走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
「マスター」
「どうしたの」
ある日。ブルボンのトレーニングを終え、倒れるブルボンが復活するのを待っている間、息を整えながらブルボンが何か呟いた。
「先日、私の実家に勝負服が届きました。昨日受け取り、既に自室にあります」
「どうして今?」
「いつ言うべきか考えていました」
倒れながらでなかったらもう少し何か違う反応ができた気がするんだけど。
「まあでも、おめでとう。これでブルボンも一流のウマ娘ね」
「ありがとうございます。昨日もお父さんに同じことを言われました」
「良かったわね」
「泣きながら抱き締めて貰いました。立派になったな、と」
「そう……」
お父さん、まだブルボンはG1勝ってないのよ。あと一週間後くらいに言ってあげるとちょうどいいと思います。
結局ブルボンは予定通り朝日杯に出ることになった。別にホープフルステークスでも良かったのだけど、まだ少しブルボン自身の自信が足りないような気がしたからね。現実問題2000というのはスプリンターの頭からすれば非常に長い。極端なステイヤーでもなければ普通に長距離を走れるようなウマ娘と肩を並べるのがこの距離だ。
ミホノブルボンはステイヤー……とまではいかないものの、中長距離が主戦場だと心から信じているのはこの世界で私とスズカのみ。ブルボンやその御両親も最後までは信じられないのは仕方が無い。それも皐月で覆す予定だけど、とりあえずはマイルから。
「病室でマスターやスズカさんにもお見せします」
「そう? じゃあ楽しみにしないと。スズカが治ったらみんなでお祝いね」
スズカの時は勝負服のお祝いなんてできなかったからね。当時のスズカはそもそもレースが嫌いになる瀬戸際みたいなところあったし。目をきらきらさせて微笑む……俯せで見えないけどたぶん微笑んでいるブルボンに、こっちまで嬉しくなる。可愛いねえブルボンは。
「ところで、もう良い? 回復した?」
「……完全回復まで、残り三分ほどです。トレーニング続行は現段階でも十分可能ですが」
「じゃあ後三分待つわ」
そんな可愛いブルボンを、本人の希望とはいえ倒れるまでスパルタする私。こんな私を見て、是非新入生達は解ってほしい。才能のあるブルボンですらこうなのだから、そうでない子は責任持てないよ、というところをね。
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「ではマスター、スズカさん。勝負服をご覧ください」
「はーい」
病室。ベッドのスズカとその横の私に頭を下げて、ブルボンが病室のトイレに消えていった。
「……大丈夫ですか、ブルボンさんの勝負服」
「さあ……?」
スズカが柄にもなく苦い表情を見せている。というのも、ブルボンの勝負服が入っているらしい入れ物……まあ、スズカだったらその辺の紙袋とかに入れるし、小物が多いエアグルーヴなんかだと専用のケースがあるんだけど……ブルボンのそれが、何度見てもアタッシュケースなのだ。それも、厚みがあって重厚な金属っぽい質感のもの。たぶん私は持てないんだろうなってやつ。
いや、服じゃないの? 流石にびっくりしたわ。ブルボン本人はいつもの無表情で、どう思っているか解らないし。
「でも、勝負服……どんな感じなんでしょうね。やっぱり機能性重視なんでしょうか」
「かもね。スズカもそうでしょ? あんまり飾りが無いやつ」
「はい。あとは……色とか? ブルボンさんに合いそうな色……やっぱりシンプルな色ですよね。白とか、黒とか……」
まあ、ブルボン自体がきゃぴきゃぴしてないし、かと言ってオラついてもいないわけで。本人のカラーというか、そういうのはあんまり思いつかない。スズカは少し色が違うけど栗毛だし、白が似合うのかな?
「デザインも、なんかただの全身タイツとかだったりしてね」
「ふふ、何ですか、それ」
「一番走りやすそうじゃない」
「全身タイツの子が後ろから来たら笑っちゃって走れないですよ……?」
くすくす笑うスズカ。まあでも現実問題、ブルボンはスズカと違って発育が良いし、そこらへんも真剣に考えなければいけないものだ。ある程度なら別にどうでも良いんだけど、ブルボンはある程度じゃないし。まるきり布で覆って押さえつけるのか、通気性とかを考えて大きく開けるのか。
「あ、タイキシャトルみたいなので来るかもね」
「あー……あり得ますね。あれ、動きやすいって本人も言ってましたし。私もああいうのに変えようかな……」
「まあ、好きにすればいいけど」
スズカの勝負服は今のが一番だ。凄く似合っているし、カラーリングもスズカの原点……雪景色の白と、今のスズカの舞台、ターフの緑。これ以上にスズカを簡潔に表した勝負服もなかなか無いんじゃないかと思う。あんまり変えなくて良いんじゃないかな。
「マスター。装着が完了しました。出てもよろしいでしょうか」
「おー」
「おおー」
言っている間にブルボンの声が聞こえ、二人で控えめに拍手で出迎える。勝負服を着ているにしては着替えがスズカ並みに早い気がするけど、やっぱり同じようなシンプルデザインかな。スズカとお揃いとかだととっても尊いなあって感じだけど、流石にそれはね……
「お待たせしました」
「お……ん、ん?」
「……?」
そして、トイレから出てきたブルボンの着ていたブルボンの勝負服は。
「……ほう」
レオタードに超ミニスカート……のみ。白とピンク中心の……何? 何のデザインと言えば良いの、これは。そして、腰に……これも何? 機械がくっついている。
