走ることしか考えていないサイレンススズカと効率的に勝つ方法を考えるタイプのトレーナー。あと割と理解のある友人一同。   作:サイレンススズカ専属トレーナー

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強引に状況を整える編。


見せつけていくサイレンススズカ

 

「あー……疲れた……」

 

 

 スカーレット加入の夜。二人を送り届けた私は家に帰り、スズカの入浴を手伝いつつ自分の支度も済ませていた。

 

 倒れるまでトレーニングをするとどうも心に来るのかいつもより疲れてしまう。一応それも仕事だし、むしろ仕事をしているのにこれ以外ではほとんど精神ダメージの無い私は恵まれているんだけどね。

 

 

「お疲れ様です、トレーナーさん」

「ありがとー……」

 

 

 寝室に入るなり倒れ込んだ私を、先にベッドに入っていたスズカが上からつついてくる。一日中座っているか松葉杖だったのにスズカは疲れていない。信じられない体力だ。

 

 這い上がるみたいにベッドに入る。枕に頭を乗せると、腕の中にスズカが滑り込んできた。リモコンで電気を消して、腕枕から伸ばして目にかかりそうな前髪をどかす。

 

 

「……ドライヤー、適当にやったでしょ」

「……バレました?」

「当たり前でしょ」

 

 

 今まで何回スズカの髪を乾かしたと思っているの? 全く無頓着なんだから。電気を付ける。風邪をひいても困るし髪も痛むので、脱衣所からドライヤーとタオルを持ってくる。

 

 

「自分でできます、じゃないじゃない」

「できてるじゃないですか」

「できてないからこうしてやってるんでしょ」

「……トレーナーさんが細かいんです」

「スズカが大雑把なの」

 

 

 私も早くお風呂に入りたかったのもあって、自分でできると言うスズカを信じてしまった。これからはこのようなことが無いように努めます。スズカは走ることしかできないってよく知っていたはずなんだけどね。あまり良くないけど床に座らせてドライヤーをかける。せっかくさらさらなのにもったいないでしょ。

 

 

「あああ……」

 

 

 ウマ耳をぺたんと折り畳み、気持ちよさそうに受け入れるスズカ。ウマ耳の毛並みも整えないといけない。しまった、櫛を持ってきていなかったわね。まあ今から寝るし良いか。それより、髪の毛が適当ってことは尻尾もやらないと……いや、なんかちゃんとしてるな。相変わらず尻尾にはこだわりがあるらしい。

 

 

「どうかしました?」

「いや、やっぱり尻尾はちゃんとしてるのね」

「当たり前じゃないですか。広がったらスピードが出ません」

「そう……」

 

 

 髪は良いんだ。良いんです。そんな何度もしたやり取りを交わしつつドライヤーを終え、手櫛で悪いけどある程度整える。いつもしている通り、ウマ耳を少しマッサージしてから前髪まで揃えて、

 

 

「あー」

「あっ」

 

 

 スズカが倒れてきたので、台無しになってしまった。間抜けな声を出してこの子はまったく。楽しそうに見上げてくるスズカの顔を揉みしだく。むにゅむにゅ一頻り楽しんだところで、ご機嫌スズカを抱き上げてベッドへ寝かせる。

 

 

「ふう」

「んんー」

 

 

 再び、寝転がる私に寄ってくるスズカ。腕枕はさっきの一瞬だけでも死にそうになったのでやめた。胸元にもぐりこんでくるスズカを受け入れ、ぎゅっと抱きしめる。くすぐったそうに声を上げつつも、擦りついてくるスズカ。

 

 

「何、今日はやけにくっついてくるわね」

「みんなの前ではやっちゃダメって言うからじゃないですか」

「守れて偉い」

「トレーナーさんは守れてないので偉くないです」

 

 

 失敬な。人に言って自分が守れないなんてことがあるはずがない。私はマトモなトレーナーとして生きていくのだ。ぽんこつなスズカと違ってね。

 

 

