14:26。東京、成田国際空港。
アメリカ発の旅客機から、一人の少女が空港内に降り立った。猜疑心
どう見ても、ただの日本女子高生の帰国には見えない。もしアスリートだと言われたら、疑いもせず信じてしまうかも知れない程に、彼女は研ぎ澄まされた気迫を纏っていた。
「―――それで? まずやることは?」
〔買イ物ダ。ポテトスナックとチョコヲ買おウ〕
「毎回そればっか。シンビオートに飽きるって概念はないの?」
〔ないナ。タダ、今回ハ買イ溜メスるダケダ。今日は和食ノ気分デナ。セッカく本場ニ来たんダ、食べナいト損ダろう〕
「はいはい。じゃあまずはアメリカドルを日本円に替えないと……」
「さてと……だいたい1年半ぶりくらい、かな? さよなら、薄っぺらなアメリカ。ただいま、くそったれの日本」
〔仮ニモ『母国』ッテヤつだロウ?ヒドい言イヨウだな〕
そんなことを呟きながら、その身に纏う気迫を殺し、外の人混みに紛れてゆく。その姿は、瞬く間に喧騒の内側にするりと融けて消えていった。
彼女の名は「立花響」。この2年、アメリカで活躍したダークヒーロー、「ヴェノム」の正体である。
『ライブ会場の惨劇』。TVでは『双翼の惨劇』『ツヴァイウィングの惨劇』などと呼ばれ、一時期、熱狂的に取り上げられたトピックであり、史上類を見ない大災害、大事故である。
この事件が、「ノイズ」によるただの特異災害であれば、今の響は無かっただろう。『ツヴァイウィングの惨劇』が殊更に話題にされたのは、
週刊誌特有の悪意的な修飾を織り交ぜた記事―――なまじ正確な分、より
故に、その場に居合わせた響も
殴る蹴るは日常茶飯事、ホースで水を被せるのは当たり前。机は常に悪口雑言に塗れ、消しても消しても次の日にはまた机を埋め尽くす。
途中からは、きっと原因や意味などどうでも良くなったのだろう。まるで競い合うように、いじめはより
上靴に納豆を詰める、シューズロッカーに五寸釘を詰める、本人の居ないうちに弁当をひっくり返して箱を破壊する、バッグをトイレに捨てる、服を剥き下着のまま縛ってクラスに放置、身の回りの全てをチョーク塗れにする、裸にして撮影、詐欺、強盗、果ては味方を
人間の集団意識とはかくも恐ろしいものなのだろうか。みんなやっているから、相手は人殺しだから―――。そんな大義名分を振りかざし、多くの人を死に追いやる
――――あの日までは。
「―――――え?」
引っ越すことになりました。直接言えなくてごめんなさい。お母さんに口止めされてました。だから、こんな形でしか言えなくて……でも、どれだけ離れていても、私は響のことを想っています。
p.s:お母さんは最後まで隠そうとしてたけど、引越し先の住所を手に入れました。下に書いておきます。
では、響はどこへ行ったのか? アメリカである。世界一薄っぺらい国、アメリカ。世界で唯一固有の神話を持たない国、アメリカ。*3そこなら、自分も新たな生活を始められると考えたのだろう。
――――まあ、そんな浅慮でアメリカに渡ったものだから、彼女はすぐに壁にぶち当たった。
そんな状況で、彼女がとった行動は援交であった。
身分証も必要ない。言葉も通じている必要があまりない。お金も簡単に稼げる。既に清廉な身ではないし、使えるものは徹底的に使おうと考えた結果だった。
実際、その方針はそこそこ上手くいった。英語も親切な人が教えてくれて何とかなった。文化の違いも暮らすうちに慣れた。
しかしながら、上手くいかない時はとことん上手くいかないのが人生というもの。
「う、わぁぁ! あァがゥぁ゙ぁッ! ぁゔゥぁ! っぁ゙ああ゙! ……ァ゙ぁッ! うぅん゙ぁぁ゙……ぁ゙ゔゔゥ!!」
アメリカに渡って半年は過ぎた頃。彼女は、シンビオートに寄生された。
元々その周辺をシマにしていたギャングにとっては、突然現れて客を掻っ攫っていく響は邪魔者でしかなかった。故に、情報の漏洩対策をしていなかった響が、すぐにギャング共に捕まったのは至極当然の結果だった。
素性の知れない商売敵を排除するため、ギャング達は響にシンビオートを寄生させた。
―――――が。ギャングにとっては不幸なことに、
多大な苦痛を払いはしたが、響とシンビオートは見事共生を果たした。そして―――。
「―――……Balwisyall nescell gungnir tron」
―――VENOMが、覚醒の
その後の事の顛末はこうだ。
ガングニールの起動と同時に融合したシンビオートは、高熱と高周波に対してそこそこの耐性を得て暴虐の限りを尽くし、ギャング共を建物ごと壊滅に追い込んだ。
そして二人―――ヴェノムは、ダークヒーローとして活動を始めることにした。
結局、その目論見は成功し、STARK INDUSTRIES現社長にして二代目アイアンマンたるモーガン・スターク*4は、新たなヴェノムに興味を抱き、響達と接触。彼女の身の上を聞き、彼女の身元引受け人となって
その後、何の心配も必要無くなった響は、気兼ねなくヴェノムとしての活動に専念したが、モーガンの勧めと未だ燻っていたノイズへの憎悪から日本に帰国。そして冒頭に戻るという訳だ。
じゃあ今はどうしているのか? それは――――
「ノイズの反応、検知! 位置、リディアンから南東側約280m!」
「よし、翼を出撃――」
「!! 別の反応の出現と共にノイズの反応が急激に縮小! ――照合完了、これは……!!」
――――ズシャッ!!
ノイズをズタズタに引き裂き殲滅した
しかし、その暴力的な威圧感とは裏腹に、全体的な外観はスリムで、それ故に、昆虫にも、狂獣にも似た、兇悪さに満ち溢れた顔面が、より印象的であった。
「なんなんだよ……。なんなんだよ、
黎い怪物は振り返る。獰猛に牙を剥き、その顔の右半分を捲り上げて、悲鳴のような問いに答える。
「化ケ物……? 違うナ。
少し雑です、が思い付きを書き連ねただけなので許して♡
あと、余程の反響がなければ続きません。