走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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スズカシニアⅡ/ブルボンクラシック
実家のように安心するサイレンススズカ


 

「はあ……やっぱりここが我が家って感じがします……」

「我が家じゃないでしょ」

「我が家みたいなものじゃないですか」

 

 

 新年を迎えたある朝。スズカが病院を退院し、私の自宅へとやって来た。

 

 このためにちょこちょこっとリフォーム……まあトイレとお風呂、玄関に手すりを付けて、ベッドを大きくして、最悪ギプスを吊るせるように金具を取り付けたり。あと、電気をリモコン操作できるようにしてもらったりを済ませて、ようやく引っ越しである。

 

 スペシャルウィークが寮で一人になった……と思いきやそんなことは無いらしく、彼女の部屋は主にグラスワンダーが入り浸っているらしい。なんでも、自分の部屋にいると騒がしかったり臭いが気になるんだとか。どういうことよ。寮を跨ぐような支障があるの? 

 

 

「んー……」

「寝ないでね? すぐ学園に行かなきゃいけないんだから」

「寝ませーん」

「寝そうじゃない、もう。ほら、起きて」

「あー……」

 

 

 後輩達と病室で新年を迎えたスズカは、今朝が早かったのもあってとても眠そうにしている。松葉杖を放ってソファに突っ伏すスズカを転がして仰向けにして、私もちょちょっと掃除を済ませる。

 

 

「ところでトレーナーさん」

「ん?」

「スカーレットさんはどうですか?」

「どうって……まあ、普通?」

 

 

 ダイワスカーレット。新年は実家に戻っているらしく練習は休んでいる。たぶんこのままチームに加入するだろう彼女だけど、まあ従順に指示には従ってくれている。終了を告げると決まって少し寂しげにしているけど、今のところ理由が解らない。

 

 私に不満があるなら言ってくれれば、まあ直せるところは直すんだけど……今は学園にスズカがいないから、私は自他ともに認める一般的女性トレーナーのはずなんだけど、何が不満なのか。

 

 でもまあ、言いにくいのかもしれない。何しろ、先輩にあたるブルボンがわたしに一切意見をしないのだ。ダイワスカーレットが慣れるまで、トレーニング中の交渉……つまり、もっと厳しくだの倒れるまでやろうだの、そういう交渉はしないと言ってあるのだけど、そうするとマジでブルボンがトレーニング中話さなくなる。淡々と私に言われたことを消化して、その報告くらいしかしない。

 

 

 でも、それを許すとダイワスカーレットの前でブルボンを殺すことになってしまう。なんかこう……嫌じゃない? 気分が。それに、ダイワスカーレットを理由にしてスパルタロボットを黙らせられるならそれが良いわけで。

 

 

「ブルボンさんとも大丈夫ですか?」

「何? 気を遣ってるの、スズカ」

「そういうわけじゃないですけど」

 

 

 ソファに転がりながら、掃除機をかける私を目と指先で追うスズカ。

 

 

「ブルボンさん、トレーニング大好きだから、浮いちゃうんじゃないかなって」

「スズカが浮かないんだから大丈夫よ」

「私がトレセン一変な子だって思ってませんか……?」

 

 

 そうでしょ? 

 

 

 掃除を終え、色々準備を少ししてからスズカを起こす。変な子扱いにむくれるスズカの頬を指で潰して、ふひゅ、と鳴らしておく。少し乱暴に頭を撫でると、スズカは少しご機嫌に擦りついてきた。

 

 

「撫でれば何でも許すと思ってないですか?」

「許してくれないの?」

「……許しますけど」

「なら良かった。じゃあ車に乗りましょう。トレセンに行かないと」

 

 

 理事長なりたづなさんなり、挨拶とお礼回りに行かないといけない。とりあえずスズカがここまで回復したことも伝えないと。たづなさんは結構お見舞いに来てくれていたらしいし、私が知らないうちに理事長も一度来たらしいけど。

 

 

「よいしょ……と」

 

 

 片脚で立ち上がり、私が松葉杖を渡すまでそのまま立っているスズカ。片足立ちだというのにほとんど揺れずバランスを保っていられるのは、やはり強靭な体幹と持って生まれたバランス感覚の賜物だろう。これがあるからスズカはどこでも走れるし、どこでも走るからさらに磨かれていく。