「はいはい、まともまとも」

「何よその言い方。生意気ね」

「むぎゅぎゅ」

 

 

 強く抱きしめ口を塞ぐ。いとも簡単に抜けて出たスズカ。ぷは、と顔だけ出して、私の鼻先を頭でこつんこつんと叩く。シャンプーの良い匂いがするなあ。可愛いなあスズカは。

 

 

「この調子でちゃんと隠していこうね」

「……本当にできてると思ってるんですか?」

「できてないって?」

「ええ……?」

 

 

 目を細めるスズカ。最近すぐそういう目をするのよねこの子。可愛ければ何をやっても良いと思ってるでしょ。ぷい、と鼻を押し込む。

 

 

「できてるでしょ」

「いや、できてない……ぷぇ」

「いつできてないの」

 

 

 失礼なことを言うスズカを再び抱きしめて黙らせる。眠くないの、スズカは。私はめっちゃ眠いけど。

 

 

「だってトレーナーさん、何かと私を撫でようとしますよね?」

「……した?」

「お店でも口を拭こうとしましたよね?」

「……したっけ」

「しましたー」

 

 

 少し距離を空け私の胸を弄ぶスズカ。痛い痛い。取れちゃう取れちゃう。

 

 

「私は我慢してるのにそういうことするから怒ってるんですよ」

「した覚え無いけどなあ……」

「しましたー」

「痛い痛い痛いごめ、ごめんって。もうしない。もうしないから」

「しない?」

「あああああもげるもげるもげる」

 

 

 唇を尖らせる可愛い顔からは考えられない万力で実力行使に訴えてくる。抵抗はできないし位置関係的に大声を出すとスズカが死んでしまうので、私はあっけなく負けてしまった。

 

 

「わ、わかった……スズカの好きにして良いから……」

「本当ですか?」

「本当、本当……」

 

 

 いつになく強硬策に出てくるスズカ。落ち着かせて抱きしめて、背中をぽんぽんと叩くと流石に眠くなったのか向こうからも抱き着いてきた。よしよし。横になって背中を撫でられたら眠くなっちゃうのね。今日は大人しく寝ようね。

 

 

「じゃあ、普通にしたいです……」

「普通ねえ」

「いつもどおりが良いですー」

「……困った子ねえ」

 

 

 スカーレットがびっくりしちゃうって言ってるのに。そりゃいつかはね? 見せることにはなるんだろうけど。でもほら、本格加入すぐはさ、ね? 

 

 

「トレーナーさんはスカーレットさんの精神と私、どっちが大事なんですか」

「……スズカだけど」

「じゃあ良いじゃないですかー」

「……じゃあ良いけど」

「やったー」

 

 

 頬擦りとともに妙に高音で喜ぶスズカ。ぴこぴこのウマ耳を摘まんで捻ると、それに合わせて体を曲げた。

 

 

「ういーん」

「……ふふ。何それ」

「何でもないでーす」

 

 

 上機嫌だなあ。そんなにストレスを与えちゃってたか。ちょっと反省。走れない分、他のところでストレスは与えたくないし。まあ、スカーレットの順応力に賭けよう。もしかしたらスカーレットも、トレーナーはこれが普通とか思ってくれるかもしれないし。チームはともかく私達みたいな実質専属の在り方なんて調べてないでしょ。

 

 

「じゃあ明日からいつも通りにしましょう。スカーレットさんに見せつけていきましょう」

「見せつけるって……何? 何かあるの?」

「トレーナーさんの一番は私じゃないですか。ちゃんとしておいた方が良いですよ」

「……確かに?」

 

 

 スカーレットが目指す一番はそういう意味じゃないと思うけどね。逆にそういう意味でスズカを超えてくる人がいたらびっくりでしょ。なんだろう……夫とか、家族とか? そのレベルじゃん。

 

 

「嫉妬なんて可愛いことするじゃない」

「嫉妬じゃないですぅー」

「嫉妬でしょ? 私が取られちゃうってこと?」

「違いますぅ―。嫉妬なんかしてませんー」

「このこの」

「ふひゃっ」

 