「どうでしょうか。自己評価S。お父さんやお母さんにも高い評価を頂きました」
「うん……カッコいいよ、ブルボン」
「ありがとうございます。どうぞ隈なくご覧ください」
そう言って、ブルボンがくるくると回り始める。非常に嬉しそうだ。かなり気に入っているのだろう。もちろん、デザインに異議を出すとかそういうのじゃないけど、純粋に何故このデザインなのかと疑問ではある。スズカもまさかの方向性に言葉を失ってしまったし。
「ちなみにブルボン」
「はい」
「その……腰のは何?」
「これは、基にした戦闘機にもあったアンチ・グラビティ・ブースターです。私のものにはその機能はオミットされていますが、作品内では、これにより戦闘中、周囲の星の重力の影響を受けることなく高速での航行が可能なほか、熟練パイロットであれば加えて一部故意に重力の影響を受けることで不規則な軌道での航行を」
「あ、え?」
「……何か支障がありましたでしょうか。やはり、デザイン段階でマスターに意見をお聞きした方が……」
「あっ、いや、違うのブルボン。そういうんじゃないのよ」
突然ブルボンが語り出し、咄嗟に止めてしまった。そういえばこの子、そういうところに憧れというか、そういう趣味をしてたわね。なるほど、それが色濃く出たと。まあこれはこれでらしいっちゃらしいけど。なんせサイボーグだのロボットだの言われてるんだし。
「デザインは素晴らしいと思うわ。そうじゃなくて、基にした戦闘機というのは」
「幼い頃、アニメで見た戦闘機です」
「アニメの戦闘機」
「アニメ自体のストーリー性については既にメモリから削除済みです。キャラクターも主人公を除いては同様ですが、当該戦闘機の闇を切り裂く光跡、理外の速度、その時の父との会話は未だ深くに記録されています」
またお父さんじゃないか……ブルボンの人生にどれだけの影響を与えてるの、あの人は。そりゃ親バカにもなるか。素敵な家族ではあるんだけど、もうちょっとこう、何か……まあ、人の家庭の話だし何を言う筋合いも無いけど。
「理外に踏み込み、見るものの目を奪う圧倒的な速さを、私は目指しています。ステータス『憧憬』を忠実に反映したデザインです」
それに、ブルボンがいつになく饒舌というか、曖昧で感覚的な話をしている。ということは大事なことなんだろう。三冠だって色んな論理的な話を全部無視して取りたいって言っていたし、そういうことなのだろう。
……あと、それってスズカじゃんとか言ったら流石に空気読めてないかな。常識から外れていて速さで目を奪うって……いやスズカでしょ。スズカは戦闘機だった……?
「どうでしょうか」
「うん。いい勝負服だと思う。ね、スズカ」
「はい。ブルボンさんらしくて素敵だと思います」
ふふん、と少し微笑んで、さらにくるくると回るブルボン。
「機能性も十分ですし、マスターが三冠を前提にとおっしゃったので、人目を引くデザインにもなっていると判断できます」
「あ、まあ、言ったし、嘘じゃないんだけどね」
トレーナーさん、あんまりその格好でくるくるしてほしくないかなって。絶対に大丈夫なのは解っているんだけど、スカートがひらひらしてお姉さん心配になっちゃうからさ。下、レオタードでしょ? 大人しくしておいた方が良くない?
「ちなみに、その機械は飾りですか? 靴も何か機械みたいですけど」
「いえ、ブースターとしての機能はありませんが、プロトタイプのこれには発光機能があります。靴も展開します。スイッチがここに」
スズカの疑問に答え、ブルボンが腰の一対の機械に触れる。すると、ピンク色の蛍光が辺りを照らし始めた。
「靴はここです」
靴ひもにあたる部分を押すと、しゃきん、と靴の踵から何かが飛び出た。
「腕がここです」
手首の機械に触れると、二の腕の輪っかのライトが光った。
「そして、胸のこれはコアを基にしています。こちらは発光が解りにくいですが。スイッチはここです」
むぎゅ、とブルボンが胸を持ち上げ、恐らくそれを下から支えているのだろう金属部分に触れると、胸元の蹄鉄がきらきらと微かに光り始めた。同時に耳を澄ませると、きゅいいいいん、とモーター音も聞こえてくる。
「もちろん、レースで着る量産タイプにはこれらの機能はありませんが、今着ているこのスーツであれば夜間トレーニングも可能です。私が触れても壊れないよう、非常に単純な構造にしていただきましたので、故障時も十分私一人で対処可能です」
ふんすと胸を張るブルボン。フルアーマーブルボン、爆誕。あらとってもメカメカしいこと……やっぱりブルボンの好みはよく解らないかな……スズカの趣味もよく解らないって言ってるし、私、愛バの趣味嗜好を理解する力が低すぎるでしょ。
「とりあえず人前で胸のコアを動かすのは禁止ね」
「どうしてですか」
「どうしても」
「……そんな」
ブルボンが肩を落としてしまったけど、流石にちょっと良くない感じになりそうだったからね。それはいけない。何とは言わないけど、良くないファンが増えそうだから。勝負服デザインそのものについては……まあ、URAが良いと言ったなら良いけど。
「まあ、良かったわねブルボン。それで朝日杯も勝つわよ」
「はい。お任せください。必ずマスターの期待に応えます」
誇らしげに胸に手を当てるブルボン。朝日杯も目前、ついにブルボンがG1ウマ娘になる日が来るんだなあ、なんて、少し感動すら覚えた一日だった。
それはそれとしてレース以外であんまり着ないでほしい気持ちもあるけど。
トレーナーさんは女の子なのでこのロマンが解らない(ステレオタイプ)