 

 

 んしょ、んしょ、と杖をついてついてくるスズカ。車まで乗ると、思い出したかのようにはっとして座席の横から頭を出してきた。

 

 

「で、話は終わってません。私聞いたんですからね。スカーレットさんが来てからブルボンさんのトレーニングが温くなったって」

「いや……まあ、温くなったのは本当だけど、それでも周りの基準からすればめちゃくちゃ普通か少し厳しいくらいなのよ」

「私が戻った時もそうならないか今から心配です。たくさん走りたいんですよ、私は」

 

 

 頬をつつかないで。

 

 

「元々スズカは走らせるつもり無いから。危ないからシートベルト着けなさい」

「はい……いやでも、ブルボンさんも私の仲間です。走りたいのにトレーナーさんが走らせてくれない同盟ですよ」

「ろくな同盟じゃないわね」

 

 

 それにその同盟、加入ウマ娘に差がありすぎるでしょ。ブルボンはなんだかんだダメだって言ったら何もしないのよ。でもスズカは何を言っても走るじゃん。我慢が利かなすぎる。

 

 

「むぅ……でもブルボンさん言ってましたよ。もっと厳しくされたいって」

「いけない方向に進みつつあるのを私は止めなきゃいけないのかしらね……」

「可愛い可愛い担当の望みは叶えてあげるべきじゃないですか?」

「そうだねって言ったら、じゃあ走らせてくださいって言う可愛い担当がいるからダメ」

「……そんなつもりないですよ?」

 

 

 露骨に目を逸らし、シートベルトですっと目を隠すスズカ。バックミラーから逃げるように体を傾けている。尖らせた唇で吹けもしない口笛を吹く。

 

 

「ふひゅー」

「へたくそ」

「む……」

「とにかくダイワスカーレットが慣れるまで……というか慣れてももうブルボンにそこまでする必要は無いんだからね」

「ブルボンさんがかわいそうです……」

「あなたたちの可哀想の基準がもう……可愛いわ」

 

 

 まるで私が悪いみたいに言いおって。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「あけましておめでとうございます!」

「あらスペシャルウィーク。あけましておめでとう」

「おめでとうスぺちゃん。今年もよろしくね」

 

 

 トレセンで大人たちへの挨拶を済ませてトレーナー室に戻っている途中、スペシャルウィーク達……いわゆる黄金世代に出会った。

 

 

「あけましておめでとう、デース!」

 

 NHKマイルカップ、ジャパンカップの勝ちウマ、エルコンドルパサー。世界最強になるべく、今年は主に海外を周り凱旋門賞を狙うらしい。世界最強、なれるといいね。スズカ以外だから世界二位か、世代最強くらいを名乗ってほしいところだけど。

 

 

「おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします」

 

 朝日杯、それから怪我を経てなお有馬記念を勝ったグラスワンダー。今年こそはスズカへの引っ掛かりを無くしていただきたいところ。メンタルが強いのか弱いのか解らない子だ。

 

 

「おめでとうございます。ご健勝、ご多幸、心よりお祈り申し上げますわ」

 

 非常に丁寧なのがキングヘイロー。今まで勝ちには恵まれていないが、どんな距離、どんな状態のバ場でも三着までに粘って滑り込んでくる凄いウマ娘だ。多分一度も外していない……のかな。私が見ても、まあ全距離を走れる素質というものがある。

 

 

「おめでとうございまーす」

 

 そして二冠、セイウンスカイ。菊花賞での逃げは後で映像を見たが見事だった。スペシャルウィークには基本的にスペックが劣っているはず……なんだけど、戦略や駆け引きでそれを乗り越えるというのは私達には絶対にできない芸当だ。素直に尊敬。

 

 

 それぞれが別の世代なら三冠と言っても良い素質を持ちながらも、伯仲のもとせめぎ合う物凄い世代……それがこの黄金世代である。ちなみに、それら黄金世代最強がいつかぶつかるだろうと言われているのが隣でにこやかに挨拶をしているサイレンススズカその人である。

 

 

「今年はやっとスズカさんと戦えますから。頑張りますよ!」

 

 

