英雄の歌姫   作:珱瑠 耀

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突発です よろです


一小節目

正義の味方、に憧れた。

 

 

誰かのヒーロー。

 

 

弱き者を助ける勇者。

 

 

愚かでも進み続ける主人公。

 

 

自分の身を滅ぼしてなお語り継がれる英雄。

 

 

そんなものになりたかった。

 

 

 

 

 

でも、なれる訳が無い、というのは解っていた。

 

 

それなら、届けたいと願った。

 

 

言葉を、歌を、声を。

 

 

いつか、私の謳う音で誰かの英雄になれたなら。

 

 

いつか、私の謳う音が誰かに勇気を(もたら)したら。

 

 

いつか、私の謳う音に誰かが救われたら。

 

 

いつか、私の謳う音で自分を救えたら。

 

 

そうなれば、存在した意味はあるのだと胸を張って笑えるから。

 

 

 

 

 

無力でも、鈍足でも、無知でも、無能でも、無謀でも、無駄でも、無理でも、それでも。

 

 

支えとなり、力となり、士気となり、愛となり、笑顔となり、道となり。

 

 

雨に濡れ、風に煽られ、雪に埋もれ、熱に苛まれ、地に伏せても。

 

 

荒れる事無き意志に克己し、歪まぬ信念を穿き、変わらぬものを見据えれば。

 

 

沈まぬ、消えぬ、融けぬ、揺れぬ(思い)が在る。

 

 

愚者よ、歩め。

 

 

世界は啓かれた。

 

 

死神に畏れぬ愚か者よ。

 

 

天地蔓延る有象無象と栄光。

 

 

運命を描け。

 

 

創るのは汝。

 

 

そこに未来あらん事を。

 

 

我は、審判にて待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――お兄さん、お兄さん」

 

―――何度目か忘れた数の門前払いを食らって途方に暮れていた少年……ベル・クラネルに、上から掛かる小さな声があった。

 

「お兄さん、お兄さん、兎さんみたいな白い髪色のお兄さん」

 

「え……?」

 

誰だろう、と恐る恐る顔を上に上げてみる。

 

「―――やっとこっちを見てくれましたね、お兄さん」

 

そこでは、珍しい黒髪黒目の少女が城壁の上からベルのことを見下ろしていた。

 

「え、と……何か、ありましたか?」

 

「いえいえ、ただ私は貴方に歌を聞かせたいなと思いまして。見たところお疲れの様ですし、一旦お休みになられてはどうでしょうか?」

 

ニコリと微笑む少女に一瞬見惚れるが、ベルはすぐに悟られない様に雑念を振り払う。

 

「…い、いいんですか?」

 

「えぇ、お代は要りませんので、一曲だけ。私に時間を頂けると嬉しいです」

 

そう言う少女は人差し指を口元にあて、よろしいでしょうか、とベルにお願いする。

 

「はい、お願いしたいです。そちらに向かいますね」

 

「ありがとうございます!待ってますね、お兄さん!」

 

少女は嬉しそうに手を合わせると、ひょっと顔を出すのを止めた。

 

「そういえば、今の今までゆっくりしていた事が無かった気がする……オラリオに来てすぐに《ファミリア》を探しちゃってたし、丁度いいかも」

 

うん、と頷きながらベルは城壁を登る為の階段に足を掛けた。

 

 

 

「お兄さん、私に時間を下さってありがとうございます!」

 

その少女は、近くで見ても綺麗な人だった。

 

背中辺りまでのばした黒い髪に、白い髪飾り。

 

服は事務員の方が着るようなスーツっぽい服を、少女に合う様に可愛らしくカスタマイズしたもので、スカートにも小さくフリルかあしらわれている。

 

少女が座る周辺には楽器だろうか、弦の付いたものが置いてあった。

 

「いえ、僕も丁度休みたかったので、その…ありがたいです」

 

「いえいえ、私も夜明けから聞いて下さる方を待っていたものですから」

 

「夜明けから!?」

 

夜明けからって言ったら、もう六時間以上も前だろう。

 

「はい……その、お恥ずかしい事に、張り切ってしまって」

 

「あ、あはは……」

 

「そ、それで、歌でしたね。今歌えそうなものだと一曲しか無いのですが、宜しいでしょうか?」

 

無理矢理話を戻した少女が楽器であろうものを持ち、そう問いかける。

 

「はい、大丈夫です……それで演奏するんですか?」

 

「はい。家族から頂いた大切なハープです」

 

そう言って優しく微笑んでハープを抱く少女に、ベルはまたもや見惚れてしまう。

 

絵でも描けるのではないかという位に美しい図で、この部分のみを切り取りたいと思うほどに。

 

「……お兄さん?」

 

「……あっ、あぁいえっ、なんでもないです!」

 

長く見つめ過ぎたのだろう、少女がきょとんとした顔で首を傾げた。

 

その仕草すら可愛らしさがあり、ベルは更に顔を紅くする。

 

「そうなんですか、では早速演奏しますね?」

 

「はい、お願いします」

 

 

 

ポロロン、という優しい音から始まる歌。

 

歌の内容はあまり分からないが、ゆったりとした速度に耳の痛くならない声の高さ、さらに伴奏も相まってベルの意識はたちまちの内に夢の中へと旅立ってしまう。

 

「〜〜♪、〜〜……あら、寝てしまわれましたか」

 

それに気付いた少女が、近くにあった布をベルに掛ける。

 

「お眠り下さい、兎みたいなお兄さん」

 

そうして、眠るベルの傍に寄り、優しく頭を撫でた。

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