走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。 作:サイレンススズカ専属トレーナー
チャンミは運ゲーなので諦めました。お前もだぞ安心沢。
「本当に手伝わなくて大丈夫、ブルボン」
「はい。手順は全て最適化し、単独での調理を想定しています。連携ミスもありますので」
「なるほどねえ」
ある日。チーム・エルナトはこれからクリスマスパーティーをやる。去年と同じように企画主催ミホノブルボンである。特に何を言ったわけではないし私がやるのも当然と思っていたのだけど……ブルボンがやりたいと言うのでこうなっている。
私は去年通りプレゼントだけ用意して、スズカを病院へ迎えに行った後、エルナトの部屋で待っているだけ。料理はブルボンが家庭科室で作って来てくれるということで、それがまあ一時間くらい前のこと。
「楽しみですねえ」
「だねえ。あ、スズカは何飲む? イチゴ?」
「はい。それで大丈夫です……え? トレーナーさん、それ」
「いやその……福引で当たったから……」
私が取り出したのは……シャンパン。食材の調達はスーパーの他に商店街でもしたんだけど、そこでの福引で私が当たったのだ。ちなみに隣にあったウマ娘向け福引ではにんじん一本を貰った。生のまま齧りながら買い物をするブルボンの姿が忘れられない。
で、まあシャンパン。普通にアルコールである。飲まないけどね? 持ち込んでいる時点でギリギリだから。スズカもそんな目で見ないで?
「家に帰ったら飲むから」
「……寂しくないですか? 一人で」
煽っ……てはいない。この子は本気で言っている。スズカの前でも飲んだことあるもんね。普通に心配してくれたことは嬉しいので、スズカのジュースを注いで隣に座る。
「寂しいわよ。スズカが早く帰ってきてくれないと」
「ふふっ……別にトレーナーさんのお家は私のじゃないですよ?」
「合わせてやったのにこのっ」
「ふぁいふぁいふぁい」
スズカの頬を抓る。尻尾をぶんぶんにして抵抗するスズカの唇をそのままぷるぷると弄り、わー、と笑わせる。
まあ、スズカの自宅療養は年始からということになっているし、滞在先はトレセンではなく私の自宅なのですぐに一緒に住むことになるんだけど。そこから週何回か通院してリハビリをしながら筋力を落とさないように保ち、脚が地に付けられるようになったらそこから歩行のリハビリもして……と、かなり目白押しである。
スズカのリハビリについては嬉しい誤算もあって、普段から悪路も坂路もお構い無しに走るスズカは体幹が非常に強いのだ。これはとてもプラスになる。
「そんなこと言うなら私の家には来させないからね。実家に戻ったら?」
「そんなこと言わなくても良いじゃないですか。私が行った方が嬉しいですよね? ね?」
「自惚れるなよサイレンススズカ!」
「ぷぁぷぁぷぁ」
鼻を摘まんだり摘ままなかったり。ほんと可愛いなこいつ。こいつとか言っちゃった。スズカね、スズカ。
「……あ、トレーナーさん」
「ん?」
「誰か来ましたよ」
「え?」
しばらくスズカと過ごしていると、唐突にスズカがそんなことを言い出した。私には感知できていないけど、ウマ娘の耳だと捉えられるらしい。服装をある程度整えて扉を向く。ブルボンなら料理を載せた台車と一緒に来るし、たづなさんかな?