 

 スズカを擽り、身を寄せてきたところを捕まえる。ふう、とスズカが目を閉じて、定位置に収まった。

 

 

「ふふふ……」

「ふふっ」

 

 

 くすくす笑うスズカ。手を出して喉元を擽ると、私の目の前でウマ耳がまた跳ねた。

 

 

「お休みなさい、トレーナーさん」

「ん。お休みスズカ」

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 

「んー……あー……」

「露骨ねえこの子は」

 

 

 トレーナー室にて、スズカは宣言通り、『いつも通り』を実行していた。ソファに座る私の膝に寝転がり、お腹に抱き着くみたいにして暇を潰している。走る走らないの言い合いをしないスズカのいつも通りはまあこんなものだけど……切り替え早いなあ。

 

 

「おはようございま……す」

「おはようブルボン」

「おはようございますー」

 

 

 入って来たブルボンがびっくりしてしまった。この子がじっと止まって困惑している姿もなかなか見られるものじゃないわよ。それも一瞬で、すぐに立ち直って定位置に座ってしまったけど。

 

 

「隠蔽はやめたのですか?」

「うん。スズカがやめようって言うから」

「スカーレットさんに一番は誰かを教えてあげないといけませんから」

 

 

 絶対そういう意味じゃないって。

 

 

「……なるほど。では失礼します」

 

 

 ふふん、と得意げなスズカに言われて、ブルボンは立ち上がって私の後ろに立った。そのまま、体重をかけるみたいに首に手を回し体を押し付けてくる。

 

 

「……何してるの」

「マスターの二番であることのアピールです」

「……対抗してるの?」

「先輩なので」

 

 

 ……ちょっと嬉しそうね、ブルボン。まあやりたいならやれば良い。もう全てさらけ出していこう。でも、その体勢辛くない? いつスカーレットが来るか解らないんだけど。

 

 

「ブルボンさんも解ってるみたいですね。トレーナーさんの一番は私です」

「はい。そう認識しています」

「ふふん」

「今のところは」

「えっ……?」

 

 

 ぐりん、と視線を向けるスズカ。なんでブルボンに対してはちょっと弱気なの。対抗しなよ。

 

 ジョークです、と微笑むブルボン。痛い痛い。なんで。今のはブルボンが悪いじゃん。なんで私を叩くの。私何も言ってないって。

 

 

「マスターの一番も速さの一番も、いずれ奪っても良いのですが」

「は?」

「あっブルボン速さはダメだね。それは本気になっちゃうね」

 

 

 スズカ百面相。捨てられた子犬みたいな顔からむすっと拗ねた表情になって、突き刺す眼光を向け始めた。やっぱりそれは弱気にすらならないんだ。私の取り合いで、ああ、可愛いなあ、とか思ってる私の純情を返して? ブルボンが得意げな顔で私を引き寄せてるでしょ。

 

 

「冗談です」

「……なんだ。びっくりしちゃうので変なこと言わないでくださいね? 解らせちゃうところでした」

「走れないんだから解らせるとか」

「は?」

「ごめんて」

 

 

 こっわ。

 

 

 ひゅん、とスズカがにこやかに戻る。冗談です、で良いんだ。どうせ走れるようになったら一気に解らせようとしてるんだろうなあ。怖いなあ。ブルボンもこう、スズカを煽るのが楽しくなってない? 良いけど、良いけどさ。私に触れてる時にやられると痛い目見ちゃうね。私が。

 

 そのまま、気持ち二人で私を引っ張り合うようにくっつきながら、私達はスカーレットを待った。

 

 

 なお、スカーレットは「何やってるの?」と眉を顰めながら繰り出した。説明したスズカに対しても、そういう意味じゃないんですけど、と一言でばっさり。ほら見たことか。なんか勘違いしたみたいで恥ずかしいじゃん。




やっと整った……!ボケ、ボケ、半々、辛辣気味ツッコミって構成が良い感じなのでスカーレットは時に口汚くなります。
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