 まあ、当の本人達にとってはスズカへの挑戦というのはあまり眼中に無さそうだけど。グラスワンダーはまだスズカへの引っ掛かりを解消できていないし、エルコンドルパサーは海外進出、セイウンスカイは何も言わず笑っているだけ、キングヘイローは……浮かない感じ。一人だけ勝ちに恵まれていないことに引け目でもあるのかな。

 

 

「ええ。楽しみね、スぺちゃん」

「私を何とも思っていないこと、必ず後悔させてあげますから……!」

 

 

 そんな彼女らとスズカの言い合いを眺めつつ、私は鞄から用意してきたものを取り出した。

 

 

「じゃあはいこれ、ちゃんと挨拶ができた五人にお年玉をあげよう」

「ありがとうございマース!」

「やったー、ありがとうございまーす」

「ちょっとスカイさん!」

「エル……失礼でしょう」

 

 

 素直に受け取ってくれるエルコンドルパサーとセイウンスカイ、受け取らないどころか二人を窘めるキングヘイロー、グラスワンダー。五人の違いがよく解る。スズカのみならず私のこともかなり理解しているはずのスペシャルウィークは少し遠慮気味に受け取った。

 

 

「グラスワンダー」

「受け取れません。去年もさんざんお世話になりましたし……」

「キングヘイローは」

「同じくです。多く助けられていますから」

 

 

 あんまり助けた覚えは無いけど固辞されてしまった。

 

 

「じゃあ二人の分もセイちゃんが貰っときまーす」

「そう?」

「なっ……ちょっと!」

「だってキングはいらないんでしょ? トレーナーさんも、出したお金は引っ込められないですよねー?」

 

 

 サンキューセイウンスカイ。

 

 

「そうねえ。困っちゃうわ。いらないなら捨てちゃうかも」

「ほらほら。キング? 相手の顔を立てるのも一流のやるべきことだよね?」

「くっ……では、お、お言葉に甘えて……」

 

 

 キングヘイローは貰ってくれた。あとはグラスワンダー。

 

 

「グラスワンダー?」

「……受け取れません。何度も迷惑をかけたうえ、身勝手に挑戦状を叩きつけ、何の成果も得られず……有馬記念の賞金も全額トレーナーさんに受け取っていただこうと」

「あっそれは受け取ってあげて。マジであなたのトレーナーさん困っちゃうから。本当に。怒られちゃうから」

 

 

 会うたびにストイックが極まっている。ストイックというか……自分に厳しすぎる。これはこれで他にはない彼女の特徴なのだろう。とことん自分の欲望のことしか考えていないスズカ、目標のためには何も省みないブルボンと来て、自分にひたすら厳しくするグラスワンダー。ここまでくるともしかしたら私がおかしいのでは、と思わなくもない。

 

 

「まあ、そこまで言うなら」

「グラスちゃん。私のトレーナーさんを困らせちゃダメでしょ」

「うぐ……し、しかし……」

 

 

 スズカが横槍を入れてきた。私は諦めようとしたんだけど、流石にスズカに言われるとグラスもうっとした顔でたじろぐ。

 

 

「受け取ってあげないと困っちゃうこともあるのよ。お年玉とか、レースの賞金も」

「うぅ……」

「ちゃんと自分のために使ってね」

「……ではその、あ、ありがとうございます……」

 

 

 グラスワンダーにも受け取ってもらうことができたので、お別れしてトレーナー室へ。ちょっと休憩して帰宅。今日の用事は終わりだ。いや、ダイワスカーレット関連の手続きがちょっとだけ残っていたかな。

 

 

「ありがとねスズカ。助かったわ」

「頑固ですものね」

「本当にね」

 

 

 パソコンを開き、ソファで寄りかかってくるスズカの喉元を擽りつつ立ち上げる。そのまま仰向けに倒れ込んだスズカ。

 

 

「そういえば、スズカにもお年玉、あげようか」

「えー……一万円貰うより10000mが欲しいです」

「どういうことよ」

「走りたいです……」

 

 

 10000kmじゃないんだ、と言った私に、流石にそれは死んじゃいます、と真面目な顔になったスズカがムカついたので、スズカへのお年玉は五百円にした。




なんだかんだスズカ覚醒と世代ランダムの一番の影響を受けてるのはスペシャルウィークなんですね……
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