「失礼します!」
「……お? はい! どうぞ!」
が、扉をノックしてからかけられた声は私の知らないものだった。少し裏返ってはいるが女の子の声だ。ウマ娘かな? 職員のテンションじゃないけど。
入室を促すと、ゆっくり扉が開く。
「こ、ここ、こんにちは、エルナトのトレーナーさん!」
「こんにちはー」
「あ……はい。こんにちは」
そこに、二人のウマ娘がいた。
挨拶からめちゃくちゃ緊張が伝わってくる方が……あら可愛い。赤髪のツインテールにティアラを乗せた……えー……うん……大きいウマ娘。おおきい。女の私でも一瞬びっくりしたもん。
で、全然緊張してなさそうなのが短髪で、大きな流星で目が見え隠れしているかっこいい系のウマ娘。挨拶の声量とは裏腹に、彼女の方が前に出ている。
「ども。ウオッカっていいます」
「あ、これは丁寧に……どうも」
第一声で私がビビッてしまっている。大きな声を出されることが少ないからね。スズカもブルボンも必要がなければ話さなくても平気なタイプだし、騒ぐ子達じゃないから。
「ほらスカーレット。お前の用事だろ?」
「だ、だだ、ダイワスカーレットです! これ! お願いします!」
「あ……はい。どうも……」
一応こちらも名乗っておき、差し出された紙を受け取る。あ、トレーニングの体験か。ごめんだけど、エルナトでは断っていて……と、言う前に一応ステータスは見ておこう。凄い子だったら話は別だ。ルールより能力を重視するのがトレセンである。流石にそれは嘘かも。
「……む」
思わず声に出てしまった。素晴らしいステータスだ。来年がジュニアだよね? デビュー半年前か。にしては素晴らしい能力をしている。適正は二人ともマイルから中距離、ダイワスカーレット……ツインテの子は長距離も走れる。
スピード、パワー、スタミナともに申し分ない。何なら同じ時期のブルボンより強い。これがすなわち才能の差か。
「トレーナーさん?」
「あ、いや。とにかくどうぞ、二人とも座って。お話を聞かせてね」
こんな子がエルナトに来るのか……と少し驚いた。エルナトの評判、そんなに良くないはずなんだけどね。能力的にはウオッカの方がほんの少しだけ強いような気はするけど、差しウマは合わない。いや、ブルボンの練習相手にするという意味なら有りか?
二人を座らせ、飲み物を用意しておく。その態度にスズカは何かを感じ取ったのか、既に二人に何か話し掛けていた。
「二人は同世代なの?」
「そうっす。コイツ……スカーレットと並んで、来年デビューって感じっすね」
「じゃあブルボンさんの一つ下ね。よくうちに来てくれたわね」
「え?」
「トレーナーさん、誤解されやすい人だから……」
何が誤解で何が誤解じゃないかも解らないけど、まあ良い。二人にジュースと、食べるかどうか解らないけどお菓子を用意して私も座る。
「えっと……とりあえずダイワスカーレット、これは受理したわ。体験ね」
「はい! よろしくお願いします!」
「ウオッカ、あなたは?」
「あ、いや、俺はスカーレットの付き添いっつーか……もうトレーナーも決まってるんで……」
「ふぅん」
残念。まあ、同世代で二人、しかも真っ向から当たりそうなのを抱えても仕方ないけど。
それで言えば、ダイワスカーレットを担当したとして、ウオッカが立ち塞がってくるのも嫌ね。やっぱり育てる以上は自信をもって送り出してあげたいし。何かの間違いで路線がずれたりしないだろうか。
「じゃあダイワスカーレット。私としては契約まで行っても良いかなって感じなんだけど……」
「えっ」
「え? いや、体験……あ、体験だけ? それは……困ったわね」
まさかの聞き返しに驚き。なんかもう、割と抱えるつもりでいたけど。もちろん本人の希望とかあるし、私と……何よりスズカやブルボンと噛み合わないとダメなんだけど、最近はチームメンバーを増やせと言われてるし、強くて逃げウマ娘というのは一旦完璧だ。
ちょっと怯え癖というか、気弱な子なのかな、というのはあるけど、多少大人しい子の方がスパルタ……もとい、従順に従ってくれるような気がするし。跳ねっ返りの強い子よりはね。
「あ! いえ、その、担当していただけるなら、もちろんそれは……」
「そう? じゃあダイワスカーレット、あなたの思う距離適性とか、進みたい路線とか……とにかく何でも良いからあなたのことを教えて?」
「はい、え、えっと……」
「……あ、じゃあ俺帰ります。すんません、来るだけ来て」
付き添いのウオッカが帰ろうとして立ち上がり……ダイワスカーレットに腕を掴まれた。無言で、彼女の方を見ずに掴む。あ、その、めちゃくちゃ仲良い感じ? さっきコイツとか呼んでたけど、それはウオッカがアウトローなだけ?
