優雅な佇まいは崩れる事無く、ミーシアはゆったりとした動作で後ろに立つ
「あぁ、流石にばれていたか……悪かったね、尾けてしまって」
それに悪びれずに返した見た目少年の彼―――【ロキ・ファミリア】団長のフィン・ディムナは肩を竦めた。
「いえ、お気になさらず……こうして【
むしろ嬉しいですよ、というミーシアの顔は柔らかい笑みのままで崩れない。
「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」
「ふふ……それで、こんな私に何か御用で?」
そんな会話から切り替える様に、ミーシアは空のワイングラスをゆらゆらと揺らし、フィンはその顔を笑みから引き締める。
「あぁ……とと。先に言っておくけど、これから話す事に対して僕が君に無駄な詮索はする事はないから、そこだけは理解してもらってもいいかい?」
「えぇ、存じておりますとも」
まるで社交パーティ。
そうと見紛う程にこの二人はゆったりと牽制しあっていた。
「まずは……うちの団員が、申し訳ない事をした」
かと思えば、突然腰まで曲げて頭を下げる。
これには流石のミーシアも驚いたようで、下げた頭の向こうで目を見開いていた。
そして、たっぷり十秒程の時間が経つ。
「……彼……ベートにはちゃんと言っておく。だから、彼の在するファミリアの団長として、君に謝罪を―――」
「いいえ」
ずばっ、と。
返答の無い相手にもう一度謝意を述べようとするフィンの言葉を、ミーシアはばっさりと切り捨てた。
「えぇ……」
「【
「勘、違い……?」
えぇ、とフィンの言葉に二つ返事で同意する彼女は、淡々と続ける。
「
その目は先程の柔和なものとは異なり、かと言って非難する訳でもない。
「彼に気付く方は……あの場で気付いていた人では、恐らく数人程でありますが」
その言葉に、顎に手を添えて思考に耽っていたフィンがはっと目を見開く。
人が違う、そして
「まさかっ」
「……はい。あの時出ていった男性が、【ロキ・ファミリア】の殆どの方が酒の肴になさっていた『
ついでに私もですけど、と戯けるように暴露したミーシアに、フィンはかなり衝撃を受けたようだ。
「……彼が……いや…………あぁーー……」
それを理解してすぐ、フィンは一瞬考え、
その姿は
「…………そして、それに対し謝罪する人も貴方様ではありません」
「………そう、か」
そして、続けた言葉でフィンの頭を上げさせる。
彼も
「団長だからと、本人に謝らせない訳にはいかない……そういう事だね」
「御名答です」
これでは、子供の喧嘩に態々やってくる親みたいになる。
さらに本人同士ではない為に、
だから、
「……しかし、それでは良くない筈だ。君はあの環境の中、唯一人立ち向かった言わば『勇者』。先程ベートがやらかした分の謝罪だけはさせてくれないか」
それでも、フィンは頭を下げる。
今度は腰までとは言わないが、きっちりとした礼。
「これは……受け取らないと、どうなりますか?」
「うーん……
試しで聞いてみた質問にあっけらかんと答えたフィンの目は本気だ。
これはガチなやつだ。
「…………解りました、では先程の分だけは受け取ります」
その言葉に、一応当事者ですから、とミーシアは付け加えた。
「あぁ、ありがとう……ベートには反省するよう言っておくから、安心して欲しい。
「御心配ありがとうございます……あら」
そうやって会話をして、ふいに一陣の風が二人の間に流れる。
「今のは……恐らく、【剣姫】様ですか?」
「だね。アイズなら問題無いが……君は?」
「私も一応向かいます。大切な―――大切な
迷う事無く言い切ったミーシアにフィンは頷き、それじゃあと下がる。
「―――あ、そうだ。一つだけ聞きたかった事が」
「?」
雑踏がすぐそこにある中、フィンは不意にこちらを向いた。
―――そして。
「―――君は、
「――――――えぇ、そうですね」
それを最後に、二人は逆の方向へと進む。
フィンは酒場に、ミーシアは
「……(見て解った)」
あれは
洗練され過ぎた動きは「型」から外れる事なく、話し方は何処かの貴族様のような。
そして、最後の質問に答えた時の沈む様な
「(
そんな確信を疼く親指へと向け、フィンは豊饒の女主人へと戻っていった。