 

「私はサウナ行くから」

「え、私も行きますよ」

「え? スズカはやめておいた方が良いわよ。入ったことないでしょ」

「一回くらいはありますよ?」

「そういうレベル?」

 

 

 まあ私がついてるし、ヤバそうだったらすぐ出せばいいか。まさかすぐに倒れるなんてことはないだろうし。ブルボンも無言でついてくるし、たぶん入りたいんだろう。よく解らないけどとりあえずついて行ってみるか、というスタンスで動くブルボン、犬みたいね。

 

 

「ブルボンはサウナは入ったことあるの?」

「あります。お父さんに連れられて頻繁に利用していました。疲労回復や筋肉痛の回避に効果があるそうです。一時期から共に入ってくれなくなりましたが」

「その話はやめよう」

 

 

 あぶねえ。たまに触れにくいことを平気で言ってくるもんな。

 

 

 

 その後、サウナに入った。初めての「ととのい」に混乱したスズカの姿はとても可愛かったし、サウナの中でも顔色一つ変えないブルボンにはちょっと引いた。

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