「……スカーレット」
「……いて」
「はぁ……面談みてえだしいない方がいいだろ?」
「別にいてもらっても良いけど……その方がダイワスカーレットが話しやすいなら。あ、飲み物も飲んで良いからね。あんまり緊張とかしないで話してくれたら良いよ」
……と、言うものの……まあそうはいかないかな。これまで面接した子達もそうだったからね。私には人生が懸かってないが、ウマ娘には人生が懸かっている。そこのギャップは埋められないのだ。
話すことも覚束無いような気弱な子だと逆に扱いにくいんだけど……ダイワスカーレットはウオッカを座らせて、まっすぐ私を見て言った。
「……一番になりたいです」
「……ん? ごめん、なんて?」
「とにかく一番になりたいんです……!」
おお……? なんだ? スズカか?
「えっと……距離とか……」
「短距離……はちょっと忙しくて苦手ですけど、それ以外なら……! まずはトリプルティアラ、その先も一番のウマ娘になりたいです!」
スズカだな。
「同類よ。良かったわねスズカ」
「え……こ、後輩の前でなんでそういうこと言うんですか……?」
「同じこと言ってるからさ」
「私は先頭を走りたいのであって、一番が良いわけじゃありません。トレーナーさんの理解が浅くてがっかりしました。あーあ。もうダメになります」
「もう」
拗ねたスズカには後で対応するとして……ダイワスカーレットも案外話せてきたし、それにそういうことでうちに来ようと言うのは非常に珍しい。大体はもう後が無いからスパルタでも大丈夫です! と言ってくるのだから。
案外気弱でも無いのかもしれないツインテールの彼女は震える手でコップから一気に飲み干すと、ふう、と一息入れて、またこっちを見る。目力があるなこの子。
「一番速くて一番強くて、一番認められるウマ娘になりたいんです! そのためにここに来ました! どんな練習でもします!」
……そう言い切る彼女はとても危うく見えた。何か、一番にこだわってそのまま身を滅ぼしそうなそんな予感さえ感じられるほど精神的に危ない……
……が、先頭にこだわっても滅びていないウマ娘がここにいる。全く問題はない。とにかく彼女の手をとって、何回か練習に参加してもらうことにした。
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「ただいま戻りました、フラワーさん」
「あ、お帰りなさい。楽しかったですか?」
「はい。マスターにもスズカさんにも喜んでいただけました。大成功です。これはフラワーさんへマスターから、クリスマスプレゼントだそうです」
「あっ……え、ほ、本当ですか……?」
十二月二十五日、記録者、ミホノブルボン。
本日はチーム・エルナトのクリスマスパーティーを行いました。いくつかの料理のレシピを覚え、家庭科の先生に一部器具の扱いを任せた上で、マスターやスズカさんと三人で過ごしました。
結果ですが、自己評価、A。目立ったミスも無く、料理も美味しいと言っていただけました。どうやら新しくチームに合流するらしいウマ娘……ダイワスカーレットさん……がいましたが、その方にも褒めていただきました。
そして、片付けをマスターに任せ、私はマスターからの二人分のプレゼントを持って帰宅しました。なお、スズカさんは入院中、またはマスターの家で療養する都合上、プレゼント交換は控えるように、とのことでした。
「な、何かお礼をしなくちゃいけませんね」
「お礼は不要です。フラワーさん。歳の差を考えてください」
「でも、戴いたからには」
「不要です。普段のブル……私へのサポートの返礼と考えてください。いつもありがとうございます、フラワーさん」
事前にマスターが予想していたやり取りを行い、せめてメッセージを、といったところで収めます。文面を考え出すフラワーさんの一方、私はマスターからのプレゼントを開封します。
