「かっかかかかみさままままま」
神様を呼ぼうと周囲をぐるーり……
「ミーシア、神様はもう打ち上げに行っちゃったよ!取り敢えず落ち着いて?」
「あっ、は、はい……」
そう言われ、深呼吸を数回挟む。
「……落ち着きました」
「よかった。それじゃあ、軽くだけど見てみよっか」
そう言って紙を覗き込んだ。
「魔法の行使ってあるけど、どんな感じなんだろう?既にあるものをコピー出来るのか、新しく作れるのか曖昧だね」
「ですね……こちらはこの詠唱が発動のトリガーなのかもしれません、今度ダンジョンで試してみましょうか」
「だね。それじゃあ……僕達も行こうか?」
一旦スキルについての話がまとまったところで、ベルが立ち上がった。
「……ベルさん」
早く行きたい、と目で訴えてきそうな彼にミーシアが言う。
「ん?どうしたの?」
「そんなに急いでも食べ物は逃げませんよ」
「ゔっ」
そんな軽口を挟みながら、二人は廃教会を出た。
積もる話もあるし楽しめそうだ、と思いながら―――
―――それがなぜ、こんなことに。
「そうだアイズ、お前のあの話を聞かせてくれよ!」
「あの話……?」
「ほらあれだって、三階層まで逃げちまったミノタウロスに襲われてた駆け出しのトマト野郎共!」
「……っ」
賑わう夜の大通りをさっさと通り抜けてシルの所に行き、リューやミアと挨拶を交わして。
ミアがベルの事を
ドンドンと減らないベルのパスタに苦笑いをしながら美味しく夜ご飯を楽しんでいたのに。
―――そんなベルが今は、フォークを動かす手を止めて口を噤み、俯いてしまっている。
原因は先程聞いた【ロキ・ファミリア】の会話。
そう、先程の私達だ。
惨めで情けない姿を慕う人に見られ、それを酒の肴にされている。
「遠征前に【ファミリア】探してたガキ共だから…半月かそこらか?そいつの女の方が
あっさり返された、というのは恐らく一撃を与えた時だろう。
でもおかしい。
ベルはその時死ぬかもしれなかったのに、それに抗って一撃を入れたのに、そこまで酷く言うものではない筈。
ぐるぐる回る思考を遮る様に、男性の話は続く。
「それでその二人はどうなったん?死んじゃった?」
「どっちとも無事だ。直前にアイズがミノを細切れにしてやったんだよ、な?」
その問いかけにアイズさんは反応しない。
むしろちょっと眉にシワが寄っている。
「それであいつら、くっせー牛の血あびて全身真っ赤になっちまってよ、特に男。それがまた滑稽でよ、だからトマト野郎って呼んでんだ……アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?くくくっ」
「……そんなこと、ないです」
ぎゅっ、とベルのフォークを握る手の力が強まる。
その身体は事実を突き付けられた故に震え、唇を噛み締めている。
「気にしなくていいんです」
ミーシアは咄嗟にベルの袖を摘み、そう呼びかけた。
が、言われたベルは聞こえていないのかゆっくりと背中を丸める。
いや、聞いているんだろう。
たがそれも、大きな声で滔々と喋り続ける男性のせいで薬にもならない。
「それに、だ……あのトマト野郎、助けてもらった癖してなっさけねぇ声で逃げ出したんだぜ?笑いもんだろこんなん!!」
―――笑い声で酒場が満たされる。
いや、嗤い声のほうが正しいだろう。
中には「ダセェ」だの「ガキなんかが来るなよ」だの、恐らく【ロキ・ファミリア】ではないであろう無関係な客でさえも罵倒を始める。
最もそう呟くのは数人だが、それでもベルには大きい数字。
弱さを突きつけられるには充分すぎた。
拷問とも言われそうな暴露と暴言に本人であるベルは必死に耐えていたが、やがて俯いたまま走って何処かへ行ってしまった。
出る瞬間にシルさんが呼び掛けていたが、彼はそのまま走り去っていく。
「……ベル、さん」
その後ろ姿を見つめていたミーシアは、誰にも聞こえない声量で呟いて拳を握り締めた。
―――意味が解らない。
―――何故彼ばかり言われるの?
―――何故弱さを嗤うの?
―――何故見下すの?
「………――あぁ」
ぷちん、と。
そんな自問自答が逡巡し、ある一つの答えに辿り着く。
「―――お母様」
「なんだい?」
「……明日から夜のお手伝いを週4日に増やすので、駄目……ですか?」
その質問にミアは皿を洗う手を止め、ちらりとある一方を見る。
その視線の先は、【ロキ・ファミリア】。
「……喧嘩になるんじゃないよ」
たっぷり30秒使って出した答えにミーシアはふわりと口角を上げ、お金を払う。
「迷惑料です」
総額2000ヴァリス。
食事代よりも多い支払いだ。
「……働いて返せばそれで良いんだけどね」
そんな事を呟いたミアは代金分だけ取り、残りを押し戻す。
しかしそんなミアの手をミーシアが止めた。
「それじゃあ、感謝の気持ちという形で」
その言葉にミアが彼女の顔を見る。
やがて差額を頑なに受け取らない気でいるミーシアに折れたのか、溜息を一つ吐いてミアはそのお金を受け取った。
「大事にするんじゃないよ」
「……善処、しますね」
多少着飾った服の、袖のボタンを緩めたミーシアは椅子から降りる。
そして、先程まで飲んでいた安物の赤ワインの注がれたグラスと瓶を片手ずつ持ち、
散歩の様に、街をぶらつく旅人の様に。
そしてその
―――ぱしゃり
ベートの顔を赤く彩った。
一次創作に現を抜かしてました