一つは私が以前お話しした戦闘機のプラモデルです。二年前サンタさんにお願いした時は、既に発売中止ということで断られてしまったのですが……彼のプレゼント収集手腕を疑問視せざるを得ません。世界中にプレゼントを届けることはできるのに、人間であるマスターが調達できるプラモデル一つ用意できないとは。しかし発言はしません。今年も来てくれないと困るので。良い子でいましょう。
マスターが用意してくれたのは、確かに私の記憶にあるあの宇宙戦闘機です。早急に組み上げて飾りましょう。ステータス『わくわく』です。
「ブルボンさん、あの、トレーナーさんって甘いものとか……」
「物品も金銭も食料も受け付けません」
そして、もう一つ。マスター曰く『おまけ』らしい、一つの冊子。以前貰ったものよりややボリュームダウンしていますが、それは路線がクラシック三冠で確定したウマ娘のみを調べているからです。
マスターからの『通知表』。マスターの能力分析はかなり正確だと思われます。どのような手段を取っているのかは不明ですが、マスターが怪我をすると言えば怪我をし、しないと言えばしない。スタミナが伸びていることと、スタミナの評価も相関にあります。
そして、来年の私はクラシックを走ります。何度もマスターに言われました。私が一番強いのだと。何も心配せずにただ走れば一着で帰って来られると。
表紙に大きく通知表と手書きされた冊子を開きます。一ページ目に、スズカさんの現在と、クラシック中期……つまり、マスターとスズカさんが出会った当初のステータス。特に目を見張るのは現在のものです。
スピードSS+
スタミナB
パワーA
根性C
賢さB+
下に注釈があります。スズカさんの距離適性では、必要なスタミナはC+からB+。スピードは恐らくトレセン最高値。
……流石スズカさんです。マスターが絶対にスズカさんが一番強いということを譲らないのも理解できます。信頼等の精神的繋がり以前に、マスターの目線では確かにスズカさんが最も強いと確信できるのでしょう。これに加えて、マスターから以前お聞きしたこと……レース中、最終コーナーと、最終直線において先頭であれば、この表記よりさらに上のスピードを発揮する、伸び脚があると。
そして、ルドルフ会長、ナリタブライアンさん、マルゼンスキーさんの能力も開示されています。確かに、他の能力ではスズカさんに勝っていますが、スピードだけは追いついていません。然るに戦っても互角か、展開によってはスズカさんが有利というのはそういうことでしょう。ブライアンさんの能力が妙に低い点はあとでマスターに聞きましょう。マルゼンスキーさんも能力は同等ですが、逃げウマ娘であることがアドバンテージです。
そして、次に、私の能力値。
スピードD+
スタミナC
パワーD
根性D+
賢さD
注釈。2000m、2400mを走るにあたっては、スタミナは及第点。これからスピードを伸ばし、安定させる。
……あれだけ、スピードはあるがスタミナが足りないと、お父さんも含め言われ続けてきた私の能力が、スタミナが十分、スピードが不足、と。今のミホノブルボンに足りないのは、速度であると、断言されました。
「……っ」
『これまでのスパルタの成果が確実に出ている。これからのクラシックも大安定、大本命。自分のペースで走れる限り敵無し。このまま行けば三冠、無敗の三冠も九割取れる。頑張れ、ブルボン』
震え、ます。クラシック三冠。私の夢。そのために、私は。
「ブルボンさん、こんな感じでメールを……ブルボンさん?」
「……はい」
「わわっ……ど、どうしたんですか!? ぐ、具合でも……」
「いえ……心身ともにきわめて良好です」
「でもその、な、泣いて……」
「……なるほど」
何故涙が……などというつもりはありません。大きな感情の起伏によるものでしょう。どういったものかは解りませんが。とにかく、このままではいられません。フラワーさんに頼んで携帯電話を取り出し、通話をかけてもらいます。
「両親に、実家にかけてください」
「はい。えっと……家、家……」
伝えなければなりません。ミホノブルボンのことを。今すぐに、話さなければなりません。